確率的欠陥とは
確率的欠陥とは、同じレシピで同じように露光しても、一部のパターンだけがつながったり断線したりする、確率のばらつきから生まれる欠陥です。 原因は混入した異物ではなく、パターンを作る光子と分子の数の揺らぎにあります。最も単純な対策は露光量を増やすことですが、それは生産効率を差し出すことと同じです。しかも欠陥はごくまれにしか出ないので、数えるための検査が速さと感度の両立に縛られます。
同じ条件で露光しても、一部の線だけがつながり、途切れる
Section titled “同じ条件で露光しても、一部の線だけがつながり、途切れる”SEAJの用語集は1、ストキャスティクス欠陥を確率的なばらつきに起因するレジストパターンの欠陥とし、特にEUVリソグラフィで顕著になったとしています。見られる型は、パターンがつながるブリッジ欠陥(スカム欠陥)、断線するブレーク欠陥(ピンチング欠陥)、欠損するミッシング欠陥、結合するキッシング欠陥などです。
厄介なのは、原因が1か所へ集まらないことです。装置もレシピも材料ロットも同じまま、ウェーハの中のごく一部のパターンだけが崩れます。大阪大学の博士論文は、ランダムに生じる線のブリッジやブレークが、ハーフピッチ20nm未満のパターンで新たな課題になったとしています2。
光子と分子が数えられるほど減り、パターン形成そのものが確率過程になった
Section titled “光子と分子が数えられるほど減り、パターン形成そのものが確率過程になった”大阪大学産業科学研究所の古澤孝弘教授は、2025年の「化学と教育」の解説で、ストカスティック欠陥はフォトレジストのパターン形成過程そのものが確率過程であるために生じるとしています3。微細化でパターン形成に関わる光子の数、分子の数、反応の回数が数えられるほど少なくなり、欠陥として表に出てきました。従来問題になっていた欠陥は、材料への不純物の混入と、熱力学的な理由による高分子の凝集で、どちらも原因を1つに特定できます。
EUVで目立つのは、光子の数が減るからです。imecは、波長が短くなり、EUVリソグラフィが13.5nmで動作すると、光源のエネルギーがより少ない光子に分配されるとしています4。半導体製造の採算性を確保するため、EUVレジストにはArFレジストと同程度の30mJ/cm²の感度が必要です。ところが光子1個のエネルギーが14倍になるので、同じ感度なら光子数は14分の1になります。加工対象が小さくなる分、1つのパターンに使える光子数はさらに減ります。
10nm四方にこの感度で入射する光子数は2024個で、光源出力をどれだけ安定化させても、確率統計効果によって光子数は±45個揺らぎます。この揺らぎがショットノイズです。45個は2024個の2.2パーセントにあたり、加工に求める精度は10パーセント程度なので、まだ余裕があるように見えます。しかし実際には余裕が減っていきます。光子の80パーセント以上はフォトレジストを透過し、光子が生んだ二次電子のうち酸発生剤の分解に使われるのは一部で、生じた酸のうち高分子の脱保護に使われるのも一部です。段階ごとに情報が失われ、最終的に揺らぎが許容範囲を超えます。
分子の配置も揺らぎます。大阪大学の博士論文は、レジスト膜中の光酸発生剤(PAG)は巨視的には均一に分布するものの、微視的にはPAG同士の距離がそろわず正規分布になると考えられるとしています。露光で生じた酸は露光後ベーク(PEB)で増幅しながら拡散し、高分子の脱保護反応を進めます。同論文は、この酸の拡散長も一様でなく正規分布に従い、それが確率的欠陥を生む原因の1つと考えられるとしています。
SEAJの用語集は原因を2つの系統に分けています。パターン内の光子数が減る影響によるフォトンストキャスティクスと、レジスト組成物の空間的な分布の影響によるケミカルストキャスティクスです。確率的影響という項目では、EUV露光で顕在化した現象として、パターンの微細化とともに、光子数の揺らぎ、レジスト構成材料の不均一性、露光装置のコントラスト低下によってパターン欠陥が確率的に生じるとしています。原因が光子、材料、光学の3つに散っていることが、この欠陥の特徴です。
ばらつきの指標を下げても、欠陥の数は別の要因で動く
Section titled “ばらつきの指標を下げても、欠陥の数は別の要因で動く”確率的欠陥は、平均の線幅より先に、ばらつきの指標に現れます。ラインエッジラフネス(LER)は、転写後、現像後、エッチング後のパターンエッジのラフネスで、ばらつきを値で表記することが多い指標です。レジストライン幅ラフネス(LWR)は、光コントラストが低いと値が大きくなります。ローカルCD均一性(LCDU)は同じ露光ショット内の局所的なばらつきを示す指標で、解像限界付近では、レジスト成分の不均一な分布、露光ドーズ量(光子数)、光学コントラストで決まります。確率的欠陥の3つの原因が、そのままLCDUを決める要因になっています。
余裕の広さも数値で表せます。露光量裕度(EL)は、ベストフォーカスでの寸法規格の上下限に対応する露光量の余裕度です。プロセスウィンドウ(PW)は、寸法規格の上下限に対応する露光量とフォーカスをプロットしたときのマージンで、確率的欠陥が増えるとこのウィンドウが狭くなります。
ただし、ラフネスが小さいことは欠陥が少ないことの証明になりません。大阪大学の博士論文は、プロセスと材料の要因が確率的欠陥の発生に効く度合いは、LERに効く度合いと異なるとしています2。同論文の例では、アクリル系のフォトレジストで現像液の水酸化テトラアルキルアンモニウムのアルキル鎖が短いほど、閉じたコンタクトホールと開いたコンタクトホールの両方の確率的欠陥が増え、欠陥が出ない寸法の範囲が狭くなりました。LERの値だけでは、欠陥の多い条件を見分けられません。欠陥は欠陥として数える必要があります。
まれな欠陥を数える検査は、速さと感度の釣り合いに縛られる
Section titled “まれな欠陥を数える検査は、速さと感度の釣り合いに縛られる”imecは、確率的な課題は検査能力に最も強く表れ、速さと感度の釣り合いを取らなければならないとしています4。同社は、0.01個/cm²の欠陥を検出する閾値を挙げ、手段ごとの限界も示しています。CD-SEMの画像を撮って調べる方法は画像の生成にかかる時間に左右され、ウェーハ全面には数か月かかります。高エネルギーの電子ビームを使う方法はレジストを壊し、速度もダイやウェーハの全面を走査するには足りません。光学式の欠陥検査は、パターンをはっきり写すCD-SEMと違い、ウェーハ上の細部を写しません。
電子ビーム検査は、加速した電子を基板表面に当てて反射電子を検出し、画像を形成する検査です。スループットを上げるために、複数の電子ビームを使うマルチカラム方式やマルチビーム方式があります。まれな欠陥を見つけるには、広い面積を速く検査する能力が要ります。
見つけた欠陥は分類まで自動で回します。自動欠陥分類(ADC)は、欠陥画像を事前に定めたルールに基づいて、分類ソフトウェアが欠陥の発生原因ごとに分類する仕組みです5。分類した情報は歩留り管理システム(YMS)や工場ホストに送られ、欠陥の発生原因の追求や解析に使われます。自動欠陥レビュー(ADR)は、欠陥検査で取得した座標などの欠陥情報をもとに、自動で欠陥画像を取得してデータベース化することです。数が多く1つずつは小さい確率的欠陥ほど、この自動化が必要です。
露光量を増やせばラフネスは下がるが、生産効率が落ちる
Section titled “露光量を増やせばラフネスは下がるが、生産効率が落ちる”対策そのものは単純です。JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会は平成21年度報告で、LERとLWRを減らす最も単純な方法は露光量を増やすこととし6、単純なショットノイズの考え方から、LERと露光量の間にはの関係が予想されるとしています。この関係に当てはめると、露光量を4倍にしてラフネスはようやく半分になります。
ところが、露光量はそのまま生産の効率でもあります。感度は、レジストを露光してターゲットサイズを得るための露光機の露光量で、感度がよいとは露光量が小さいことを指します。露光量を増やすほど、1ショットに注ぐ光と時間が増え、採算のためにEUVレジストに求める30mJ/cm²の感度から離れていきます。
古澤教授は、解像度、感度、ラフネスがそれぞれデバイス性能(価格)、生産効率、製品の歩留まりを左右し、3つを同時に向上させることは技術的に困難でトレードオフ問題と呼ばれ、EUVリソグラフィ実現の最大の障壁になっていたとしています。JEITAの同報告も、解像度、LER/LWR、感度の3つをRLSトレードオフと呼び、両立の難しさを示しています。
露光量以外の手は、レジストの反応効率と吸収を上げること
Section titled “露光量以外の手は、レジストの反応効率と吸収を上げること”古澤教授によると、半導体製造に使われた第一世代のEUVレジストは、酸発生と脱保護反応の効率を極限まで高めて情報の損失を減らし、実用化に至りました。
次の世代として、スズ酸化物のかご状構造をコアに持つメタルオキサイドレジストが、高吸収の次世代レジストとして注目されています。古澤教授は、メタルオキサイドレジストは化学増幅型レジストよりEUVの吸収係数を数倍にできる一方、最終的なリソグラフィ性能の差はそれほど大きくなく、化学反応過程の効率が今後の課題だとしています。
確率的欠陥は、レシピの1項目を直せばなくなる欠陥とは性質が異なり、同じ条件でもパターンごとに結果が変わります。そのため対策も、レジスト材料、露光量、光学コントラストという別々の項目に同時に取り組む必要があります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”確率的欠陥とは何ですか?
確率的なばらつきから生じるレジストパターンの欠陥で、特にEUVリソグラフィで顕著になりました。同じレシピで露光しても、一部のパターンだけが崩れます。
どんな型がありますか?
パターンがつながるブリッジ欠陥(スカム欠陥)、断線するブレーク欠陥(ピンチング欠陥)、欠損するミッシング欠陥、結合するキッシング欠陥があります。どれも、狙った形から1本ずつ別々の崩れ方をします。
従来の欠陥とどこが違いますか?
原因の探し方が違います。従来問題になっていた欠陥は材料への不純物の混入や熱力学的な理由による高分子の凝集でしたが、ストカスティック欠陥はフォトレジストのパターン形成過程そのものが確率過程であるために生じます。原因は数の揺らぎそのものにあります。
ショットノイズとは何ですか?
光子の数そのものの揺らぎです。10nm四方に30mJ/cm²の感度で入射する光子数は2024個で、光源出力をどれだけ安定化させても、確率統計効果によって光子数は±45個揺らぎます。
なぜEUVで目立つのですか?
同じ感度でも光子の数が減るためです。採算性のためにEUVレジストにはArFレジストと同程度の30mJ/cm²の感度が必要な一方、EUVでは光子1個のエネルギーが14倍になるので、同じ感度なら光子数は14分の1になります。加工対象が小さくなる分、1つのパターンに使える光子数はさらに減ります。
現場では何を測りますか?
ばらつきの指標と欠陥の数です。LERとLWRは3σ値で表すことが多く、LCDUは同じ露光ショット内の局所的なばらつきを示し、ELとPWで余裕の広さを確かめます。欠陥の数はラフネスと別の要因にも左右されるので、電子ビーム検査などで直接数えます。
確率的欠陥を減らすと、何が犠牲になりますか?
生産の効率です。LERとLWRを下げる単純な手段は露光量の増大です。ところが解像度、感度、ラフネスはそれぞれデバイス性能、生産の効率、製品の歩留まりを左右し、3つを同時に上げる難しさはトレードオフ問題と呼ばれています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”6件を表示
- 1SEAJ:半導体製造装置用語集「リソグラフィ」seaj.or.jp ↩
- 2大阪大学:博士論文(フォトレジストの確率的欠陥)ir.library.osaka-u.ac.jp ab
- 3日本化学会:化学と教育 73巻5号「最新半導体製造の化学」jstage.jst.go.jp ↩
- 4
- 5SEAJ:半導体製造装置用語集「計測」seaj.or.jp ↩
- 6JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会:平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィsemicon.jeita.or.jp ↩