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講座集 / 信頼性と試験の統計 / 第 16 回

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VOL.05 信頼性と試験の統計 第 16 回 / 全 31 回

MTTF が同じ 2 群の比較:勝率 44.9% と、形状 3.44 での符号の反転

平均寿命が同じでも、故障の散らばり方が違う 2 つの部品には、どちらが長持ちするかで勝ち負けがつきます。その勝率を生存曲線の差から求め、臨床試験で使う指標と同じ形になることと、形状パラメータが 3.44 を超えると符号が反転することを確かめます。

26 分 応用 式 19 出典 7

この回の目次(9 節)
  1. §1 平均を揃えた 2 群は、 で交差する
  2. §2 生存差を故障密度で重み付けすると、勝率になる
  3. §3 同じ量が、臨床試験では net benefit と呼ばれている
  4. §4 数を入れると、勝率 44.9% と重なり 69.2%
  5. §5 平均を揃えた時点で、勝率に天井ができる
  6. §6 符号が返る点は、中央値と平均が一致する形状
  7. §7 形状パラメータの分解能は で決まる
  8. §8 小標本では、幅が 1.25 倍に膨らむ
  9. §9 現場で動く判断

この回で示すこと

  1. MTTF を揃えた形状 1.5 と 3.0 の 2 群は で交差し、勝率は 44.9%。
  2. 生存差を故障密度で重み付けした積分は と同じで、臨床試験の net benefit にあたる。
  3. 平均が同じ 2 群では だけで勝率の上限が決まり、 で符号が変わる。そこは中央値と平均が一致する形状。
MTTF が同じ 2 群の勝率 44.9 %
上限の符号が変わる形状パラメータ 3.44

2 条件で寿命試験を回して、どちらも平均寿命 1,000 サイクルという結果が返ってきました。それでも 2 つの分布の形は違います。

平均が同じなら、比較はここで止まります。ところが生存確率の差を故障の時刻で重み付けして積分すると、はっきり符号が付きます。

平均を揃えた 2 群は、 で交差する

ワイブル分布の生存関数と平均寿命は

です。 は尺度(特性寿命)、 は形状。平均を に揃えるなら、尺度のほうが形状に合わせて動きます。

サイクルで数を入れます。

形状 尺度 MTTF
1.50.9027451,107.731,000.00
2.00.8862271,128.381,000.00
3.00.8929801,119.851,000.00
5.00.9181691,089.121,000.00

形状 1.5 と 3.0 の 2 群を、以降ずっと使います。群 1 が 、群 2 が 。平均寿命は小数第 2 位まで一致します。

生存曲線が交差する時刻は、指数の中身が等しくなる点です。 の両辺の対数を取ると で、 について解けば

形状が違えば、交差点は必ず 1 つあります。数を入れると

そこでの生存確率は 。2 本とも同じ値になります。

まだ 36% が生きている時刻で、優劣が入れ替わります。交差より前は群 1 のほうが生存率が低く、交差より後は群 1 のほうが高い(裾が長い)。

交差する 2 本を、一様な重みで比較する手法は感度を落とします。2023 年の遅れて分離する生存曲線に対する逆ログランク検定の研究1が、この点を正面から報告しています。重み付けの前提を取り違えると、検出力の大きな損失につながる。

重みをどこへ集めるかが、答えそのものを作ります。

生存差を故障密度で重み付けすると、勝率になる

重みの形を 1 つ選びます。両群の故障密度の和 を重みにする、という選び方です。

重みを 1 にした場合と比べると、この選び方の意味が出ます。 なので

平均を揃えた時点で、重み 1 の積分はゼロになります。 はその時刻にどちらかの群が壊れている密度なので、差が実際に問題になる時刻へ重みが集まる。

重みの取り方が検出力を左右する点は、生存曲線どうしの比較でも同じです1。ここでの選び方には、次節で出る利点が付きます。

被積分関数を、同じ添字どうしと添字違いに割ります。

第 1 項が消えます。 なので、任意の寿命分布について

分布の形に関係なく、必ず 1/2 です。群 1 も群 2 も 1/2 なので、第 1 項は 。

数値積分で確かめます。平均を 1,000 に揃えた各形状について、 から 40,000 サイクルまで積分した値です。

形状 (上限 40,000)
0.80.5143
1.50.500000
3.00.500000
7.00.500000

の行だけ 0.5 から離れます。裾が重いので、上限 40,000 サイクルで打ち切った分が抜けているためです。恒等式そのものは成り立っていて、打ち切りが誤差を作っています。

残った第 2 項は、勝ち負けの確率そのものです。2 群から 1 個ずつ取り出して寿命を 、 とすると、群 2 の個体が時刻 で壊れ、群 1 の個体がまだ生きている密度は 。全時刻で足して

添字を入れ替えれば なので、

この積分は、1 個ずつ取り出したときの勝率を、五分五分がゼロになるように目盛り直したものでした。基準点は、第 1 項が分布によらず 1/2 になるという恒等式が与えます。

同じ量が、臨床試験では net benefit と呼ばれている

という量は、寿命試験以外の分野で確立した名前を持っています。

一般化対比較(generalized pairwise comparisons)の 2019 年の解説2が、net benefit をこう定めています。「治療群から無作為に選んだ 1 例が対照群から無作為に選んだ 1 例より良い結果になる確率から、その逆の確率を引いたもの」。同じ解説は、この枠組みが Wilcoxon–Mann–Whitney の U 統計量の拡張であることも書いています。

上で導いた と、字面まで一致します。

一致が実務で意味を持つのは、公開された道具がそのまま使えるからです。2023 年の層別 win 統計量の研究3が、win ratio・win odds・net benefit の 3 つについて、同じ帰無仮説(2 群の勝率が等しい)を検定していること、 値がほぼ等しいので 値と検出力も似ること、そして分散の推定量どうしが直接に関係することを示しています。層別の手続きも、3 つすべてへ一般化されている。

寿命試験の側対応する公開の道具
の点推定net benefit の点推定
の区間win 統計量の分散の推定量
ロット別・治具別の集計層別 win 統計量
有意性の判断勝率が等しいという帰無仮説の検定

自前で分散を組み立てる作業が、ここで消えます。

数を入れると、勝率 44.9% と重なり 69.2%

冒頭の 2 群へ戻ります。数値積分の結果です。

量値
0.4492
0.5508
−0.1017
重なり 0.6916
交差時刻 1,132.1

100 組を 1 個ずつ走らせると、45 組では群 1 のほうが長生きします。「群 2 が良い」の中身は 55 対 45 です。

もう 1 つの量、 は 2 つの密度の重なり面積で、公開の統計では重なり係数(overlapping coefficient, OVL)の名前が付いています。2023 年の重なり係数の推測の研究4が、「密度関数の観点から母集団どうしの類似度を測るために広く使われる」ものとして位置づけ、最尤推定量とベイズ推定量の偏りと平均二乗誤差、そして信頼区間を与えています。ワイブル 2 群に限った場合の推測も、2024 年の Weitzman 係数の研究5がパラメータを自由にしたまま与えている。

と重なり係数は、組にして使います。

重なり読み方
大小優劣が明確
小大実質的に同程度
大大平均では差が付くが、個体では入れ替わる
小小分布が離れていて、優劣も小さい(形が別物)

冒頭の 2 群は ・重なり 0.692 なので、2 行目です。7 割が重なっている中の、小さな差。

形状の比を変えると、2 つの量がどう動くかを表にします。平均 1,000・群 1 の形状 1.5 のままで、群 2 の形状だけを動かした場合です。

形状比 勝率 重なり
1.001.500.00000.50001.0000
1.101.65−0.02030.48980.9563
1.251.88−0.04400.47800.8979
1.502.25−0.07120.46440.8158
2.003.00−0.10170.44920.6916
3.004.50−0.12670.43660.5339
6.009.00−0.14450.42780.3252
20.0030.00−0.15100.42450.1251

重なりは 1.00 から 0.13 まで、桁で動きます。ところが のほうは、形状比を 2 から 20 へ 10 倍にしても −0.102 から −0.151 の範囲に収まります。

が頭打ちになっています。

平均を揃えた時点で、勝率に天井ができる

頭打ちの正体は、閉じた式で書けます。

の極限で、群 2 は平均寿命そのものに集まった 1 点になります。その場合の勝率は、群 1 が平均寿命まで生き残る確率に一致します。

を入れると が消えます。

平均寿命の値が式から落ちます。天井を作るのは群 1 の形状パラメータだけです。

この天井は勝率の下限なので、勝率が等しいという帰無仮説3からどこまで離れられるかの上限でもあります。

群 1 の形状 勝率の下限 の天井
1.00.3679−0.2642
1.50.4241−0.1517
2.00.4559−0.0881
2.50.4764−0.0472
3.00.4906−0.0187
3.43950.50000.0000
4.00.5092+0.0183
5.00.5207+0.0414

なら、相手をどれだけ絞っても勝率は 42.4% で止まります。冒頭の 2 群の 44.9% は、天井の 42.4% にかなり近い。形状 3.0 の相手が、 の理想相手の 3 分の 2 の効果を出しています。

の行が、さらに強い制限を掛けます。群 1 の形状がすでに 3.0 なら、平均寿命が同じどんな相手でも、勝率で取れるのは 1.9 ポイントまでです。

これは試験計画の判断材料になります。平均寿命が同じまま形状だけを絞る工程改善を検討するとき、その改善が勝率として取れる最大値が、いまの形状だけで先に出る。改善前の が 3 を超えているなら、上限は 2 ポイント未満です。

符号が返る点は、中央値と平均が一致する形状

上の表の 3.4395 という行が、天井の符号が返る点です。この数の正体を出します。

は 、つまり

ワイブル分布の中央値は 、平均は なので、この条件は中央値と平均の一致そのものです。

数値で解くと 。検算すると 、 で 8 桁一致します。

形状 中央値 / 平均
1.00.69310.3679
1.50.86760.4241
2.00.93940.4559
3.00.99110.4906
3.439541.00000.5000
4.01.00670.5092
6.01.01400.5286

では、半数より多くが平均寿命より前に壊れます。だから平均を揃えたとき、絞った群のほうが勝つ。

では逆です。半数より多くが平均寿命より後まで生きるので、平均を揃えた条件では、ばらついた群のほうが 1 個ずつの勝負に勝ちます。

「形状が大きいほうが良い」は、3.44 までの話でした。平均を揃えた比較で、それより上では符号が返ります。

重なり係数4のほうは 0 から 1 の量なので、この反転は勝率の側だけに出ます。2 つを組にする理由が、ここにもあります。

形状パラメータの分解能は で決まる

ここまでの は、 と が正しいという前提の上にあります。その 2 つは当てはめから来ます。

完全データのワイブル最尤推定について、フィッシャー情報量を書きます。 は標準指数分布に従うので、対数尤度の 2 階の期待値が 関数の微分で書けます。

はオイラー定数です。行列式を取ると の項がきれいに消えます。

したがって

が出てきます。標準偏差は

この量の区間推定そのものが、公開の研究対象です。2025 年のワイブル形状パラメータの Wald 型区間の研究6が、形状 0.5 から 10、尺度 0.5 から 5、標本数 5 から 200 の 12 通りで被覆確率と平均幅を調べています。

90% 信頼度での相対誤差 ()は 。2 群の形状の区間が離れる条件は なので、

形状比 要る故障数(1 群あたり)
1.10726
1.25134
1.5042
2.0015
3.007

形状の差が 25% なら、1 群あたり 134 個の故障が要ります。2 倍の差なら 15 個で足りる。必要数が比の差の 2 乗で伸びるので、小さな形状差は急激に高くつきます。

冒頭の 2 群は比 2.0 です。15 故障で、ぎりぎり届く。

小標本では、幅が 1.25 倍に膨らむ

上の は漸近論の値なので、小標本での実際の幅を測っておきます。

真の形状 3.0 のワイブルから 個を発生させて最尤推定する試行を 12,000 回繰り返した結果です。

故障数 の平均偏り漸近値に対する膨らみ
103.516+17.2%1.09841.41 倍
153.311+10.4%0.97291.25 倍
203.233+7.8%0.92681.19 倍
303.143+4.8%0.86181.11 倍
483.089+3.0%0.82921.06 倍
1003.037+1.2%0.79851.02 倍

で漸近値の 1.02 倍。2025 年のワイブル形状パラメータの Wald 型区間の研究6が、標本数 5 から 200 までの 12 通りで被覆確率と平均幅を調べ、30 を超えるとどの区間法も似た性能を示すと報告しているのと、同じ位置に境目が出ます。

膨らみを織り込んで、上の敷居を引き直します。

故障数 漸近の 実測の 漸近の敷居実測の敷居
100.4060.5712.363.67
150.3310.4131.992.41
200.2870.3411.802.03
300.2340.2591.611.70
480.1850.1971.451.49
1000.1280.1311.291.30

15 故障での敷居は 1.99 から 2.41 へ上がります。形状比 2.0 の 2 群は漸近の敷居をぎりぎり超えていましたが、実測の敷居 2.41 に対しては未達です。

漸近の式は下限を与えます。実際に要る故障数は、この式が返す値より大きい。

偏りの列も、そのまま使えます。最尤推定は形状を上へ外します。1 群だけなら共通の偏りとして消えますが、2 群の故障数に差があると、比のほうへ持ち越されます。

群 1 の故障数群 2 の故障数偏りだけで出る見かけの形状比
30151.053(+5.3%)
48151.072(+7.2%)
100151.091(+9.1%)
48301.017(+1.7%)
100301.036(+3.6%)

48 故障の群と 15 故障の群を比べると、工程が同一でも形状比が 1.072 と出ます。打ち切りが片方だけ強い試験では、この見かけの差が最初に乗る。

1 つの試験で 2 群の故障数が揃っているかを、形状比より先に数えます。差がある場合、形状比の 7% ぶんは数え方から来ています。

形状の共通性を仮定する手法には、別の偏りが乗ります。2007 年の複数ワイブル母集団の共通形状パラメータの研究7が、最尤推定の偏りは大きくなりうること、標本数が大きくても目立つこと、打ち切りの度合いと母集団の数が増えるほど急激に大きくなることを報告しています。「2 群の形状を共通と見なして平均寿命だけを比べる」手法が、ここでつまずく。

故障数を桁で増やす道は、試料を積む以外にもあります。1 個のチップを 1,024 個のサンプルとして数えるが、同じシリコンから数える単位を替える方法です。 が増えれば が で下がり、いま重なっている形状の区間が離れます。

現場で動く判断

  1. 平均を揃えた 2 群は、必ず 1 点で交差します。。冒頭の 2 群では 、そこでの生存率は 0.356。36% が生きている時刻で優劣が入れ替わります。
  1. 生存差を で重み付けした積分は、勝率そのものです。 が分布によらず成り立つので 。基準点は、この恒等式が与えます。
  1. 同じ量が net benefit2 として確立しています。分散の推定量と層別の手続き3を、そのまま寿命試験へ持ち込めます。
  1. 符号に加えて、勝率の値まで出します。 は勝率 44.9%、つまり 55 対 45。重なり係数4 0.692 と整合します。
  1. 平均を揃えた時点で、勝率の天井が確定します。。 で −0.152、 で −0.019。改善前の形状だけで、取れる最大値が先に出ます。
  1. 天井の符号は で返ります。中央値と平均が一致する形状です。それより上では、平均を揃えた条件でばらついた群のほうが勝ちます。
  1. 形状の分解能は です。90% 信頼度で 、必要な故障数は 。形状差 25% なら 134 故障、2 倍なら 15 故障。
  1. 小標本では実測の幅が漸近値の 1.25 倍(15 故障)に膨らみます。30 を超えるとどの区間法も似た性能になる6という報告と同じ境目です。漸近の式は下限として使います。
  1. 2 群の故障数に差があると、偏りだけで形状比が 7.2% ずれます(48 対 15)。形状比より先に、故障数の揃いを数えます。
  1. 共通形状を仮定する手法には別の偏りが乗ります7。打ち切りが強いほど、母集団の数が多いほど急に大きくなる。平均寿命だけの比較へ戻る選択肢が、ここで消えます。

出典

  1. 1 The Inverse Log-Rank Test, A Versatile Procedure for Late Separating Survival Curves (2023) doi:10.3390/ijerph20247164
  2. 2 Generalized Pairwise Comparisons (2019) doi:10.1002/9781118445112.stat08224
  3. 3 The stratified win statistics (win ratio, win odds, and net benefit) (2023) doi:10.1002/pst.2293
  4. 4 Estimation of Pianka Overlapping Coefficient for Two Exponential Distributions (2023) doi:10.3390/math11194152
  5. 5 On Inference of Weitzman Overlapping Coefficient in Two Weibull Distributions (2024) doi:10.47363/jhsr/2024(3)122
  6. 6 Modified likelihood approach for Wald-typed interval of the shape parameter in Weibull distribution (2025) doi:10.3934/math.2025001
  7. 7 Improved maximum-likelihood estimation for the common shape parameter of several Weibull populations (2007) doi:10.1002/asmb.678