SADP(自己整合ダブルパターニング)とは
SADPとは、露光で作った芯の両側に膜の壁を形成し、芯を除去して残った壁を線として使うことで、ピッチを半分にする技術です。 線の幅が露光ではなく膜の厚みで決まるため、重ね合わせの要求を大きく緩和できます。その代わりに寸法管理で見るべき対象は線の間のスペースへ移り、マスクのパターンとウェーハ上のパターンが異なるので、レイアウト設計が難しくなります。SADPを選ぶことは、露光の精度の問題を成膜とエッチングの精度の問題に置き換えることです。
ArF液浸の解像限界の先を、露光1回でピッチを半分にして作る
Section titled “ArF液浸の解像限界の先を、露光1回でピッチを半分にして作る”ラインとスペースが繰り返すパターンでは、ピッチが露光装置の解像限界で止まります。SEAJは2012年版のロードマップで、開口数1.30から1.35のArF液浸露光装置で生産に使える解像限界をハーフピッチ40nm付近とし、それより細かいパターンを作るにはダブルパターニングの技法を液浸露光へ組み合わせることが要る1としていました。
SADPは、芯材として転写したパターンの両側に成膜とエッチングで新しいパターンを作り、ピッチを1/2にする2自己整合ダブルパターニング技術です。SEAJのロードマップは、スペーサ技術としてのSADPは1回のパターン露光でピッチを1/2にでき、1ダブルパターニングの中でも最も簡便な工程で、193nm液浸技術の解像限界をはるかに超える解像性能を持つとしています。
SEAJのロードマップによると、2011年の時点で、NANDフラッシュメモリなど一部のデバイスでは、側壁ダブルパターニング技術を組み合わせてハーフピッチ20nm台の生産が行われていました1。露光装置はそのままで、工程の組み方だけでこの寸法を実現しています。カリフォルニア大学バークレー校の学位論文は、スペーサリソグラフィとも呼ばれるSADPを、22nmの技術ノード以降の大量生産を支えてきた主力3と位置づけています。
EUVの選択肢を比べた検討でも、SADPは使われています。imecは、32nmピッチに8nmの線を作る目標に追加のトリミング技術を使い、SADPでこのピッチを16nmまで縮めました4。
芯の側面に立った壁が、そのまま線になる
Section titled “芯の側面に立った壁が、そのまま線になる”工程は5段階です。まず露光で芯(コア、Mandrel)を作ります。次に芯の上から膜を均一に成膜します。膜は芯の上面、側面、平らな面に同じ厚さで付きます。3段階目に、真下の方向だけを削る異方性エッチングを行います。平らな面の膜は削り切れますが、芯の側面では縦方向の膜厚が厚いため、そこだけが壁として残ります。4段階目に芯を除去し、芯1本につき壁が2本残ります。最後に、その壁をマスクにしてエッチングで下地を加工します。
芯のピッチはそのままで線の本数が倍になることが、ピッチ1/2の中身です。これを1回行うとSADP、2回繰り返して1/4ピッチにするとSAQP、3回繰り返して1/8ピッチにするとSAOPと呼びます。
壁の作り方そのものは、トランジスタのサイドウォールスペーサと同じです。異なるのは、できた壁を絶縁体としてそのまま使うか、次の加工のマスクとして使うかです。配線では両者の中間もあり、imecはスペーサーをそのまま絶縁膜として残すSID-SADPでRu配線を作っています。
芯の材料にも選択肢があります。SEAJのロードマップでは、フォトレジストのパターンをそのまま芯に使う手法が有望とされています。スペーサになる膜をレジストパターンの上に直接付けるため、レジストのガラス転移点以下で成膜できる手法が望ましいとされます1。レジストを芯とし、低温で成膜できるシリコン酸化膜を使った実証例では、芯を作るための膜を新たに追加する手間が省け、従来のシングル露光と同じレジスト積層構造で実現できるため、プロセスコストの低減にもつながります。
線の幅は膜の厚みで決まり、管理の焦点はスペースに移る
Section titled “線の幅は膜の厚みで決まり、管理の焦点はスペースに移る”SADPでは、線の幅を決める条件が露光から成膜に移り、SADP後のラインの寸法は、ほぼスペーサ材の成膜の制御性で決まります1。そのためSEAJのロードマップは、SADPのCD制御を論じるなら、ラインの寸法よりもスペースの寸法に力を注がなければならないとしています1。
スペースは2種類あります。同じ芯から作られた2本のスペーサの間をコアスペース、異なる芯から作られた隣り合うスペーサの間をギャップスペースと呼び、この2種類のスペースの寸法は、芯パターンの寸法、スペーサ材の膜厚、エッチング性能によって別々に変わります。
SEAJのロードマップでは、スペースの寸法を調整するうえで最も厄介なノイズ成分は、スペーサパターンのLER(ラインエッジラフネス)で、LERをどれだけ小さくできるかが寸法安定性の確保の鍵になります。LERを改善すると寸法の均一性が大きく改善し、ラインとスペースの寸法差も小さくなった比較例もあります。LERは、パターン転写後、現像後、エッチング後のパターンエッジのラフネスで、ばらつきは3σ値で表すことが多い5とされています。
サイドウォール方式のダブルパターニングは、ダミー層を作ったあとの成膜でできたサイドウォールを使って微細パターンを作る複雑な工程です6。これを2回繰り返してピッチを1/4にするクワッドパターニングでは、ダブルパターニング以上に、エッチングがマスク寸法の精度とばらつきを大きく左右します。
同じ成膜とエッチバックで、ホールも細かく並べられる
Section titled “同じ成膜とエッチバックで、ホールも細かく並べられる”スペーサの作り方は、線だけでなく穴にも使えます。SEAJのロードマップによると、ピラーパターンの上にスペーサ形成と同じ成膜を過剰に行うと4本のピラーの中心に窪みが生じ、続いてスペーサ材をエッチバックするとホールのピッチを狭められます1。
SADPを直交させて重ねる方法もあります。2方向のSADPで格子構造を作り、最後にホールを解像させる技術で、同ロードマップは解像性能が20nmハーフピッチに達し、最も細密なホールを作れる手法としています1。露光の重ね合わせ精度を緩和できる点も特徴です。
重ね合わせの要求は緩むが、レイアウト設計の自由度は下がる
Section titled “重ね合わせの要求は緩むが、レイアウト設計の自由度は下がる”利点は、重ね合わせの負担が小さいことです。SEAJのロードマップでは、SADPはMandrelパターンの側壁にスペーサパターンを作り、それを使ってより微細なパターンを作るので、オーバレイ精度の問題が小さい1とされています。一方向の方形パターンで構成される1Dレイアウトのグリッドラインの形成にはSADPが最適で、Litho-Etch-Litho-Etch(LELE)に代表されるパターン分割型のダブルパターニングと比べて、露光時の重ね合わせ精度の要求を大きく緩和できるとしています。
欠点は、レイアウト設計の自由度が下がることです。JEITAのDFM用語集によると、芯材として転写するパターンと最終的な回路パターンが異なるため、設計に高度な工夫が必要です2。SEAJのロードマップでも、マスクのパターンとウェーハ上に作られるパターンが異なるため、レイアウト設計を直観的に行うことが難しいとされています。SAQPも、フラッシュメモリのような単純なパターンには有効な一方、ロジックやDRAMではレイアウト設計が難しいとされています。それでもJEITAの用語集は、単純なパターンの繰り返しが多いメモリだけでなく、ロジック回路への応用も試みられているとしています2。
工程数が増え、線を切る工程も別に要る
Section titled “工程数が増え、線を切る工程も別に要る”東京エレクトロンは、自己整合型マルチパターニングをエッチングと成膜を多数使う手法とし、ラインとスペースの繰り返しパターンのピッチを小さくする用途に向くとしています7。1回行うと通常のリソグラフィの2倍、2回行うと4倍の解像能力に相当するパターニングが行えます。バークレー校の学位論文も、SADPは薄膜の成膜とドライエッチングを何度も含むので、工程の複雑さとそれに伴うコストが大きいとしています3。
1Dレイアウトでは、グリッドラインの形成とパターンの切断を別の工程に分ける手法が有力で、この相補的な技術をComplementary Lithographyと呼びます。SADPで作るのは一様なラインまでで、不要な部分を切る工程がその後に必要です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SADPとは何ですか?
露光で作った芯の両側に膜の壁を形成し、芯を除去して残った壁を線として使う技術です。芯材として転写したパターンの両側に成膜とエッチングで新しいパターンを作り、ピッチを1/2にする自己整合ダブルパターニング技術です。
どうやって作るのですか?
芯を露光で作り、その上から膜を一様にかぶせ、真下だけを削る異方性エッチングをかけ、芯を抜き、残った壁をマスクにして下地を加工します。平らな面の膜は削り切れますが、芯の側面では縦方向の膜厚が厚いため、そこだけが壁として立ちます。
なぜピッチが半分になるのですか?
芯1本の両側に壁が2本できるためです。芯のピッチはそのままで線の本数が2倍になるので、線と線の間隔が半分になります。SADPは1回のパターン露光でピッチを1/2にできる技術です。
線の幅は何で決まりますか?
壁として残る膜の厚みです。SADP後のラインの寸法は、ほぼスペーサ材の成膜の制御性で決まります。線の幅を決める条件が、露光量やフォーカスから成膜の厚みに移ります。
すき間の寸法はどうなりますか?
2種類のスペースが別々に変わります。同じ芯から作られた2本のスペーサの間をコアスペース、異なる芯から作られた隣り合うスペーサの間をギャップスペースと呼び、この2種類は芯パターンの寸法、スペーサ材の膜厚、エッチング性能によって別々に変わります。そのためSADPのCD制御では、ラインよりスペースの寸法に力を注ぎます。
SADPの欠点は何ですか?
レイアウト設計の自由度が下がり、工程数が増えます。芯材として転写するパターンと最終的な回路パターンが異なるため、設計に高度な工夫が必要です。バークレー校の学位論文は、成膜とドライエッチングを何度も使うので工程の複雑さとコストが大きいとしています。
SAQPやSAOPとは何ですか?
同じピッチ分割を繰り返した技術です。1回行って1/2ピッチにする場合をSADP、2回繰り返して1/4ピッチにする場合をSAQP、3回繰り返して1/8ピッチにする場合をSAOPと呼びます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- マルチパターニングとは── SADPを含む上位の分類と、露光を繰り返すもう一方の道
- サイドウォールスペーサとは── 同じ作り方の壁を、絶縁体としてそのまま使う構造
- 液浸露光(ArF液浸)とは── SADPが延命の対象にした露光方式
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- 2JEITA:DFM用語集(2014年)semicon.jeita.or.jp abc
- 3カリフォルニア大学バークレー校:P. Zheng 学位論文(スペーサリソグラフィとSADP)people.eecs.berkeley.edu ab
- 4imec:EUVリソグラフィ、将来のロジックとメモリに向けた選択肢の比較(2019年6月)imec-int.com ↩
- 5SEAJ:半導体製造装置用語集 リソグラフィseaj.or.jp ↩
- 6SEAJ:半導体製造装置技術ロードマップ ウェーハプロセス 2012年版seaj.or.jp ↩
- 7東京エレクトロン:アニュアルレポート2018 半導体の進化を支える技術革新tel.co.jp ↩