投影レンズ収差とは
投影レンズ収差とは、レチクルの1点から出た光が投影レンズを通ったあと、ウェハ上で1点よりも広い範囲へ散り、理想の結像からずれる現象です。 露光装置の投影レンズは組み立て時に収差を補正しても、稼働中の熱や気圧の変化で収差が変わります。そのため、装置を止めずに収差を測り、補正し続ける必要があります。収差は組み立てで決まったあとも、照明条件や運転の履歴で動きます。補正の手段を増やすほど、装置時間と号機ごとの管理が重くなります。
収差は波面のずれで、現場ではゼルニケ項の数列として追う
Section titled “収差は波面のずれで、現場ではゼルニケ項の数列として追う”収差は光学系において理想的な結像からのずれで、光が1点よりも広い範囲へ散る場合に収差があります1。種類は、軸上と倍率の色収差と、単色収差であるザイデルの5収差(球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差)です。
単色収差は主にレンズの形状に起因するため、曲率、厚み、レンズ間隔を調整して設計し、色収差は材料に起因するため、互いに打ち消す材料を組み合わせて補正します2。可視光のカメラレンズや双眼鏡では色収差の補正が主な課題になる一方、露光装置の投影レンズでは回折限界ぎりぎりまでの補正が必要です。ニコンは、投影レンズの補正は要求される光学性能だけでなく、重量や大きさ、光学系の可動域といった使いやすさと作りやすさの制約の中で行う必要があるとしています2。投影レンズは20枚以上のレンズを組み合わせたもので、全長は1メートル以上になります3。
波面とは、光を波とみなしたときの等位相面です4。理想的な結像光学系では、一点から出た光が発散球面波として伝わり、結像光学系で収束球面波に変換されて一点に集まります。実際の光学系では変換が完全ではなく、結像する波面が球面からわずかに歪みます。この理想球面からのずれが波面収差です。
波面収差を式で扱う道具がゼルニケの多項式です。円形の領域で定義される直交多項式で、回折理論に基づいて軸対称な波面収差を解析的に扱えます。光学系に遮光領域(オブスキュレーション)がある場合の波面収差は、Annular Zernikeで解析的に記述できます1。波面収差の計測は、ほかの収差計測と比べて複数種類の収差成分を一度に評価でき、光学系の調整と光学性能の保証に使われます。代表的な方法は、結像する光と基準の光の干渉縞を測って2つの光の位相差を求める方法で、シャック・ハルトマン波面センサーを使う方法もあります4。そのため現場で追う量は、収差の種類の名前よりも、波面のずれをナノメートル単位で並べたゼルニケ項の数列です。装置のログにこの数列が出力され、補正の操作もこの数列に対応しています。
組み立てで詰めた収差も、稼働中の気圧と熱で動く
Section titled “組み立てで詰めた収差も、稼働中の気圧と熱で動く”収差には、作り込みで潰すものと、動かしてから出るものがあります。前者は装置メーカーの工程の話で、後者が現場の仕事です。
キヤノンは、カメラで積み上げた光学の設計・組立・調整の技術と、数ナノメートル精度のレンズ研磨で投影レンズを作っています5。ニコンは、光学部品をそのまま組み立てた状態では高い光学性能の発揮が難しいとし6、波面収差の解析結果から調整量を出して所望の光学性能を得るとしています。測った収差の種類と大きさを見て、光学系の中の部品の位置や向きを合わせ込むとしています。
組み立てた装置も、使ううちに変化します。キヤノンは、露光中に気圧や温度がわずかに変わるだけで収差が生じることがあるとし、それを補正するため、レンズの駆動部に収差を補正できる構造を持たせています。同社は、24時間365日稼働する露光装置では露光の熱と経年変化によってレンズを通った回路パターンがぼけたり歪んだりするとして、レンズの材料から見直して歪みを抑えるレンズを開発しています。
稼働中に生じる収差の形は複雑で、その日の気圧や運転条件に応じて刻々と変わります。ニコンは収差を測ったうえで、レーザー光を反射するミラーの形を複数のアクチュエーターでわずかに変え、レンズの傾きなども調整しながら収差を補正しています。
極端な照明はレンズを偏って温め、フォーカスと寸法をドリフトさせる
Section titled “極端な照明はレンズを偏って温め、フォーカスと寸法をドリフトさせる”パターンの微細化とともに、二重極照明のような極端なオフアクシス照明が用いられるようになりました。このような照明ではレンズが受けるエネルギーが方向ごとに偏り7、スキャナーを動かしているうちにレンズの一部だけが時間をかけて温まって、レンズヒーティング効果が出ます。像のコントラストを上げるために照明条件を極端に絞ると、その分レンズが不均一に加熱されます。NILSを上げる操作が、収差を増やす原因にもなります。
ドリフトは、ゼルニケ項、ベストフォーカス、スルーピッチパターンのCDの3つに表れ、無補正、レチクルを載せて校正した場合、計算で校正した場合の3通りで大きさが比べられています。現場で監視するのはこの3つで、ゼルニケ項の変化は装置のログに、ベストフォーカスの変化はフォーカス露光量マトリクスに、CDの変化はCD-SEMの日々の値に現れます。
レジストプロセスの選び方でも量が変わります。従来のコンタクト層ではダークフィールドマスクが使われ、かなりの光がマスクで吸収されてレンズに届くのは一部でした。ネガ型現像(NTD)ではマスクのポジとネガが反転し、かなりの光がレンズに到達します。そのためNTDではレンズヒーティングの影響が大きくなると予測され、その解決が課題とされています。
補正面はマスク・ソース・瞳・ウェハの4つで、波面を直すのは瞳面
Section titled “補正面はマスク・ソース・瞳・ウェハの4つで、波面を直すのは瞳面”以前はマスク面だけでCDを合わせていましたが、ハードウェアとソフトウェアの進歩により、ソース面、瞳面、ウェハ面からも操作できるようになりました。マスクパターンのほかに、σ、NA、ソースの形、フォーカスレンジ、露光量を調整でき、マスクを作った後でもCDを補正できます。
瞳面の補正は、波面そのものを直します。マスクの3次元構造などで生じる位相誤差を補正できるフレキシブルレンズ素子が開発されており、小領域ごとに屈折率を変えて波面を補正します。3次元マスクによるベストフォーカスシフトに対して最も効果的な光学素子の1つです。3次元マスクの効果を光源マスク最適化とOPCに取り入れてベストフォーカスシフトを補正するとプロセスウィンドウが改善し、この素子で波面を補正するとさらに広がります。
装置間の差にも効きます。ある液浸露光装置を別の号機にCDマッチングさせた例では、σ、NA、フォーカスレンジを調整すると精度は改善するものの仕様値には届かず、光源側の素子を加えると仕様値を達成できるものの精度がパターンごとにばらつきました。ここに波面の補正を加えれば、どのパターンでも同じ精度が得られる可能性があります。この波面補正は、ゼルニケの6番目の項の調整にあたります。装置間マッチングでσやNA、光源側の素子で詰め切れない差に向けた手段が、波面の補正です。
計算の方法も変わりました。露光装置1台ごとの転写特性を取り込んで光源マスク最適化やOPCの補正をかける必要が高まり8、号機ごとの収差も最適化の入力に加えられています。露光装置では、収差や重ね合わせなどで高次の補正ができるようになっています9。
EUVでは、収差の要求が鏡の形の要求になる
Section titled “EUVでは、収差の要求が鏡の形の要求になる”反射光学系では、収差の要求が鏡の形の要求へそのまま置き換わります。ハーフピッチ22ナノメートル用の投影光学系の波面精度の要求は0.3ナノメートルrmsと言われ、6枚の非球面ミラーの形状精度は55ピコメートルrmsです。ハーフピッチ16〜11ナノメートル用では、波面精度が0.2ナノメートルrms、8枚の非球面ミラーの形状精度が35ピコメートルrmsです。多層膜による反射光の位相変化はEUV光と可視光で大きく異なるため、両方の波長での波面測定値の照合が急務とされています。
EUVスキャナーでは光学系の収差が大きく、スリット位置ごとに条件を変える必要があるため、計算リソグラフィの必要性は光リソグラフィと同じく高いとされています。EUV露光装置の課題は低収差・低フレアの光学系の製作で、研磨精度と多層膜の製作が課題に挙がっています9。フレアも収差と同じ光学系の作り込みの課題として並んでいます。収差の計測では、6枚ミラーの光学系を露光波長で測る技術がすでに報告されています。
補正を増やすほど、装置時間と号機専用のレシピが増える
Section titled “補正を増やすほど、装置時間と号機専用のレシピが増える”補正の手段を増やすほど、装置内の可動要素と校正の手間が増えます。レンズヒーティング効果の校正には従来レチクル1枚につき1.5時間の装置時間がかかり、スキャナーは非常に高価なため、装置時間を使わない校正法が強く求められていました。計算による校正ツールでレチクルと装置時間を使わずに校正できるようになり、スキャナーの生産性はロジックで約6パーセント、メモリで約0.7パーセント改善するとされています。補正量を求めるための時間は、装置の稼働時間から差し引かれます。
OPCと光源マスク最適化が装置固有の収差を取り入れた計算に移るほど、そのレシピは特定の号機専用になります。別の号機で同じマスクを使うと、収差の形が違う分だけCDがずれます。これを小さくするには波面の補正まで使うことになり、APCに渡す測定点が増えます。
像のコントラストの要求と収差の要求は、同じ照明条件に対して逆の方向に働きます。極端な二重極照明でNILSを上げるとレンズは不均一に加熱され、緩い照明に戻すと像の傾きが緩くなります。焦点深度とプロセスウィンドウの幅は、この2つのバランスで決まります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”投影レンズ収差とは何ですか?
レチクルの1点から出た光が投影レンズを通ったあと、ウェハ上で1点よりも広い範囲へ散る現象です。収差は、光学系における理想的な結像からのずれです。
どんな種類がありますか?
軸上と倍率の色収差と、単色収差であるザイデルの5収差(球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差)があります。単色収差は主にレンズの形状に起因し、色収差はレンズの材料に起因します。
波面収差とは何ですか?
結像する波面が理想の球面からずれる量です。理想的な結像光学系では発散球面波が収束球面波へ変換されて一点に集光しますが、実際の光学系では変換に取りこぼしが出て波面が球面からわずかにゆがみます。このずれはゼルニケの多項式で解析的に扱え、遮光領域のある光学系ではAnnular Zernikeで記述できます。
現場では何が起きますか?
像がにじみ、ベストフォーカスと寸法がドリフトします。露光時の気圧や温度のわずかな環境変化で収差が発生することがあり、24時間365日稼働する装置では露光の熱や経年変化によって回路パターンにボケやゆがみが発生します。
稼働中に収差が出るのはなぜですか?
光学系が偏って温まるためです。二重極照明のような極端なオフアクシス照明ではレンズが受けるエネルギーが方向ごとに偏り、スキャナーを動かしているうちにレンズの一部だけが時間をかけて温まって、レンズヒーティング効果が出ます。
収差はどこで補正するのですか?
従来はマスク面でCDを制御していましたが、ソース面、瞳面、ウェハ面でも操作できるようになりました。瞳面のフレキシブルレンズ素子は、小領域ごとに屈折率を変えて波面を補正します。σ、NA、フォーカスレンジ、露光量は、マスク製作後でも調整できます。
校正にはどれだけ時間がかかりますか?
レンズヒーティング効果の校正には、レチクル1枚につき1.5時間の装置時間がかかります。計算による校正ツールでレチクルと装置時間を省けると、スキャナーの生産性はロジックで約6パーセント、メモリで約0.7パーセント改善するとされています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- NILS(規格化像ログスロープ)とは── 収差が削る像の傾きを数字にしたもの
- 焦点深度とは── 収差のドリフトがベストフォーカスを動かす先
- 装置間マッチングとは── 号機ごとの収差の形を詰める作業
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- 1SEAJ:半導体製造装置用語集(リソグラフィ)seaj.or.jp ab
- 2ニコン:収差補正(技術紹介)jp.nikon.com ab
- 3ニコン:露光から計測・検査まで 半導体製造における露光装置と計測・検査装置の基礎知識jp.nikon.com ↩
- 4ニコン:波面収差計測(技術紹介)jp.nikon.com ab
- 5キヤノン:半導体露光装置(技術解説)global.canon ↩
- 6ニコン:光学系調整(技術紹介)jp.nikon.com ↩
- 7SEAJ:半導体製造装置技術ロードマップ(リソグラフィ)2012年版seaj.or.jp ↩
- 8JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会:平成20年度報告 第6章 WG5 リソグラフィsemicon.jeita.or.jp ↩
- 9JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会:平成21年度報告(2009年度) 第6章 WG5 リソグラフィsemicon.jeita.or.jp ab