1 Gb の NOR Flash を 1 個だけ試験しました。このとき、サンプル数はいくつでしょうか。1 個か、それとも中にある 1,024 個の消去単位を数えて 1,024 か。
答えは「どちらもありうる。ただし、成り立つ条件と、出てくる故障率の意味が動く」です。
数え方を下げるという操作
信頼性試験のサンプル数は、規格の側が先に決めています。その数が現実と衝突するという話が、公開文献に何度も出てきます。
少量生産のカスタム部品で、認定試験のサンプル数を減らす手立てを追った 2021 年の報告1は、出発点をこう書いています——軍用・航空宇宙向けの電子製品は生産量が桁で小さく、JEDEC の JESD47 が規定する大きなサンプル数では費用が見合う水準を超える。そこで FITS 解析やポアソン指数二項分布でリスクを見積もり、他の試験条件を調整して埋め合わせるという道を取っています。
同じ壁は品質工学の側からも書かれています。試験条件を厳しくしてサンプル数を減らす手法の 2018 年の論文2は、高い信頼性水準を確かめるには大きなサンプル数が要るという一文から始まります。厳しくするのは試験条件のほう、というのがそちらの解き方です。
もう 1 つの解き方が、数える単位を下げることです。
NVM の耐久試験——プログラム/消去の繰り返し回数——では、サンプル数を「試験したチップの数」で数えるのが素直です。ここを、試験したチップ数と、チップあたりの試験セクタ数の積へ書き換える。
1 Gb の NOR Flash は 1,024 セクタを持ちます。1 個が 1,024 サンプルになる。同じシリコン、同じ試験時間で、統計が桁で増えます。
根拠は 2 つです。セクタは消去操作の最小単位であること。全セクタが等しい故障確率を持つと仮定できること。
「独立で同一分布」が成り立つ範囲を見極める
サンプル数を増やす操作は、同じ母集団から独立に取っていることが前提です。単位を下げるとき、当たるべきことが 3 つあります。
- 同一分布か。全セクタが同じプロセス、同じレイアウト、同じ周辺回路の条件で作られているか。チップ端のセクタと中央のセクタで条件が別なら、同一分布の前提が崩れます。
- 独立か。1 セクタの故障が、他のセクタの故障確率へ波及するかどうか。共通の周辺回路(チャージポンプ、デコーダ、センスアンプ)を共有していれば、そこの故障は全セクタへ同時に乗ります。これは独立ではありません。
- 何の故障率を知りたいのか。セクタ単位で数えた故障率はセクタの故障率であって、チップの故障率とは別物です。チップが 1 セクタでも落ちれば不良なら、
セクタ故障率が 10 ppm でも、チップ故障率は 1% です。
つまりこの手立ては、「セクタ固有の故障モード」を高い検出力で拾うためのもので、チップ全体の故障率をそのまま報告するためのものとは別。用途を取り違えなければ強力で、同じ考え方は多コアのチップ、多チャンネルの ADC、アレイ状の構造すべてに当てはまります。
セクタの 10 ppm が、チップでは 1.0% になる
数え方を下げると、出てくる故障率も下げた単位のものになります。元の単位へ換算し直す計算を挟んで初めて、桁を 3 つ取り違えずに済みます。手を動かします。
チップが 1 セクタでも落ちれば不良、という合否なら、チップが良品である確率は「1,024 個のセクタが全部良品である確率」です。セクタが独立なら、良品確率の積になるので
移項すれば、さきほどの式が出ます。
セクタ故障率 10 ppm、つまり 。指数を対数へ落として
1.02%。セクタで 10 ppm という、いかにも良さそうな数字が、チップでは 1% です。 が十分小さい範囲では と書けるので、セクタ数がそのまま倍率になります。
この換算をどこへ挟むかは、故障率そのものの書き方とも繋がっています。JESD74/JESD74A の故障率計算を任意のサンプル数へ一般化した 2009 年の検討3が相手にしているのがその側で、サンプル数を動かしたときに故障率の式がどう動くかを正面から追っています。数え方を下げる操作は、その入口に当たります。
AQL と LTPD は、守る相手が別
サンプル数の決め方は、2 つの誤りに対応して割れます。
| 第 I 種の誤り(α) | 第 II 種の誤り(β) | |
|---|---|---|
| 内容 | 良品ロットを棄却する(偽陽性) | 不良ロットを受け入れる(偽陰性) |
| 対応する指標 | AQL(acceptable quality level) | LTPD(lot tolerance percent defective) |
| 守る相手 | 生産者危険 | 消費者危険 |
| 典型値 | — | β = 0.10 |
| 使う場面 | インライン試験・検査、ウェーハプロービング、最終外観検査 | HTOL、EFR などの信頼性試験 |
同じ「サンプル数を求める」でも、守っている相手が別です。
この対立が費用の形で表に出ることを、出荷 PPM をゼロへ近づける試験手法をまとめた総説4が追っています。自動車向けを中心に出荷 PPM ゼロが要求されるようになり、試験へ非常に厳しい条件が課される。そこで品質・性能・費用のあいだに衝突が生じるというのが、この論文の出発点です。試験カバレッジと出荷 PPM の関係を歩留まりモデルで追い、最終試験での歩留まり損失と厳しい限界値が粗利益をどれだけ削るかまで金額で示しています。
AQL 側を締めると生産者が払い、LTPD 側を締めると試験量が増える。どちらを締めるかは、この 2 つの費用の比較になります。
なお、サンプリング計画の α・β と、F 検定や t 検定の α・β は別物です。記号も臨界値(0.05 と 0.10)も同じなので、ここは取り違えやすいところです。
45 と 77 は、1 本の式から出る
LTPD の表にある数字には、閉じた形があります。合否基準 = 0/1、つまり1 個でも不良なら不合格なら、不良率 のロットが合格してしまう確率は です。これを 以下へ抑えたいので、
LTPD 5% なら 、厳密には 44.9 で切り上げて 45。LTPD 3% なら 、厳密には 75.6 で 76。規格表の値が 77 になっているのは、保守側へ丸めているぶんです。
を覚えておくと、表を引かずに桁が出ます。この式は、LTPD を 1 桁下げるとサンプル数が 1 桁増えることを、そのまま言っています。JESD47 の規定するサンプル数を減らす手立てを追った報告1が相手にしているのも、この式が返す数の大きさのほうです。
σ のはしごは、そのまま ppm のはしご
もう 1 つ、桁で暗算できるものがあります。管理水準の σ と故障率の対応です。正規分布の裾を両側で積分するだけなので、出典を当たるより先に計算が出ます。
| 管理水準 | 両側の裾の確率 |
|---|---|
| ±3σ | 2,700 ppm |
| ±4σ | 63.3 ppm |
| ±4.25σ | 21.4 ppm |
| ±5σ | 0.573 ppm |
| ±6σ | 1.97 ppb |
| ±7σ | 0.00256 ppb |
この表から 2 つ出ます。
1 つめ。 の誤警報率は両側で 0.27% です。工程が数百あれば、毎日どこかが必ず警報を出します。 まで広げれば 0.0021%、約 126 分の 1。管理限界を より広く取る現場があるのは、感度を捨てているからより、警報の総数を工程数で割った結果です。
2 つめ。数十億トランジスタのデバイスを歩留まらせるために 1 ppb を十分に下回る故障率が要るなら、必要な管理水準は表の下の側です。±6σ で 1.97 ppb、±6.1σ でようやく 1.06 ppb。 の 63 ppm とは 4 桁以上離れています。
EUV の確率的欠陥が、まさにこの領域の話です。EUV リソグラフィの確率的な印刷不良を追った 2018 年の論文5と、確率的スケーリングの指標をまとめた検討6が相手にしているのは、平均値より分布の裾のほうです。同じ露光条件のなかで、ごく低い確率で起きる 1 個の欠陥が歩留まりを左右する。σ のはしごを何段下りる必要があるかが、そのまま要求の厳しさになります。
1 ppb を実証するには、23 億個が要る
2 つの式を繋ぎます。 に、上のはしごの下のほうを入れてみてください。
23 億個。故障ゼロで 1 ppb を実証するには、それだけの独立試行が要ります。HTOL に 1,000 個載せる話とは、6 桁離れています。EUV の確率的な印刷不良5のように、ごく低い確率の事象が歩留まりを左右する領域では、必要な試行数がこの桁へ入ります。
ここで数え方の話が戻ってきます。1 Gb NOR Flash を 1,024 セクタとして数えれば、。220 万チップ。3 桁は縮みますが、それでもまだ量産の全数に近い数字です。数え方を下げる一手は、1 ppb の手前で止まります。
同じ操作を、歩留まり要求の側もやっている
面白いのは、先端デバイスの歩留まり要求がまったく同じ数え直しを、断りなしに使っていることです。
1,500 億トランジスタ級のプロセッサを仮定します(この寸法はこちらの仮定です)。トランジスタあたりコンタクトが 3 個なら、このダイを歩留まらせるのに要るコンタクト故障率は
チップ数より、コンタクト数のほうを分母に据えた。NVM の耐久試験でチップ数よりセクタ数を分母に据えたのと、同じ操作です。片方は信頼性試験の検出力を上げるため、もう片方は歩留まり要求を書き下すため。動機が逆でも、やっている数え直しは同一です。
その数え直しの効果が極端です。 を故障ゼロで実証するのに要るコンタクト数は
1 枚のダイに 個あるので、 枚。
2.5 個のプロセッサを検査すれば 水準の主張ができる、という計算になります。チップ単位で数えれば 1 兆個要るところが、コンタクト単位で数えれば 3 個。桁の動き方が、セクタの場合よりさらに極端です。
ここで独立性の注意がそのまま戻ってきます。
1 枚のダイに載った 個のコンタクトは、独立ではありません。同じロット、同じ露光、同じレジスト、同じエッチチャンバを通っています。共通のチャージポンプを共有するセクタが独立でないのと、まったく同じ構造の問題です。
だから実効的なサンプル数は、 よりはるかに小さい。どれくらい小さいかは、共通原因のばらつきがどれだけ載っているかで決まります。2.5 枚で が言える、は上限であって、実務の数字とは別です。
逆に言えば、「単位まで下げて数える」手立ての価値は、共通原因を潰したあとで最大になります。装置間・ロット間のばらつきを先に落とす。そのうえで単位を下げる。順序を逆にすると、増えたサンプル数はただの見かけです。
故障率の上側信頼限界は、 を置き換えるだけ
最後に、故障ゼロの試験から何が言えるのかを式の形でたどります。JESD74/JESD74A を任意のサンプル数へ一般化した検討3が相手にしているのがここです。
点推定は素直で、
が故障数、 がサンプル数、 が試験時間、 が加速係数。
片側 上側信頼限界(F 分布による厳密法)は、
2 つの式は、分子が か かというところだけが別です。だから は の置換係数(replacement factor)と呼べます。
分布による近似(二項分布へのポアソン近似に基づく)でも、構造は同じです。
故障ゼロ()でも、 は正の値を保ちます。だから上側限界が有限に出ます。「1 個も壊れなかった」から何かを言えるのは、この構造のおかげです。
ただしポアソン近似の誤差は、サンプル数が大サンプルの仮定から離れるほど大きくなります。信頼性試験はたいてい少数サンプルなので、 近似より F 分布の厳密法のほうが安全です。
数え方を下げて を 1,024 倍したとき、その が独立試行の数として通るかどうかが、この式全体の前提になります。分母の を膨らませる操作は、分子の の意味まで動かします。
実務での使い方
アレイ構造の製品では、サンプル数の数え方を単位まで下げられます。チップ × セクタ、チップ × コア、チップ × チャンネル。
ただし、共通回路を共有していれば独立ではありません。独立性を先に当たってください。
セクタ故障率とチップ故障率は、別の欄に書いてください。1,024 倍の差が付きます。
AQL と LTPD は守る相手が別です。インライン検査は AQL、信頼性試験は LTPD。出荷 PPM の費用を金額で示した総説4が書くとおり、どちらを締めるかは費用の比較になります。
サンプリングの α・β と、仮説検定の α・β は別物です。記号と数値が同じなので取り違えます。
サンプル数が小さいなら、 近似より F 分布の厳密法を使ってください。
管理限界を より広げている現場には、算数の理由があります。 の誤警報は両側 0.27%。工程が数百あれば毎日どこかが鳴ります。 なら約 126 分の 1 です。
を暗算に使ってください。LTPD 5% で 45、3% で 76〜77、1 ppb で 23 億。要求を 1 桁下げたら、サンプル数は 1 桁上がります。
「単位まで下げて数える」は、共通原因を潰したあとにやってください。先にやると、増えたのはサンプル数より見かけの自由度のほうです。
ここまでは「1 回の試験から取り出せる情報を増やす」向きの話でした。もう 1 つ、逆向きの手があります——試験のほうを、決着がついた時点で切り上げる。上の は、最初に を決め打ちしてしまう流儀の式です。データが 1 個増えるたびに「もう合否を言えるか」を当て直す逐次検定に切り替えると、必要な試験量そのものが動きます。 を先に確定するかどうかが、次の岐路です。