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レジストアウトガスとは

レジストアウトガスとは、露光中にレジストから真空中に放出される分子と、それが光学系やマスクの表面に膜として堆積するまでの一連の現象です。 影響を受けるのは、ウェーハ上の寸法よりも、次のショットに届く光量です。EUVの光学系は多数の反射面の掛け算でできているので、1枚の反射率がわずかに下がるだけで、ウェーハに届く光量は大きく減ります。NISTは、採算の合う運用を続けるには、光学系の劣化を装置の5年の稼働期間全体で約2%以内に抑える必要があるとしています1。一方でレジストから出るガスを減らそうとすると、感度・解像度・ラフネスの両立がさらに難しくなります。

光で分解された分子だけが、炭素の膜や酸化として残る

Section titled “光で分解された分子だけが、炭素の膜や酸化として残る”

EUV(波長13.5 nm)ではレジストのアウトガスも問題の1つで、真空中に放出されたガスにEUV光が当たると、ハイドロカーボン系の堆積膜が比較的容易に成長することが知られています2。露光中、レジストからは光に誘起されて有機分子が飛び出し、それがEUV光学系に吸着すると炭化して反射率を下げることがあります3。

吸着した分子がすべて汚れになるわけではありません。分子は熱で離れれば元に戻り、離れる前に光で分解されたときに光学系が傷みます1。分解のされ方は2通りで、吸着した水が分解すると表面が酸化することがあり、炭素を含む分子が分解すると炭素が戻らない形で表面に堆積することがあります1。

ミラー表面で起きること
レジストから出た分子熱で脱離元に戻るEUV光で分解水吸着炭素の膜表面の酸化キャッピング層の下にMo/Si多層膜
吸着した分子は、熱で離れれば元に戻ります。離れる前にEUV光で分解されると、炭化水素は炭素の膜として残り、水は表面を酸化させます。

発生の手がかりは、EUVの光子1個のエネルギーの大きさにあります。JSRの酸発生機構の検討では、KrF露光は5.0eV、ArF露光は6.5eV、EUV露光は92eV、電子線露光は50keVで、レジストの主な構成原子である水素、酸素、炭素のイオン化エネルギーはいずれも約10eVです4。EUVの光子は、イオン化に必要なエネルギーの約9倍を持っています。KrFとArFでは直接励起が、電子線ではイオン化が主な酸発生機構だと田川らが報告しており、EUVはレジスト構成原子のイオン化エネルギーより大きいため、主な酸発生機構はイオン化だと推測されています。

兵庫県立大学の渡邊健夫氏は、物質によるEUV光の吸収の大きさからこの過程を説明しています。レジストがEUV光を浴びるとハイドロ系のカーボンが生成し、それが反射型マスクや露光光学系ミラーの表面にカーボン系の汚れとして付着し、反射率の低下を通じてスループットを下げる場合があります5。

反射面の掛け算で、1枚の1%が全系で10%近くになる

Section titled “反射面の掛け算で、1枚の1%が全系で10%近くになる”

岡崎信次氏(技術研究組合 超先端電子技術開発機構)は2005年時点の解説で、掛け算の大きさを数字で示しています。1枚の反射面の反射率を70%程度とすると、照明光学系の6枚で照明光学系全体の光の透過率は10%程度となり、マスクと投影光学系まで通ると、照明光学系へ入力した光のうちウェーハ面へ届くのは1%になります6。0.7を6回掛けると約12%で、6枚で10%程度という見積もりに当たります。各反射面での反射率が1%変化しても、全体では10%近い変化になります。

反射のたびに細る光
10070%約12%1%マスクと投影光学系照明光学系の反射面6枚入射ウェーハ面
反射率70%の面を通るたびに光は0.7倍になり、照明光学系の6枚で約12%、マスクと投影光学系を通るとウェーハ面には1%しか届きません。

カーボンが数nm付着するだけでピーク反射率が数%下がり、全系の光透過率も大きく下がる場合があります。残留水分からの酸素も、多層膜の表面を酸化させて反射率を下げます。同じ解説は、残留ガス中のハイドロカーボンの分解によるカーボン汚染と、水分を主な原因とする酸化の2つを、最も注意すべき検討項目としています。

汚染は波長の面にも影響します。多層膜はバンドパス型の反射特性を示すため、反射帯域のマッチングと波長精度の両方に高い精度が求められます。反射率が数%下がる問題と、反射帯域がずれる問題は、別々に確認する必要があります。

測るのは、出た分子と、積もった膜の厚さ

Section titled “測るのは、出た分子と、積もった膜の厚さ”

測るものは、出た分子の種類と量と、それが受け皿へ何nm積もったかの2つです。兵庫県立大学では2001年から、EUVレジストのアウトガスを高感度・高精度で測れる装置5を構築してきました。ASMLの実機と波長と分散が同等になるよう、Mo/Si多層膜ミラーの7回反射系にした点が特徴です。2011年からはEIDECの要請で、実機に近いEUV光パワーでのアウトガス評価とカーボンコンタミの膜厚評価を担い、アンジュレータビームラインBL-9Cに装置を構築しました5。この装置では、実露光機と同等のEUV光照射で各種EUVレジストのアウトガスを四重極質量分析器(QMS)で測ると同時に、発生したガスが付着するwitnessのMo/Si多層膜のコンタミ膜厚をin-situの可視領域の分光エリプソメータで測れます。国内レジスト4社とこの装置を使った開発が進められ、世界標準の装置として位置づけられています。

アウトガスの測り方
真空容器レジスト試料EUV光放出ガス四重極質量分析器分子の種類と量witness Mo/Si多層膜分光エリプソメータ堆積膜の厚さ
同じEUV照射の下で、出てきた分子を四重極質量分析器で分析し、ガスが付着したwitness多層膜の膜厚を分光エリプソメータで同時に測ります。

兵庫県立大学高度産業科学技術研究所のEUVリソグラフィー研究開発センターは、ニュースバルのBL-03をEUVフラッド露光とアウトガス測定の装置としています7。感度を測る系としてBL03へMo/Si多層膜を用いた7回反射系を構築し、アップグレードしながら2024年時点でも感度を測る実験を続けています。

ASETのビームラインでは、多層膜で分光したEUV光を直接レジストに照射し、そこからのアウトガスを直接分析できるよう質量分析装置を設置しており6、EUV光照射による膜厚の変化とアウトガスの分析ができます。検出された成分は、レジストのベースポリマー由来のハイドロカーボンと、感光性物質である酸発生剤由来のガスです。真空中の水分濃度とキャッピング層の材質・酸化の関係を調べた実験では、EUV光の照射条件は強度16mW/mm2、照射時間4時間でした。

NISTは2000年ごろからEUV光学系の汚染を調べてきました。成分の分析では、露光装置の真空中の汚染物を液体窒素温度に冷やしたトラップに集め3、ガスクロマトグラフ質量分析にかけます3。全圧は、スピニングロータゲージと隔膜真空計で測ります。電離真空計や四重極質量分析器と違い、ガスの組成にほとんど左右されずに全圧を直接測れるためです3。2011年の実験では、放射光の13.5 nmの光子を直径約1 mmのビームにして、12 mm×18 mmの試料の複数の場所に当てています8。容器は、汚染ガスを入れる前に10⁻¹⁰ Torrに保ち、内面を金めっきしています8。

4つの対策は、どれも別の負担を伴う

Section titled “4つの対策は、どれも別の負担を伴う”

1つ目は残留ガスの分圧です。光の強度や残留ガスの成分、特にH2Oやハイドロカーボンなどの分圧とカーボン付着の関係、キャッピング層の材質と酸化の関係を詳しく調べる必要があります6。分圧を下げれば付着も酸化も減りますが、排気と部材の管理の負担が増えます。露光装置は、ナノメートル単位の位置合わせと光学系の熱への弱さのため、ベークしてアウトガスを減らすことができません1。レジストを塗ったウェーハへの照射で出るガスは、絶えず続く汚染源です。汚染源にはレジストから出るガスのほかに、真空中の残留ガスと、真空チャンバ内の構造物や配線材料から出るアウトガスもあり、レジストを低アウトガス化しても、別の汚染源から同じ表面に堆積します。

2つ目は水素の導入です。兵庫県立大学のセンターは、70Paまでの水素ガスを導入できるチャンバーをBL09へ構築し、水素ガス雰囲気下でEUV光を照射するとMo/Si多層膜ミラー表面の反射率が回復する挙動を観測しました7。この成果の題には水素による損傷(damage)と清浄化(cleaning)の両方が入っており、水素は積もった炭素を落とす手立てであると同時に、多層膜そのものへの損傷も点検の対象になっています。落とす側を強めれば、下地を痛める側が付いてきます。清浄化は生産性と引き換えに行うものなので、業界には加速試験が要る8とNISTはみています。

3つ目はキャッピング層です。キャッピングレイヤーは、マルチレイヤーの保護のために設けられる表層膜で、汚染防止と酸化防止の効果がある材料が選ばれます9。材質の選択は反射率の初期値と汚染への耐性の間で決まり、キャッピング層で酸化を防げば初期の反射率が少し下がります。

4つ目はレジストの材料設計です。装置側の対策とともに、レジスト側でもアウトガスを抑える開発が進められています2。ただし材料側の余裕は小さいままです。EUV露光では光源で発生したEUV光の利用効率が非常に低いため、10mJ/cm2以下の高感度レジストが強く求められる一方、解像度、LER/LWR、感度はRLSトレードオフと呼ばれる関係にあり、3つの両立が課題として残っています。低アウトガス化は、この3つの両立にもう1つの条件を加えます。

DUVのヘイズも、光学面の近くのガスが固体になる現象

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同様の劣化は、DUV露光でも起きます。ヘイズとは、ArFリソグラフィなどの照射光のエネルギーがフォトマスクの周りのガス状物質の化学反応を引き起こし、その結果マスク上に成長する固体状の異物です9。ガスの発生源はマスク表面周辺のガス状物質で、レジストに限定されていません。

JEITAの平成21年度報告では、製造現場でのHazeは依然として厄介な問題で、ケミカルクリーン技術の進歩を踏まえても根絶には至っていません2。照射された光学面の近くにあるガスが固体になる仕組みは真空中でも大気中でも共通で、対策が洗浄周期とマスク検査に委ねられる点も似ています。

対策の判断基準は、寸法より光量

Section titled “対策の判断基準は、寸法より光量”

判断の基準は、ウェーハ上の寸法よりも光学面へ届く光量の側にあります。1枚の反射面の数%が全系で数十%になるという掛け算の構造があるので、EUV露光装置の稼働率の検討と、レジスト材料の選定が同じ表に載ります。ペリクルやアクチニック検査と同じく、光が通る面の状態をどう保つかという問題です。

レジストアウトガスとは何ですか?

露光中にレジストから真空中に放出される分子と、それが光学系やマスクの表面に膜として堆積するまでの現象を指します。真空中に放出されたガスにEUV光が当たると、ハイドロカーボン系の堆積膜が比較的容易に成長することが知られています。

なぜEUVで特に問題になるのですか?

反射光学系が多数の面の掛け算で成り立っているためです。1枚の反射率を70%程度とすると照明光学系の6枚で透過率は10%程度になり、マスクと投影光学系を通ってウェーハ面へ届くのは入力の1%です。1枚の汚れが全系へ掛かります。

ミラーが少し汚れると、光量はどれだけ落ちますか?

カーボンが数nm付着するとピーク反射率が数%下がり、全系の光透過率も大きく下がる場合があります。2005年時点の解説では、反射面1枚の反射率が1%変わると全体では10%近く変化します。

炭素以外の壊し方もありますか?

酸化があります。吸着した水が分解すると、その酸素が多層膜の表面を酸化させて反射率を下げます。H2Oやハイドロカーボンの分圧とカーボン付着の関係、キャッピング層の材質と酸化の関係を詳しく調べる必要があります。

現場では何を測るのですか?

放出された分子と、堆積した膜の厚さの2つです。ニュースバル放射光施設の装置では、実露光機と同等のEUV光照射で各種EUVレジストのアウトガスを四重極質量分析器(QMS)で測ると同時に、witnessのMo/Si多層膜に付いたコンタミ膜厚をin-situの可視領域の分光エリプソメータで測れます。

積もった炭素は落とせますか?

兵庫県立大学高度産業科学技術研究所のEUVリソグラフィー研究開発センターは、70Paまでの水素ガスを導入できるチャンバーをBL09に構築し、水素ガス雰囲気下でEUV光を照射するとMo/Si多層膜ミラー表面の反射率が回復する挙動を観測しました。この成果の題名には、水素による損傷と清浄化の両方が入っています。

レジスト側で下げれば済みますか?

済みません。汚染源はレジストから出るガス、真空中の残留ガス、真空チャンバ内の構造物や配線材料から出るガスの3つで、レジストはその1つです。装置側とレジスト側の両方から対策する必要があります。

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