SPADとは
SPADとは、入射した1つの光子を、雪崩のような増倍によって1つの大きな電気パルスへ変える受光素子です。 光の量を測るかわりに、光子の個数を数えます。1個を確実に数えられる代わりに、検出のたびに雪崩を止める時間が要り、その間に来た光子は数えられません。SPADを比べるときは、感度に加えて、雪崩を止めて戻す速さと検出時刻のばらつきを見ます。
降伏電圧を超えたバイアスで、光子1個が止まらない雪崩になる
Section titled “降伏電圧を超えたバイアスで、光子1個が止まらない雪崩になる”フォトダイオードに逆バイアスをかけると、電界の中で電子と正孔が逆向きに走ります。電界がある臨界値を超えると、アバランシェフォトダイオード(APD)の中で雪崩が自分で続くようになります1。そのために要る電圧が降伏電圧で、典型的には数十Vです。より上の電圧で動かす状態をガイガーモードと呼び、このときのAPDがSPADです。
画素に1つのフォトンが入ると、そのフォトンから多くの電子へ雪崩のように瞬時に増倍されるため、1つのフォトンを1つの電気信号として取り出せます2。一般のCMOSイメージセンサは一定時間に画素へ溜まった光の量を測るので、暗い場面では電荷そのものが少なく、読み出しのノイズに埋もれます。SPADはフォトンの個数をデジタルに数えて電気的なノイズの影響を排除するので、暗いところでもわずかな光を検出できます。
雪崩を止めて戻すまでの不感時間に来た光子は、数えられない
Section titled “雪崩を止めて戻すまでの不感時間に来た光子は、数えられない”ガイガーモードの雪崩は自分で続くので、回路で止めます。止める回路をクエンチ回路と呼び、最も簡単なものは抵抗1本です1。雪崩を抑えている間は入ってきた光子に反応しないため、この時間を不感時間と呼びます。抵抗だけのクエンチでは不感時間が典型的に数十nsで、能動的なクエンチ回路なら10〜20 nsまで縮みます。
不感時間の間に1個の光子が来たのか、複数来たのかを、SPADは区別できません。クエンチを抵抗で行うか能動的な回路で行うかで、不感時間が変わります。
感度領域を画素全体へ広げ、10分の1の画素面積で同じ明るさを撮る
Section titled “感度領域を画素全体へ広げ、10分の1の画素面積で同じ明るさを撮る”従来のSPADセンサーは、感度領域という電界のかかっている空間のフォトンしか検出できず、画素を小さくすると感度が下がる課題を抱えていました。キヤノンは独自の構造で感度領域を画素全体に広げ、ほぼ100%使えるようにしたことで2、画素の微細化と高感度を両立したとしています。同社のSPADセンサーは、同一照度下において一般的なCMOSセンサーの10分の1の画素面積で同等の撮影ができるとされています。
キヤノンのSPADセンサーは、星明かりも乏しい闇夜より暗い環境下でも320万画素の鮮明な画像が得られます。センサーの寸法は13.2 mm × 9.9 mmで、フルHDを超える解像度がこの大きさに収まっています。暗視や監視用のカメラへ載せれば、暗闇でも、明るい場所で肉眼で見たのと同じ色で対象物の動きをとらえられるとしています。同社はSPADセンサーを載せた超高感度カメラを世界で初めて製品化したとしており、超望遠の放送用レンズと組み合わせれば、夜間に約5 km先の船舶を見つけ、船体の種類まで確かめられるとしています。
時間分解能は検出時刻のばらつきの幅で表し、dToFの距離精度にかかわる
Section titled “時間分解能は検出時刻のばらつきの幅で表し、dToFの距離精度にかかわる”キヤノンのSPADセンサーは100ピコ秒(100億分の1秒)レベルの非常に速い時間単位で情報を扱えるため2、光の粒のような高速で動くものもとらえられるとしています。時間分解能は、光子を検出するたびにSPADのパルスの時刻を繰り返し測り、統計的な分布の半値全幅(FWHM)として求めます3。Excelitasの研究者は、同社の検出モジュールで読み出し回路のジッタが約30 psで、SPADを含むモジュール全体の200〜350 psに比べて回路の寄与は小さいとしています。
時間分解能は温度でも動きます。SPADの温度がわずかに上がると降伏電圧もわずかに上がり、タイミング性能が落ちるとExcelitasの研究者は述べています。Micro Photon Devicesは、検出モジュールのSPADを熱電冷却で温度制御し、周囲温度が変わっても性能を安定させるとしています4。
ToFセンサは、発光源からの光を対象物へ照射し、反射光を検出するまでの時間差で距離を測ります5。方式は2種類で、時間差をそのまま計測して遠距離の対象物も測れるdToF方式と、反射光を蓄積して位相差から距離を測るiToF方式があります。SPADは前者の受光素子です。
光子を数える代わりに、画素の回路と消費電力が増える
Section titled “光子を数える代わりに、画素の回路と消費電力が増える”光子を1つずつ数えれば、暗い場面でも読み出しのノイズに埋もれる心配は減ります。その代わり1画素あたりの回路が増え、面積と消費電力を使います。感度領域を画素全体へ広げるには構造の作り込みが要り、時間分解能を上げて距離の精度を高めるほど、要るデータ量も増えます。SPADを選ぶかどうかは、暗所の1光子を拾う価値が、この回路とデータの負担に見合うかで決まります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SPAD とは何ですか?
入射した1つの光子を、雪崩のような増倍によって1つの大きな電気パルスへ変える受光素子です。降伏電圧を超えるバイアスをかけ、雪崩が自分で続く状態(ガイガーモード)で使います。
CMOS センサーと何が異なりますか?
CMOSセンサーは一定時間に画素へ溜まった光の量を測り、SPADセンサーは画素に入ってきた光子を一つひとつ数えます。
ノイズには強いのですか?
フォトンの個数をデジタルに数えるので、電気的なノイズの影響を排除できます。その代わり、雪崩を止めている不感時間に来た光子は数えられず、その間に1個来たか複数来たかも区別できません。
画素はどのくらい小さくなりますか?
キヤノンは、同社のSPADセンサーが同一照度下で一般的なCMOSセンサーの10分の1の画素面積で同等の撮影ができるとしています。感度領域を画素全体へ広げ、ほぼ100%使えるようにした構造によるものです。
解像度はどのくらいですか?
キヤノンのSPADセンサーは暗闇でも320万画素の鮮明な画像が得られ、センサーの寸法は13.2 mm × 9.9 mmです。
どのくらい速いのですか?
キヤノンのSPADセンサーは、100ピコ秒(100億分の1秒)レベルの非常に速い時間単位で情報を扱えます。時間分解能は、光子ごとの検出時刻を繰り返し測った分布の半値全幅で表します。
距離の測定にも使いますか?
使います。反射光を検出するまでの時間差をそのまま計測するdToF方式で、SPADは受光素子になります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- フォトダイオードとは── 量を測る側の素子
- CMOSイメージセンサーとは── 比較の相手
- 積層型イメージセンサーとは── 回路を裏へ回す構造
- 画素ピッチとは── 微細化の指標
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- 1浜松ホトニクス:Silicon photomultipliers: the ultimate photosensorhub.hamamatsu.com ab
- 2キヤノン:SPADセンサー(2023年10月)global.canon abc
- 3
- 4Micro Photon Devices:PDM Series データシートmicro-photon-devices.com ↩
- 5ソニーセミコンダクタソリューションズ:ToF(Time of Flight)sony-semicon.com ↩