オーバーレイと寸法は ±3σ から ±4σ で管理します。±4σ なら規格外は 63 ppm。10 億個の図形があれば 6 万個が規格外です。
それでも歩留まります。同じ工場の同じ層で、確率的欠陥を ±4σ で管理すると全滅する。
同じ ppm が、片方で通り、片方で落ちる。必要な σ の本数が、図形の数から一意に出ることを導きます。
63 ppm は、正規分布の裾の積分
表の右列の出どころは、測定より計算の側です。平均 、標準偏差 の正規分布で、規格を に取ったときの規格外の割合は
は σ の本数で無次元です。
| 片側 | 両側 | 両側を ppb で | |
|---|---|---|---|
| 3 | 1,350 ppm | 2,700 ppm | — |
| 4 | 31.7 ppm | 63.3 ppm | — |
| 5 | 0.287 ppm | 0.573 ppm | 573 ppb |
| 6 | 0.987 ppb | 1.97 ppb | 1.97 ppb |
| 6.5 | 0.0402 ppb | 0.0803 ppb | 0.0803 ppb |
| 7 | 0.00128 ppb | 0.00256 ppb | 0.00256 ppb |
63 ppm は の両側です。
この裾の値が、確率的欠陥の側では直接の要求になります。欠陥の源が光子とレジスト分子の数の揺らぎ1にあるので、隣の図形との相関がゼロ。ばらばらに出る相手には、裾の値がそのままチップの運命になります。
の行に注意が要ります。「±6σ は 1 ppb」という書き方が広く使われますが、両側は 1.97 ppb。1 ppb は片側の値(0.987 ppb)です。
片側と両側の取り違えは、σ にして 0.11 本ぶんに相当します。両側で 1.0 ppb になる は 6.11 なので、±6σ と ±6.11σ の差。桁を語る場面では小さい量ですが、要求を仕様書へ写す場面では、この差が生き続けます。
必要な は、図形の数から一意に出る
「1 ppb を十分に下回れ」という要求と、「±6σ から ±7σ」という管理水準。この 2 つが独立の主張かどうかを確かめます。
図形が 個あり、どれも独立に確率 で欠陥になるとすると、1 個も欠陥が無いチップの割合は 。歩留まり を残す条件は
数を入れて、 の逆から を出します。
| 図形数 | 歩留まり | 許される | 要る |
|---|---|---|---|
| 90% | 1.05 ppb | 6.10 | |
| 99% | 0.101 ppb | 6.47 | |
| 90% | 0.105 ppb | 6.46 | |
| 99% | 0.0101 ppb | 6.81 | |
| 90% | 0.0105 ppb | 6.80 | |
| 99% | 0.00101 ppb | 7.13 | |
| 90% | 0.00105 ppb | 7.12 |
「1 ppb を十分に下回る」と「±6σ から ±7σ」は、同じ 1 つの条件でした。 と を決めた時点で が決まる。
表から 2 つの換算率が読めます。
図形数を 10 倍にする操作と、歩留まり目標を 90% から 99% へ上げる操作が、ほぼ同じ 0.34 本です。、つまり約 1/10.5 なので、歩留まりの 1 桁と図形数の 1 桁が同じ重さになります。
要求される σ を動かすのは、レジストの出来より図形の数です。ノードが進んで図形が 10 倍になれば、レジストが同じでも要求が 0.34 本きつくなる。
確率的欠陥の出どころは、光子とレジスト分子の数の揺らぎです。2019 年のパーコレーションモデルによる光子ショットノイズ起因の線幅粗さの推定1が、EUV 光子の吸収後の粒子凝集で作られるネガ型像をパーコレーション理論で数値模擬し、実測のコントラストカーブと突き合わせて像形成の臨界的な振る舞いを再現したうえで、線幅粗さの露光量依存と、13.5 nm での吸収長など材料側の性質への依存を論じています。
粗さと欠陥は同じ揺らぎから出ます。だから を 0.34 本きつくする要求は、露光量と吸収長の側へ降りていきます。
固まって出るかどうかは、 1 本で書ける
歩留まりの側に戻ります。オーバーレイと寸法が ±4σ で通るのは、変動が固まって出るからです。
負の二項モデルが、両端を 1 つの式に収めます。
が面積、 が欠陥密度、 がクラスタリング係数。 でポアソンへ退化します。対数を取れば 1 行です。
で を使っただけ。 はクラスタリングの強さであると同時に、ポアソンからの距離です。
| 0.5(強く固まる) | 0.577 | 0.447 | 0.302 | 0.218 |
| 1 | 0.500 | 0.333 | 0.167 | 0.0909 |
| 2 | 0.444 | 0.250 | 0.0816 | 0.0278 |
| 5 | 0.402 | 0.186 | 0.0313 | 0.00412 |
| ∞(ポアソン) | 0.368 | 0.135 | 0.00674 | 0.0000454 |
期待欠陥数が同じ 5 個でも、 なら 16.7%、ポアソンなら 0.67%。24.7 倍です。
冒頭の「±4σ・63 ppm でも歩留まる」は、この 24.7 倍の側に立っています。確率的欠陥は の側、つまり 0.67% の行。
クラスタリングが歩留まりモデルの中心にあることは、公開の比較でも確かめられています。2018 年の隣接クラスタリングによる歩留まり予測の研究2が、欠陥は固まる傾向があり、隣が不良ならそのチップも不良になりやすいという近傍効果を、従来の歩留まりモデルが取りこぼしていると指摘したうえで、ポアソン・負の二項・ポアソン回帰・負の二項回帰を含む主要モデルと比較しています。
空間パターンを予測変数へ直接使う道も公開されています。2017 年の空間変数を導出したウェーハ歩留まり予測3が、信頼性の低いチップがウェーハ上で空間クラスタを作ることを前提に、Fused LASSO で欠陥クラスタの空間分布から変数を作り、ロジスティック回帰で最終歩留まりを予測しています。
同じ が、証明の側では逆に働く
固まっていると歩留まるのは、欠陥が少数のチップに集中するからです。同じ理由で、抜き取りで密度を言い切るのが難しくなります。空間クラスタを変数へ落とす手法3が要るのも、同じ性質の裏側です。
欠陥密度 を確信度 で言うのに要る試験面積は、ポアソンなら
、 で 2.996 cm²。 なら 0.916 cm²、 なら 4.605 cm²。
クラスタを入れると
| 要る試験面積() | ポアソン比 | |
|---|---|---|
| 0.5 | 199.5 cm² | 66.6 倍 |
| 1 | 19.00 cm² | 6.34 倍 |
| 2 | 6.94 cm² | 2.32 倍 |
| 5 | 4.10 cm² | 1.37 倍 |
| 10 | 3.49 cm² | 1.17 倍 |
| ∞ | 3.00 cm² | 1.00 倍 |
2 つの表を、同じ の順に重ねます。
| 歩留まり() | 試験面積() | |
|---|---|---|
| 1 | 16.7% | 19.00 cm² |
| 2 | 8.16% | 6.94 cm² |
| 5 | 3.13% | 4.10 cm² |
| ∞ | 0.67% | 3.00 cm² |
向きが逆です。 からポアソンへ動くと、歩留まりは 24.7 倍下がり、必要な試験面積は 6.34 倍下がる。
歩留まりで得たぶんを、証明で払っています。1 本のつまみが両側へ作用するので、片方の表だけで計画を立てると、もう片方で足をすくわれます。
確率的欠陥は、この表の一番下の行です。歩留まりの助けが無い代わりに、抜き取りの感度は高い。同じ工場の中で、上の行と下の行の両方を同時に管理することになります。
計数データには、計数の道具を当てる
管理の側にも、同じ「2 種類の統計」の割れ目があります。
2026 年の半導体ウェーハ AOI 検査における零過剰・相関ありの欠陥計数に対する測定システム R&R 解析4が、従来のゲージ R&R 手法は連続的なガウス型の測定量のために作られているので、離散の欠陥計数・過剰なゼロ観測・相関する欠陥カテゴリを特徴とする高歩留まりの検査データとは相性が悪いと述べています。対策として零過剰二変量ポアソン(ZIBP)測定システムモデルを立て、共有される欠陥源とカテゴリ固有の欠陥源を潜在変数で表し、EM 法で繰り返し性分散・再現性分散を推定しています。
「過剰なゼロ」は、歩留まりが高い工程の特徴そのものです。ほとんどのウェーハで欠陥がゼロ。その分布へ連続量の道具を当てると、測定系のばらつきが実態と合わなくなります。
この記事の冒頭の割れ目と、同じ形です。系統誤差には連続量の統計、確率的欠陥には計数の統計。管理図を 1 種類で回すと、後者が素通りします。
EUV の装置側でも、確率分布を budget の言葉へ翻訳する方法が公開されています。2024 年の確率分布に基づく EUV リソグラフィの収差バジェット手法5が、多層パーセプトロンでリソグラフィ結果の高速予測モデルを作り、要求を満たす収差の組み合わせを絞り込んだうえで、収差の一般分布と結合確率分布から各収差の影響とバジェット範囲を出しています。複数の主要パラメータのあいだの複雑な結合を前提にしている点が、単独の σ で切る管理との違いです。
現場で動く判断
- 規格外の割合は です。±4σ で 63.3 ppm、±6σ で 1.97 ppb、±7σ で 0.00256 ppb。
- 「±6σ = 1 ppb」は片側の値です。両側は 1.97 ppb。両側で 1.0 ppb になる は 6.11 なので、取り違えは σ にして 0.11 本に相当します。
- 必要な は から一意に出ます。・ で 。「1 ppb 未満」と「±6σ〜±7σ」は同じ条件の 2 つの書き方です。
- 図形数 10 倍で 、歩留まり目標 90%→99% で +0.35。2 つの操作が同じ重さです。歩留まりの 1 桁と図形数の 1 桁が交換できる。
- 要求される σ を動かすのは、レジストの出来より図形の数です。同じレジストのまま、ノードが進むだけで 0.34 本きつくなる。粗さと欠陥は同じ光子の揺らぎから出る1ので、要求は露光量と吸収長へ降りていきます。
- クラスタリングは の 1 本で書けます。 でポアソン。 で なら 16.7%、ポアソンなら 0.67%。24.7 倍。
- 近傍効果を取りこぼすモデルは歩留まりを外します2。ポアソン・負の二項・それぞれの回帰版との比較が公開されているので、自分のデータがどの行に近いかを先に測ります。
- 同じ が、抜き取りでは逆に働きます。 の試験面積は、 で 19.0 cm²、ポアソンで 3.00 cm²。歩留まりで得たぶんを証明で払います。
- 確率的欠陥は の行です。歩留まりの助けが無い代わり、抜き取りの感度は高い。上の行と下の行を、同じ工場で同時に管理します。
- 計数データに連続量の道具を当てると、測定系のばらつきが実態からずれます。零過剰・相関ありの欠陥計数には、それ用のモデル4が公開されています。「過剰なゼロ」は高歩留まり工程の特徴そのものです。
- 収差のバジェットも、結合確率分布で切る手法が公開されています5。パラメータ間の結合を前提にする点が、単独の σ で切る管理との差になります。