線端後退とは
線端後退とは、露光したときに線の端が設計の位置より手前で止まり、設計値より短く仕上がる現象です。 線幅は規格に入ったまま、線の長さだけが短くなります。原因は2段あり、光の回折が像の端を削り、レジストによってはその中の拡散がさらに端を削ります。どちらも線幅の測定だけでは見つからないので、端は端として測り、マスクの側で先回りして伸ばします。その伸ばし方の細かさが、マスクのデータ量と計算時間を決めます。
回折で高次の情報が欠け、角の丸まりが線端を引っ込める
Section titled “回折で高次の情報が欠け、角の丸まりが線端を引っ込める”露光光はマスクで回折して干渉縞を作り、そのうち次数の小さいいくつかだけがレンズに取り込まれます1。ウェーハ上に結像するときに次数の大きい干渉縞が欠けると、転写パターンの角部の丸まり、ライン端部の後退、ピッチの違いによる寸法ずれが生じます。これらをまとめて光近接効果と呼び、線端後退はそのうち線の長さ方向に生じる成分です。マスク上の線端に対して、レジストの線端がどれだけ引っ込んだか2が線端後退の量です。
角の丸まりが出発点です。直角に切った図形を抜けた光は、ウェーハ面では回折のせいで角の取れた形になります3。大きな図形でも、パターンの高次の情報が回折で失われて角が丸まります4。結像系を解像限界の近くで使うと、細い線をマスクの幅どおりに転写した場合に線端後退が出ることは、回折の物理から決まります。削れる側をマスクの上で先に太らせておく補正があり、その付け足しをコーナーセリフと呼びます。角が丸まる現象と、線端が引っ込む現象は、同じ回折の裏表です。
欠け方の度合いは、k1ファクタで表せます。k1ファクタはハーフピッチと開口数の積を露光波長で割った値で、0.25を下回る領域が転写パターン形成の限界です5。2012年時点のArF露光装置は、投影レンズとウェーハの間を屈折率1.44の純水で満たして開口数1.35を実現していましたが、それでも最先端デバイスのk1ファクタは0.25より小さくなっていました。波長を短くするか開口数を上げれば、同じ寸法の線端後退は改善しますが、それは回折限界から遠ざかることと同じです。
レジストの中の拡散は、線端を線幅のバイアスより大きく削ると考えられる
Section titled “レジストの中の拡散は、線端を線幅のバイアスより大きく削ると考えられる”光の像が決まったあとも、線端は削られます。しきい値で完全に切り替わり、バイアスもない理想的なフォトレジストでも、得られた空間像の等エネルギーの輪郭を写し取ることしかできません4。実際のレジストでは、露光後ベークの間に生成物が拡散します。図形の角では複数の方向から拡散が働いて角を丸め、角での拡散の距離が隣の角に重なるほど長いと、角の丸まりが線端後退になります4。
テキサス大学の論文は、空間像で角が丸まった線端を、柱状パターンの半分のようなものと見なしています。そのため拡散は、線幅の片側のバイアス距離より大きく線を短くすると予想されます。柱状のような2次元のマスクパターンでは、露光後ベークのシミュレータSTORMが実際の拡散距離を小さく見積もり、多次元の拡散の効果を捉えきれなかったことも報告されています。
拡散がどこまで効くかはレジストで違います。カリフォルニア大学バークレー校の技術報告は、光強度の分布をDillのABCモデルで初期の酸の分布に変換し、SPLAT、STORMと、しきい値で活性化するサイト濃度のモデルを組み合わせて、APEX-EとUVIIHSの2種類のレジストの線端後退を、公称線幅の10%未満の誤差で予測しました2。ウェーハは波長248 nm、開口数0.6、部分コヒーレンス0.5、露光量10 mJ/cm2のMicrostepperで露光しています。拡散係数がかなり小さいUVIIHSでは、拡散は線端後退に重要でなく、露光だけに基づく予測で足りる可能性があるとしています2。Texas Instrumentsとの共同研究からは、248 nmレジストの線端後退を扱うには、レンズの収差とレジスト内の光学をモデルに入れる必要があるという結論が出ています。
線幅と線端では、測っている縁が違う
Section titled “線幅と線端では、測っている縁が違う”線幅は向かい合う2本の長い縁の間の距離で、線端は縁が直角に折れる場所です。線端後退を測る量はエッジ配置誤差で、レジスト像の縁が設計どおりの座標からどれだけ離れたかを測る尺度です6。四角い設計図形の縁と露光後のレジストの縁は回折の分だけ食い違い、解像限界へ近づくほど縁の欠けが増えて食い違いが広がります。縁が集まる線端で、この欠けが大きくなります。
周りの配置でも変わります。光近接効果は、対象パターンを中心とした半径約2マイクロメートルの範囲内におけるパターン配置で決まることが知られています1。線幅の合格した同じ設計値のラインでも、隣に何があるかで端の止まる位置は動きます。1本のラインの中だけを測るプロセスウィンドウの管理では、この差がそのまま通過します。
適切なOPCを施しても、製造装置のばらつきで設計どおりに形成できない転写パターンが発生します1。そのうち配線のオープンやショートのリスクが高いものをホットスポットと呼びます。線端が後退すれば、接続するはずの場所から離れます。線端を伸ばせば、向かい合う端どうしが近づきます。一方の余裕を増やすと、もう一方の余裕が減ります。
ホットスポットを防ぐため、発生しやすい設計パターンを厳格なデザインルールで事前に制限する方法が一般に使われています1。ただし、すべてのホットスポットをデザインルールだけで制限するのは困難です。そこで、装置のばらつきを見込んで露光と加工を計算し、設計の段階でホットスポットを見つける検証が必要になります。東芝は、ホットスポット近傍のパターンだけを自動で修正し、ホットスポットの消えた設計パターンに置き換えるソフトウェアを開発していました。リソグラフィの側から修正候補を作り、設計パターンの制約を満たしてホットスポットが消える最善のパターンを選ぶ計算を行います。線端に必要な伸ばし代は、設計検証(DRC・LVS)の側で確保されます。
マスクで端を伸ばせば直るが、密度とMEEFで払う
Section titled “マスクで端を伸ばせば直るが、密度とMEEFで払う”いちばん単純な対策は、マスクの線を狙いの長さより長く描いておくバイアスです。ただし、これは達成できる回路の密度を制限します4。
伸ばした分の誤差も拡大されます。像の側の指標であるNILSは、パターンエッジでの像の傾きを光強度で規格化し、さらにパターン幅で規格化した値です6。マスク側の拡大率はMEEFで、マスク上の寸法誤差がウェーハ上で拡大される比率を表します。線端を伸ばすためにマスクの図形を変えると、マスク上の誤差はMEEFの倍率で拡大されてウェーハに現れます。
補正はルールからモデルへ移り、照明・エッチング・EUVまで広がった
Section titled “補正はルールからモデルへ移り、照明・エッチング・EUVまで広がった”OPCは、露光時の光回折でマスクパターンどおりのレジストパターンを作りにくくなるため、あらかじめマスクパターンを変形して目的のパターンへ近づける手法です6。パターンの特徴に応じた補正ルールで補正する方式は、250ナノメートル世代から導入され、130ナノメートル世代までの主流でした1。90ナノメートル世代を過ぎると必要な補正精度を確保しにくくなり、モデルベースの方式へ置き換わりました。
照明も動かせますが、他のパターンを巻き込みます。解像限界に近いピッチのラインアンドスペースを形成するには二重極照明が要るものの、この照明形状では孤立パターンなどをラインアンドスペースと同時に形成することが困難です。照明内の光源を1つずつ明るさ制御できる機能と光源マスク最適化を組み合わせると、露光する全パターンの余裕度が最大になる輝度分布と、補助パターンの配置とが同時に決まります。東芝は、この手法をOPCやDFMの技術とも組み合わせ、余裕度を動かす重要な因子だけを抜き出して多変数で最適化した結果、リソグラフィ余裕度が約1.5倍に拡大した例があるとしています。
エッチングで生じる寸法変化も、マスクで補正します。RIE中に発生する加工残留物がパターンに付着して寸法が変わる加工変換差は、マスクパターンで補正しておく必要があります。この量は、パターンに近接する被加工面積が広く、加工残留物の発生量が多いほど大きくなります。予測には、反応性イオンの入射量が、ある高さのパターンのスペーサを背にして見上げたときの上空の広さに比例するという関係を使う手法が導入されています。露光で決めた端の位置は、エッチング後の位置で合否が決まります。
EUVでもOPCは続きます。入射光がマスクへ斜めに入るため、シャドーイングによるパターン変形とフレアの影響を補正する必要があり、あらかじめマスクパターンにOPCを施します7。EUVのフレア強度はArFレーザ光の約100倍で、その点像分布関数は数ミリメートルに及ぶ広い裾を持ちます。補正するパターンごとに強度を計算すると膨大な計算時間がかかるため、一辺が数マイクロメートルの四角形のメッシュに分割してフレア強度を割り当てる手法が使われ、ArFリソグラフィのOPCと同等の時間で計算が完了しました。
補正を細かくするほど、マスクのデータ量と計算時間が増える
Section titled “補正を細かくするほど、マスクのデータ量と計算時間が増える”OPCの図形加工は、パターンのエッジにジョグと呼ばれる段差を作る作業です5。ジョグ長を小さくして図形を複雑にすれば設計パターンへの忠実性は上がりますが、パターンのデータ量が爆発的に増え、電子ビーム描画によるマスク製造の時間が著しく増えます。そのため、デバイス特性への影響が許容される範囲でジョグ長を設定し、マスク描画時間を抑えます。
計算時間も増えます。モデルベースOPCは約4×4マイクロメートルの領域に含まれるパターンを1単位としてシミュレーションを繰り返すため1、チップ全面に適用すると数億回を超えるシミュレーションが必要です。OPC用補助パターンの付加が必須になって露光するデータ量が増えており7、対策として高電流密度化が進み、200アンペア毎平方センチメートルの装置が開発されています。
計算の置きどころは、要求の分布で決まります。公差ベース製造の一例では7、ゲート層のOPCでゲート寸法精度が1ナノメートル以下と厳しいセルが全体の1パーセント程度で、そのほかのセルは寸法誤差3ナノメートル以上でも許容だと判明しました。この知見に基づいて計算の繰り返し回数を削減した結果、OPCにかかる時間を30パーセント程度まで短縮しています。厳しさを一律にすると、余裕のある場所で時間を使います。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”線端後退とは何ですか?
線の端が設計の位置より手前で止まり、設計値より短く仕上がる現象です。ウェーハ上に結像するときに次数の大きい干渉縞が欠落すると、転写パターンの角部の丸まり、ライン端部の後退、ピッチの違いによる寸法ずれが生じ、これらをまとめて光近接効果と呼びます。
なぜ線の端だけが引っ込むのですか?
端で像の立ち上がりが鈍るためです。パターンピッチが小さくなるほどレンズに取り込まれる干渉縞の数が減り、マスクパターンに対する転写パターンの忠実度が失われます。パターンの高次の情報が回折で失われて角が丸まり、さらに露光後のベークで角に複数の方向から生成物が拡散して、隣り合う角の丸まりが重なると線端の後退になります。
線幅の管理で捕まりますか?
別の量です。線幅は向かい合う2本の縁の間の距離であり、線端は縁が折れ曲がる場所です。光近接効果は対象パターンを中心とした半径約2マイクロメートルの範囲内のパターン配置で決まるため、同じ線幅でも周囲の配置が異なれば端の止まる位置は変わります。
何を測る量ですか?
エッジ配置誤差です。レジスト像の縁が設計どおりの座標からどれだけ離れたかを測る尺度で、解像限界へ近づくほど縁の欠け落ちが増えて食い違いが広がります。線端後退そのものは、マスク上の線端に対するレジストの線端の引っ込み量として定義されます。
どうやって直すのですか?
マスクパターンを変形して補正します。最も単純なのはマスクの線を狙いより長くしておく方法ですが、回路の密度が制限されます。丸くなる角には、コーナーセリフのようなはみ出したパターンを追加します。
細かく補正するほど良いのですか?
マスクのデータ量と描画時間が増えます。ジョグ長を小さくして図形を複雑にすれば設計パターンへの忠実性は上がりますが、パターンのデータ量が爆発的に増え、電子ビーム描画によるマスク製造の時間が著しく増えます。
EUVになると補正は要らなくなりますか?
補正は続きます。EUVでは斜め入射によるシャドーイングでのパターン変形とフレアの影響を補正するため、あらかじめマスクパターンにOPCを施す必要があります。EUVのフレア強度はArFレーザ光の約100倍です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- エッジ配置誤差とは── 線端後退を含め、縁の位置ずれをまとめて測る量
- OPC(光近接効果補正)とは── 線端後退を打ち消すために、マスクの図形を変形する手法
7件を表示
- 1
- 2カリフォルニア大学バークレー校:248nmレジストの線端後退のモデル化に関する技術報告 ERL-02-1www2.eecs.berkeley.edu abc
- 3電子情報通信学会:知識ベース 10群2編3章 プロセス要素技術ieice-hbkb.org ↩
- 4テキサス大学オースティン校 Willson研究室:線端後退と酸拡散に関するSPIE 2001論文willson.cm.utexas.edu abcd
- 5東芝レビュー:先端リソグラフィ技術の課題と革新 Vol.59 No.8(2004年)global.toshiba ab
- 6SEAJ:半導体製造装置用語集(リソグラフィ)seaj.or.jp abc
- 7SEAJ:半導体製造装置技術ロードマップ リソグラフィ 2012年版seaj.or.jp abc