「何個測りますか」に対して、先に数を答える。この順番を裏返すと、同じ誤り確率のまま、取る数が減ります。
裏返し方は単純です。1 個取るたびに合否を試み、決着がついた時点で打ち切る。決着が保留のあいだは取り続ける。標本数は入力より結果になります。
境目を 2 本引いて、そのあいだを歩く
SPRT の骨格は、ランダムウォークが 2 本の境目のどちらへ先に触れるかという問題です。1975 年の SPRT の誤り確率と平均標本数に関する論文1が、この形を最も簡潔に書いています。
独立な確率変数 の部分和を とし、 を 2 本の境目とします。停止時刻は
が区間 の外へ出た最初の が、試験の終点です。論文が近似を与えているのは 2 つ、(上の境目へ触れる確率)と (平均標本数)。近似は更新理論の漸近論から作られています。
、、 として、
1 個の不良が、良品 39 個ぶんを打ち消します。。
平均標本数は、1 個あたりの期待歩幅で境目までの距離を割って得られます。
| 真の状態 | 1 個あたりの期待歩幅 | 平均標本数 |
|---|---|---|
| (本当は良い) | 71 個 | |
| (本当は悪い) | 43 個 |
同じ 、 を固定標本数の検定で達成するには、正規近似で
104 個に対して 71 個と 43 個。良いロットで 32%、悪いロットで 59% 減ります。悪いほうが早く片付くのは、不良 1 個の歩幅が大きいからです。
平均標本数の近似式には、反例がある
上の 71 個と 43 個は、近似式の値です。この近似がどこまで信用できるか。1960 年の SPRT における期待標本数の限界に関する論文2が、正面から論じています。
論文はまず経緯をまとめます。 の近似値と、その誤差の限界は 1945 年と 1947 年に与えられた。誤差は、 の平均と分散が小さいとき小さい、と正規分布と二項分布について確かめられている。一般にも、 の平均と分散が小さければ誤差は小さいだろうと述べられていた。
そこへ論文は反例を添えます。
「 の平均と分散が小さいにもかかわらず、 の近似式の誤差が大きいままの例をここに示す。したがって、近似の妥当性を一般に主張する道は、ここで途切れる。」
そのうえで、一般の場合について誤差の上界の表現を与え、正規分布および同様の裾を持つ分布族について、片側境目 のみのランダムウォークで最初の通過時刻の期待値が有界であることを示し、 の上界を得ています。
平均標本数は、計画の約束より目安
この結果は、実務での使い方を 1 つ制限します。
「平均 71 個」は、近似式から出た値です。反例がある以上、 の平均と分散が小さいことを確かめたうえで、近似の精度はさらに別の話になります。
現実的な使い方は 3 段です。
- 平均標本数は、方式を比べるための目安として使う。固定 104 個と逐次 71 個のどちらが小さいか、という比較には十分です
- 計画の約束には、上界のほうを使う。論文が与えているのは、まさに上界の表現です
- 打ち切り点を別に引く。逐次検定は原理的に長引く場合があります。 がある値に達したら強制的に合否する規則(打ち切り SPRT)を加え、その打ち切りで誤り確率がどれだけ動くかを併記します
3 番目が実務では乗ります。試験設備の予約も人員も、上限のほうで組むからです。平均値で予約を取ると、決着が長引くロットで予定が崩れます。
最適性は 3 つあり、そのうち 1 つが成り立つのは稀
SPRT が「最適」と呼ばれる根拠はどこにあるか。1997 年の逐次検定のコスト効率比較3が、その中身を 3 つに分解しています。
2 つの単純仮説を判別する SPRT は、非常に制限の強い条件のもとで、3 つの魅力的な意味で最適である、というのが 1948 年に示された内容です。
| 最適性 | 内容 |
|---|---|
| 第 1 | ベイズ最適な規則になりうる |
| 第 2 | 同じ検出力を持つ水準 の検定のうち、観測数の同時期待値が最小(データと 2 仮説上の事前分布の両方について期待を取る) |
| 第 3 | 水準 の検定のうち、条件付き期待観測数が最小(いずれかの仮説が真という条件のもとでデータについて期待を取る) |
論文の力点は、前提の側にあります。強い制限の主なものは、標本を 1 個ずつ取るという条件。
論文はこの条件を緩め、3 つの意味すべてで SPRT を厳密に上回る逐次手続きが存在することを示します。結論も明確です。
「第 3 の型の最適性が成り立つことは稀であり、意思決定者は第 1 と第 2 の型の最適性を持つ逐次手続きを探すほうが良い。」
1 個ずつという制限を外すことで、第 1・第 2 の意味で最適な「可変標本数逐次確率比検定」が得られています。
有限母集団では、分布の選び方が動く
ここまでは母集団が無限大という前提でした。ロットの個数が決まっているとき、分布の選び方が動きます。2018 年の有限母集団に対する信頼性実証試験の研究4が、この場合を追っています。
試験の対象はワンショット機器——弾薬、消火器、手榴弾のように、動作状態が二値で表せるもの。有限母集団の二値項目に対して選ばれているのが、
| 役割 | 分布 |
|---|---|
| 尤度関数 | 超幾何分布 |
| 共役事前分布 | ベータ二項分布 |
超幾何分布の共役事前がベータ二項分布であることが、論文の中で示されています。ベイズの枠組みでは、事後のベータ二項分布を使って母集団の合否を決めます。
数値例からの結論が実務的です。ベイズの方法と逐次抜取りを組み合わせると、有限母集団の合否を確定するのに必要な標本数が小さくて済む。
用途としては、供給網の中で調達先を選ぶ場面が挙げられています。あらかじめ定めた信頼性目標と信頼水準を保証する供給者を選別する、という用途です。
ここで分布の選び方が効いてきます。母集団が有限なら、1 個抜くごとに残りの構成が動きます。二項分布はこれを無視しますが、超幾何分布は取り出した分を母集団から引きます。ロットが小さいほど差が開くので、少量多品種の調達では、この選び方そのものが標本数に乗ります。
ゼロ故障で通す試験を、先に設計する
高信頼性の製品では、故障の観測そのものが難所になります。2009 年のベイズ零故障信頼性実証試験の研究5が、この場面の設計を追っています。
前提の置き方はこうです。高信頼性の製品は製造原価が高く、寿命が非常に長いため、限られた時間内での観測は困難である。だから加速試験を使い、寿命は指数分布に従い、故障率は加速係数と指数関数的に結びつくとします。基礎となるパラメータ自身にも指数型の事前分布を与えます。
この枠組みで設計するのは 2 つです。
| 設計量 | 内容 |
|---|---|
| 最小標本数 | 何個を試験に掛けるか |
| 試験の長さ | どれだけ走らせるか |
どちらも、指定した信頼性基準を満たすように事前に決めます。さらに論文は、その試験設計を通過する確率と、追加実験に対する予測確率を導き、シミュレーションによる感度解析を行っています。
「通過する確率」が導かれているのが、この設計の要点です。零故障試験は、走らせる前に「合格する見込みがどれだけあるか」が計算で出ます。見込みが低い設計を走らせてから落ちるのと、走らせる前に標本数か試験時間を増やすのとでは、費やす時間が桁で別になります。
過去のデータに、重みを付けて借りる
基準そのものを更新する側へ進みます。過去の試験結果を事前分布へ取り込めば、今回の標本数をさらに減らせます。ただし取り込み方に構造が要ります。
2025 年の複数の異種過去研究からのベイズ借用に関する研究6が、その構造を追っています。
出発点は、複数の過去研究が似た条件を持つとき、それらは借用の対象になりうるという事実です。既存の情報事前分布の族は、データの適合度にもとづいて半自動的に過去情報を取り込みます。
ところが、そこに落ちている要素があります。
「患者の登録年のような外生的要因もまた、各過去研究が現在の試験に対して持つ関連度へ影響しうる。結果として、過去試験のあいだに自然な事前の順序がしばしば生じる。この条件は、現行の情報事前分布の多くが取り込めずにいる。」
「登録年」を「製造ロットの時期」や「工程改版の世代」へ受け取り直すと、そのまま現場の話になります。古い世代のデータほど今回との関連が薄い、という順序が最初から分かっている。
提案されているのは、べき事前分布の変種である「順序付き正規化べき事前分布」です。べきパラメータに目的の順序条件を掛けたうえで、データ適応的な借用を保つ。
「古いデータの重みを下げる」を、式の形で持つ
べき事前分布の骨格は 1 行です。過去データ の尤度を、 乗して事前分布へ掛けます。
なら過去データを今回のデータと同じ重みで数え、 なら捨てます。そのあいだの値が「割り引いて借りる」に対応します。
上の研究が加えているのが、 のあいだの順序条件です。世代が古いほど小さい、という不等式を最初から課します。
条件を入れる値打ちは、データが乏しいときに出ます。 を完全に自由にすると、今回の少数データからは推定が揺れます。順序という 1 本の構造を入れると、推定が安定します。
現場での据え方はこうなります。工程の改版履歴を並べ直し、世代の順に を割り当てる。改版の大きさで の初期値を人手で定めるより、順序だけを条件にして値をデータへ委ねるほうが、話が短く済みます。
種類の別な過去データを借りるとき
順序を入れたうえで、なお残る場合があります。過去データと今回のデータで、測っている量の種類が別のとき。2026 年の尺度変換べき事前分布の研究7が、この場合を追っています。
問題の形はこうです。既存の方法の多くは、今回のデータと過去のデータが同じ型であることを仮定している。ところが型が別になる場面がある。論文が挙げるのは臨床試験の例で、第 2 相が二値の判定項目(奏効率)を使い、第 3 相は時間対事象の判定項目を使う、という組み合わせです。
信頼性試験でも、この形はそのまま起きます。
| 段階 | 測る量 | 型 |
|---|---|---|
| 初期の工程見極め | 合否(通った/落ちた) | 二値 |
| 量産後の信頼性試験 | 故障までの時間 | 時間対事象 |
二値のデータから時間の分布を借りようとすると、パラメータの意味が食い違います。
提案されている解は、フィッシャー情報行列にもとづく関数的な再尺度化です。型の別なデータのあいだでパラメータのベクトルを揃え、部分的な借用を保ちつつ、ずれた判定項目から借りることに伴う偏りを抑えます。さらに、尺度化では扱えない場合に備えた一般化版も用意されています。
確かめ方も参考になります。シミュレーションと実際の試験データの解析を通じて、第 1 種の誤り、検出力、被覆確率、モデル適合の 4 つで従来の事前分布と比べています。借用の方法を選ぶときは、この 4 つを揃えて比べます。標本数が減ったかどうかだけを追うと、誤り確率が膨らんでいる場合を視野から漏らします。
現場で動く判断
- 1 個ずつ測れるかどうかで、方式が決まります。測るたびに合否が出るなら SPRT。ロットや治具単位で取るなら群逐次か可変標本数逐次です。後者では SPRT の第 3 の最適性3が、最初から成り立ちません。
- 平均標本数は方式の比較に使い、計画の約束には上界を使います。 の平均と分散が小さくても近似誤差が大きいままの反例があり、近似の妥当性を一般に主張することはできません。
- 打ち切り点を必ず引きます。逐次検定は原理的に長引く場合があります。 の上限で強制合否する規則を加え、その打ち切りで誤り確率がどれだけ動くかを併記します。
- 1 個の不良の重みを、先に計算します。 と なら 。不良 1 個が良品 39 個ぶんを打ち消す、という感覚を持ってから境目を引きます。
- ロットが小さいときは超幾何分布を選びます。二項分布は、抜き取った分を母集団へ残したまま数えます。少量多品種の調達では、この選び方が標本数に直接乗ります。
- 零故障試験は、走らせる前に通過確率を出します。見込みの低い設計で走らせて落ちると、標本数か試験時間を増やして最初からやり直しになります。
- 過去データの重みには、値より順序を与えます。工程の世代順に の不等式を課すだけで、推定が安定します。値を会議で定めるより、順序を条件にしてデータへ委ねるほうが早く収まります。
- 借用の方法は 4 つの指標で比べます。第 1 種の誤り、検出力、被覆確率、モデル適合。標本数の削減だけで選ぶと、誤り確率が膨らんだ方法を選びます。