WdCハードマスクの歴史メモリの深穴から配線工程へ
WdC(タングステンドープドカーボン)とは、非晶質の炭素膜にWを混ぜたハードマスクを指す。この膜は、メモリの深い穴を掘るために生まれ、後から配線工程へ広がった。2014〜2015年にApplied MaterialsとLam Researchが成膜特許を出した時の主な狙いは、3D NANDやDRAMで炭素マスクが削れ負けすることだった。Appliedの特許は、圧縮応力による線の曲がりも課題に挙げていた。2017〜2018年には、配線工程を用途に挙げた特許、銅やコバルトの配線を露出したまま除去する薬液、TSMCの配線構造の特許が出そろう。
順番には理由がある。メモリの深穴では、マスクの耐性不足が歩留まりに直結した。ロジックの配線では膜応力による線のウィグリングが主な問題になり、WdCの出番はピッチが詰まった世代からになる。TiNとの材料比較はTiNマスクのウィグリングとWdC、成膜装置の供給元はWdC成膜装置の供給元にまとめた。
始まりは、炭素マスクが深穴加工に耐えなくなったこと
Section titled “始まりは、炭素マスクが深穴加工に耐えなくなったこと”3D NANDは、酸化膜と窒化膜を何十層も重ねた積層に、上から下まで1本の穴(チャネルホール)を掘る。Lamの除去特許1が挙げる例では、直径約100nmの穴を厚さ4µmの積層に掘るのに、1.5〜2µmのマスクを使う。DRAMのキャパシタも、直径20〜30nmで縦横比50〜60の穴を、厚さ1〜1.5µmのマスクで掘る。
従来のマスクは非晶質の炭素膜だった。韓国の装置メーカーTESの2016年の出願は2、その対酸化膜の選択比を3〜4:1と書く。穴を4µm掘る間にマスクも1µm以上削れる計算で、マスクを厚くするしかない。厚くすると穴全体がさらに深くなり、底までエッチングの反応種が届きにくくなる。
Appliedの2014年優先日の特許は3、この悪循環を金属添加で断つ提案だ。縦横比10〜75の深いコンタクトではマスクが積層全体の10〜40%を占めるとし、炭素膜にWを入れると選択比が40〜80%上がり、マスクを同じ割合だけ薄くできると書く。同じ特許は、20nm以下の細い構造で圧縮応力が線を曲げたり切ったりする問題も挙げていた。応力の問題は、最初から耐性と並ぶ課題だった。Lamの2015年の出願も4、3Dメモリ向けに高い選択比を求めて炭素膜を金属で緻密にする狙いを掲げた。
2016〜2018年に、密着・粗さ・除去の課題が一つずつ解かれた
Section titled “2016〜2018年に、密着・粗さ・除去の課題が一つずつ解かれた”Wを入れた炭素膜は、作ってすぐ使えたわけではない。量産に向くW原料のWF₆はフッ素を含み、下地との界面に残ったフッ素で膜がはがれる。Wの結晶粒が育つと表面が粗れ、その凹凸が穴の寸法ばらつきになる。さらに酸素プラズマでは除去できない。2016〜2018年の特許は、この3つを順に解いている。
| 優先日 | 出願人 | 解いた課題 |
|---|---|---|
| 2016年1月 | Applied5 | ホウ素の下地層でWF₆膜のはがれを防ぐ。粗さはW(CO)₆原料の約半分 |
| 2017年2月 | Applied6 | W・B・Cの3元系で結晶粒と粗さを抑え、除去しやすく |
| 2017年6月 | Lam1 | 酸素に塩素を足した高温プラズマで除去、対酸化膜1000:1 |
| 2017年11月 | Lam7 | 下地の窒化と薄い炭素層で界面を作る。用途にDRAM・縦型NAND・配線工程 |
| 2018年8月 | Lam Research AG8 | 過酸化水素と防食剤で、銅・コバルトを残してWdCを溶かす |
除去特許の実験では、Wを33%と63%含む膜をどちらも毎分約95nmで除去した。塩素を入れない酸素プラズマでは除去速度は0で、Wを抜くには塩素が欠かせない。
2017〜2018年、WdCは配線工程へ広がった
Section titled “2017〜2018年、WdCは配線工程へ広がった”2017年11月のLamの界面特許は、用途にDRAMと縦型NANDに並べて配線工程を挙げた。2018年には、Lamのグループ会社が湿式除去の薬液特許8を出し、W 50 at%のWdCを毎分75〜133Åで溶かしながら、銅を毎分0.3〜0.6Å、コバルトを0Åに抑える処方を示した。メモリの深穴加工では、銅やコバルトの配線が露出する場面は少ない。露出した配線金属を守る処方を作ったことから、本稿はWdCを配線工程で使う開発がこの時期に進んでいたと見る。
同じ年、TSMCも配線構造の特許9(2018年9月優先日、2021年登録)でWdCを名指しした。この特許は、銅を溝に埋める従来のダマシンとは逆に、Mo・W・Ruの金属膜をハードマスクで直接エッチングして配線にする。マスクの材料として請求項6と16がTiNとWdCを挙げる。
TSMCの流れでは、③の除去が構造の一部になる。金属を加工した後、配線の間を絶縁膜で埋めて研磨し、残ったWdCを抜く。WdCが抜けた跡で絶縁膜が配線より高く突き出し、次の層のビア(上下をつなぐ穴)をこの突起が配線の真上へ導く。露光の位置ずれを構造で吸収する自己整合だ。特許は、研磨後にマスクの底部が残る場合も想定している。下の図の④では、ビアの位置が右へずれているが、層間膜だけを削る条件(請求項8はフッ素系ラジカルと酸素で層間膜を選択的に削るとする)なので、ビアは突き出た絶縁膜に止められ、くぼみを通って真下の配線だけに届く。この構造では、下の金属を傷めずにWdCを抜けることが、マスクの耐性と同じくらい重要になると本稿は見る。
2024年以降は、開口・除去・端部の工程づくりが学会に出てきた
Section titled “2024年以降は、開口・除去・端部の工程づくりが学会に出てきた”2020年代に入ると、特許から学会発表へ舞台が移る。発表の中心は膜そのものより、WdCを工程に組み込む条件だ。中国の装置メーカーNAURAは2024年に、WdCを開口するエッチング条件10を発表した。酸素系プラズマにNF₃を足すと塩素より速く削れ、上の酸化膜マスクとの選択比はパルス化した高周波とBCl₃の添加で上がった。
メモリ側の材料開発も続く。2025年の論文11はプロピレンとWF₆でWを最大40 at%まで入れ、押し込み硬さ(へこみにくさ)を3.2GPaから10.5GPaへ上げた。論文は3D NANDの深穴加工を背景に挙げ、謝辞に中国の3D NANDメーカーYMTCの支援を記す。
配線側では、IBM ResearchがSPCC 2026でWdCを配線工程へ組み込む際の端部処理12を発表した。導入理由はTiNの圧縮応力が招く線のウィグリングと短絡で、ウェハ外周へ回り込んだWdCを湿式処理で完全に除去し、パターン付きウェハの電気特性を保った。
メモリで先に使い、配線は除去と端部処理が決め手になる
Section titled “メモリで先に使い、配線は除去と端部処理が決め手になる”公開資料を時系列に並べると、WdCの開発は2段階に分かれる。2014〜2016年は、3D NANDとDRAMの深穴で炭素マスクの耐性不足を補う膜づくりの段階だった。2017年以降は、配線工程を用途に加え、銅・コバルトを残す除去や、金属直接加工のマスクとしての使い方を作る段階に入った。
本稿の見立てでは、メモリでの使用が先行し、ロジックの配線はIBMの発表のように工程を組み上げている段階にある。密着・粗さ・除去の主な課題は2018年までの特許に出そろい、2024年以降の発表では開口と端部処理が目立つ。配線で普及するかは、開口・除去・端部処理の3工程を、露出した金属と柔らかいlow-kを傷めずに回せるかで決まる。プロセス担当が評価する軸も、この3工程になる。数値の比較はTiNマスクのウィグリングとWdCにまとめた。選択比と露光の基本はエッチングとリソグラフィで扱っている。
12件を表示
- 1Lam Research:金属ドープドカーボンマスクの除去特許(2017年優先日)patents.google.com ab
- 2TES:W炭窒化膜の成膜出願(2016年優先日)patents.google.com ↩
- 3Applied Materials:金属ドープドカーボン膜の成膜特許(2014年優先日)patents.google.com ↩
- 4Lam Research:金属ドープドカーボンハードマスクの成膜特許(2015年出願)patents.google.com ↩
- 5Applied Materials:WF₆によるW含有ハードマスク特許(2016年優先日)patents.google.com ↩
- 6Applied Materials:W・B・Cハードマスク特許(2017年優先日)patents.google.com ↩
- 7Lam Research:金属ドープドカーボンマスクの界面特許(2017年出願)patents.google.com ↩
- 8Lam Research:WdCの湿式除去薬液特許(2018年優先日)patents.google.com ab
- 9TSMC:自己整合配線の特許11,004,740(2021年登録)patents.justia.com ↩
- 10IEEE:NAURAのWdC開口エッチング研究(2024年)doi.org ↩
- 11
- 12SEMI:IBM ResearchのWdC端部の湿式処理(2026年)semi.org ↩