参照計測とは
参照計測とは、量産用の計測装置とは別に、はるかに正確で安定した計測系を用意し、その値を基準にして現場の装置を校正し、装置間の差を追跡し続ける仕組みです。 現場の測長SEMが数分で返す値の根拠は、この参照計測にあります。
量産ラインの計測装置は速く測れますが、ゴールデンウェーハとの比較だけでは測定値の正確さは分かりません。
量産機より桁違いに正確で安定した装置を、基準に据える
Section titled “量産機より桁違いに正確で安定した装置を、基準に据える”ITRS 2007年版のメトロロジの章では、参照計測を基準計測システム(RMS)と呼びます。RMSは、1つの機器か、さまざまな寸法測定の側面でそれぞれの性能を補い合う一組の機器です1。応用物理、厳密な統計、測定誤差の適切な扱いといった寸法計測の最良の科学技術に基づいて十分に検証されており、そのため生産工場の他の装置よりおそらく桁違いに正確で精度が高くなります。
RMSには安定性も求められます。他の測定システムと比較できるだけの安定性があってはじめて、工場の計測装置間の測定の差を追跡し、生産用計測器の性能とマッチングを日々管理する役に立ちます。
ゴールデンウェーハとの比較では、正確さも装置間のバイアスも分からない
Section titled “ゴールデンウェーハとの比較では、正確さも装置間のバイアスも分からない”参照計測がないラインのCD計測は、各プロセスから特別に選別したゴールデンウェーハを標準試料として使い、それと製造プロセスを通ったウェーハとの比較測定で、製造プロセスの再現精度を確保しています2。確保できるのは再現精度までで、計測値の正確さも、製造プロセス間と計測装置間のバイアスも評価できません。微細化が進むにつれて、このバイアスによる計測不確かさは歩留りに影響するほど大きくなり、工場間や企業間での計測結果の差として現れます。
100ナノメートルの目盛は、国家標準のメートルから鎖をつないで保証された
Section titled “100ナノメートルの目盛は、国家標準のメートルから鎖をつないで保証された”2000年代に入ると、従来の240ナノメートル間隔の目盛では微細化に追いつけなくなり、日立製作所と日立ハイテクノロジーズが100ナノメートル間隔の目盛を刻んだ標準マイクロスケールを開発しました3。当時、その目盛が本当に100ナノメートルであることを国際的に保証する装置は空白のままでした。従来の校正に使っていた波長325ナノメートルのヘリウムカドミウムレーザーでは、波長が長すぎたためです。回折光は光の波長の2分の1以上の長さがあれば作れるので、100ナノメートルの目盛には200ナノメートルより短い波長が要ります。
そこでNMIJが2002年から、国際単位系のメートルを出発点にして100ナノメートル間隔を厳密に測る校正装置の開発に入り、2006年に深紫外レーザー回折式ピッチ校正装置を完成させました。この装置は、波長193ナノメートルの深紫外パルスレーザーを標準マイクロスケールへ当て、その波長と回折角から目盛間隔を求めます。
波長の側は、真空波長が国家標準によって11桁まで分かっているよう素安定化ヘリウムネオンレーザーを起点にしました。そこから8桁まで値付けされた実用波長安定化ヘリウムネオンレーザーと比較し、5桁まで値付けする波長計を自作して鎖を延ばしています。角度の側は、角度エンコーダーを国家標準の角度校正装置で校正しました。この2本立てで、100ナノメートルを原子1個分より小さい0.04ナノメートルの不確かさで測れるところまで届きました。
この技術は日本品質保証機構に移管され、同機構は計量法に基づく校正事業者登録制度、いわゆるJCSSの認定を受けて校正サービスを始めました。JCSSは計量法トレーサビリティ制度の略称で、そのうち校正事業者登録制度を製品評価技術基盤機構の認定センターが運営しています4。校正証明書付きの標準マイクロスケールは2007年12月から測長SEMに搭載されて販売が始まり、2013年12月の取材時点の数字で、2012年には年間200台以上の測長SEMに搭載されました。
寸法そのものの校正サービスもあります。NMIJは2015年から線幅の校正サービスを始めており、校正範囲は30ナノメートルから0.5マイクロメートル、校正値の拡張不確かさは包含係数2で13ナノメートル、使う装置は傾斜探針AFMです。2020年度までに校正範囲を最小10ナノメートルまで広げる計画があり、10ナノメートルの線幅を校正するには現在の不確かさが大きすぎることが課題に挙げられています。
参照計測は、中心の装置、標準試料、設置場所の3つを選ぶ
Section titled “参照計測は、中心の装置、標準試料、設置場所の3つを選ぶ”1つ目は、参照計測の中心に何を使うかです。絶対寸法計測にはAFMが最も適しているとされます。三次元で高分解能であることと、実体観察法で、長さの国家標準まで校正の連鎖をたどりやすいことが理由です。一方で、AFMは原理上、探針が試料表面に垂直に近づくため、開き角を持つ先端が垂直な側壁の手前で止まり、測定結果に探針形状が含まれます。TEMは破壊計測ですが、非常に小さな不確かさで線幅を測れるため、AFMと相補的に使う方法も示されています。実際、NMIJが使う線幅標準試料は、走査透過電子顕微鏡でシリコンの原子間隔を数える手法により、1ナノメートル以下の拡張不確かさで校正されています。非破壊の方法では探針形状が値に含まれ、確からしさを優先すると試料を壊すことになります。
2つ目は、標準試料の入手先です。ITRS 2007年版のメトロロジの章によると、最適な標準試料は生産プロセスから出てくる製品で、計測の正確さに影響しうる微妙で重要なプロセスばらつきを含むためです。市販の一次標準試料を使えば供給は安定しますが、使う側の生産プロセスと異なる部分が多く、必要なプロセスばらつきを含まないため、適用範囲が限られることが多いとされています。自社のウェーハを使えば代表性は上がりますが、値付けの手間で参照側の装置時間が取られます。
3つ目は、参照計測装置の設置場所です。ITRS 2007年版のメトロロジの章によると、RMSは工場のクリーンな環境の中に設置する必要があります。そこで測ったウェーハをプロセスに戻せるようにするためです。工場の中に設置すれば装置間の差を日々追跡できますが、要求される性能と信頼性を保つため、RMSは工場の他の装置より格段に高度な注意、精査、テストを必要とします。外部の校正事業者に出せば手間は減りますが、その間ウェーハは工程から離れます。
校正用の標準試料は、プロセスばらつきの4分の1より正確にする
Section titled “校正用の標準試料は、プロセスばらつきの4分の1より正確にする”ITRS 2007年版のメトロロジの章によると、半導体製造プロセスの測定と制御に使う装置を校正するときは、校正用の標準試料の認証値の不確かさが、生産プロセスのばらつきの4分の1より小さい必要があります。ドーパントプロファイルのように正確な測定が必要な用途では、標準試料の認証値の正確さが、バイアスとばらつきの両方を含めて、要求される最終的な正確さの4分の1より良い必要があります。標準試料の場所や時間による特性値の変動も、目標とする校正の不確かさより十分小さくする必要があります。
導入した後も、正確さの見積もり、速さ、人の条件が残る
Section titled “導入した後も、正確さの見積もり、速さ、人の条件が残る”第一に、正確さは標準試料だけでは見積もれません。ITRS 2007年版のメトロロジの章によると、バイアスが試料に依存するため、標準試料や標準物質から正確さを正しく見積もることはできず、標準試料は対象の製品やプロセスとは別のものです。残った差は計測の相関取りで扱います。ITRSの同じ章も、スキャトロメトリの計測用の構造で得たCDと回路内のパターンのCDとの相関を取る必要を挙げています。
第二に、参照計測が担えるのは校正と追跡までです。NEDOの実用化ドキュメントによると、最初に開発されたレーザー干渉計を組み込んだ原子間力顕微鏡による標準マイクロスケールの校正は年間5個程度で、計測条件の最適化に約1カ月、温度が安定するまで1日以上かかりました。後継の深紫外レーザー回折式ピッチ校正装置でも1日に5個です。返す値の性質も2台で異なります。原子間力顕微鏡は装置分解能が0.04ナノメートルで、どの目盛間隔の標準マイクロスケールでも校正できますが、1回に測れる領域が狭いため、狭い領域ごとの値を返します。深紫外レーザー回折式ピッチ校正装置は、レーザーの当たった領域の平均を計測値として返します。日々流れるロットを直接測る役割は、装置マッチングと量産機が担います。
第三に、人にも条件があります。ITRS 2007年版のメトロロジの章によると、測定に携わるプロセスエンジニアには、標準試料の扱い方と得られた値の判断について、十分な教育と訓練が必要です。新しい世代の立ち上げ、特に材料開発の段階やプロセス装置の開発初期には、適切な標準試料が使える状態にあることも条件に挙げられています。
測定器が校正の連鎖によって国家標準を基準に校正されたと確かめられる状態を、計量トレーサビリティ5と呼びます。認定された校正機関を使えば、途中の連鎖をたどる手間を省いたままこれを確保できます。参照計測は、その連鎖の末端を工場の中まで引き込むための仕掛けにあたります。OCDや測長SEMが返す数値は速く、トレーサビリティを担う側は遅く、計測の全体はこの2つの組み合わせで立っています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”参照計測とは何ですか?
量産用の計測装置とは別に、桁違いに正確で安定した計測系を用意し、その値を基準にして現場の装置へ目盛を与え、装置間の差を追い続ける仕組みです。ITRS 2007年版のメトロロジの章の和訳では、基準計測システム、いわゆるRMSという名前で出てきます。
1台の装置を指すのですか?
1台の場合も、複数台の場合もあります。RMSは1つの機器か、さまざまな寸法測定の側面でそれぞれの性能を補い合う一組の機器です。
量産の測長SEMの校正で足りる範囲はどこまでですか?
製造プロセスの再現精度までです。選別したゴールデンウェーハとの比較測定で確保できるのは再現精度で、計測値の正確さや、プロセス間と装置間のバイアスは評価できません。
参照計測はどこへ据えるのですか?
工場のクリーンな環境の中です。半導体プロセスの性質上、そこで測ったウェーハをプロセスストリームへ復帰させられる場所にする必要があります。
どのくらい遅いのですか?
NMIJが最初に開発したレーザー干渉計を組み込んだ原子間力顕微鏡では、標準マイクロスケールの校正が年間に5個程度でした。後に開発された深紫外レーザー回折式ピッチ校正装置で、1日に5個まで上がっています。
標準試料はどのくらい正確ならよいのですか?
半導体製造プロセスの測定と制御に使う装置を校正するときは、校正用の標準試料の認証値の不確かさが、生産プロセスのばらつきの4分の1より小さい必要があります。
参照計測を構えれば値は正しくなりますか?
バイアスが試料に依存するため、標準試料から正確さを正しく見積もることはできません。また、一次標準試料は使う側の生産プロセスと異なる部分が多く、必要なプロセスばらつきを含みません。残った差は、計測の相関取りで扱います。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 計測の相関取りとは── 参照計測の値をもとに、装置ごとの測定値を換算する作業
- トレーサビリティとは── 参照計測が工場の中に取り込む、校正の連鎖
- 装置マッチングとは── 参照計測で追跡した差を、装置側で小さくする作業
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- 1JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会:ITRS 2007年版 メトロロジ 和訳semicon.jeita.or.jp ↩
- 2産業技術総合研究所 計量標準総合センター:三次元ナノ構造の寸法・形状計測技術に関する調査研究unit.aist.go.jp ↩
- 3NEDO:実用化ドキュメント 原子1個分の誤差を保証 世界最小のものさしを実現webmagazine.nedo.go.jp ↩
- 4
- 5産業技術総合研究所 計量標準総合センター:計量標準とはunit.aist.go.jp ↩