ウェーハ上で 1,000 秒の応力を掛け、しきい値電圧の動きを測る。そこから製品の 1,000 時間の試験結果を見込む。時間にして 3,600 倍の外挿です。
この外挿が成り立つかどうかは、たった 1 本の式に乗っています。
と を短い時間で決めて、長い時間へ延ばす。それだけの操作です。
延ばす式が持っている変数は、5 つある
まず、この式がどこから来るかを確かめます。2005 年の統計力学にもとづく NBTI モデル1が、導出の形を示しています。
モデルの骨組みは 2 段です。
- SiO₂/Si 界面の Si–H 結合が切れる(脱パッシベーション)
- 正に帯電した水素イオン(H⁺)が酸化膜中を分散的に拡散し、界面とバルクの両方にトラップを作る
この仮定から、しきい値電圧の動き が導かれます。その関数が持っている変数は 5 つです。
| 変数 | 内容 |
|---|---|
| 応力の時間 | |
| 酸化膜中の電界 | |
| 温度 | |
| 酸化膜の厚み | |
| 界面の初期 Si–H 密度 |
時間は 5 つのうちの 1 つです。 と に押し込まれているのは、残りの 4 つです。
モデルは、時間依存の形そのものについて 2 段を予測します。
- 短い時間 — べき乗で増える。分散的な水素拡散から来る
- 長い時間 — 飽和する。界面の結合水素(Si–H)がすべて取り去られた時点で頭打ちになる
飽和の向きを、外挿の向きと合わせて考える
この 2 段構造は、外挿の誤差に符号を与えます。
短い時間で測ったべき乗をそのまま長い時間へ延ばすと、飽和より手前の傾きで先まで引くことになります。実際の劣化は飽和で寝るので、
劣化を多めに見積もる向きです。寿命の予測としては安全側に倒れます。
ただしこれは飽和の機構が働く範囲での話です。飽和は「界面の Si–H を使い切った」ことで起きるので、別の機構——電界で新しいトラップが作られる、というような——が同時に動いていれば、この安全側の保証は消えます。次の節で測るのが、まさにその場合です。
だから外挿の符号を論じる前に、測定範囲の中に飽和の兆候があるかどうかを先に確かめます。両対数で 対 を引いて、傾きが後半で寝ていれば飽和側、後半で立っていれば別の機構が乗っています。
も も、測り方で別の値になる
式の係数を「材料の定数」として扱えるかどうか。2010 年の速いトラップと遅いトラップの研究2が、この点を正面から調べています。
対象は SiON/HfSiON ゲートスタックの p チャネル電界効果トランジスタ、測定温度 448 K。同じ素子の を、3 つの異なる方法で取り出しました。
| 方法 | 何を拾うか |
|---|---|
| 1 つ目 | 速い緩和成分と遅い緩和成分の両方、つまり NBTI が作った電荷の全部 |
| 2 つ目・3 つ目 | 遅い成分のみ |
を当てはめると、結果は 2 つ出ました。
- 3 つの方法すべてで、 と の両方が印加電圧に依存する
- 遅い成分だけの値と、速い+遅いの値は、はっきり別だった
論文の結論はこうです。すべてのトラップを 1 組の と で記述することはできず、この結果は、NBTI のデータから信頼性寿命を確定する手順そのものに懸念を投げかける。
指数を 10% 外すと、寿命は 2.9 倍ずれる
が条件で動くとして、動いたときの影響がどれだけ大きいかを数にします。
寿命は、 がしきい値 に達する時間です。式を逆に解くと
指数の逆数が肩に乗ります。 が 0.2 前後の値なので、 は 5 前後。 の小さな誤差が、5 乗の側で拡大されます。
(1 秒での動きの 10 倍に達したら故障、という設定)として、
| 0.20 | 5.00 | 1.0 × 10⁵ 秒 |
| 0.22 | 4.55 | 3.5 × 10⁴ 秒 |
を 10% 外すと、寿命は 2.9 倍ずれます。向きも確かめておくと、 を小さく見積もるほど寿命は長く出ます。楽観側へ傾く方向です。
指数を一定とみなすこと自体が崩れる場合があります。2025 年の 4H-SiC MOSFET におけるべき指数と故障時間の研究3が、その実例を報告しています。
対象は 1700 V の 4H-SiC MOSFET、1 MHz のスイッチング条件下でゲートとドレインへ同時に応力を掛けた測定です。
| 観測 | 内容 |
|---|---|
| 時間依存 | シリコン素子で通常仮定される古典的な反応拡散の振る舞いから離れる |
| べき指数 | 最も大きい負のゲートバイアス(−10 V)で明確に増える |
| 解釈 | 電界が駆動するトラップ生成の機構が働いている |
論文の結論の 1 つがそのまま警告になっています。従来のシリコン BTI モデルを SiC へ直接当てはめることはできず、指数を一定とみなす寿命外挿は大きな誤差を生む。
活性化エネルギーの符号は、測って確かめる量
同じ 2025 年の研究3が、もう 1 つ報告しています。温度を振った応力試験で、活性化エネルギーが負に出ました。
理由も書かれています。低い温度ではデトラップ(トラップからの電荷の抜け)が抑えられ、そのぶん劣化が速く進む。
この符号は、加速試験の前提を裏返します。加速係数の標準的な形は
使用条件 25 °C(298 K)、試験条件 125 °C(398 K)で計算します。、 なので
加速係数が 0.0105。つまり 95 分の 1 です。125 °C で 1,000 時間走らせた試験が、25 °C の使用条件のおよそ 10.5 時間ぶんに相当します。温度を上げたことで、試験が遅くなっています。
符号を確かめる最小の実験
上の値は 1700 V の SiC パワー素子を 1 MHz でスイッチングさせた条件のものです。シリコンのロジック素子へ持ち込むには、自分の系での測定が別に要ります。
持ち帰るのは数字より、手順のほうです。活性化エネルギーの符号は、材料と機構で決まる測定量です。定数として据える前に、測ります。
最小の手順はこうなります。
- 温度を 3 点取る。2 点で出るのは符号だけで、直線性は 3 点目で初めて確かめられます
- 同じ に達する時間を各温度で測る
- を に対して並べ直す。傾きが正なら は正、負なら負です
傾きが 3 点で直線から離れるときは、温度域の中で機構が入れ替わっています。このとき 1 本の で全域を書くのは無理なので、使用温度を含む狭い範囲で取り直します。
符号が負に出たときの打ち手は 1 つです。加速のために温度を上げる設計をやめ、電圧または時間のほうで加速します。
試験の長さは、目標と信頼度から逆に引く
ここまでは外挿の精度の話でした。では、どれだけの試験を組めばよいのか。2004 年の寿命信頼性実証のための試験設計に関する報告4が、設計の入口をまとめています。
報告はまず、それまでの実情を書いています。信頼性の実証や検証は固定期間の試験、あるいは信頼度成長型の試験として行われてきた。顧客仕様や規格の指定がある場合を除き、どの環境をどの水準でどの順に掛けるかは試験設計者の判断に委ねられていた。
そのうえで提案されているのが、逆向きの設計です。入力は 3 つ。
| 入力 | 内容 |
|---|---|
| 信頼性目標 | どの水準を達成するか |
| 望む信頼度 | どれだけの確からしさで言うか |
| 予期される応力 | 設計寿命や保証期間のあいだに製品が受け、蓄積する環境・動作の応力 |
この 3 つから、加速試験の条件と長さを引きます。報告は自動車用のオーディオアンプとその部品を例に、この手順を実際に組んでいます。
外挿の話とつながるのはここです。3 番目の入力——蓄積する応力——は、製品が実際に受ける電圧・温度・動作時間の合計です。ウェーハ上の連続応力から製品の寿命を見込むには、この蓄積量へ換算する段が要ります。換算の係数を「デューティ比」と呼ぶことが多いのですが、その 1 行が正しいかどうかは、回復する成分をどう数えるかに掛かっています。
回復する成分と、残る成分を分ける
連続応力と断続応力で劣化の量が別なのは、応力を外しているあいだに一部が戻るからです。だから「連続の結果 ÷ デューティ比」という換算は、戻る分と留まる分の比率を暗に一定とみなしています。
2013 年の NBTI における永続成分の生成・回復機構の研究5が、留まる側の中身を分解しています。等時間焼鈍、スピン依存再結合(SDR)、スピン依存トンネル(SDT)を使った解析です。
軽い応力のあとの永続成分には、2 種類の欠陥が見つかりました。
| 欠陥 | 正体 |
|---|---|
| 界面準位(D_it) | シリコンのダングリングボンド |
| 固定正電荷(D_pc) | 過配位の酸素または窒素(Si–X⁺H–Si、X = O または N) |
2 つは密接に関係しています。機構はこうです。NBT 応力で界面の Si–H 結合から放出された水素が、ゲート絶縁膜中の Si–X–Si 構造と反応する。その結果、シリコンのダングリングボンド(D_it)が残り、同時に過配位の酸素・窒素(D_pc)が生成される。
さらに 2 つの観測が並びます。
- 重い応力では、生成と形成が同時に加速し、追加の D_it と D_pc が作られる
- これらの欠陥は、応力誘起リーク電流(SILC)も引き起こす
- 水素と無関係な欠陥(K 中心や E′γ 中心に似たもの)も検出された。こちらは Si–X 結合そのものの切断で作られる
HTOL が測っているのは、何時間ぶんの何か
換算の先にあるのが HTOL です。2023 年の車載チップの高温動作寿命試験に関する報告6が、この試験の位置づけを書いています。
「高温動作寿命(HTOL)試験は、車載チップの信頼性試験における重要な項目である。その目的は、高温負荷のもとでの車載チップ製品の耐久性を測ることにある。」
報告は、広く使われている規格・計算モデル・関連研究を踏まえて、高温耐久試験のモデルと、試験結果へ影響する各種の因子をまとめ、一般的な計算・解析の方法を提示しています。
ここで前の 2 節が効いてきます。
- HTOL の結果を使用条件へ換算する式には、活性化エネルギーが入ります。その符号と値は測定量です
- 試験の長さと条件は、信頼性目標と信頼度と蓄積応力から逆に引きます
- 試験そのものは連続動作なので、製品の断続動作へ換算するとき、回復の数え方がもう一度入ります
3 つの換算が直列に並んでいることになります。それぞれが 2〜3 倍の不確かさを持つなら、直列の合成は 1 桁に届きます。
セルの側では、 が雑音余裕へ乗る
最後に、 が回路のどの量に乗るかを確かめます。2020 年の BTI を考慮した 10T SRAM セルの研究7が、セル構造と BTI 耐性の関係を測っています。
提案されているのは、非対称の放射線耐性 10T(AS10T)セルです。読み出し経路を分離する回路と、感受性ノードの臨界電荷を増やすブースタ回路を持ちます。
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 読み出し時の静雑音余裕(RSNM) | 6T セルに対して 3.25 倍 |
| 臨界電荷 | 他のセルを上回る |
| BTI の影響 | 参照セルより小さい |
RSNM が 3.25 倍というのは、 の許容量が 3.25 倍ということです。上で作った寿命の式へ当てはめると、
が 3.25 倍になると、 なら寿命は 倍です。
指数の肩が、ここでは味方に回ります。 という大きな冪は、 の誤差を拡大する一方で、しきい値の改善も同じ冪で拡大します。
だから打ち手の順番が決まります。外挿の精度を 2 倍良くするより、しきい値を 1.2 倍広げるほうが寿命の伸びが大きい。 倍です。プロセス側で と を詰めるのと、回路側で を広げるのは、同じ寿命という指標に対する 2 つの入口です。
現場で動く判断
- 両対数で傾きの推移を確かめてから外挿します。後半で傾きが寝ていれば飽和側で、外挿は安全側に倒れます。後半で傾きが立っていれば、電界駆動のトラップ生成のような別の機構が乗っています。
- の誤差は 乗で拡大します。 を 0.22 と見誤ると、寿命は 2.9 倍ずれます。小さく見積もるほど寿命は長く出るので、楽観側です。
- 活性化エネルギーの符号を、3 温度で確かめます。直線性は 3 点目で初めて確かめられます。符号が負なら、温度による加速は逆効果になります。
- デューティ比による換算は、自社で較正した範囲の内側でのみ使います。回復成分と永続成分の比率は応力の強さに依存し、永続成分自体も 2 系統あります。使えるのは自社で較正した範囲の内側だけです。
- 3 つの換算が直列に並んでいることを、報告へ書き出します。外挿・加速・デューティの 3 段がそれぞれ 2〜3 倍の幅を持つなら、合成は 1 桁です。点推定 1 つで書くと、その幅が消えます。
- 回路側の余裕を広げる手を、プロセス側の手と同じ土俵で比べます。 が 1.2 倍で寿命 2.5 倍、3.25 倍なら 363 倍。同じ 乗が、こちらでは味方に回ります。