TIS(装置起因シフト)とは
TIS(装置起因シフト)とは、重ね合わせ検査装置そのものが持つ非対称性によって、測定値に加わる見かけの位置ずれ成分です。 ウェーハ上で実際に起きたずれとは別に測定装置側で生じるので、同じマークの向きを変えて2回測ると、2つの量を分離できます。
重ね合わせ検査装置の要求精度は数nmですが、装置そのものの非対称性でも2〜3nmの見かけのずれが生じます。ウェーハ側の非対称性と重なるとこの値はウェーハ面内の場所ごとに変わるため、平均値を1つ引くだけでは補正できません。
光軸の傾きが、内外のボックスの中心を同じ向きへずらす
Section titled “光軸の傾きが、内外のボックスの中心を同じ向きへずらす”TISはTool Induced Shiftの略で、装置要因の誤差を意味します1。この語は歴史的に重ね合わせ検査装置について先に使われはじめ、後から露光装置のアライメント誤差についても、同じ範疇の内容へ同じ言葉を当てるようになりました。
光学系の側から見ると、TISは光学系の光軸の傾きに由来し、ずれ量の測定値に混入する誤差成分です2。照明光が基板に斜めに入射したり、対物レンズの左右で光路に差があったりすると、下層の外側ボックスと上層の内側ボックスの見かけの中心が同じ方向に移り、その差がずれ量として出力されます。
0度と180度で二度測り、差の半分がずれ、和の半分がTIS
Section titled “0度と180度で二度測り、差の半分がずれ、和の半分がTIS”計測マークを0度と180度へ回して二回測り、二つの値の差を半分にした量を使うやり方がTIS補正法です1。二つの値を足して半分にした量のほうは、装置の性能を示す数字として各社が仕様へ書き込んでいます。パナソニックの手順も、ノッチを上向きにして基板を180度回した姿勢で同じ測定マークを測り、二つのずれ量の和の半分を、方向を持つベクトル量として算出します。
6nmの許容幅のうち、2〜3nmを装置が占める
Section titled “6nmの許容幅のうち、2〜3nmを装置が占める”重ね合わせ検査装置に要求される精度は、露光そのものより1桁厳しい水準です。キヤノンが2002年に出願した特許によると、アライメントの要求精度は回路パターンの1/3以下と言われ、0.18μmルールの1GビットDRAMでは60nm以下のオーバーレイ精度が必要で、それを測る重ね合わせ検査装置にはその1/10の6nm以下が求められます。同じ特許が挙げるTIS値は数nm、当時の装置仕様では2〜3nmです1。6nmの許容幅のうち2〜3nmを、装置由来の見かけの成分が占めることになります。
ITRS2007年版メトロロジの要求値では、2007年欄のウェーハの重ね合わせ制御13nmに対し、その工程へ返す計測の不確かさがP/T比0.1として1.1nm()です3。ダブルパターニングの欄では、二重露光とエッチングの工程レンジ9.19nmに対して不確かさ0.8nmが並びます。
残ったTISは、露光装置の補正量として返る
Section titled “残ったTISは、露光装置の補正量として返る”残った分は、そのまま露光装置へ渡ります。ニコンは、露光の前にウェーハの歪みを測り、その結果をフィードフォワードして露光の工程で補正する仕組みとして4、Litho BoosterとiAS(inline Alignment Station)を挙げています。オーバーレイ計測の結果は次ロットの露光装置の補正量になるため、TISが残っていると、露光装置は誤った方向へ補正量を振ります。APCのループへ偽の入力を送る形になります。
同一露光装置でのアライメント精度はDedicated Chuck Overlay、異なる露光機間の精度はMatched Machine Overlay5と呼び分けます。二台を比べる作業でも、検査装置のTISが両方へ同じだけ載っていれば差で消えますが、検査装置を替えた瞬間に、その差そのものが測定値へ載ります。
WISと重なると、TISは面内で極座標状にばらつく
Section titled “WISと重なると、TISは面内で極座標状にばらつく”TISがウェーハ面内で一様なら、平均値を1つ引けば補正できます。この一様性を崩すのが、ウェーハ側の非対称性です。ウェーハ側のプロセスに起因する誤差であるWIS(Wafer Induced Shift)があるウェーハでは、わずかなTISとの相互作用、いわゆるTIS-WIS Interactionが大きな計測誤差を生みます1。例えば、メタルCMPなどの平坦化の後で重ね合わせ検査マークの断面が左右非対称になり、検出精度が下がる場合です。
メタルCMPやPVDを通す工程では、ショットごとのTIS値をウェーハの面内でマップにすると、極座標的なばらつきの分布になります。原因は、これらの工程のプロセス誤差そのものが極座標的に出ることです。ショット間でのこのばらつきは、TIS Variabilityと呼ばれます。パナソニックの特許は、TIS値が基板面内でばらつく要因を、層間絶縁膜やフォトレジストなどの基板面内の膜厚ばらつきによるところが大きいとしています。
ターゲットの側も変わっています。平坦化に使うCMPがターゲットの構造を痛めており、重ね合わせをより厳しく抑えたいという要求へ応えるため、配線のアライメントターゲットではラインの縁をぎざぎざの形へ変えています3。ITRS2007年版は、多孔質のLow-k材が製造へ入ってくると重ね合わせをさらに難しくする、とも述べています。
焦点・波長・演算・マーク形状で、TISが動く
Section titled “焦点・波長・演算・マーク形状で、TISが動く”第一の条件は、測定マークに合わせる光学顕微鏡の焦点位置です。従来の手法では焦点位置を段階的に変えて基板面内のTIS平均値を計算し、それが最小になる焦点位置を最適としてきました。パナソニックの特許は、X軸とY軸の面内TIS平均値の二乗和平均平方根が最小になる焦点位置と、繰り返し測定再現性の二乗和平均平方根が最小になる焦点位置がずれるという実測を示し、単一の指標だけで重ね合わせ測定精度を上げることは難しいとしています2。そこで焦点位置決定値を「」と定め、これが最小になる焦点位置を選びます。相関係数は、走査型電子顕微鏡で測長した層間の位置ずれとの相関で、CD-SEMを基準として使います。面内TISのは基板上20箇所以上の測定マークから計算し、規格値は装置自体の実力値の70%以下、具体例として2.8nm以下に設定して、その範囲内で最小のものを選びます。
第二は、照明の波長と検出のしかたです。波長、の光源を切り替えて計測し、残差成分が最小になる波長を次回以降へ選ぶ方法があります1。輪帯形状のアパーチャを使う暗視野検出と、垂直落射照明による明視野検出のどちらを使うかも、パラメータです。波長を替えると、その層の膜厚での干渉条件も一緒に動きます。波長は層ごとに選び直す作業になります。
第三は、像から中点を求める演算の条件です。光電変換信号にスライスレベルを設け、信号との交点から2つのマーク像の中点を求める方式では、スライスレベルを段階的に変えたときの残差成分が、露光装置のステージ精度の倍という基準値以下になるものを候補として記憶し、その中で最小のものを次回以降の検査に使います。対称性マッチング法を使う場合は、演算ウインドウの位置と幅が同じ役割を持ちます。
第四は、マークの形状です。Box in Box型とBox in Bar型があり、線幅の異なるマークを複数用意して、残差成分が最小になる線幅を選ぶ方法があります。マークの断面形状もパラメータです。フォトマスクで線幅を決め直す必要があるため、変更は次のマスクのリビジョンまで待つことになります。
補正するほど、時間と更新頻度と自由度とレシピ数を払う
Section titled “補正するほど、時間と更新頻度と自由度とレシピ数を払う”第一の代償は、測定の時間です。0度と180度で同じ点を二度測るので、測定点あたりの時間が二倍になります。全点で二度測る運用は、サンプリングの点数を削るか、スループットを削るかの二択になります。
第二は、補正値の更新頻度です。パナソニックの特許の運用では、あるデバイス品種を初めてラインに流す前に最適焦点位置と面内TIS平均値を決め、そのデバイスの決まった2つのフォトマスク層の間の重ね合わせ測定では、以後その値を使い続けます。同じ値を使い続ければ測定は1回で済みますが、ウェーハ側の非対称性が変わると補正量が許容範囲を超えます。
第三は、規格を厳しくしたときの自由度です。TISのの規格値を実力値の70%へ絞ると、規格を満たす焦点位置の範囲そのものが狭くなります。緩めれば選べる焦点位置は広がり、そのぶん面内のが大きいまま測定値へ載ります。
第四は、レシピの数です。最適なパラメータは層ごと、マークごとに動くため、版が増えます。複数台の検査装置を使う量産では、台ごとにTIS値が異なるため、装置マッチングの作業がここへ重なります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”TIS(装置起因シフト)とは何ですか?
重ね合わせ検査装置そのものの非対称さが測定値へ載せてしまう、偽の位置ずれ成分です。TISはTool Induced Shiftの略で、装置要因の誤差を意味します。
なぜウェーハを180度回して測るのですか?
装置由来の偏りとウェーハ上の本当のずれで、向きを変えたときのふるまいが逆になるためです。計測マークを0度と180度で二回計測し、二つの計測値の差の半分を補正後の値、和の半分をTIS値とします。
TISの値はどれくらいですか?
キヤノンが2002年に出願した特許によると、当時市販されていた重ね合わせ検査装置の仕様では、TIS値は2〜3nmでした。
WISとは何が異なりますか?
誤差の原因が違います。WIS(Wafer Induced Shift)はウェーハ側のプロセスに起因する誤差で、例えばメタルCMPなどの平坦化で重ね合わせ検査マークの断面が左右非対称になる場合です。TISは装置側、WISはウェーハ側の誤差です。
TIS補正をすると装置由来の誤差はどこまで落ちますか?
面内で一様な分は落ちます。WISが乗ったウェーハではわずかなTISとの掛け合わせが大きな計測誤差になり、メタルCMPやPVDを使う工程ではショットごとのTIS値を面内でマップにすると極座標的なばらつきの分布になります。
TISは何を調整すると変わりますか?
測定マークへ合わせる光学顕微鏡の焦点位置、光源の波長と照明条件、像から中点を求める演算のスライスレベルとウインドウ、マークの線幅と形です。
TIS補正の欠点は何ですか?
測定時間が増えます。0度と180度で同じ点を2回測るため、測定点あたりの時間が2倍になります。品種を初めて流す前に最適焦点位置と面内TIS平均値を決めて同じ値を使い続ける運用なら1回の測定で済みますが、ウェーハ側の非対称性が変わると補正量が許容範囲を超えます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- TMU(総合測定不確かさ)とは── 向きを変えれば分離できる偏りに対し、TMUはそれも含めた測定の総額
- オーバーレイ計測とは── TISが載る測定そのもの
5件を表示
- 1
- 2パナソニック:公開特許公報 JP2009270988A(2008年出願)patents.google.com ab
- 3JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会:ITRS2007年版 メトロロジ 日本語版semicon.jeita.or.jp ab
- 4ニコン:露光から計測・検査まで 半導体製造における露光装置と計測・検査装置の基礎知識jp.nikon.com ↩
- 5SEAJ:半導体製造装置用語集(リソグラフィ)seaj.or.jp ↩