MEMSマイクとは
MEMSマイクとは、シリコンチップの中に音で振動する薄い膜を作り込み、その動きを静電容量の変化として電気信号へ変えるマイクです。 MEMSはMicro Electro Mechanical Systemsの略で、日本語では微小電気機械システムと呼びます。インフィニオン テクノロジーズの製品では、膜を1枚にするか、2枚で密閉空間を挟むかで、SN比の上限と向いているパッケージの大きさが変わります。
半導体と同じ工程で、チップの中に動く膜を作る
Section titled “半導体と同じ工程で、チップの中に動く膜を作る”半導体チップは電子だけを動かし、形そのものは静止したままです。マイクは、空気の振動という機械の動きを受け取る部品です。半導体が電子の流れを制御する静止した構造をとる一方、MEMSは機械的な可動部を持ち、物理現象と電気信号を相互に変換します1。加速度センサーでは、くし歯のように組み合わさった電極が加わった力に応じてたわみ、電極どうしの向かい合う面積の増減が電気容量の増減として測れます。マイクロホンも、動きや音を検知するMEMSとして同じ仲間です。
作り方は半導体とほぼ共通で、レジスト塗布、露光、現像、エッチングという同じ手順を何度も回しながら、ウエハの上へ立体的で入り組んだ形を作り上げます。寸法の目安は、3ナノや10ナノといったレベルより大きい、数マイクロメートル以上のスケールです。シリコンを垂直方向に深く掘るTSV(シリコン貫通電極)のように、MEMS製造で生まれて半導体製造へ広がった技術もあり、半導体メーカーの多くがMEMSの生産も手がけています。
NEDOの記事はMEMSを動く半導体のようなもの2と表しています。LSIが半導体基板の上で電気信号だけを流すのに対し、MEMSは材料の機械的な性質を使って上下左右へ動く部分を持ちます。微細化ではLSIが先を行くので、世代の古くなったLSIの製造ラインをそのままMEMS向けに使い回せる利点もあります。
音の圧力は、膜の動きと静電容量を経て電圧になる
Section titled “音の圧力は、膜の動きと静電容量を経て電圧になる”MEMSマイクロフォンは、帯電したバックプレートとメンブレンで静電容量式の音響トランスデューサを構成します3。メンブレンは届いた音波の振幅と周波数に応じて動き、その動きが電圧の変化を生みます。この変化を、製品に載ったアナログまたはデジタルのASICが測定、処理して出力します。
音の圧力は、膜の動き、電極とのすき間の静電容量、電圧という順で姿を変え、最後にアナログかデジタルの信号として外へ届きます。小さなマイク部品の中には、可動部を持つMEMSチップと、電圧の変化を測って増幅するASICという2枚のシリコンチップが同居しています。
膜を1枚にするか2枚で密閉するかで、SN比の上限が変わる
Section titled “膜を1枚にするか2枚で密閉するかで、SN比の上限が変わる”インフィニオン テクノロジーズは、Single Back Plate(SBP)とSealed Dual Membrane(SDM)という2つのMEMS技術を使い分けています。SBPは単純さと堅牢さで知られる標準的な構造で、同社は小型パッケージで性能と低いコストを両立し、最大69dBのSN比を実現するとしています3。IP57の侵入保護と、強い空気圧、衝撃、環境ストレスへの高い耐性も挙げています。
SDMは、2枚のメンブレンと帯電した固定電極板で低圧の密閉空間を作り、差動の出力信号を得る設計です。同社は、SDMで最大76dBのSN比、低歪み、マイクロフォンレベルでのIP57の防塵防滴性能を実現するとし、中型と大型のパッケージで最高水準の音響性能を出すのに向くとしています。同社の位置づけでは、小型で低コストに向くのがSBP、音響性能を取るのがSDMです。
SN比は、自己ノイズの小ささを表す数値として使われます。インフィニオン テクノロジーズは自社のXENSIV MEMSマイクロフォンについて、極めて低い自己ノイズを高いSN比で示し、高い音圧レベルでも歪みにくく、製品間の位相と感度のばらつきが少ないフラットな周波数特性を持つとしています。
数ミリ角の部品に、膜とASICが収まる
Section titled “数ミリ角の部品に、膜とASICが収まる”ホシデンのMEMSマイクロホンユニットKRM5403は、外形寸法が4.0×3.0×1.2mm、1kHzでの感度が−36dBFS(V/Pa)、SN比が72dBです4。この面積と厚みの中に、音を受ける膜と、それを電気信号へ変えるASICが収まります。
車載では、A2B対応マイクとAEC-Q103準拠品が使われる
Section titled “車載では、A2B対応マイクとAEC-Q103準拠品が使われる”ホシデンは2020年7月22日、A2B(Automotive Audio Bus)デジタル通信対応マイクロホンを開発しました5。同社が業界最高水準とする、低域20Hzまでフラットな周波数特性を持つ自社のMEMSマイクロホンユニットを搭載し、ハンズフリー通話とアクティブノイズキャンセリングを共用できます。品番は3つあり、ワイヤーハーネスの付いた1マイクのHHM1016、マイクを2つ並べて両者へ届く音圧の位相の差から指向性と雑音の抑え込みを得るHHM1005、コネクタと筐体を一体にして小さくまとめたHHM1015です。
インフィニオン テクノロジーズの車載用MEMSマイクロフォンは、AEC-Q103-003に準拠します3。同社は、この規格が定めるのは堅牢性と信頼性だけで、音響性能や機能安全は製品スペックやシステム規格の側で決まるとしています。同社によれば、MEMSマイクロフォンは温度サイクル、湿度、振動と衝撃、ESDといった環境、機械、電気とMEMS固有の試験を通り、自動車の温度範囲全体で安定した性能を保つとしています。
同社の振動センサー(IVS)は、骨伝導のような物理的な接触による振動を音声信号に変え、MEMSマイクロフォンと組み合わせると風切り音の影響を受けない音声が得られるとしています。同社はMEMSマイクロフォンの用途として、民生向けに加えて患者モニタリングのような医療機器や、予知保全やセキュリティのような産業システムも挙げています。
スマートフォン1台の中で、何十個ものMEMSが働く
Section titled “スマートフォン1台の中で、何十個ものMEMSが働く”1台のスマートフォンの中だけでも何十個というMEMSが働いており1、いまの暮らしを支える技術になっています。半導体を産業のコメと呼ぶのに対して、MEMSは産業の豆とも呼ばれます。オムロン2はNEDOのMEMS関連プロジェクトへ20年以上参画し、その成果に携帯電話やスマートフォンのマイクロフォンがあります。その搭載規模は、記事の掲載時点で20台に1台程度です。
音を電気へ変えるには、電子の流れを制御する回路に加えて、音で動く部品が要ります。MEMSマイクは、その可動部を半導体と同じ工程でシリコンの上に作り、同じパッケージへASICと収めた部品で、半導体の作り方がそのまま音のセンサへ届いている例です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”MEMSマイクとは何ですか?
シリコンチップの中に音で振動する薄い膜(メンブレン)を作り込み、その動きを静電容量の変化として電気信号へ変えるマイクです。帯電したバックプレートとメンブレンで、静電容量式の音響トランスデューサを構成します。
MEMSとは何ですか?
Micro Electro Mechanical Systemsの略で、日本語では微小電気機械システムと呼びます。動く機械の構造を内部に持つごく小さなデバイスの総称で、加速度センサー、ジャイロセンサー、マイクロホンなどがあります。
MEMSマイクは音をどうやって電気に変えますか?
届いた音波の振幅と周波数に合わせてメンブレンが動き、生じた電圧の変化を、同じ部品に載ったアナログまたはデジタルのASICが測定、処理して出力します。音の圧力は、膜の動き、静電容量、電圧という順に姿を変えます。
MEMSマイクはどのくらいの大きさですか?
製品によって幅がありますが、ホシデンのMEMSマイクロホンユニットKRM5403は4.0×3.0×1.2mmです。この寸法の中に、音を受ける膜と、それを電気信号へ変えるASICが収まります。
MEMSマイクは半導体工場で作られますか?
作り方は半導体とほぼ共通で、レジスト塗布、露光、現像、エッチングという同じ手順を何度も回してウエハの上へ立体的な形を作ります。半導体メーカーの多くがMEMSの生産も手がけ、世代の古くなったLSIの製造ラインをMEMS向けに使い回せる利点もあります。
MEMSマイクの性能はどの数値で比べますか?
SN比と感度が代表的です。インフィニオン テクノロジーズは1枚膜のSBPで最大69dB、2枚膜のSDMで最大76dBのSN比を挙げ、ホシデンのKRM5403は1kHzでの感度が−36dBFS(V/Pa)、SN比が72dBです。
MEMSマイクは車にも使われますか?
はい。ホシデンは2020年7月、自社のMEMSマイクロホンユニットを搭載し、ハンズフリー通話とアクティブノイズキャンセリングを共用できるA2B対応マイクロホンを開発しました。インフィニオン テクノロジーズの車載用MEMSマイクロフォンはAEC-Q103-003に準拠しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- MEMSとは── MEMS全般はこちらの記事にまとめてあり、本記事はそのうち音を受け取る一品種に絞ります
- ToFセンサとは── ToFは光の往復時間を測り、MEMSマイクは音で動く膜の変位を測ります
- DRIE(深堀り反応性イオンエッチング)とは── MEMSの立体構造を掘るための代表的なドライエッチングです
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- 1産業技術総合研究所:MEMSとは?aist.go.jp ab
- 2NEDO Web Magazine:動く半導体で、さまざまな機器の小型・軽量・高性能化を実現webmagazine.nedo.go.jp ab
- 3インフィニオン テクノロジーズ:MEMSマイクロフォンinfineon.com abc
- 4ホシデン:MEMSマイクロホンユニット KRM5403hosiden.com ↩
- 5ホシデン:業界最高水準低域20Hzまでフラットな周波数特性A2Bマイクロホン(2020年7月)hosiden.com ↩