ペリクルとは
ペリクルとは、フォトマスクのパターン面から離して張る薄い膜で、そこに付いた異物を焦点からずらし、ウェーハに転写されないようにする防塵カバーです。 フォトマスクに異物が付くと、同じ欠陥がすべてのウェーハに転写されます。ペリクルは異物を取り除かず、写らない高さへ移します。その代わりに光路へ膜が1枚増え、透過率がわずかに下がり、膜自体も光で劣化します。露光の出力が上がるほど、この代償をどこまで小さくできるかが膜材の勝負になります。
マスク1枚の異物は、焼き付けた枚数ぶん積み上がる
Section titled “マスク1枚の異物は、焼き付けた枚数ぶん積み上がる”フォトマスクは、ガラス基板の遮光膜に非常に微細な回路パターンを形成したもので、回路をシリコンウェーハへ焼き付けるときの原版です1。原版なので、同じ1枚を使って何度も焼き付けます。マスクへ異物が1つ乗れば、その影響は焼き付けた枚数ぶん積み上がります。
大日本印刷は、2ナノメートル世代の半導体の回路を転写する際にEUVリソグラフィ向けフォトマスクへ異物が付着すると、半導体製造の歩留まりを低下させるおそれがあるとしています2。三井化学は、ペリクルを使うことで異物による半導体ウェーハの製造不良を防げるとしています3。ペリクルは歩留まりを守るための部材です。
素直に思いつく手は、マスクを洗い続けることです。しかし洗うほどマスクは傷み、洗っている間はそのマスクが露光ラインから抜けます。ペリクルは異物を無くす代わりに、異物が写る場所から異物をどけます。
膜の上の異物は焦点からずれ、ウェーハに結像しない
Section titled “膜の上の異物は焦点からずれ、ウェーハに結像しない”ペリクルは、マスクのパターン表面に異物が付着しないようにマスク表面の近くに取り付けた薄膜で、ペリクル上に付着した異物は焦点からずれているためウェーハには結像しません1。露光装置はマスクのパターン面へ焦点を合わせ、膜はその面から離れた位置へ張るため、膜の上の異物は焦点からずれた高さに乗ります。焦点からずれた影は広がって薄まり、分解能で決まる線幅の世界へ像を残す手前で消えます。異物は乗ったまま、ウェーハへ写る力だけを失います。
現場が追うのは、膜の透過率と発塵
Section titled “現場が追うのは、膜の透過率と発塵”膜を1枚足す以上、露光光はその膜を通ります。三井化学は自社製品を、各露光波長に対して耐光性のある膜材料を選び、高い透過率が得られるように膜厚を設計したフォトマスク用防塵カバーとし3、透過率99パーセント以上と、原料の前処理とスピンコート技術の組み合わせによる透過率の均一性の確保を挙げています。均一性が要るのは、膜のむらがそのまま露光量のむらへ化けるためです。
もう1つ管理するのが、ペリクル自体からの発塵です。マスクを守るための部材が汚染源になっては意味がありません。三井化学は、材料を厳選して光劣化と昇華成分による異物化を避け、アルミ合金フレームの表面を特殊な粘着材でコーティングしてフレームからの発塵を防ぐとともに内壁に付いた異物を保持し、発塵の原因になっていた両面接着テープの代わりに接着剤をフレームに直接塗布しています。製品はクラス1のクリーンルームでクリーンロボットシステムを使って製造されています。クリーンルームの等級が製品仕様として示されている点に、この部材の特徴が表れています。
それでも異物が入ることはあり、その場合は膜を剥がし、マスクを洗浄し、貼り直します。マスク洗浄装置は、マスク表面の異物を除去する装置です。三井化学の塗布型マスク接着剤は、マスクからの剥離とマスクの洗浄がしやすいように作られています。剥がしやすさが仕様に含まれるのは、剥がすことを前提に使う部材だからです。マスクの状態そのものはマスク検査で確認します。
代償は透過率と膜の寿命で、露光の出力が上がるほど重くなる
Section titled “代償は透過率と膜の寿命で、露光の出力が上がるほど重くなる”異物が写る危険が下がる代わりに、光路へ膜が1枚増えます。1つ目の欠点は、透過する光が減ることです。透過率99パーセント以上という値は、わずかでも必ず光が失われることを示しています。2つ目の欠点は、膜自体が光で劣化することです。三井化学は露光光に応じた新素材の開発で長寿命化していますが、膜には寿命があり、交換が必要です。
EUVでは、この2つが同時に厳しくなります。ASMLは、13.5ナノメートルの光を通すために、EUVペリクルはより薄く、装置内のはるかに高い温度に耐える必要があったとしています4。同社のチームは2016年に、多層膜の考え方に基づくEUVペリクルの第1世代を出しました。ただし層を重ねると膜は厚くなり、層を積み上げて膜を作る製造工程も複雑になりました。
量産は三井化学が担いました。同社はASMLからEUV露光用ペリクル事業のライセンスを受け、2021年に世界に先駆けてEUVペリクルの商業生産を岩国大竹工場で始めたとしています5。
露光の出力はさらに上がります。三井化学は2024年に、EUV露光の次世代技術として開口数0.55の高NA化と600W以上の高出力化が求められているとし、過酷な露光環境に耐える新しい素材のペリクルが必要だとしました。そのうえで、EUV透過率92パーセント以上と、1kWを超える露光出力への耐光性を兼ね備えたCNTペリクルの量産設備を岩国大竹工場に設置すると発表しました。膜材にシリコン系素材を使う既存のEUVペリクルに加えて、カーボンナノチューブを膜材に使う次世代品をそろえる構成です。
40年続く部材で、EUVでも同じ会社が量産を担う
Section titled “40年続く部材で、EUVでも同じ会社が量産を担う”ペリクルは古い部材でもあります。三井化学は1984年にペリクルを発売して以来、半導体の微細化に合わせて改良と品質向上を続けてきたとしています6。2022年には旭化成のペリクル事業の取得を発表し、取得の対象はフラットパネルディスプレイ製造用の大型ペリクル(FPDペリクル)と、半導体製造用の小型ペリクル(LSIペリクル)でした7。旭化成のペリクル事業は1986年の事業化以来、FPD向けで市場を牽引してきたと、三井化学は同じ発表で述べています。40年ぶんの異物管理のノウハウが、そのままEUV世代の膜づくりへ引き継がれています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ペリクルとは何ですか?
フォトマスクのパターン面から離して張る薄い膜です。マスクのパターン表面に異物が付着しないようにマスク表面の近くに取り付けた薄膜で、ペリクル上に付着した異物は焦点からずれているため、ウェーハに結像しません。
異物を取り除く道具ですか?
異物を取り除くのではなく、転写されないようにする部材です。膜の上に付いた異物はそのまま残りますが、露光装置はパターン面に焦点を合わせるので、膜の上の異物はぼけます。異物を、像として写る位置から、ぼけて薄まる位置に移す考え方です。
ペリクルが無いと現場で何が起きますか?
マスク上の異物が歩留まりを下げます。大日本印刷は、2ナノメートル世代の回路を転写するときにEUVリソグラフィ向けフォトマスクに異物が付着すると、半導体製造の歩留まりを低下させるおそれがあるとしています。三井化学は、ペリクルを使うことで異物による半導体ウェーハの製造不良を防げるとしています。
膜には何が要りますか?
光を通す力と、光に耐える力です。三井化学は自社製品を、各露光波長に対して耐光性のある膜材料を選び、高い透過率が得られるように膜厚を設計したフォトマスク用防塵カバーとし、透過率99パーセント以上と、原料の前処理とスピンコート技術の組み合わせによる透過率の均一性の確保を挙げています。
ペリクル自体が異物の出どころになりますか?
なり得ます。そのため対策が製品仕様に並びます。三井化学は自社製品で、厳選した材料によって光劣化と昇華成分による異物化を避け、アルミ合金フレームの表面を特殊な粘着材でコーティングしてフレームからの発塵を防ぎ内壁に付いた異物も保持し、発塵の原因になっていた両面接着テープに代えて接着剤をフレームへ直接塗布したとしています。
EUV用のペリクルはどこが違いますか?
耐えるべき光の強さと薄さが違います。ASMLは、13.5ナノメートルの光を通すためにEUVペリクルはより薄く、装置内のはるかに高い温度に耐える必要があったとしています。三井化学は、開口数0.55の高NA化と600W以上の高出力化に向けて、EUV透過性92パーセント以上と1kWを超える露光出力への耐光性を兼ね備えたCNTペリクルの量産設備を設置すると2024年に発表しました。
異物がマスクへ付いてしまったらどうしますか?
膜を剥がし、マスクを洗浄し、貼り直します。マスク洗浄装置はマスク表面の異物を除去する装置で、三井化学の塗布型マスク接着剤は、マスクからの剥離とマスクの洗浄がしやすいように作られています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”7件を表示
- 1SEAJ:半導体製造装置用語集 リソグラフィseaj.or.jp ab
- 2
- 3三井化学:三井ペリクルjp.mitsuichemicals.com ab
- 4ASML:EUVペリクル開発の歩み(2022年)asml.com ↩
- 5三井化学、次世代EUV露光用CNTペリクルの生産設備を設置jp.mitsuichemicals.com ↩
- 6三井化学、EUVペリクルの商業生産を開始jp.mitsuichemicals.com ↩
- 7三井化学、旭化成ペリクル事業を取得jp.mitsuichemicals.com ↩