EM 寿命を最適化する DOE で、応答に を使ったところ、検証点の一部で回帰誤差が 120% になりました。モデルの形より手前、因子の選び方より手前に原因がありました。たった 4 件のデータです。4 件が、どうやって 120% を作るのか。
ユニフォームデザインで EM 寿命を最適化した 2015 年の研究1に、その顛末が書かれています。原因は 4 件の初期故障でした。
この初期故障が最初の計算を歪め、導いた が真の真性故障寿命から離れていました。
対策が 2 段階で、2 番目が本質的です。
- 生データを取り直して整え、4 件の初期故障を除外する。真性故障だけに絞れば、 は部品の真性寿命を正しく表す。
- 第 2 の応答を導入する。「真性故障の割合」。
真性の と、真性故障の数を両方とも応答に組み込めば、実験をモデルごと組み直せます。
初期故障を除く一手が、まだ半分である理由
初期故障を除外すると、 は正しくなります。ところが、初期故障が何件出たかという情報が、そこで捨てられます。
すると最適化がこうなります。
- 条件 A:真性寿命 100 kh、初期故障 0%
- 条件 B:真性寿命 120 kh、初期故障 5%
だけを追えば B が勝ちます。実際には、5% が初期に落ちる工程は棚から落ちます。
2 つの応答は、たいてい対立します。粒径を大きくすれば真性寿命は伸びるが、粒界の分布が不均一になって初期故障が増える、というように。
だから片方だけを最適化すると、もう片方が悪化する方向へ進みます。
対処は、両方を応答として持ち、それぞれにモデルを立てて、同時に最適化することです。真性寿命には通常の回帰、割合には一般化線形モデル(0〜100% に収まる量なので)。
見分け方。DOE の応答に寿命を使うなら、必ず 「その寿命がどれだけの母集団を代表しているか」を並べてください。除外した数は、捨てるべき情報より、第 2 の応答です。
なぜ 4 件で 120% になるのか
4 件という数の小ささと、120% という誤差の大きさが、釣り合いを欠いて映ります。釣り合う理由は、 が外挿で決まる量だからです。等温 EM 試験そのものにも、実務上の注意点2と温度勾配の影響3がまとめられています。手を動かします。
ワイブル確率プロットの縦軸は、故障率 を2回対数へ通したものです。
が形状パラメータ(プロットの傾き、無次元)、 が特性寿命。 が の一次式なので、縦軸のある点から別の点までの距離は、 で割って時間に直すことになります。
外挿の距離を測ります。目標は なので 。一方、1 条件あたり 20 個測ったとすると、中央順位で最も下にある点は 、。差は 3.55 です。
(後で出てくる TDDB 試験の傾きを借ります)なら 、倍率にして 。 は、実際に観測した最短寿命よりさらに 4 倍ほど下、観測範囲より下の時刻にあります。
4 件が乗るのはここです。外挿の距離は に比例するので、傾きが寝れば外挿は伸びます。 が 2.6 から へ変わったときの の比は
120% の誤差、つまり 2.2 倍のずれを作るのに要る は 1.65 です(上式を解いた。この記事での計算)。傾きが 2.6 から 1.65 へ、37% 寝るだけで足ります。
初期故障 4 件は、まさにその傾きを与える場所に座っています。分布の下端に別の母集団が混ざれば、当てはめた直線は必ず寝る。 なら下から 4 点は最下位 20% で、外挿の起点になる区間そのものです。「異常点が少し混ざった」より、傾きを与える区間を占領されていた、というのが 120% の中身でした。
対策1(除外)が乗る理由も、これで分かります。除外は「不要なデータを捨てる」操作より、外挿の起点を真性故障だけで引き直す操作です。
モデル構築の手順も具体的でした。両方の応答に対して同じステップワイズ回帰を適用し、効果の遺伝性(effect heredity)と最小 AICc の原則で最良モデルを選ぶ。
真性故障数のモデルで選ばれた項は、X1〜X6 の主効果と、X1×X5、X3×X5 の 2 つの交互作用。
結果。「最適条件を 3 枚のウェーハで検証し、初期故障なしにはるかに長い寿命が得られることを確かめた。ベースラインの約 30 kh よりはるかに良い。」
さらに、最適化した EM 性能を量産ラインへ実装して毎週監視しており、 と初期故障数が統計的に安定している、と報告されています。DOE の結果が、そのまま管理項目になっています。
2 つの応答が対立する理由は、粒界にある
ここまでは「粒径を大きくすれば真性寿命は伸びるが、初期故障が増える」とだけ置きました。その機構は、EM の故障条件そのものまで下りると浮かびます。薄膜のエレクトロマイグレーションと空隙形成90164-2)が、その条件を早い時期に定めています。
エレクトロマイグレーション単独では、原子束の発散が立つ場所があって初めて金属線に故障が起きます。そのような発散は三重点と、小さい粒から大きい粒への継ぎ目に生じます。小→大の粒界では質量が蓄積し、大→小の粒界では質量の欠乏が観察されます。
故障するのは「原子が動く場所」より「原子の出入りが釣り合いを欠く場所」です。
これで 2 つの応答が分離します。
- 真性寿命 ← 粒内拡散と粒界拡散の速さ。「粒内拡散の活性化エネルギーは粒界拡散より高い」ので、粒界を減らすほど遅くなる
- 初期故障 ← 発散点が 1 個でもあるかどうか。分布の裾の話で、平均とは別
同じ微細構造という 1 つの摘みが、片方には平均として、もう片方には裾として乗ります。だから対立するのであって、偶然そう映っているわけとは別です。
極端な例が数字で出ています。単結晶と多結晶の Al 線を同一条件(175 °C、 A/cm²)で試験した 1970 年の報告4では、多結晶線が 30 時間で故障したのに対し、単結晶線は 26,000 時間後も無傷でした。
粒界を全部消すと、寿命が 3 桁近く伸びます。現実的な近似が、線が細くなると三重点ゼロの確率が高くなること。バンブー構造がそれです。
だから粒径の摘みは「大きくする」より「三重点を消す」方向へ回すのが正解です。粒を大きくしても、小→大の遷移が 1 か所残れば、そこが発散点として初期故障を作ります。
DOE が第 2 の応答として測っている「真性故障の割合」は、この発散点の個数を数えていることになります。直接の数え上げは手の外なので、故障の出方から数えている。
SM(ストレスマイグレーション)も同じ質量輸送の裏表なので、因子が重なります。EM の DOE で粒構造を動かすなら、SM 側の応答も同時に載せてください。片方を直して片方を壊します。
比較のための現実的な打ち手もあります。Al 膜へ銅をドープすると EM が減ること90764-5)は 1971 年に報告されていて、4 wt% の Cu で寿命が 70 倍になりました。粒界拡散を不純物で遅らせる方向です。867 倍(構造)と 70 倍(組成)。DOE で振る因子の振れ幅の目安になります。
18 回で済ませる
実験回数の削減も具体的でした。
前提が 2 つ。
装置:PLR EM 試験設備の容量が限られており、1 実験あたり DUT ボードが 2 枚要る。総ラン数が 32 を超えると、追加の炉が必要になり、実験完了に要する時間が実質倍になる。
より重大な懸念。「より多くの炉、DUT ボード、ラン数を使うことで、ばらつきが増える可能性がある。」
ロットサイズ:25。
古典的な計画では扱えません。
| 手法 | 必要なラン数 |
|---|---|
| 完全 2 次モデルの応答曲面計画 | 28 + 1 = 29 |
| 古典的な中心複合計画 | 46 以上 |
| 超飽和ユニフォームデザイン | 18 |
29 でもロットサイズ 25 を超えます。そこで 効果のスパース性(effect sparsity)を使う。
3X/4X 則。2 次モデルで実際に効いている効果の数は、モデル中の因子数のおよそ 3 倍か 4 倍どまりだ、という経験則です。
因子 6 個 × 3 = 18。これで 18 ランに決めています。
水準数の割り当てが巧みでした。より重要な変数へ、より多くの水準を割り当てる。
X1 から X6 に、4、5、4、6、4、6 水準。
採用したのは U18(4×5×4×6×4×6) のユニフォームデザイン。一様性の指標である中心化 L2 乖離度(CD2)は 0.05195。実験点を一様に散らすという発想そのもの5は、数論的な一様分布の研究から出ています。
因子ごとに水準数を変えられるのが、ユニフォームデザインの実用上の強みです。直交表だと水準数を揃える必要があります。
ベースライン(現行工程の標準条件)をウェーハ #12 として実験に含めている点も要点です。同じロット・同じ試験で比較できる基準点を、必ず 1 つ入れる。
エンジニアリングの直感と専門的な判断で選んだ「extra」の実験点も足してあります。計画に従うだけでなく、勘で足す枠を残している。
ワイブル確率プロットの点の間隔で、捏造が分かる
データの完全性を疑うとき、実用的な検出の手がかりが 1 つあります。EM 寿命を 2 応答で最適化した研究1も、最初に疑ったのはモデルより生データの側でした。
疑わしい結果の原因は 4 つに割れます。異常な装置/試料、誤ったデータ解析、テンプレートの誤用、そして意図的な改竄。最後のものがいちばん重く、しかも運用規律の問題なので、技術的な検算では扱えません。
そこで手がかりになるのが、WPP(ワイブル確率プロット)の Y 軸の変換です。この変換のせいで、上側のパーセンタイルは下側より密に並びます。
この密度の非対称性が、そのまま検査項目になります。
WPP の Y 軸は です。中央順位を使うと、 個のデータ点の は概ね等間隔に並びますが、変換後の Y 座標は等間隔を崩します。
- が小さい側(下側): の変化が大きい → 点が疎になる
- が大きい側(上側):変化が小さい → 点が密になる
だから正しいデータのプロットは、下が疎で上が密です。
ただし「上ほど密」は、途中で反転する
この形を検査項目にするなら、どこで密度が最大になるかを知っておく必要があります。変換の式を陽に書きます。
座標の間隔は について微分すれば出ます。
間隔が最小、つまり最も密になるのは、分母が最大になるところです。 とすると分母は で、 より 。
63.2% でいちばん密になり、そこから上は再び広がります。この 63.2% は、ワイブル分布の特性寿命のパーセンタイル そのものです。間隔が最小になる点と、 の点が一致します。
10 点のデータに中央順位 を当てると、 の隣接間隔はこうなります。
| 点の番号 | 前の点との間隔 | |
|---|---|---|
| 1 → 2 | 0.164 | 0.941 |
| 2 → 3 | 0.260 | 0.521 |
| 4 → 5 | 0.452 | 0.313 |
| 6 → 7 | 0.644 | 0.263(最小) |
| 8 → 9 | 0.837 | 0.295 |
| 9 → 10 | 0.933 | 0.399 |
下端の 0.941 から中盤の 0.263 へ 3.6 分の 1 に詰まり、上端で 0.399 へ戻ります。
だから「単調に詰まっていく」を検査条件にすると、本物のデータを弾きます。正しい検査条件は、下から急に詰まり、63% 付近で最小になり、最上位でわずかに広がるという U 字です。「上側は下側よりはるかに密」という言い方は、両端を比べれば正しい(0.399 対 0.941)けれども、途中の形までは言い当てていません。
捏造されたデータは、たいてい間隔を等間隔か単調にします。当たるべきは最小点の位置です。
例で当たります。傾き = 2.60、当てはまりも良好( = 0.99)という TDDB 試験のデータを考えます。それでも注意深く調べると、引っかかる点が出てきます。
が高いことと、データが本物であることは別です。むしろ 作られたデータほど直線に乗ります。
点の間隔のパターンは、 には表れません。別の目が要ります。
分布の割り当ては、20 年そのまま
どの分布を何に使うかの対応は、現場でほぼ固まっています。目録として添えます。
| 分布 | IC 産業での主な用途 |
|---|---|
| 二項 | 歩留まりと試験 |
| 幾何 | ARL(average run length) |
| 超幾何 | サンプリング |
| Poisson | 欠陥密度 |
| 正規 | SPC、Cpk |
| 対数正規 | EM |
| ワイブル | と TDDB |
| 指数 | 単純な MTTF の設定 |
分布どうしの関係も掴んでおくと早い。Poisson–二項、二項–幾何、幾何–超幾何、Poisson–指数、ワイブル–指数、そしてワイブル–最小極値分布(LEV)。
ワイブル–LEV の関係がいちばん実務的です。ワイブル分布の対数は最小極値分布になるので、WPP が直線になる。最も弱い箇所が壊れる(最弱リンク)現象がワイブルになる理由も、そこにあります。同一で独立な競合故障過程が多数あって、最初にある臨界点へ達したものが故障時刻を与える——という描像です。
この割り当ては、この 20 年でほぼそのままです。動いたのは、当てはめたあとの使い方(逐次検定、ベイズ更新、ユニフォームデザイン)のほう。新しい手法を疑う前に、分布の選択まで疑い直す手間は省けます。
分布を決めた先で効いてくるのが、この記事の冒頭で見た 2 応答の設計1です。
実務での使い方
等温 EM 試験には、温度勾配という測定側の落とし穴3もあります。下の 6 点は、その手前で効いてくる設計の話です。
寿命の DOE には、必ず「真性故障の割合」を第 2 の応答として入れてください。寿命だけを最適化すると、初期故障が増える方向へ進みます。
初期故障を除外したら、除外した件数を残してください。それが第 2 の応答です。
因子ごとに重要度が別なら、水準数を変えてください。ユニフォームデザインなら、そこに自由があります。
因子数の 3 倍のラン数から始めてください。効果のスパース性が根拠です。
ベースライン条件を、必ず同じ実験の中に入れてください。別ロットの過去データは比較に使えません。
WPP は、下が疎で中盤が最も密、最上位でわずかに広がるのが正常です。等間隔に映ったら疑ってください。ただし「上へ行くほど単調に詰まる」を条件にすると、本物を弾きます。
ただし最も密になるのは 63.2%(特性寿命)で、そこから上は再び広がります。単調に詰まっていくことを条件にすると、本物を弾きます。
粒構造を振るなら、「粒を大きくする」より「三重点を消す」方向で考えてください。発散点が 1 個残れば、そこが初期故障になります。
の高さは、データが本物であることの証拠になりません。
WECO 則が拾えるのは、非単調なトレンドの手前までです。山型や周期的な変動を拾いたいなら、別の検定が要ります。
同じ構図が、量産の管理図にもあります。DOE の応答が寿命1本だったように、SPC も1種類のルールで回されていて、そこから漏れる型がある。この記事の締めくくりは「最適化した EM 性能を量産ラインで毎週監視している」でした。その監視の視野から漏れるものを掴んで初めて、締めくくりが締めくくりになります。WECO は「連続7点が上昇」のような単調性を追うので、 と初期故障数が山型に動いたときには、どのルールも沈黙します。信頼性の第1回で追った穴が、そのままここへ戻ってきます。