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講座集 / EUVリソグラフィ / 第 12 回

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VOL.01 EUVリソグラフィ 第 12 回 / 全 12 回

EUV 光学系の鏡 1 枚:反射率に換算すると全 11 面で 2.31 ポイント

反射率 70% の鏡を 1 枚減らすと、ウェーハに届く光は 43% 増えます。同じ利得を鏡の改良で得るには何が要るかを見積もり、多層膜の候補や熱安定性の代価を「鏡何枚分か」という共通の単位で比べます。

29 分 応用 式 20 出典 8

この回の目次(8 節)
  1. §1 の限界比は ちょうど、枚数の外側
  2. §2 鏡 1 枚を反射率で買うと、全面で 2.31 ポイント
  3. §3 周期を積んで買うのは、1 面あたり 58 対
  4. §4 候補の積層を「鏡何枚ぶん」へ換算する
  5. §5 熱安定性の値段は 0.82 枚
  6. §6 同じ算術を、光源側から数え直す
  7. §7 すべてが真空な理由:空気の 長は 145 µm
  8. §8 鏡が残る理由:均一性と照明形の 2 つ

この回で示すこと

  1. の 1 枚あたりの比は で、枚数によらない。 なら 1 枚減らすと光は 43% 増える。
  2. 同じ利得を反射率で得るには、全 11 面で 2.31 ポイント要る。
  3. 周期の積み増しで得るなら 1 面あたり 58 対が要り、熱安定性の代価は鏡 0.82 枚分。
鏡を 1 枚減らしたときの光量の増加(R = 0.70) 43 %
同じ利得に要る反射率の向上(全 11 面) 2.31 pt
周期の積み増しで得る場合(1 面あたり) 58 対

EUV 装置の断面図には、鏡が何枚も斜めに並んでいます。なぜあの枚数なのか。1 枚増やす、1 枚減らすという判断を、設計者は何を根拠に下しているのか。

答えは 1 つの掛け算です。多層膜の反射率は 70% どまり。中間集光点から先で光は 11 回反射するので、ウェハへ届くのは約 2%。

の限界比は ちょうど、枚数の外側

1 面あたりの反射率が 60〜70% に留まることは、モリブデン系の積層を横に並べて比べた1994 年の報告1のような測定が与えます。1 回の反射で戻る割合を とします。 枚を通した後に残る割合は、各面が独立に掛かるので積です。

1 枚足したときの変化を取ります。

が消えます。11 枚めを足すのも 3 枚めを足すのも、変化は同じ 倍。

数を通します。

絶対値の差は 0.84 ポイントですが、割合では 43% 増です。ウェハ面の光量がそのままスループットを定めるので、効くのは割合のほうです。

この「限界比が によらない」という性質が、以下の換算をすべて支えます。

鏡 1 枚を反射率で買うと、全面で 2.31 ポイント

「鏡を減らす」と「反射率を上げる」を、同じ単位へ揃えます。反射率の改善は 11 面すべてに掛かるので

全 11 面で 2.31 ポイント上げて、ようやく鏡 1 枚に並びます。

面数を変えても、要求は 2 ポイント台のままです。

面数要る 1 面あたりの改善
100.7254+2.54 ポイント
110.7231+2.31 ポイント
120.7211+2.11 ポイント

11 面ぶん掛かるので楽に映りますが、要求は 2 ポイント台に留まります。反射率の改善そのものが、それだけ難しい領域にあるためです。真空紫外から極端紫外にかけての反射コーティングを正面から主題にした1996 年の報告2や、モリブデン系の多層膜を横に並べて比べた1994 年の報告1が対象にするのは、この 2 ポイントの世界です。

周期を積んで買うのは、1 面あたり 58 対

「弱い反射を足し上げる」なら、たくさん積むほど良さそうに映ります。ところが飽和します。

真空紫外から極端紫外にかけての反射コーティングを主題にした1996 年の報告2が対象にする積層は、どれも同じ性質を持ちます。吸収があるので、表面から遠い界面の寄与はごくわずかです。反射率は 40 対あたりで飽和します。

対の数反射率
40 対74.5%
60 対75.3%

前節の 2.31 ポイントを、この率で買います。

1 面あたり 58 対を追加して、ようやく鏡 1 枚ぶんです。しかも 11 面すべてに。

さらに悪いことに、この率は下がり続けます。曲線が飽和している以上、残っている伸びしろは全部合わせても 1 ポイント未満です。

つまり「対を足す」という手の上限は、鏡 1 枚の手前にあります。だから照明系も投影光学系もマスクブランクも、長く 40 対で作られてきました。対を足すたびに欠陥とコストが増えるので、0.04 ポイントでは割に合いません。

候補の積層を「鏡何枚ぶん」へ換算する

通貨が決まったので、材料の選択肢を換算します。到達した反射率で 3 つ挙げます。

積層ピーク波長反射率11 面での光量比鏡に換算
Mo/Si13.4 nm68.2%1.000—
Mo/B₄C/Si13.5 nm70.0%1.3320.80 枚
Mo/Be11.3 nm70.2%1.3740.89 枚

Mo/Be がいちばん高く、しかも波長が短い。短いほうが解像に有利なので、初期には軸にする案がありました。採られなかった理由はベリリウムの毒性です。

だからいま使われている 13.53 nm という波長は、順序が逆に決まっています。まず多層膜を選び、そこで可能な波長の範囲が決まり、そのうえで光源のピーク出力を合わせた。光源のほうを、多層膜の能力に基づいて選ばれた波長のまわりに設計します。

実測値は理論の最大値より数ポイント低く出ます。原因は 3 つ——各層の密度と均質性、界面の粗さ、層どうしの相互拡散。透過電子顕微鏡で観察すると境目はなだらかで、混ざった層が界面に挟まっています。多層膜の耐久を放射光で試験する設備を組んだ2005 年の報告3があるとおり、この劣化を測ること自体が 1 つの仕事です。

熱安定性の値段は 0.82 枚

混ざりは熱で進みます。ここにも換算が乗ります。

積層安定な上限温度反射率
Mo/Si約 150 ℃68.6%
Mo₂C/Si約 600 ℃66.8%

11 面で 25.4% の光を失います。

450 K の熱余裕を買う値段は、鏡 0.82 枚ぶんの光です。

この換算が、工程の上限へ直結します。界面を作り込む手を省いた多層膜の上では、使えるのは低温の工程だけです。吸収体を積む工程も、エッチングも、洗浄もです。炭素の障壁層を挟んで耐熱性を上げる手を主題にした1996 年の報告4があるとおり、界面の設計そのもので温度の上限を買い直せます。

入射角が 10〜15 度を超えると、反射率は急激に落ちます。開口数の上限も、同じ 1 本の曲線から出ます。非等方レンズで枠を作り直した2017 年の高 NA の研究5が対象にする設計も、この角度の上限の内側にあります。

同じ算術を、光源側から数え直す

基準を変えると枚数が動きます。多層膜の反射率を長期にわたって測り続ける設備を組んだ2005 年の報告3のように、どの面までを系に数えるかで同じ測定が別の意味を持ちます。投影光学系の鏡 6 枚、照明系の近垂直反射 3 枚、反射マスク——合わせて 10 回で数える流儀もあります。

2 ポイントの差が、10 面で 1.34 倍になります。

対で数えた言い方もあります。

「光路へ光学素子を 1 対追加すると、光が半分以下になる。」

3 つは同じ 1 つの数字です。

言い方式値
鏡 1 枚で 30%0.70
1 対で半分以下0.52
2 ポイントが 10 面で 1.34 倍1.34

枚数で言うか、対で言うか、面数で言うかの差だけです。基準を揃えずに比べると、同じ現象が別の話に映ります。

すべてが真空な理由:空気の 長は 145 µm

光路が真空である理由も、同じ指数で出ます。大気圧の空気 1 mm を通した透過率は約 0.1%。

空気の減衰長が 145 µm。光路に許される空気は、0.1 mm 未満です。

材料の側も同じです。波長 40 nm より短い領域では、あらゆる材料が強く吸収します。しかもこの吸収は原子レベルで起きるので、主に元素組成で決まり、化学的な結合状態は係数にほとんど効きません。

シリコンの 100 nm 膜でさえ透過率は 90% を切るので

レンズとして典型的な 1 mm 厚では

実質ゼロです。この領域の光学定数を膜厚と組成の関数として測り直した2016 年の研究6が対象にするのも、この強い吸収です。

だから屈折レンズも反射屈折系も作れず、すべて反射で組むところから始まります。真空にすると、空気とガスが担っていた仕事——熱の輸送、化学汚染の抑制、欠陥の制御——を全部作り直す必要が出ます。

鏡が残る理由:均一性と照明形の 2 つ

減らせば得なのは分かりました。それでも残っている鏡は、何をしているのか。

照明系の仕事は 2 つです。スリット全体へ均一に光を当てることと、解像度向上と光源マスク最適化のために照明の形を作れること。

2 組の鏡アレイでやっています。フィールド側のファセット鏡を傾けて、光を選んだ瞳側のファセット鏡へ振り分ける。1 枚のファセットからの光はスリット全体へ投影されるので、重ね合わせると均一になります。投影露光の照明系を正面から主題にした1994 年の報告7が対象にするのは、この均一化の設計です。

問題は粒度です。光リソの照明は数千枚の鏡で微調整でき、理想の形にほぼ一致させられます。EUV のプログラマブル照明は、画素数が 1 桁下です。ファセット鏡は平面のマイクロミラーの代わりに成形された光学素子で、EUV に要る面精度を求めると高価になるためです。

帰結が 2 つ出ます。

瞳充填率の下限を割るとスループットが大きく落ちます。光源マスク最適化で解像とパターン忠実度を同時に詰める2025 年の研究8が対象にする自由度も、この 20% の内側にあります。

だから「鏡を 1 枚減らす」は、光量の外側まで届きます。均一性と照明形の 2 つを担う部品を抜くことになる。43% の利得と、この 2 つの悪化を、同じ表で比べる必要があります。

出典

  1. 1 Evaluation of Mo-Based Multilayer EUV Mirrors (1994) doi:10.1364/eul.1994.ec.26
  2. 2 Reflectance coatings for the vacuum/extreme ultraviolet region (1996) doi:10.1364/eul.1996.rmc173
  3. 3 Synchrotron beamline for extreme-ultraviolet multilayer mirror endurance testing (2005) doi:10.1063/1.1896225
  4. 4 Heat-Resistance of Mo/Si Multilayer EUV Mirrors with Interleaved Carbon Barrier-Layers (1996) doi:10.1364/eul.1996.rmc169
  5. 5 Challenges of anamorphic high-NA lithography and mask making (2017) doi:10.1515/aot-2017-0024
  6. 6 Optical constants of off-stoichiometric aluminum oxide thin film in 6-20 nm soft-X-ray/extreme ultraviolet region (2016) doi:10.7567/jjap.55.101101
  7. 7 Critical Illumination Condenser for EUV Projection Lithography (1994) doi:10.1364/eul.1994.eos.109
  8. 8 Patterning Fidelity Enhancement and Aberration Mitigation in EUV Lithography Through Source-Mask Optimization (2025) doi:10.3390/mi16101166