「軟らかい樹脂を 1 層足す」という対策が、片方では寿命を桁で動かし、片方では数割どまりです。
結果を分けているのは、材料より位置のほうです。
寸法が 2.35 倍になると、寿命は 4.47 分の 1
まず、対策が無いときの目減りを数にします。
隅の接合が受ける相対変位は で、 は中立点距離(DNP)。正方形や長方形のダイなら対角の半分です。
| ダイ寸法 | DNP | 5×5 mm 比 | Coffin-Manson の寿命ペナルティ |
|---|---|---|---|
| 5 × 5 mm | 3.54 mm | 1.00 | 1.00 倍 |
| 10 × 10 mm | 7.07 mm | 2.00 | 3.36 倍 |
| 10.2 × 10.2 mm | 7.21 mm | 2.04 | 3.48 倍 |
| 9 × 14 mm | 8.32 mm | 2.35 | 4.47 倍 |
| 15 × 15 mm | 10.61 mm | 3.00 | 6.84 倍 |
指数は SAC305 の を使っています。この値そのものが実測の対象で、2023 年の BGA 実装における SAC305 はんだ接合の疲労を測った研究1が、応力制御とひずみ制御の両方でヒステリシスループを記録し、1 サイクルあたりの仕事と塑性ひずみ範囲から寿命を計算しています。
この目減りが、採用できるダイ寸法の上限を作っていました。2007 年のコンプライアントなウェーハレベルパッケージの研究2が、ダイと PCB の CTE 不整合が生む応力によるはんだ接合の疲労が、ウェーハレベルパッケージの採用を 5 mm × 5 mm より小さいダイへ制限してきたと述べています。
上の表の 1 行目が、その壁です。
肩代わりの割合を、公開の数から逆算する
同じ研究が、壁を越えた実測を出しています。はんだ接合の下にコンプライアント層を入れることで、ダイと PCB のあいだの熱機械応力を効果的に最小化し、9 mm × 14 mm のパッケージで −40 ↔ 125 °C の温度サイクル 1,600 サイクルを超えた。
5×5 mm の適格ラインを 1,000 サイクルとして、逆算します。
荷重経路が直列なら、各部材の変位の和が総変位です。
左辺は材料と寸法と試験条件だけで決まり、設計では動かせません。動かせるのは分配だけ。
はんだの取り分を とすると、寿命倍率は 。7.16 倍に対応する は
コンプライアント層が、変位の 67.5% を肩代わりしています。
同じ逆算を、別の構造へ当てます。2012 年の大型ウェーハレベル CSP 向けプラスチックコアはんだボールの研究3が、プラスチックコア・銅層・はんだ層からなるボールで、柔軟なプラスチックコアを介して応力を分散させ、10.2 × 10.2 mm・ボールピッチ 0.3 mm・−40 ↔ 125 °C で 1,000 サイクルを超えたと報告しています。
プラスチックコアは、変位の 51.0% を肩代わりしています。
3 つの位置を表にします。
| 軟らかい要素の位置 | 荷重経路の中か | 肩代わりの割合 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| バンプの下の層 | 中(全体) | 67.5% | 9×14 mm で 1,600 サイクル2 |
| ボールの中のコア | 中(一部) | 51.0% | 10.2×10.2 mm で 1,000 サイクル3 |
| ボールの根元に巻くカラー | 外 | 0% | 直列の列の外側 |
カラーの行が 0% になる理由は、材料の硬さより位置にあります。荷重経路の脇なので、 の分配に加わらない。分配に加わらない部材は、どれだけ軟らかくしても を一定に保ちます。
根元に巻く補強が寿命を延ばす経路は別にあります。応力集中の鋭さを変える経路で、そちらは から独立。ただし動く幅は数割です。
プラスチックコアの 51.0% は、層の 67.5% より小さい。コアはボールの中にあるので、ボール高さの一部だけが直列に入っている。位置が「中」でも、どれだけの長さを占めるかで取り分が変わります。
寿命倍率は
分配をばね定数で書き直します。直列なら同じ力がかかるので 、したがって
と書けば 。寿命倍率は
自由なパラメータが ひとつだけの式になります。指数の 1.75 は実測から来る値1なので、この式で動かせるのは だけです。
| はんだの取り分 | 寿命倍率 | |
|---|---|---|
| 2.00 | 0.667 | 2.03 倍 |
| 1.00 | 0.500 | 3.36 倍 |
| 0.50 | 0.333 | 6.84 倍 |
| 0.48 | 0.325 | 7.16 倍(上の 9×14 mm) |
| 0.96 | 0.490 | 3.48 倍(上のプラスチックコア) |
| 0.20 | 0.167 | 23.0 倍 |
| 0.10 | 0.091 | 66.4 倍 |
| 0.05 | 0.048 | 206 倍 |
の領域では、寿命倍率が に漸近します。そこでは を半分にするごとに 3.36 倍。
この交換は、ほとんどの設計と逆向きです。普通は利得が痩せていきますが、ここでは軟らかくするほど 1 段あたりの利得が増える。 が 1 を切ったあたりから加速します。
要る厚みは、弾性率で桁が動く
を作る手は 2 つです。ばね定数は なので
SAC の GPa、はんだの標準高さ µm で数を入れます。
| 層の弾性率 | に要る厚み | に要る厚み | |
|---|---|---|---|
| 0.5 GPa(エラストマ) | 0.010 | 5.2 µm | 9.3 µm |
| 1 GPa | 0.020 | 10.4 µm | 18.5 µm |
| 3 GPa(ポリイミド級) | 0.060 | 31.2 µm | 55.6 µm |
| 6 GPa | 0.120 | 62.5 µm | 111 µm |
弾性率を 6 分の 1 にすると、要る厚みが 6 分の 1 になります。
ここが実装の境目です。3 GPa 級の樹脂で を狙うと 55.6 µm、ウェーハ上へスピンコートで作るには厚い。1 GPa 級なら 18.5 µm で、印刷や塗布の常用範囲に入ります。
「厚く積む」より「軟らかい材料を探す」ほうが、同じ を安く買えます。
構造の設計変数は、厚みと弾性率以外にもあります。2004 年のダブルバンプ型ウェーハレベル CSP の基板実装信頼性の研究4が、はんだに時間・温度依存を持たせる粘塑性構成則を使った非線形有限要素解析で、内側バンプの寸法(UBM パッド径とスタンドオフ高さ)、外側接合の寸法、ピッチ、ダイ厚、封止材厚を振ったパラメトリック検討を行っています。修正 Coffin-Manson 式で寿命を推定し、実験で検証した、と。
振られている変数のうち、スタンドオフ高さとダイ厚は上の式に直接入ります。スタンドオフは 、ダイ厚は曲げ剛性を通じて の実効値へ。
樹脂の応力緩衝層そのものを有限要素で設計した例も公開されています。2026 年の車載向け樹脂応力緩衝層型 W-CSP の研究5が、W-CSP は IC チップの上に直接作るので構造が単純で、複雑な構造を作りにくいこと、したがってチップと基板の熱膨張差が生む熱機械応力を下げる構造設計が、基板実装レベルの熱サイクル信頼性にとって非常に重要であることを述べたうえで、寸法と材料物性の影響を数え上げる必要を挙げています。
「構造が単純だから構造設計が重要」という順序が要点です。層を増やす余地が狭いので、入れられる 1 層の位置で決まる。
コストの側では、その 1 層が主費目になる
軟らかい層には値段が付いています。
2008 年の低コストなコンプライアント WLP 技術の研究6が、5 mm × 5 mm より大きいダイで WLP の採用を止めてきた2 つの要因として、CTE 不整合による接合の疲労と、パッケージのコストを挙げています。
内訳。I/O の再配置に RDL を要し、信頼性のためにコンプライアント層を要する WLP では、電解めっき工程と誘電体層がパッケージ費用の大きな部分を占める。2 層メタルの RDL ならさらに大きい。
対策として挙げられているのが、スピンオンのポリイミド・BCB・シリコーン誘電体に代えて、コンプライアント層を導体ごとウェーハへラミネートする方法です。銅導体をエッチングで配線に整形してソルダマスクで保護する形なので、電解めっきより安い。
同じ を、別の工程で買っているということです。上の表の「1 GPa で 10.4 µm」は材料と厚みの要求で、その厚みをスピンコートで作るかラミネートで作るかは、コストの側の選択になります。
| 作り方 | 主な費目 | への作用 |
|---|---|---|
| スピンオン誘電体 + 電解めっき | 誘電体層とめっき工程 | 厚みに上限 |
| ラミネート + 銅エッチング | 銅のエッチング | 厚い層を取りやすい |
厚い層を取りやすい工程は、 が高い材料でも を作れます。上の表で言えば、3 GPa の行が使えるようになる。材料の選択肢が広がるぶん、材料側の要求が緩みます。
現場で動く判断
- 寸法のペナルティは DNP の 1.75 乗です。5×5 mm を 1 とすると、10×10 mm で 3.36 倍、9×14 mm で 4.47 倍、15×15 mm で 6.84 倍。
- 対策なしの上限は 5 mm × 5 mm でした2。その壁を、軟らかい層が動かしています。
- 9×14 mm で 1,600 サイクル2を逆算すると、層が変位の 67.5% を肩代わりしています。5×5 mm の適格ラインを 1,000 サイクルとした場合。
- ボール内のプラスチックコアは 51.0%3。位置が「中」でも、占める長さが短いぶん取り分が小さい。
- 根元に巻くカラーの肩代わりは 0% です。荷重経路の外なので、 の分配に加わらない。材料の軟らかさでは が一定のままです。
- 寿命倍率は 、自由なパラメータは だけです。 で 3.36 倍、0.5 で 6.84 倍、0.1 で 66.4 倍。
- では利得が加速します。 を半分にするごとに 3.36 倍。痩せていく型の交換とは逆です。
- 要る厚みは です。 なら、1 GPa の材料で 10.4 µm、3 GPa なら 31.2 µm。弾性率を 6 分の 1 にすると厚みも 6 分の 1。
- 「厚く積む」より「軟らかい材料」が安い。同じ を、より薄い層で買えます。
- 構造が単純だからこそ構造設計が重要になります5。層を増やす余地が狭いので、入れられる 1 層の位置で決まる。
- コストの主費目が、その層そのものです6。誘電体層と電解めっき。ラミネートへ替えると厚い層を取りやすくなり、材料側の要求が緩みます。
- スタンドオフ高さとダイ厚も同じ式に入ります4。 と の実効値。粘塑性を含む解析で振るべき変数が、この 2 つを含んでいます。