精度・再現性・マッチングとは
精度・再現性・マッチングとは、測定のずれを、真の値からの平均のずれ、同じ場所を測り直したときの散らばり、装置と装置の中心の差という3つの量へ切り分ける区分です。 3つは別々の原因から生まれ、別々の作業で詰まります。原因が違うため、1つの指標だけでは対策を決められません。
かたより、ばらつき、機差は別々のずれを指す
Section titled “かたより、ばらつき、機差は別々のずれを指す”かたよりは1、測定を何度も繰り返して得た測定値の平均から真の値を引いたものです。ばらつきは、測定値の大きさが不揃いであること、またはその不揃いの程度で、大きさは通常、標準偏差で表します。ばらつきが小さいとき、測定は精密であると言います2。測定値にばらつきの大きさを添えて報告すれば、その幅の内側に、測ろうとしている量の真の値が入っていると考えられます。
3つ目の量が機差です。機差は、同じレシピと同じ試料に対して装置Aと装置Bが返す測定値の中心の差を指す現場語です。日立製作所は、測長SEMには安定したデータの計測と、異なる装置間の機差を極力減らすことが要求されているとしています3。量産の増加に伴って1台の納入から多数台の納入へ移り、ものさしがばらついていると安定した測定結果が遠のく、というのが同社の見方です。
不確かさという言い方も、同じ範囲を受け持ちます。誤差や精度という概念は技術分野や国によってばらばらに使われていたため、国際度量衡委員会の主導で表現方法の統一が進み、1993年にGUMが出版されました4。GUMは、標準偏差の計算という通常の統計解析で求める成分と、データ以外のさまざまな情報から標準偏差に相当する大きさを推定する成分の2つを合成して、全体としての不確かさを求めます。
機差0.1 nmは、寸法の10%のさらに10%から来る
Section titled “機差0.1 nmは、寸法の10%のさらに10%から来る”顧客が作る回路パターンのサイズが10 nmや20 nmのとき、ターゲット寸法の10%までを製造ばらつきとして許容するのが一般的です。製造ばらつきが1 nmから2 nmまで許される場合に測長SEMの誤差が1 nmあると、その製造ばらつきを測る余裕がなくなります。製造ばらつきに対して機差を10%まで認めると、機差は0.1 nmのオーダーまで抑える必要があります。日立製作所は、装置Aと装置Bの機差を0.1 nm以内に収めてほしいという要求を受けています。
日立製作所は、電子ビームを絞るレンズに相当する材料の開発を進めたうえで、機差を測るための基準を用意し、そこでビーム形状を測って、装置ごとの形状差をソフトウェアで揃えるデジタル補正を組み合わせました。2019年に製品化した第2世代の測長SEM CG7300は、これにより機差0.1 nmに到達し、従来機種より10%向上しました。
再現性は繰り返し、かたよりは標準、マッチングは複数台で測る
Section titled “再現性は繰り返し、かたよりは標準、マッチングは複数台で測る”再現性は、同じ場所を繰り返し測って標準偏差を取れば数字になります。日立ハイテクノロジーズの2006年時点の公表値では、45 nmプロセスノードに対応したCD-SEMのS-9380IIは、最高分解能2 nm(加速電圧800 V)、測長再現性0.6 nm(3σ)です5。
かたよりは、値が分かっている標準と比べることで数値になります。平均としてのずれを知るために行うのが校正で6、校正では、より確からしい値を持つ上位の標準と比べて、下位の標準や測定値がそこからどれだけ離れているかを測ります。このずれを補正すれば、かたよりを除いた測定になります。この連鎖の全体像がトレーサビリティです。
寸法以外の測定にも同じ仕組みがあります。ナプソンの四探針法による測定システムは、JISとASTMの規格に沿った測定方法と補正方法を採用し、NIST規格に準拠した標準サンプルを装置校正の基準として出荷前検査を行っています7。準拠する規格には、シリコン単結晶及びシリコンウェーハの4探針法による抵抗率測定方法であるJIS H 0602-1995があります。
マッチングは、同じウェーハを複数台へ流して中心の差を取れば数字になります。合わせ込みの手順と周期は装置マッチングが扱います。
再現性の値には、試料のラフネスも入る
Section titled “再現性の値には、試料のラフネスも入る”計測器の中だけで再現性を評価すると、現場の値と食い違います。日立ハイテクノロジーズは2006年時点で、線パターンの長さ方向の揺らぎであるLERが計測再現性を下げる原因になっており、LERの影響を除いた計測への要求も大きくなっているとしています。ArFレジストでの実際のLWRは3 nmから6 nmで、通常のCD計測再現性より約1桁大きいため、プロセスの安定性をモニタする目的の計測などでは合否判定を誤る原因になります。
管理図の上で動いた点の一部は、装置の側でなく試料の側から来ます。この切り分けを飛ばすと、SPCの警報が装置の再調整へ人を向かわせ、レジストのラフネスという実際の原因を取りこぼします。
平均する範囲、校正の周期、管理値に含める成分で数字が動く
Section titled “平均する範囲、校正の周期、管理値に含める成分で数字が動く”1つ目の条件は、平均する範囲です。日立ハイテクノロジーズのS-9380IIに搭載されたACD(Averaged CD、平均化CD)機能は、視野を数μmまで広げて取り込んだ画像から複数本のパターンの測定値を平均し、LER由来の誤差を減らします。2006年時点の公表値では、従来の計測法で0.4 nmあった測長値のばらつきが0.2 nmに下がりました。同社は、範囲を広げると低倍率で画像を取り込むためレジストへの電子線ダメージも減り、高再現性、高スループット、低ダメージの測定になるとしています。範囲を狭めると、1本のパターンの長さ方向の形状がそのまま値に反映されます。日立ハイテクノロジーズのLER計測は、対象パターンを長さ方向に多点に分けて1点ずつCDを測り、その並びを統計処理して、長さ方向のCDばらつきの分布と周波数、平均寸法を求める機能です。ラフネスそのものを測りたいときは、こちらを使います。
2つ目の条件は、校正と合わせ込みの周期です。IAJapanのトレーサビリティ方針では、校正は適切な間隔で繰り返すもので、その間隔は、要求される不確かさ、使用頻度、使用方法、装置の安定性など多くの要因で決まります。周期を短くすると、かたよりと機差は小さくなりますが、標準試料の測定と調整に装置の時間が取られます。周期を長くすると、生産に使える時間は増えますが、ずれが蓄積した状態で流れるロットが増えます。
3つ目の条件は、どの成分まで管理値に含めるかです。同じ点を続けて測り直したときのばらつきだけを管理値にすると、値は小さくなります。ロードとアンロードを挟む、日をまたぐ、といった条件を加えるほど値は大きくなりますが、生産で実際に生じるばらつきに近づきます。不確かさの合成には、統計解析で求める成分と、データ以外の情報から推定する成分の両方が含まれ、前者だけで評価した値は、繰り返しで変わる分だけを表します。
この3つを詰めた先で、計測の幅はCD均一性バジェットや工程能力指数の分母へ入り、均一性へ配れる余裕を左右します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”精度・再現性・マッチングとは何ですか?
測定のずれを3つの量へ切り分ける区分です。真の値からの平均のずれがかたより、同じ場所を測り直したときの散らばりが再現性、装置と装置の中心の差がマッチングです。前の2つは、かたよりとばらつきという言葉でも区別します。
精度と再現性はどこが異なりますか?
指す先が異なります。かたよりは、繰り返し測った測定値の平均から真の値を差し引いた分で、ばらつきは、測定値の大きさが不揃いであること、またはその不揃いの程度です。ばらつきが小さいとき、測定は精密であると言います。
再現性の値には、試料側のばらつきも含まれますか?
入ります。日立ハイテクノロジーズは2006年時点で、線パターンの長さ方向の揺らぎであるLERが計測再現性を下げる原因になっているとし、ArFレジストでの実際のLWRは3 nmから6 nmで、通常のCD計測再現性より約1桁大きいとしています。
マッチングにはどれくらいの厳しさが要求されますか?
測長SEMでは、装置Aと装置Bの機差を0.1 nm以内に収めてほしいという要求を日立製作所が受けています。回路パターンが10 nmから20 nmのとき、ターゲット寸法の10%までを製造ばらつきとして許容するのが一般的で、その製造ばらつきに対して機差を10%まで認めると0.1 nmのオーダーになります。
3つはそれぞれ何を測れば数字になりますか?
再現性は同じ場所を繰り返し測った標準偏差、かたよりは値が分かった標準との比較、マッチングは同じウェーハを複数台へ流したときの中心の差です。平均としてのずれをつかむために行うのが校正で、より確からしい値を持つ上位の標準を当てて、下位の標準や測定値のずれを測ります。
平均する範囲を広げると何が動きますか?
視野を数μmまで広げて複数本のパターンの測定値を平均するACD機能により、2006年時点の日立ハイテクノロジーズの公表値では、従来の計測法で0.4 nmあった測長値のばらつきが0.2 nmに下がりました。低倍率で画像を取り込むためレジストへの電子線ダメージも減り、高再現性、高スループット、低ダメージの測定になります。
校正の周期は何に依存しますか?
IAJapanのトレーサビリティ方針では、校正は適切な間隔で繰り返すもので、その間隔は、要求される不確かさ、使用頻度、使用方法、装置の安定性など多くの要因で決まります。周期を短くするほど、標準試料の測定と調整に装置の時間が取られます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 装置マッチングとは── 3つのうちマッチングを扱い、合わせ込みの手順と周期を説明するページ
- トレーサビリティとは── かたよりを国家標準までさかのぼって示す仕組み
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- 1ミツトヨ:品質管理の基礎知識(日本規格協会 JISハンドブック品質管理を参考)mitutoyo.co.jp ↩
- 2産業技術総合研究所 データサイエンス研究グループ:不確かさFAQ 不確かさってなに?unit.aist.go.jp ↩
- 3日立製作所:世界トップシェアの測長SEMで最先端半導体の開発を下支えしつつ、さらなる究極の高精度化の実現をめざす。rd.hitachi.co.jp ↩
- 4産業技術総合研究所 計量標準総合センター:計量標準とはunit.aist.go.jp ↩
- 5日立評論:設計データを活用したCD-SEMの新しい世界(2006年3月)hitachihyoron.com ↩
- 6産業技術総合研究所 データサイエンス研究グループ:不確かさFAQ トレーサビリティってなに?unit.aist.go.jp ↩
- 7ナプソン:【技術解説】抵抗率、シート抵抗測定の原理napson.co.jp ↩