OPC(光近接効果補正)とは
OPCとは、ウェハ上で設計どおりの形に仕上がるように、フォトマスクの形をあらかじめ別の形へ変えておく技術です。 露光波長より小さいパターンをそのまま転写すると、線の端が縮んだり、疎密で太さが変わったりします。OPCはマスクを設計図の縮小コピーにすることをやめ、正しさの基準をマスクからウェハ上の出来上がりへ移しました。その代わりに、マスクのデータ量と描画時間が増え、検査の基準も変わります。
回折で崩れる分を予測し、マスクの側を先に歪める
Section titled “回折で崩れる分を予測し、マスクの側を先に歪める”露光波長に比べてウェハ上の回路パターンが小さくなると、フォトマスク上のパターンをウェハ上で同じ形に作ることが難しくなります1。OPCは、パターンがどれだけ崩れるかを予測して、マスクのパターンに図形を加えたり、パターンの疎密に応じて寸法を変えたりして、設計どおりの回路パターンをウェハに作ります。崩れる原因は、露光時の光の回折でレジストパターンがマスクパターンどおりに形成できないことです2。
露光装置は、フォトマスクを設計図として、そこにある回路パターンをウェハへ縮小しながら高い精度で投影します3。微細化を進めるうえで、光の回折限界が壁になってきました。ASMLは、130nmの技術の導入とともに、この変形への対処が欠陥を防ぐうえで欠かせなくなったとしています4。
四角いマスクパターンを通った光はウェハ面上で回折して角が丸くなるので、マスク上で丸くなるところをはみ出させる図形(コーナーセリフ)などを加えるのがOPCです5。マスクを見て正しさを判断していた現場は、ウェハを見て正しさを判断する現場へ変わります。
補正しないと、線の端が縮み、疎密で太さが変わり、規格を外れる
Section titled “補正しないと、線の端が縮み、疎密で太さが変わり、規格を外れる”角が丸くなる、という言い方は穏やかで、現場に出てくるのは次の3つです。
- 線の端が後退します。エッジプレースメントエラー(EPE)は、レジスト像のエッジが所定の位置からどれだけ離れているかを測る尺度で、解像限界付近ではエッジ部分の欠けが増えて差が大きくなります。端が後退すると、下の層の所定の位置から線の先がずれます。
- 同じ設計線幅でも、場所によって太さが変わります。OPCではパターンの疎密に応じて寸法を補正し、太さを揃えます。
- 規格を超えた場所は不良になります。プロセスウィンドウは、寸法の規格の上下限に対応する露光量とフォーカスのマージンです。寸法に上下限があるため、そこを超えた場所は不良になります。
OPCが無い状態とは、設計は正しく、マスクも正しく、それでもウェハだけが別物になる状態です。どこを直せばよいのかが見つけにくいところが、この問題の厄介な点です。
OPCは計算と補正を収束まで繰り返し、ILTは目的の形から逆算する
Section titled “OPCは計算と補正を収束まで繰り返し、ILTは目的の形から逆算する”OPCは、マスクを作る前のデータ処理です。マスクデータ変換(MDP)は、設計のCADデータを描画装置ごとの専用形式に変換する作業で、形式の変換だけでなく各種の補正もこの段階でデータに組み込まれます。
補正の中身は計算の繰り返しです。一般的なOPC処理は、設計データから出発して転写パターンを計算し、要求仕様を満たさないパターンを補正し、もう一度転写パターンを計算して確認するサイクルを繰り返して収束させます6。Inverse Lithography(ILT)と呼ばれる手法は向きが逆で、目的とするレジストパターンから出発してマスクパターンを導きます。マスクパターンの生成では、モデルベースのOPCが広く使われるようになり、スキャタリングバー(SB)の追加も自動化されました。そのうえで、生成したパターンの転写性を検証し、マスク全域で転写の裕度を保証します。
計算の土台はモデルです。ASMLは、計算機リソグラフィが自社の露光装置とテストウェハから得た主要なデータで校正した製造工程のアルゴリズムモデルを使うとしています4。このモデルで、リソグラフィとパターニングの間に起きる物理的・化学的な効果を打ち消すように、パターンをわざと変形させてマスクを最適化します。
補正で足す図形には、マスク上にだけ在るものもあります。補助パターン(SRAF)は、パターンをウェハへ投影するときにエッジを際立たせて解像を助けるため、本体のパターンの周りへ添える、限界解像度より細い図形です。ウェハ上では、像を結ぶ手前の細さに抑えます。
マスクの形は、光の当て方とセットで決まります。解像限界では回折のせいでマスクのパターンがウェハ上で崩れるため、ILT(求める形が出るようにマスクの図形や位相を変える手法)やSMO(光源の形とマスクの図形を一緒に最適化し、解像性や焦点深度といった余裕を広げる手法)といった超解像手法を使います。そのとき計算機でマスクと光源の形を見積もるのが計算機リソグラフィで、マスクの形と照明条件はまとめて解かれます。
繰り返し露光とEUVでは、補正する中身が変わる
Section titled “繰り返し露光とEUVでは、補正する中身が変わる”1つの層を複数のマスクへ分けるマルチパターニングでは、データの分け方そのものが補正の対象になります。ピッチを分割するときは、アライメントエラー、寸法エラー、エッチングなどのプロセスでの変換差をすべて取り込み、接続精度を確保してデータを分割する必要があり、エッジの微調整などの図形処理が要ります6。
EUV露光は、比較的大きなk1値から導入されるため、RETやOPC処理などの負担は少ないとされています6。Samsung Electronicsは、IMECのADTを使ってDRAMパターンの転写性能を調べ、OPCなしで32nmと22nmのセルパターンが転写できたと報告しました。ただしEUVでも、入射角に依存する補正とフレアの補正は必要です。High-NA EUVでは、imecと共同研究者が露光フィールドの継ぎ目をはさむパターン間の近接効果をOPCのモデルに入れています。
マスクデータは2023年に16,642GBへ、検査と描画の負担も増える
Section titled “マスクデータは2023年に16,642GBへ、検査と描画の負担も増える”フォトマスクへの要求表では、マスクデータ量は2007年の413GBから2023年の16,642GBへ増える見通しです。2つの値を比べると約40倍です。1枚のマスクへ渡すデータが桁で増えるため、描画にも検査にも、そのぶん時間がかかります。
マスク検査の基準も動きます。ダイ・トゥー・データベース検査は、マスク上に形成されているパターンと設計データを比較する検査方式です。OPCを入れた後、マスクにあるべき形は補正後の形なので、照らし合わせる相手も補正後のデータになります。
描画の負担も増えます。マルチビーム(MB)は複数の電子ビームを同時に使って描画し、スループットを上げる方式で、最先端のマスク描画装置ですでに実用化されています。電子ビーム描画の装置が新しい方式に変わるほど、描画する図形が増えています。
作り込んだマスクほど、マスク自体の寸法誤差がウェハへ響きます。その響き方の大きさを表すのがMEEFです。OPCで形を作り込むことと、マスクの寸法を厳しく管理することは、同じ話の表と裏になります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”OPCとは何ですか?
ウェハ上で設計どおりの形に仕上がるように、フォトマスクの形をあらかじめ変えておく技術です。パターンがどれだけ崩れるかを予測し、マスクのパターンに図形を加えたり、疎密に応じて寸法を変えたりします。
なぜ必要になったのですか?
ウェハに作るパターンが露光波長に比べて小さくなったためです。露光時の光の回折で、レジストパターンがマスクパターンどおりに形成できなくなります。ASMLは、130nmの技術の導入とともに、この変形への対処が欠陥を防ぐうえで欠かせなくなったとしています。
OPCを入れたマスクは、設計図と同じ形ですか?
別の形になります。設計図の縮小コピーであることをやめて、ウェハ上の出来上がりが設計図に合うようにマスクを歪めます。マスクにあるべき形は、補正後の形です。
補助パターン(SRAF)は何のためにありますか?
エッジを際立たせて解像を助けるために、本体のパターンの周りへ添える限界解像度より細い図形です。マスク上にだけ在って、ウェハ上では像を結ぶ手前の細さに抑えます。
OPCを入れると何が増えますか?
マスクへ渡すデータの量が増えます。半導体技術ロードマップ専門委員会のフォトマスク要求表では、マスクデータ量は2007年の413GBから2023年の16,642GBへ増える見通しです。
誰が、どの工程でやるのですか?
マスクを作る前のデータ作りとして実施します。設計のCADデータを描画装置ごとの専用形式へ直すマスクデータ変換(MDP)の段階で、形式の変換とあわせて各種の補正もデータへ織り込まれます。
照明条件とはどう関係しますか?
一緒に解く相手です。計算機リソグラフィは、ILTやSMOといった超解像手法を使うときに、計算機でマスクと光源の形を見積もります。マスクの形と光の当て方は、まとめて最適化されます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- MEEF(マスク誤差増強係数)とは── OPCで作ったマスクの形の誤差が、ウェハ上で何倍になるかを表す係数
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- 1レーザーテック:光近接効果補正(用語解説)lasertec.co.jp ↩
- 2SEAJ:半導体製造装置用語集(リソグラフィ)seaj.or.jp ↩
- 3ニコン:露光から計測・検査まで 半導体製造における露光装置と計測・検査装置の基礎知識jp.nikon.com ↩
- 4
- 5電子情報通信学会 知識ベース:10群2編3章 プロセス要素技術ieice-hbkb.org ↩
- 6JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会:平成20年度報告(2008年度) 第6章 WG5 リソグラフィsemicon.jeita.or.jp abc