ボーイングとは
ボーイングとは、深い穴や溝の中腹だけが樽のように横へ広がる形状異常です。 HARC加工でホール間口付近が樽型に広がる形状1を指し、穴の深さそのものではなく、アスペクト比がある値を超えた位置で起きます。ホール径を細くすると同じ深さでもアスペクト比が大きくなるので、微細化とともに目立つようになりました。原因は保護膜の届く深さと散乱イオンの当たる深さのずれで、保護膜を奥へ送ればボーイングは減りますが、その手はマスク選択比と間口、底の寸法を同時に苦しくします。
保護膜はアスペクト比3で途切れ、イオンは4で側壁を削る
Section titled “保護膜はアスペクト比3で途切れ、イオンは4で側壁を削る”深掘りの形が崩れる場所には決まりがあり、入口が細るネッキング、底が寝るテーパ、全体が傾くチルティングと並んで、中腹だけがふくらむのがボーイングです。原因は大きく2つで、側壁を守る保護膜の不足と、入射イオンの角度分布の広がりです。保護膜の中身はプロセスで決まり、フルオロカーボン系の混合ガスから堆積するポリマーの場合も、化学的に不活性な酸化物層の場合もあります。
日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏と伊澤勝氏らは、Ar・C₅F₈・O₂の混合ガスを用いたUHF-ECRプラズマエッチング装置で3つの関係を測りました。ボーイングが出る位置のアスペクト比はホール径によらず約4、側壁の堆積膜が途切れる位置のアスペクト比は約3でほぼ一定で、側壁の堆積量はホール径が細るほど直線的に減ります2。
この3点から、仕組みが1つに決まります。保護膜はアスペクト比3あたりで途切れます。穴に入るイオンのフラックスはアスペクト比で決まるので、アスペクト比4の場所に届くイオンの量は、ホール径を細くしても一定です。保護膜だけが薄くなるため、マスクのファセット部やネッキング部での反射やチャージアップなどで散乱し、向きの変わったイオンが側壁を削り、細いホールでボーイングが顕著になります。ボーイング位置の上にあるくびれ部(チョーキング部)でのイオン反射と、フルオロカーボン堆積膜のパターン内の不均一も要因です。
イオンの向きの広がりそのものも形を左右します。University of Michiganの博士論文では、入射イオンの角度分布が狭い条件ほど側壁はまっすぐで、ボーイングは全体に小さくなりました3。
許容量はホール径の10パーセントで、微細化で両側から厳しくなる
Section titled “許容量はホール径の10パーセントで、微細化で両側から厳しくなる”パターン間隔が狭くなったことで、ボーイングが大きいと隣同士のパターンが導通する問題が目立つようになりました。2010年のAVSの講演要旨は、わずかなボーイングでも隣の構造と干渉するとしています4。スタック型DRAMのキャパシタ加工では、加工後のホール内ウェット洗浄で横へさらに広がる分を見込み、ボーイング発生部の寸法シフト量をホール径の10パーセント以内に抑える必要があります1。
この許容量はホール径に対する比なので、ホール径が細るほど許される絶対量も小さくなります。一方で、ホール径が細るほどボーイング量そのものは急激に増え、ホール径100ナノメートル程度までは比較的垂直な形状を保てる場合もあります。許容量が減り、ボーイング量は増えるので、両方から厳しくなります。
アスペクト比も伸び続けています。HARC加工は高アスペクト比コンタクトエッチング加工の略で、DRAMのスタックキャパシタのストレージノード加工、トレンチキャパシタのマスク加工、フラッシュメモリのビットラインコンタクト加工に使う微細深孔加工の総称です。国際半導体技術ロードマップは、ストレージノードのアスペクト比が2007年に19、2010年に42まで増えると予測していました。3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比はすでに40を超え、さらなる大容量化で100を超えると予想されています5。この加工では、ボーイングのほかに、マスク選択比不足、間口寸法が縮むネッキング、間口が塞がるクロッギング、ホール下部のテーパ形状、下地選択比不足、プラズマシースの傾きによるチルティング、アスペクト比に依存してエッチングレートが下がるRIE-lag(ARDE)も課題になります。ボーイングだけを抑えるレシピは、これらのどれかを悪化させます。
測るのは間口と中腹の寸法差と、保護膜が届く深さ
Section titled “測るのは間口と中腹の寸法差と、保護膜が届く深さ”ボーイング量は、ボーイング位置の寸法シフト量とホール間口の寸法シフト量の差です2。形状の最大幅を、ボーイングの発生をとらえる指標に使う研究もあります。上から見た寸法1点では足りず、断面観察で深さ方向に間口と中腹の2点を取り、その差を計算します。
側壁の堆積量は、あらかじめエッチングで加工したホールのサンプルを低いウェーハバイアスのプラズマにさらし、側壁に堆積した膜の厚さを断面SEMで測って求めます。堆積膜が途切れる位置のアスペクト比も、この測定から出します。現場で追うべき量は、ふくらみの寸法だけでなく、保護膜がどの深さまで届いているかです。
Ar流量を下げ、電極温度を上げると、保護膜が中腹まで届く
Section titled “Ar流量を下げ、電極温度を上げると、保護膜が中腹まで届く”1つ目の調整項目は、希釈ガスであるArの流量です。Ar流量が800ミリリットル毎分のときはホール中間部の側壁に堆積が見られず、500、200ミリリットル毎分と下げるほど側壁の堆積量が増えました。発光分光の結果と合わせると、Arの低流量化でCF₂に代表される付着係数の低いラジカルが増えたと考えられています。付着係数、つまり壁に当たったときに付着する確率が低いラジカルは、入口で消費されずに奥まで届きます。Ar流量が多いと堆積成分は入口付近にとどまり、中腹の側壁が保護されません。
2つ目は電極温度です。電極温度が低く付着係数が高いと、アスペクト比3から4で側壁の保護膜が形成されず、ボーイングの発生が予測されます。電極温度を上げると側壁の付着係数が下がり、ホール内部までラジカルが運ばれて、ボーイング発生位置付近の堆積速度が増えます。根岸氏らはAr流量の最適化と電極温度の高温化を組み合わせ、ホールのトップ寸法を保ったままボーイング量を56.3ナノメートルから15.2ナノメートルに減らしました。
温度は面内分布の調整にも使えます。パターン側壁への反応生成物の付着量を面内で均一にするには6、ウェーハ裏面のガス流量と圧力を中心部と周辺部で別々に制御し、ウェーハ温度を中心で高く、周辺で低くします。
3つ目は、マスクの形です。2010年のAVSの講演要旨は、ボーイングは一般にマスクのファセットで反射したイオンが酸化膜の側壁を削って起きるとしています。マスク部で反跳されたイオンはボーイングと関係し、テーパを持つマスク形状はボーイングを起こしやすい5とも報告されています。メタルハードマスクの肩をどれだけ立てて残せるかが、そのまま中腹の形に出ます。
保護膜を奥へ届かせるほど、マスク選択比と間口と底が苦しくなる
Section titled “保護膜を奥へ届かせるほど、マスク選択比と間口と底が苦しくなる”HARC加工では高いエッチレートと高いマスク選択比が求められるので、付着係数が高く比較的厚いフルオロカーボンポリマーを堆積させてマスクを守りながら、1から3キロ電子ボルトの高エネルギーイオンでエッチングします。中腹まで届かせるために付着係数を下げると、マスクを守る膜も薄くなります。マスク選択比不足とボーイングが同じ課題として並ぶのは、このためです。保護膜の材料を増やす側にも限度があり、保護種のフラックスが大きいと形状はテーパになりやすくなります。
間口も崩れやすくなります。堆積を増やせば、入口が細るネッキングや塞がるクロッギングが起きやすくなります。改善結果に「ホールのトップ寸法を維持したまま」という条件が付くのはこのためで、ボーイングだけを見て堆積を増やすと、間口の寸法が崩れます。
底の寸法も同じ入口の形に縛られます。2010年のAVSの講演要旨によると、条件を調整してボーイングを抑えると、多くの場合ホール底のCDが小さくなります。また、細ったマスクの入口は、ラジカルがホールの底へ届くのを妨げて底を細らせます。高いイオンエネルギーを使う解決策もありますが、この発表者らはマスクのネッキングと底のCDに強い相関を見て、ボーイングを抑えて底のCDも保つには、マスク開口のネッキングを改善する必要があると結論づけています。ネッキングの位置を散らすようにプロセス条件を最適化すると形状は良くなる一方、マスク選択比はふつう下がります。発表者らは、DC重畳型のCCPではマスク選択比を保ったまま、ボーイングを抑えて十分な底のCDを得られたとしています。
温度による制御は、極低温エッチングへ続いている
Section titled “温度による制御は、極低温エッチングへ続いている”東京エレクトロンはクライオジェニックエッチングで、プロセス中のウェーハ温度をこれまでよりずっと低く保ち、深さ10マイクロメートル以上の穴を従来比2.5倍の速度でまっすぐエッチングできるようになったとしています7。現在はアスペクト比1対100の工程を複数組み合わせており、これを1つの工程で1対200まで広げることを目標にしています。穴をまっすぐ掘ることは、3D NANDの深穴エッチングで装置メーカーが挙げる要件の1つです。
ガスも変わってきました。SEAJの2012年度版ロードマップによると、Si酸化膜のエッチングに使うフルオロカーボンガスは、微細化と高アスペクト比化に伴ってC/F比の大きいC₅F₈やC₄F₆に移る傾向にあります。低中密度のプラズマは、C₄F₈やC₄F₆の過剰な分解を抑えて高い選択性を確保するのに適しているとされています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ボーイングとは何ですか?
深い穴の中腹だけが樽のように横へ広がる形状異常です。HARC加工で、ホール間口付近が樽型に広がる形状を指します。
なぜ中腹だけが広がるのですか?
側壁を守る保護膜が届く深さと、散乱したイオンが当たる深さがずれるためです。Ar・C₅F₈・O₂の混合ガスを使ったUHF-ECR装置の測定では、側壁の堆積膜が途切れる位置のアスペクト比は約3、ボーイングが出る位置は約4で、どちらもホール径によらずほぼ一定でした。
何が当たって削っているのですか?
垂直に落ちたイオンよりも、向きの変わったイオンが多く削ります。マスクのファセット部やネッキング部での反射やチャージアップで散乱したイオンが酸化膜の側壁を削り、テーパを持つマスク形状はボーイングを起こしやすいと報告されています。
ボーイングが大きいと何が起きますか?
パターン間隔が狭いと、隣の穴と導通します。スタック型DRAMのキャパシタ加工では、加工後のウェット洗浄で横へ広がる分を見込んで、ボーイング発生部の寸法シフト量をホール径の10パーセント以内に抑える必要があります。
何を調整すると変わりますか?
希釈ガスの流量と電極温度です。Ar流量を800ミリリットル毎分から500、200ミリリットル毎分へ下げると側壁の堆積量が増え、電極温度を上げると側壁の付着係数が下がってホール内部までラジカルが運ばれます。
どれだけ改善しましたか?
Ar流量の最適化と電極温度の高温化を組み合わせると、ホールのトップ寸法を保ったままボーイング量は56.3ナノメートルから15.2ナノメートルに減りました。ボーイング量は、ボーイング位置の寸法シフト量とホール間口の寸法シフト量の差です。
微細化するとどうなりますか?
同じ縮小幅が、より大きな寸法差になります。ホール径が細るほどボーイング量は急激に増え、ホール径100ナノメートル程度までは比較的垂直な形状を保てる場合もあります。3次元フラッシュメモリのメモリホールのアスペクト比はすでに40を超え、今後100を超えると予想されています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”7件を表示
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- 3University of Michigan:Florian Krueger 博士論文cpseg.eecs.umich.edu ↩
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- 5
- 6SEAJ:2012年度版 半導体製造装置技術ロードマップ報告書 ウェーハプロセスseaj.or.jp ↩
- 7東京エレクトロン:クライオジェニックエッチングtel.co.jp ↩