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重ね合わせバジェットとは

重ね合わせバジェットとは、層と層の位置ずれの許容量を1つの3σ3\sigma値として与え、その総額を露光装置・プロセス・計測へ割り当てた表のことです。 バジェットは、予算のように総額と配分で管理する枠組みを指す現場語です。総額は一定ではなく、パターニング方式を選んだ時点で2倍以上変わります。総額を締める手段はどれも、計測時間、装置の台数か流動性、マークの面積のどれかを代わりに払います。

総額は3σで与えられ、DRAMではハーフピッチの19パーセント

Section titled “総額は3σで与えられ、DRAMではハーフピッチの19パーセント”

アライメント(重ね合わせ)精度は、露光パターンと下地層との位置ずれです。下地層のアライメントマークとレジストパターンの位置を比べて求め1、同一露光装置での精度をDedicated Chuck(Single Machine)Overlay、異なる露光機間の精度をMatched Machine Overlayと呼び分けます。測り方はオーバーレイ計測です。

ハーフピッチと重ね合わせの縮尺
重ね合わせ3σ 10 nmハーフピッチ 52 nm上の層下地の線10 nmずれた位置
DRAMのハーフピッチ52 nmに対して、3σで10 nmのずれまでが総額です。ずれの総額はハーフピッチの19パーセントです。

総額の大きさは、ITRS2009版の要求値をまとめたJEITA平成21年度報告のリソグラフィの要求表2に並んでいます。2009年の欄では、DRAMのハーフピッチ52ナノメートルに対して重ね合わせ3σ3\sigmaが10ナノメートル、MPUのM1ハーフピッチ54ナノメートルに対して13ナノメートル、フラッシュのハーフピッチ38ナノメートルに対して12ナノメートルです。DRAMでは、重ね合わせ3σ3\sigmaがハーフピッチの19パーセントにあたります。この総額を、どの要因がいくらまで使ってよいかに割り振るのがバジェットです。項目は、露光装置の中の残差、装置をまたぐマッチング、プロセス起因の歪み、計測の不確かさの4つです。

パターニング方式を選んだ時点で、総額が2倍以上変わる

Section titled “パターニング方式を選んだ時点で、総額が2倍以上変わる”

同じ報告のダブルパターニングとスペーサへの要求表では、2009年の欄の基準の重ね合わせ3σ3\sigmaが10ナノメートルです。ピッチスプリッティング(LFLEまたはLELE)の行は5.5ナノメートルで基準の55パーセント、平均ずれの上限は0.8ナノメートルです。フラッシュ側が主導するスペーサ方式の行は11.9ナノメートルで、基準の1.19倍です。

方式ごとの重ね合わせ3σ(2009年の欄)
05 nm10 nmシングル露光10ピッチスプリット5.5うち平均ずれ0.8スペーサ方式11.9
ピッチスプリッティングでは総額がシングル露光の55パーセントまで縮み、スペーサ方式では1.19倍に広がります。

ピッチスプリッティングでは、寸法均一性と重ね合わせ精度の要求が従来のトレンドより一世代以上厳しくなります。シングル露光を基準にすると、重ね合わせ精度で1/2以下、寸法均一性で1/21/\sqrt{2}以下の値が必要です。異なる露光でエッジが形成されるパターンでは、重ね合わせ誤差がそのまま寸法誤差になるためです。寸法の側を総額で管理する表がCD均一性バジェットで、方式の違いはマルチパターニングとSADPで分かれます。

スペーサ方式で総額が広がるのは、細い線の位置がスペーサの膜厚で決まるためです。露光の位置ずれの影響は、パターンを切る側の層に移ります。その代わり、成膜とエッチバックの均一性が新しい項目としてバジェットに加わります。

装置の項目には、装置の中の残差と装置間のマッチングがある

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装置の中の残差の出どころの1つは、投影レンズです。ASMLは、レンズは非常に滑らかでも小さな不完全さが残り、焼き付けるパターンをわずかに歪めるとしています3。露光の光で光学系の一部が温まり、通る光に不均一な収差が出ることも挙げています。同社の露光装置は、この歪みを測って像を意図的に歪ませ、意図しない歪みを打ち消すとしています。

SMOとMMOを二乗和で分ける
同じ装置 SMO 18 nm以下装置間の項約17.3 nm装置をまたぐMMO 25 nm以下i線ステッパー FPA-5550iZ2KrFスキャナー FPA-6300ES6a比較用 18 nmMMO 5 nm以下
同じ装置の18 nmと装置間の項を直交させると斜辺が25 nmになり、装置間の項は約17.3 nmで装置の中の残差とほぼ同じ長さです。

キヤノンのFPA-5550iZ2は4、画面サイズ26ミリメートル×33ミリメートルのi線ステッパーです。重ね合わせ精度は、オプション適用時でSMOが18ナノメートル以下、MMOが25ナノメートル以下で、差は7ナノメートルです。2つの誤差を独立とみなし、二乗和の平方根に当てはめて計算すると、装置間のマッチングの項は約17.3ナノメートルです。この装置では、装置をまたいで流すと、装置の中の残差とほぼ同じ大きさの項目が1つ加わります。

同機は、ショットの縦横倍率差とスキュー成分を補正するショット形状補正機能SSCを投影光学系に載せ、ショットごとに下地レイヤーの形状へ合わせて重ね合わせ露光をします。キヤノンは、露光領域を一括で露光するステッパーでありながら、これで実プロセスでの重ね合わせ精度を上げたとしています。非線形アライメント補正機能EAGA-FLもオプションとして用意されています。

同社のKrFスキャナーFPA-6300ES6aは5、MMO規格でOL-modeオプションを採用したときの重ね合わせ精度を5ナノメートル以下とし、KrFスキャナーで業界最高水準としています。手段は、ステージの制振技術と同期制御、位置決めマークの検出精度を上げるアライメントスコープの改良、ウエハーステージエリアとレチクルステージエリアの温度管理です。装置間の差を詰める作業が装置マッチングです。

逆に、FPA-5550iZ2を専用化してSMOで流せば、18ナノメートル以下の精度で運用できます。ただし、その層を流せる装置が減って待ち行列が伸び、1台が止まるとロットを流す先がなくなります。

装置の仕様が3ナノメートル以下でも、ウェハの歪みがプロセスの項目を食う

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2009年度のJEITA報告は、最新の露光装置が仕様値で3ナノメートル以下を示す一方、プロセスに起因したアライメントマークの変形・歪みやウェハの歪みの影響も大きいとしています。そのうえで、高次のアライメント補正技術によるさらなる改善に加えて、精度よく検出できるアライメントマークの開発と、ウェハの歪みを抑える成膜・熱処理技術の開発も必要としています。露光装置側では、高速スキャンステージの位置計測に、空気揺らぎの影響を受けやすいレーザー干渉計に代えてエンコーダーが採用され、重ね合わせ精度が改善されています。

プロセスの項目は、露光装置以外の工程による位置ずれです。膜応力でウェハが反ると、露光前にグリッドが動きます。ミリ秒アニールやレーザアニールは、パターン依存の温度分布を通じて局所的な伸縮を残します。CMPはマークの段差を削り、検出される重心をずらします。ウェハ平坦度がリソグラフィの要求表に載るのと同じ理由で、成膜と熱処理の条件が重ね合わせのバジェットに関わります。マークの計測側に乗る系統誤差がTISです。

ウェーハ接合も歪みを持ち込みます。ニコンは、ウェハどうしを貼り合わせると大きな歪みが出やすく6、歪んだウェハへ重ね露光をするには露光前にナノレベルの精度で歪みをつかむことが重要だとしています。裏面電源の工程では、表裏の重ね合わせ誤差を出どころごとに割り振る予算が組まれ、貼り合わせ由来の歪みがその項目の1つになります。

2重露光では、計測に総額の2割が割り当てられる

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2重露光の重ね合わせ制御では、要求精度の20パーセント(Precision to Tolerance)が計測に対する要求精度です7。総額が10ナノメートルなら、計測の不確かさは2ナノメートルまでで、その数え方がTMUです。計測器の精度を先に確保しないと、プロセス側の残り8割を測り分けられません。2009年度の報告の時点では、2重露光の重ね合わせ制御は達成困難な状態にあり、対応する計測も不要という状況でした。プロセスが量産条件を満たすまでは、計測への配分も決まりません。

制御精度を上げる手法の1つは、ウェーハプロセスでのチップ内格子とウェーハ内チップ配列格子を、線形近似から高次近似に移すことです。そのためにウェーハ内とチップ内(ショット内)へ複数のアライメントマークと位置ずれ計測マークを置く必要が生じました。計測点が増えた分の時間とコストを抑えるため、計測点から計測点までのサイクルタイムであるMove-Acquire-Measure time(MAMタイム)が要求項目に加わりました。

2009年度に追加された要求表は、2010年から2024年までの欄を2年刻みで並べています。光学式オーバーレイのターゲットパッドは40マイクロメートルから10マイクロメートルへ、ダイ内へ入れるマイクロターゲットは10マイクロメートルから2マイクロメートルへ、1点あたりのMAMタイムは1.0秒から0.5秒へ縮みます。マークを小さくするほど回路領域を食わずに済み、そのぶん1点あたりの計測精度は苦しくなります。

総額を締める手段は、どれも時間か装置か面積を増やす

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補正の次数を上げると格子の残差は減りますが、マークの数と計測点が増え、MAMタイムの合計だけ1ロットの処理時間が延びます。補正はオーバーレイ補正モデルで計算し、補正値はAPCで露光装置へ渡します。ASMLは、ウェハを4倍細かい格子に分けて小さな誤差まで補正するソフトウェアを作り、扱うデータ量も4倍になったため計算を速める必要があったとしています。

露光の前に別の装置でウェハ全面を測り、補正値を露光装置へフィードフォワードする方法もあります。ニコンは2018年からアライメントステーションを市場投入しており、Litho Booster 10006はニコン製と他社製のどちらの露光装置にも併設でき、スループットを落とさずにウェハの歪みやずれを測ります。同社は、ウェハホルダ構造を見直して吸着時の誤差を減らし、アライメント計測精度を従来機種から約35パーセント、生産性を約10パーセント上げたとしています。計測機構の光源も強化し、アライメントマークや重ね合わせマークを検出しやすくしました。発売は2027年1月です。装置が1台増えるため、床面積と保守の負担が増えます。

マークを増やせば計測時間が延び、マークを小さくすれば1点の精度が落ち、装置を専用化すれば流動性が落ちます。ピッチスプリッティングを選べば総額が半分近くまで縮み、スペーサ方式を選べば総額は広がる代わりに成膜とエッチバックの項目が加わります。重ね合わせのバジェットは、最終的にエッジ配置誤差という1つの管理量にまとまります。

重ね合わせバジェットとは何ですか?

層と層の位置ずれの許容量を1つの3σ値として与え、その総額を露光装置・プロセス・計測へ割り当てた表です。バジェットは、予算のように総額と配分で管理する枠組みを指す現場語です。

総額はどのくらいの数字ですか?

ITRS2009版の要求値を載せたJEITAの平成21年度報告の表では、2009年の欄でDRAMのハーフピッチ52ナノメートルに対して重ね合わせ3σが10ナノメートル、MPUのM1ハーフピッチ54ナノメートルに対して13ナノメートルです。2009年度時点の見通しで、DRAMではハーフピッチの19パーセントにあたります。

同じ装置で流すのと、装置をまたぐのとで、どれくらい違いますか?

キヤノンのi線ステッパーFPA-5550iZ2では、オプション適用時の重ね合わせ精度がSMOで18ナノメートル以下、MMOで25ナノメートル以下で、差は7ナノメートルです。2つの誤差を独立とみなして二乗和で分けると、装置間の項は約17.3ナノメートルで、装置の中の残差とほぼ同じ大きさです。

計測にはいくら配分されますか?

2重露光の重ね合わせ制御では、要求精度の20パーセント(Precision to Tolerance)が計測に対する要求精度です。総額が10ナノメートルなら、計測の不確かさは2ナノメートルまでです。

ダブルパターニングにすると総額はどうなりますか?

JEITAの平成21年度報告の表では、2009年の欄でピッチスプリッティングの重ね合わせ3σが5.5ナノメートル、平均ずれの上限が0.8ナノメートルです。スペーサ方式の行は11.9ナノメートルで、方式によって総額が2倍以上変わります。

装置の仕様値を満たしても現場でずれるのはなぜですか?

最新の露光装置は仕様値で3ナノメートル以下を示す一方、プロセスに起因したアライメントマークの変形・歪みやウェハの歪みの影響も大きいためです。ウェハどうしを貼り合わせると大きな歪みが出やすく、装置の行を締めてもプロセスの行が総額を食います。

高次補正を入れれば済む話ですか?

格子を線形近似から高次近似へ移すと、ウェーハ内とショット内へ複数のマークを増やす必要が生じ、計測時間とコストを抑えるために1点あたりのMAMタイムが要求項目に加わりました。残差は減り、ラインの時間は延びます。

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