反射屈折系とは
反射屈折系とは、反射ミラーと屈折レンズが混在した光学系です。 ArF液浸露光装置で採用されました。開口数を上げるにはレンズを大きくすればよい、と考えたくなります。しかし口径を広げるほど硝材の量と設計の難しさが膨らみ、屈折レンズだけの構成では支えきれなくなりました。光を曲げる仕事の一部をミラーへ移したのが反射屈折系です。
液浸でNAが1.35に達し、屈折レンズだけでは口径が膨らんだ
Section titled “液浸でNAが1.35に達し、屈折レンズだけでは口径が膨らんだ”液浸露光では、従来の空気(屈折率1.00)の代わりに屈折率が高い純水(1.44)をレンズとウェハの間に満たします1。SEAJの用語集は、水の屈折率を波長193 nmでn=1.436とし、等価波長が134 nmになって解像性が上がるとしています2。
その代わりにレンズ開口数NAは1.35となり、屈折光学系では大口径化によるコスト増と設計困難さが避けられなくなりました。これを克服するため、投影光学系に反射ミラーが一部組み込まれています。
ZEISSのStarlithの光学系は、最後のレンズとウェーハ表面のあいだの空気を液体に置き換える液浸法と、レンズとミラーの系を同時に使います3。Starlith 1700iは、光学系をレンズとミラー(屈折系と反射系)で組んだ最初のZEISSの露光システムで、この光学系は2007年にドイツ産業イノベーション賞を受けています。ZEISSは、2007年のStarlith 1900iを、限界解像度38 nmに届いた最初の液浸光学系としています。
球面ミラーで像を作り、屈折の補正板で残りの収差だけを直す
Section titled “球面ミラーで像を作り、屈折の補正板で残りの収差だけを直す”光学系は、すべて反射ならカトプトリック、すべて屈折ならダイオプトリックと呼び、混成の系をカタディオプトリック4と呼びます。日本語の反射屈折系は、この訳語です。
分業の仕組みは、天体望遠鏡のSchmidtカメラで追えます。球面ミラーの曲率中心に円形の入射開口を置くと、開口を通るどの光束でも主光線は球の中心を通るので、ミラー面に垂直に当たります。像はミラーと曲率中心の中間にある球面の焦点面にでき、残る収差は球面収差だけです。Schmidtは、この球面収差を開口に置いた屈折の補正板で打ち消せること、その補正板が、同じ大きさの円錐曲線ミラーほどにはほかの3次収差を持ち込まないことに気づきました。
反射では、光の曲がり方が波長によらずほぼ揃います。色収差は屈折で生じるずれなので、ミラーの部分では出にくくなります。ミラーは面の形で光を曲げるため、ガラスの厚みを積まずに済み、同じ口径をより軽く作れます。
収差は、色収差とサイデルの5収差をゼルニケ多項式で記述して詰める
Section titled “収差は、色収差とサイデルの5収差をゼルニケ多項式で記述して詰める”収差は、光学系において理想的な結像からのずれです。色収差(軸上および倍率)と、単色収差であるサイデルの5収差があります。サイデルの5収差は、球面収差、コマ収差、非点収差、像面彎曲、歪曲収差です。
ゼルニケの多項式は円形の領域で組み立てられる直交多項式で、光学系において軸対称な波面収差を回折理論に基づいて解析的に扱えます。設計は、この言葉で収差を記述しながら進みます。
波長が短くなるほど透明な材料が減り、13.5 nmでは全部ミラーになる
Section titled “波長が短くなるほど透明な材料が減り、13.5 nmでは全部ミラーになる”F2レーザー(波長157 nm)について、ニコンの計画を示したNikon Precisionの2002年の講演資料は、157 nmで透明かつ実用的な材料はCaF2だけで、光学系は反射屈折系になる5としていました。
極端紫外線は波長13.5 nmの光です。この波長では、ほとんどの材料が光を吸います。そのため、光学系は反射だけで組みます。高NA(0.55)EUV露光のアナモルフィック投影光学系は、スキャン方向の倍率(×8)とスキャンに垂直な方向の倍率(×4)が異なる反射投影光学系です。
屈折から反射屈折へ、そして反射だけへ。波長が短くなるほど使える材料が減り、構成が移っていきます。
ミラーを混ぜた代償は、折り返す光路と瞳の遮光
Section titled “ミラーを混ぜた代償は、折り返す光路と瞳の遮光”ミラーを混ぜると光路が折り返し、鏡筒の中で光が行き来します。そのため鏡筒が長くなり、組み立てと保持の精度が厳しくなります。反射面は遮光領域を作ることがあり、瞳の中で使える範囲が削られます。屈折レンズを併せて使えば設計の自由度は保てるものの、硝材の費用と重さを抱え続けます。ArF液浸の反射屈折系は、ミラーを一部だけ組み込むことで、解像度を上げるNAと、レンズの口径を抑えることの折り合いを付けた構成です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”反射屈折系とは何ですか?
反射ミラーと屈折レンズが混在した光学系で、ArF液浸露光装置で採用されました。すべて反射の光学系をカトプトリック、すべて屈折の光学系をダイオプトリックと呼び、その混成なのでカタディオプトリックと呼びます。
なぜ必要になったのですか?
液浸露光でレンズ開口数NAが1.35となり、屈折光学系では大口径化によるコスト増と設計困難さが避けられなくなったためです。これを克服するため、反射ミラーが一部組み込まれました。
ミラーの利点は何ですか?
反射は波長ごとの曲がり方が揃うため、色収差が出にくくなります。球面ミラーの曲率中心に開口を置く配置では、残る収差が球面収差だけになり、それを屈折の補正板で打ち消せます。
代償は何ですか?
光路が折り返すため、組み立てと保持が難しくなります。反射面が瞳の一部を遮ることもあります。
EUV では全部ミラーですか?
はい。波長13.5 nmのEUVではほとんどの材料が光を吸うため、反射で組みます。高NA(0.55)EUVの投影光学系も、縦横で倍率が異なる反射光学系です。
屈折レンズも併用するのですか?
併用します。反射屈折系はミラーとレンズが混在した光学系で、役割ごとに使い分けます。Nikon Precisionは2002年の資料で、F2レーザーの157 nmで透明かつ実用的な材料はCaF2だけとし、光学系を反射屈折系としていました。
収差とは何ですか?
光学系における理想的な結像からのずれです。色収差とサイデルの5収差があり、設計ではゼルニケ多項式で波面収差を記述します。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 開口数(NA)とは── 膨らませた張本人
- 液浸露光とは── NA1.35を呼んだ手
- 収差とは── ミラーが避ける相手
- アナモルフィック光学系とは── 反射だけで組む先
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- 1ニコン:露光から計測・検査まで 半導体製造における露光装置と計測・検査装置の基礎知識jp.nikon.com ↩
- 2
- 3ZEISS:Lithography optics(技術の歴史)zeiss.com ↩
- 4ロチェスター大学:Astronomy 203/403 Lecture 10 Schmidt camera(1999年10月)pas.rochester.edu ↩
- 5Nikon Precision:IC Industry Lithography Requirements and Nikon’s Plans(2002年2月)nccavs-usergroups.avs.org ↩