同じ回路ブロックを、レチクルの左端と右端へ配置します。設計は 1 ビットも同じ。それでも、左用に作った補正をそのまま右へ貼ると、寸法がずれます。
原因は光の当たり方です。EUV のマスクは反射型なので、光は斜めから当たって斜めに戻る。吸収体には厚みがあるので、斜めの光は影を作る。影の向きが、レチクル内の場所で回ります。
吸収体の厚みは
影の長さは吸収体の厚みに比例するので、まず厚みを決めている式から入ります。
厚み の層を通る光の強度は、消衰係数 に対して
目標の透過率を とすると
厚みは に反比例します。 nm、 で数を入れます。
| 要る厚み | |
|---|---|
| 0.03 | 107 nm |
| 0.041 | 78 nm |
| 0.06 | 54 nm |
| 0.08 | 40 nm |
| 0.12 | 27 nm |
2018 年の代替 EUV マスク吸収体としての Ni-Al 合金の研究1が、この方向をそのまま書いています。EUV 光の斜入射、吸収体の厚み、入射角に対して一様さを欠く多層膜反射率の 3 つが組み合わさって、マスク由来の結像収差(マスク 3 次元効果)が生じる。その緩和策として、消衰係数 が高く、屈折率 が 1 の近傍にある吸収体材料を挙げています。
同じ研究は、ニッケルアルミニウム合金を候補として測り、酸化に伴う Al の吸収端の移動が 13.5 nm での を 1 へ近づける、という結果を報告しています。
材料の選択が、厚みを通して影の長さへつながる。この鎖の各段を、以下で数にします。
斜入射が、厚みを影の長さへ変える
入射角を とすると、厚み の吸収体が作る影の幅はマスク面で 。縮小率 4 で割るとウェーハ換算になります。
で数を入れます。
| 厚み | ウェーハ換算の影 | |
|---|---|---|
| 0.03 | 107 nm | 2.82 nm |
| 0.041 | 78 nm | 2.06 nm |
| 0.06 | 54 nm | 1.41 nm |
| 0.08 | 40 nm | 1.06 nm |
| 0.12 | 27 nm | 0.70 nm |
この が、そのまま縦横の寸法差になります。入射面に垂直な向きの線は影を全部受け、平行な向きの線はゼロで通る。
2 nm 世代の寸法余裕が 1 nm の桁だとすると、 の 2.06 nm は余裕を丸ごと超えています。補正で打ち消す量として、設計の側へ回ってくる。
影そのものを構造で減らす道もあります。2024 年の EUV 向け減衰位相シフトマスク構造の研究2は、マスクが反射型であるために深刻な影の効果が回折近傍場へ強く作用する点を出発点に、吸収体の縁へ吸収性の側壁を導入して回折と影の効果を緩和する構造を提案しています。キルヒホッフ近似での理論解析と、厳密なリソグラフィシミュレーションの両方で結像コントラストの改善を示した、という立て方です。
材料で を上げる道と、形状で影を切る道が並んでいます。どちらも影の式の中の別の項を触っている。
中央で影ゼロの向きほど、場所で動く
ここからが、場所依存の話です。
EUV の露光野は円弧状のスリットです。光軸から半径 の位置に弦の長さ のスリットを取ると、スリットの端では入射面の方位が中央から回ります。回る角度は
mm、 mm で 。スリットの両端で、影の向きが合計 11.5 度回ります。
線の向きが入射面と成す角を とすると、その線が受ける寸法バイアスは 。スリット内で が だけ動くので
| 線の向き | 中央での バイアス | 端でのバイアス | スリット内の振れ幅 |
|---|---|---|---|
| 入射面に垂直() | 2.06 nm | 2.05 nm | 0.01 nm |
| 入射面に平行() | 0 nm | nm | 0.41 nm |
中央で影ゼロの向きが、スリット内で最も動きます。
理由は の微分です。 では傾きがゼロなので、方位が回っても値はほぼそのまま。 では傾きが最大なので、同じ回転が満額で乗ります。
端では符号が反転します。スリットの一端で nm、他端で nm。場所ごとに補正量の符号が動く向きが存在する。露光野の全域で結像品質を揃える最適化3が、場所ごとの変数を抱える理由がここにあります。
「影がゼロの向き」が意味するのは、平均がゼロということまででした。分散のほうは最大です。
マスクの平坦度は、そのまま合わせ精度になる
斜入射は、もう 1 つの経路でも乗ります。
反射面の高さが ずれると、反射光の横位置がマスク面で ずれます。縮小率 4 で割って
で数を入れます。
| マスクの高さ誤差 | ウェーハ上の位置ずれ |
|---|---|
| 10 nm | 0.53 nm |
| 20 nm | 1.05 nm |
| 30 nm | 1.58 nm |
| 50 nm | 2.63 nm |
位置ずれを 0.5 nm に収めるには、マスクの平坦度を 10 nm に収める必要があります。152 mm 角の基板に対する 10 nm です。
屈折型では、マスクの高さ誤差は焦点の誤差になるだけでした。反射型では、それが横方向の位置誤差へ変換される。平坦度の仕様が、合わせ精度の予算から出てくる。
2010 年の光学および EUV リソグラフィにおけるマスクとウェーハの表面形状の効果4は、マスクとウェーハの両方について、波長以下の寸法の形状からの回折を正確にモデル化することが先端プロセス開発の必須条件だと述べ、その例として光学/EUV マスクの近接効果補正と、ダブルパターニングにおけるウェーハ形状由来の線幅変動を挙げています。
マスク側とウェーハ側で、同じ種類の計算が要る。形状が光に作用する経路が、両側にあります。
マスク 3 次元効果は、条件を選べば味方になる
ここまで影を減らす側の話をしてきました。増やす側の使い道もあります。
2026 年の高 NA・超高 NA EUV におけるマスク 3 次元効果の利点の研究5が、この見方を提示しています。マスク 3 次元効果は歴史的にプロセス性能へ有害と見なされてきたが、条件によっては結像忠実度の改善へ活かせる。
厳密なソース・マスク最適化で線と間隙の配置を比べた結果です。
| 比較 | 結果 |
|---|---|
| 暗視野マスクの線と間隙 | 3 次元マスクがキルヒホッフ型の平面マスクを上回る |
| 上回る項目 | EUV 光の利用効率、到達コントラスト、焦点深度 |
| 条件 | 分割瞳露光などで、3 次元効果による像のにじみを相殺する |
| 明視野マスク | 利点は小さい |
理由として、投影 NA 内の回折次数へ光がより効率よく結合すること、そして屈折率 の低い吸収体の中での導光により、近傍場のピークがより鋭く高くなることが挙げられています。
が 1 から離れていることが、ここでは利点になります。上の節では を 1 へ近づける方向が緩和策でした。同じ材料定数が、暗視野と明視野で逆向きに働く。
だから「良い吸収体」の中身が、レイヤの種類で割れます。
補正の到達点は、3 つの指標で測る
最後に、補正の側です。
2025 年のソース・マスク最適化によるパターン忠実度の向上と収差の緩和6は、2 nm 世代の配線層に相当する最小ピッチ 40 nm のパターンに対して、照明とマスクを同時に最適化しています。指標は 3 つ。
| 指標 | 改善 |
|---|---|
| 寸法均一性の変動 | 4.02% 低減 |
| 露光裕度 | 1.48% 向上 |
| マスク誤差係数 | 5.45% 低減 |
3 つとも一桁パーセントです。同じ研究は、ソースの特性とマスクの修正を釣り合わせることで、EUV に内在する収差そのものも補償できると報告しています。
最適化の計算量も、独立した問題になります。2021 年の高速なヒューリスティック型ソース・マスク最適化3は、光源側では最適化後の光源が疎であることを利用した部分標本化で変数の次元を下げ、マスク側では主要図形と補助図形を順番に最適化する。複数の焦点面での結像品質を補助図形の最適化で改善しています。
補助図形の役割が、解像度の補助から焦点深度の確保へ広がっている。最適化の目的関数に焦点面が複数入った時点で、補正は 3 次元の問題へ移ります。
欠陥の側でも同じ枠組みが使われます。2025 年の画素化吸収体層補正によるマスク欠陥補償7は、吸収体を画素の集まりとして表し、欠陥による像の劣化を吸収体の形で打ち消す方向です。
補正の対象が、設計図形から欠陥へ、そしてマスクの材料構造へ広がっています。同じ最適化の枠に、別の変数が入ってくる。
現場で動く判断
- 吸収体の厚みは です。、 で 78 nm。遮光率の仕様が、そのまま厚みの仕様です。
- ウェーハ換算の影は です。 で 2.06 nm、 で 0.70 nm。 の改善は、影の全部へ比例で乗ります。
- 材料と形状の 2 本立てで減らします。高 ・ が 1 に近い材料1と、吸収体の縁の吸収性側壁2。式の中の別の項を触っているので、両方を同時に掛けられます。
- 中央で影ゼロの向きが、スリット内で最も動きます。 の微分が で最大だからです。端で符号が反転するので、場所ごとの補正が要ります。
- スリット内の方位の回転は です。 mm・ mm で 5.74 度。露光野の形が、補正の場所依存の大きさを決めています。
- マスクの平坦度は で合わせ精度になります。0.5 nm に収めるには 10 nm の平坦度。屈折型の感覚のまま仕様を書くと、この項が抜けます。
- マスク 3 次元効果は、暗視野では利点になりえます。線と間隙の暗視野マスクで、光の利用効率・コントラスト・焦点深度がキルヒホッフ型を上回る5。「良い吸収体」の中身がレイヤで割れます。
- 補正の到達点は 3 つの指標で測ります。40 nm ピッチで寸法均一性 4.02% 低減、露光裕度 1.48% 向上、マスク誤差係数 5.45% 低減6。採否の表には 3 つ全部を載せます。
- 補助図形の目的に、焦点深度が入っています。複数の焦点面での結像品質を補助図形で改善する3最適化があります。この効果が数に出るのは、焦点面を複数取った測定からです。