ガラスコア基板の熱膨張係数を 4.8 から 10 へ上げると、隅のはんだの累積非弾性ひずみが 16.02%/サイクルから 8%/サイクルへ半減した、という解析結果があります。
シリコンとの差は 2.0 から 7.2 へ広がっているのに、です。
隅の変位は 23.33 µm から 14.14 µm
基板と PCB が同じ温度変化を受けると、それぞれ自由に伸びようとします。伸びの差が、あいだのはんだボールへ押し付けられます。
両者の伸びが一致する中立点からの距離を (DNP)として
が最大なのは隅なので、隅が最初に死にます。
基板 20 × 20 mm なら隅の DNP は対角の半分で mm。熱サイクル −40 ↔ 85 °C で K。
| ガラスの CTE | PCB (18) との差 | 隅の変位 | 標準高さ 100 µm でのせん断 |
|---|---|---|---|
| 4.8 | 13.2 | 23.33 µm | 23.3% |
| 8 | 10.0 | 17.68 µm | 17.7% |
| 10 | 8.0 | 14.14 µm | 14.1% |
| 13 | 5.0 | 8.84 µm | 8.8% |
23.33 µm から 14.14 µm、0.606 倍です。
ところが報告された非弾性ひずみは 16.02% から 8.00%、0.499 倍でした。
押し込む変位より、ひずみのほうが速く減っています。2 つの関係は、比例より急です。
DNP をこう使うこと自体は確立していますが、限界もあわせて論じられてきました。1997 年のエリアアレイ実装における DNP の役割の研究1が、エリアアレイ実装のはんだ接合の熱疲労寿命を予測するうえでの DNP の役割と限界を指摘することを目的に掲げています。
DNP 単独では、まだ変数が 1 つ欠けます。2016 年の実装ピッチと DNP の複合効果の研究2が、故障サイクル数の DNP 依存には 3 つの傾向があると報告しています。DNP 依存がゼロの場合、指数が −1 に近いべき乗、指数が −2 に近いべき乗。そのうち前の 2 つは Coffin-Manson 型の標準モデルから大きく乖離する。原因は組立のピッチが剛性を変えることで、標準モデルの変数からピッチが抜けている。
ピッチを変えずに CTE だけを動かす、という条件の中でこそ、上の表が意味を持ちます。
差を作っているのは、一定の弾性ぶん 6.7%
比例からのずれを数にします。はんだ側のひずみを支配するのが「全体」の CTE 不整合であることは、1994 年の全体と局所の CTE 不整合の研究3が 3 次元非線形有限要素解析で分けています。
標準高さ 100 µm での全せん断は 23.33% と 14.14%。報告された非弾性ひずみは 16.02% と 8.00%。引き算します。
| 全せん断 | 非弾性 | 差(弾性ぶん) | 非弾性の割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 13.2 | 23.33% | 16.02% | 7.31% | 68.7% |
| 8.0 | 14.14% | 8.00% | 6.14% | 56.6% |
弾性ぶんが 7.31% と 6.14%、ほぼ一定です。平均 6.73% を両方から引くと 16.61% と 7.41% になり、報告値の 16.02% と 8.00% に近い。
一定の量を引いているから、残りの比が元の比より小さくなります。これが 0.606 と 0.499 の差の正体です。
非弾性の割合そのものが 68.7% から 56.6% へ落ちているのが、同じことの別の見え方です。押し込む量を減らすと、そのうち損傷になるぶんの割合まで下がる。
弾性ひずみは除荷で戻るので、疲労への寄与がゼロです。同じ「ひずみ 8%」でも、弾性なら損傷はゼロ。疲労寿命式が入力に取るのは、この引き算のあとの量だけです。
局所の指数を取ります。 の両辺の対数から
。CTE 差の作用は線形より強い。強くしているのは、材料の非線形性より、一定の弾性ぶんを引く操作のほうです。
寿命は 、差を半分にすると 5.4 倍
Coffin-Manson で寿命へ換算します。 で SAC305 の とすると
CTE 差を半分にすると、寿命が 倍になります。
| の変更 | ひずみ比 | 寿命比 |
|---|---|---|
| 13.2 → 8.0(今回) | 0.50 | 3.3 倍 |
| 半分にする | 0.38 | 5.4 倍 |
| 3 分の 1 にする | 0.23 | 12.8 倍 |
| 1 割減らす | 0.87 | 1.29 倍 |
指数が 2.43 なので、1 割の改善が 3 割の寿命になります。
という指数そのものが実測の対象です。2023 年の BGA 実装における SAC305 はんだ接合の疲労を測った研究4が、3 × 3 のはんだ接合を持つサンドイッチ型 BGA 試験体を作り、応力制御とひずみ制御の両方で 4 水準ずつ試験して各試料のヒステリシスループから 1 サイクルあたりの仕事と塑性ひずみ範囲を計算しています。表面仕上げ(OSP と ENIG)でも差が出て、OSP のほうが良い。
同じ でも、表面仕上げで が動くということです。上の 2.43 は比の話なので から独立していますが、絶対のサイクル数を求めるときは の条件が要ります。
同じ式を Cu-Cu 側へ当てると、せん断 118% が出る
では、ガラスの CTE を上げた代償はどこへ行ったのでしょうか。上側の Cu-Cu 接合へ、同じ式を当てます。
ダイ 10 mm なら隅の DNP は mm。Cu パッドの高さは 1.5 µm。
| (Si とガラス) | 変位 | 1.5 µm パッドでのせん断 |
|---|---|---|
| 2.0(ガラス 4.8) | 1.77 µm | 118% |
| 7.2(ガラス 10) | 6.36 µm | 424% |
118% と 424%。はんだ接合なら即死の数字です。
ところが Cu-Cu ハイブリッドボンディングは、この数字のもとで生きています。つまりモデルの適用外です。
理由は剛性です。せん断の式は、2 つの剛体のあいだに変形を引き受ける柔らかい層があることを前提にしています。はんだは柔らかいので、その前提が通る。Cu-Cu の直接接合では、その層が消えています。2 つの本体が一体として変形するので、不整合は接合部のせん断に代わって面内応力として両方の本体に乗ります。
Si の GPa、 を入れます。
| Si の二軸応力 | |
|---|---|
| 2.0(ガラス 4.8) | 45.1 MPa |
| 7.2(ガラス 10) | 162.5 MPa |
3.6 倍です。これが、ガラスの CTE を上げた代償の実体。
下側で寿命を 3.3 倍にする代わりに、上側の面内応力を 3.6 倍にしています。どちらも同じ 1 つのつまみから出ている。
162.5 MPa は、シリコンの破壊応力より十分に低い値です。だから交換が通ります。通る理由は、絶対値がまだ余裕の中にある点のほうです。比の有利さとは別の話になります。
この「局所と全体」の切り分けは、古くからある区分です。1994 年の全体と局所の CTE 不整合がはんだ接合のクリープへ与える効果の研究3が、部品と基板の材料間の CTE 差による「全体(global)」の不整合と、はんだ/リード界面の「局所(local)」の不整合を分けて、3 次元非線形有限要素解析でクリープひずみとひずみエネルギー密度の分布を予測しています。
30 年前に立てられた区分が、そのまま µm と mm の接合へ当てはまります。µm スケールの接合は直近の材料ペアで決まり、mm スケールの接合は全体の膨張で決まる。
コア材料の CTE は、反りの側にも作用する
もう 1 つ、CTE を動かしたときに動く量があります。
2025 年のコア材料の CTE が大型 FCBGA の反りへ与える影響の研究5が、ダイ/シリコンと、コアや誘電体といった基板材料との CTE 不整合がパッケージの熱反りを生み、熱機械的な故障につながりうると述べたうえで、コア材料の CTE、コア厚、パッケージ種別といったパラメータの効果を調べています。
反りの符号も書かれています。リフロー後に冷える過程では凸(crying)の正の反り、加熱時には凹(smiling)の負の反り。
シリコンの CTE は有機基板の総合 CTE より低いので、ガラスの CTE を上げる操作は反りを増やす方向です。
つまり、つまみ 1 本に 3 つの量がぶら下がっています。
| 動かす量 | ガラス CTE 4.8 → 10 |
|---|---|
| 隅のはんだの寿命 | 3.3 倍(改善) |
| Si の面内応力 | 3.6 倍(悪化) |
| パッケージの反り | 増加(悪化) |
下側の行だけを取ると 3.3 倍の改善になります。3 つを同じ表へ載せてはじめて、交換の全体が出ます。
アンダーフィルの条件は「低い CTE」
上側の Cu-Cu にはアンダーフィルがあり、下側の C4/BGA には無い——という非対称がよく持ち出されます。そのアンダーフィルの選び方には、直観と逆の報告があります。
2004 年のアンダーフィルの熱機械特性がフリップチップ BGA の熱サイクル疲労信頼性へ与える効果の研究6が、2 次元有限要素解析に共晶はんだバンプの定常クリープモデルを組み込んで、実用的なアンダーフィルの両極端を表す特性を振っています。
結論は 3 条件です。高いヤング率、低い熱膨張係数、高いガラス転移温度を持つアンダーフィルが、最も長い寿命を与える。
「基板に近い CTE」に代えて「低い CTE」です。方向が逆になります。
理屈は上の話と同じです。アンダーフィルが硬く、膨張しにくいほど、チップと基板の相対変位そのものを抑え込む。はんだへ届く が減ります。上の の を、第 3 の材料で抑え込む操作。
ただしガラス転移温度が条件に入っているのが要点です。 を超えるとヤング率が落ちて CTE が跳ね上がるので、熱サイクルの上限温度が を超えた瞬間に、上の 3 条件のうち 2 つが同時に崩れます。−40 ↔ 85 °C なら上限 85 °C。 がそれを十分に上回っているかが、選定の第一条件になります。
現場で動く判断
- 隅の相対変位は です。20 × 20 mm 基板・ K で、 なら 23.33 µm、8.0 なら 14.14 µm。
- 変位は 0.606 倍、非弾性ひずみは 0.499 倍。比例より急です。差を作っているのは、一定の弾性ぶん約 6.7% を引いていることです。
- 非弾性の割合そのものが 68.7% から 56.6% へ落ちます。押し込む量を減らすと、そのうち損傷になる割合まで下がる。
- 局所指数は 、寿命は 。CTE 差を半分にすると寿命 5.4 倍、1 割減らすと 1.29 倍。
- 絶対のサイクル数には の条件が要ります。表面仕上げで疲労寿命が動く4(OSP が ENIG より良い)。比は から独立、絶対値は に依存します。
- DNP 単独では、変数が 1 つ欠けます。ピッチが剛性を変えるので、DNP 依存には 3 つの傾向があります2。ピッチを揃えたうえでの CTE 比較が、上の表の前提です。
- 同じ式を Cu-Cu 側へ当てると 118% と 424% のせん断が出ます。これはモデルの適用外という合図です。柔らかい層が無いので、不整合は面内応力として本体が受けます。
- Si の二軸応力は 45.1 MPa から 162.5 MPa、3.6 倍です。下側で寿命 3.3 倍を得る代償がここ。通る理由は絶対値がまだ余裕の中にある点にあって、比の有利さとは別です。
- 局所と全体の区分は 30 年前に立てられています3。µm の接合は直近の材料ペア、mm の接合は全体の膨張。同じ区分が µm と mm の接合へそのまま移ります。
- アンダーフィルは「低い CTE・高い ・高い 」が最長寿命6です。「基板に近い CTE」とは方向が逆。 が熱サイクルの上限を十分に上回っているかが第一条件になります。