透過マスクなら、マスク面の高さが50 nmずれても、影響は焦点方向のぼけにとどまります。EUVマスクでは、同じ50 nmがウェーハ上の横ずれとして出てきます。高さの誤差は、どこで横方向の誤差へ化けるのか。
化けさせているのは、たった一つの数字です。主光線を6度だけ傾けたこと。この回はその6度から出発して、線の向きで動くCD差も、遮光帯もペリクルも平坦度仕様も、順番に導きます。6度がどこから来たのかを、まず片づけます。
起点は「鏡を正面から照らすと、反射が照明系へ帰る」
13.5 nmでは透明な材料が姿を消し、光学系が全部鏡になりました。マスクも例外なく鏡です。EUVマスクはMo/Si多層膜という鏡の上に吸収体のパターンを乗せた構造で、明部は多層膜の反射、暗部は吸収体が担当します。
ここで幾何の問題が一つ起きます。鏡を法線方向から照らすと、反射光は入射光と同じ経路を逆走して照明系へ帰ります。投影光学系へ光を渡すには、入射と反射を角度で引き離す必要があります。そこで主光線をマスク法線から傾けます。現行の0.33 NA世代が採る主光線角(CRA)は6度です。Erdmannらのレビューは、現在のEUV投影系が6度のCRAを用いると記述しています1。
物体側が非テレセントリックになった、と言い換えられます。
テレセントリックな系とは、主光線が光軸に平行な系のことです。主光線は瞳の中心を通る代表光線で、像のどこに何が写るかを決めます。物体側テレセントリックなら、マスクが焦点から前後にずれても像の倍率は同じままです。像側テレセントリックなら、ウェーハが前後にずれても像の大きさは同じままです。ありがたみは一点に尽きます。フォーカスがずれても寸法と位置が保たれる。DUVの投影光学系は像側テレセントリックに作ります。
EUVのマスク側は、これを原理的に手放しています。垂直に照らせば反射光が照明系へ帰るため、主光線を傾ける一手だけを採ります。傾けた瞬間に非テレセントリックになります。この節から先に出てくる pattern shift も、平坦度がオーバーレイへ化ける話も、すべてこの一点の代償です。
吸収体は、波長の4倍以上の高さを持つ壁
平面図で描くとマスクパターンは平らな図形ですが、実物には高さがあります。Erdmannらは、現行のEUVマスクが約60 nm厚のTa系吸収体を使い、消衰係数 によって暗部の反射率を2%未満に抑えると記述しています2。波長13.5 nmに対して60 nmは4倍以上の高さです。
この壁を6度傾いた光で照らせば、影が落ちます。影の幅は単純な幾何で、高さ に対して です。
影を作る高さは、吸収体の厚みの先まで続きます。同じ論文は、Mo/Si多層膜が入射光を反射する実効平面は多層膜上面から約50 nm下にあると記述しています。光は多層膜の内部まで潜ってから帰ってくるので、影を作る実効的な段差は「吸収体60 nm + 潜り込み50 nm」で110 nm級になります。
数字を通します。 nm を入れると、マスク面での影の幅は
これはマスク面の値なので、ウェーハ面へ渡すときに が掛かります。
設計値16 nmの横線が、幾何だけで18.9 nmになります。内訳も分けられます。吸収体の60 nmぶんが nm、多層膜へ潜る50 nmぶんが nm。影の4割強を、吸収体より鏡の深さが作っていることになります。ここが次節以降へ続きます。吸収体をゼロまで薄くしても1.3 nmは残るので、「薄くする」という一手は影の問題の半分までを担います。
図の左半分が核心です。主光線の面内成分はy方向を向きます。線がy平行なら、影は線の長手方向へ流れるだけで、幅は設計値のままです。線がx平行なら、影は幅の方向に上乗せされます。同じ吸収体、同じ露光条件でも、向きが90度回るだけで実効CDが太るわけです。Erdmannらも、横線のほうが強い影を受けると記述しています。これがマスク3D効果の一番素朴な顔です。
図の右半分の数字は、上で述べた幾何だけの一次見積りです。実際のH/V差は回折と部分コヒーレンス、そしてスリット内の位置による照明方向の変化を含むので、この値より小さくなります。ただし桁は合っており、16 nm級のパターンでは設計で織り込むべき大きさです。
向き別のCD差そのものは、レイアウト側で向きごとにバイアスを与えるか、OPCで戻せます。厄介なのは、補正量がスリット内の位置とピッチと照明形状に依存する点です。補正表が二次元では足りなくなります。
焦点も、ピッチと向きで動く
高さのある吸収体は、影を落とし、さらに光の位相まで変形させます。吸収体の内部と縁を通った光がそれを引き起こします。この位相変形の量がピッチごとに異なるため、ベストフォーカスの位置がピッチごとにずれます。Erdmannらのレビューは、密パターンで負側、65 nm前後のピッチで正側というふうにベストフォーカスが振れると記述しています。
さらに、吸収体の上面からも弱い反射が返ります。この光が多層膜からの主反射と干渉するので、吸収体の厚みを変えると反射率もコントラストもベストフォーカスも周期的に振れます。Erdmannらは、この周期が約7 nm、つまり であると報告しています2。吸収体の膜厚公差が光学性能に直結する理由がここにあります。
非テレセントリック系の宿命として、デフォーカスすると像が横へ動きます。焦点位置に対するパターン位置の勾配が非テレセントリシティ(nTC、単位はmradまたはnm/µm)で、これがそのままオーバーレイの誤差要因になります。
吸収体を薄くするか、暗くする力を強めるか
影の量も位相変形もnTCも、すべて吸収体の厚みに比例して増えます。したがって最短の対策は「薄くする」です。ただし薄くすれば暗部が明るくなり、コントラストが落ちます。ここで材料の光学定数が暗部反射率を左右します。
| 方針 | ねらい | 得られるもの | 引き換えに払うもの |
|---|---|---|---|
| TaBN 60 nm(現行) | で暗部反射率2%未満 | 加工・洗浄・修正の実績 | 厚みぶんの影と大きなnTC。NILSは2.2どまり |
| high-k(k ≥ 0.05、上限0.08級) | 同じ暗さをより薄い膜で | 厚み20〜40 nmでNILS 2.0超。41 nmと48 nmではNILS 2.4超 | 新材料に合うエッチングと洗浄耐性を作り直す手間 |
| low-n(、減衰位相シフト) | 位相の反転で暗部を作る | コンタクト等の2DパターンでNILSが伸びる。L/Sの解析ではNILS 3超 | 反射率が上がるとサイドローブの露光リスク。暗視野の最適位相は200〜230度で、厚みに敏感 |
数値はいずれもErdmannらの高NA向け吸収体材料の検討2からです。同じ論文は、この三者がコントラスト(NILS)・スループット・nTCという三すくみを抱えることも示しています。厚い吸収体はコントラストで有利ですが光を食うのでスループットを削り、薄い吸収体はスループットとnTCで有利ですがコントラストで不利になります。
「新材料に合うエッチング」という一行の重みは相当なものです。Rookらは、先進吸収体材料のパターニング手段としてイオンビームエッチングを検討しています3。反応性ガスで綺麗に抜ける材料の範囲を出た瞬間、加工装置の世代から作り直す話になります。
遮光帯:フィールドの外側も鏡のまま
露光フィールドの外周には、無地の暗い帯があります。スキャナ側のREMAブレードで遮った領域とダイの間の遷移領域です。透過マスクならここはクロムで真っ黒ですが、EUVマスクの外周は吸収体を残した多層膜、つまりまだ鏡です。
Watanabeらは、EUV吸収体スタックが照射光の1〜3%を反射するため、隣接ダイを詰めて焼くとフィールド外周からの反射が隣のダイの端に重なり、その領域のCDとコントラストに影響すると記述しています4。この帯を暗くしたものが遮光帯です。
対策の主流は、吸収体と多層膜を基板まで削り落とす方式です。同じ論文によれば、これでEUV反射率は0.05%未満まで落ちます。Kamoらは遮光帯がパターン転写に与える影響を実測して報告しています5。
この削り込みは二つの副作用を生みます。
- マスクが歪む。数十対の多層膜を深く削れば、膜応力の分布が変わります。遮光帯を備えた薄膜吸収体マスクは、マスク工程を通す前後で平坦度とイメージプレースメントが変化します6。暗くするための加工が、次節の平坦度問題を自分で招く構図です。
- 帯域外光は残る。多層膜を削ればEUVの反射は消えますが、光源が放つDUV帯の帯域外光は基板面でも反射します。Watanabeらはこれをダイ内のCD変動として実測し、ハイブリッド遮光帯で帯域外光の反射を約1/3に下げ、ダイのコーナーでのCD変動を0.2 nm未満に収めたと報告しています4。
なぜ削ると歪むのかは、薄膜応力の古典的な関係式(Stoneyの式)で書けます。膜は応力を持ったまま基板へ載っていて、その力が基板を曲げます。曲率 は、膜の応力 と膜厚 の積に比例し、基板の厚みの2乗に反比例します。
= 基板の曲率(単位 m⁻¹)、 = 膜の応力(Pa)、 = 膜の厚み(m)、 = 基板の厚み(m)です。遮光帯の加工は、この をフィールドの外周でだけ消す操作にあたります。膜の力の分布を場所ごとに書き換える操作なので、平坦度が動くのは加工そのものの帰結ということになります。Kamoらがマスク工程の前後で平坦度とイメージプレースメントの変化を実測しているのは、この帰結を数字で確かめた仕事です6。次節の平坦度仕様は、この歪みも一緒に背負わされます。
ペリクル:粒子を焦点面から遠ざける膜
鏡の上に載った粒子は、そのまま像になってウェハへ焼き付きます。透過マスクの世界で使ってきたペリクルをEUVにも持ち込みたいわけですが、13.5 nmに対して透明な材料は姿を消したままです。そこで厚さ13 nm級という極薄の膜になります。
ペリクルの機能は、粒子の封じ込めよりも、粒子を焦点面から遠ざけることにあります。Zoldesiらは、ペリクルがレチクル表面からスタンドオフ距離だけ離れた極薄膜であり、投影系の焦点深度がペリクルとマスクの間隔より桁違いに小さいことが、汚染物がウェハへ結像するのを防ぐ鍵だと記述しています7。ウェハ側の焦点深度が100 nm級だとすると、マスク側では縮小率の2乗(4倍系なら16倍)が掛かって数µm級です。ミリメートル級のスタンドオフは、そこから三桁ほど外側にあります。粒子は像を結ぶ代わりに、大きくぼけて一様な光量損失へ姿を変えます。
代償は二つです。
第一に透過率がそのままスループット税になります。光は往路と復路でペリクルを2回通るので、片道の透過率 に対して全体は です。透過率90%超かつ400 W超の光源出力に対応するペリクルの開発です8。往復ぶんを書き下すと
T = 0.90 なら往復で0.81、つまり光源が供給した光の約19%がペリクルで消えます。光子予算の章で述べたとおり、EUVでは光子が最も高価な資源なので、透過率の1ポイントがそのまま装置単価を押し上げます。
前章の と同じ物差しに乗せると、重さが分かります。鏡を1枚足すことが0.70倍、ペリクルを1枚入れることが0.81倍。 なので、ペリクルは鏡およそ0.6枚ぶんの光を食う部品です。仮に透過率を92%まで上げられれば往復0.85、鏡0.47枚ぶんまで下がります。透過率の1ポイントを取りにいく理由が、この換算に出ています。
第二に熱です。真空中の薄膜が熱を捨てる経路は放射だけです。400 Wの光源に対応するという表現は、そのまま「その熱流束で膜が形を保つ」という要求と同義になります。膜が熱で反ればマスク面との間隔と傾きがずれ、結像位置にも影響します。
平坦度と静電チャック:高さの誤差が横ずれに化ける
6度の傾きが最後に作る問題が、これです。マスク面の高さ誤差が、そのまま横方向のパターン位置誤差に変換されます。
Choiらは、非テレセントリックなEUV露光におけるイメージプレースメント誤差を、マスクの高さ誤差 Δh と局所傾き φ を使って次の形で表しています。
が基板の高さのずれ、 がその場所の局所傾き、 が縮小光学系の倍率(4倍系なら0.25)です。
局所傾きを無視した最短形は です。SEMI P37が定めるマスク基板の平坦度クラスは、A: 100 nm、B: 75 nm、C: 50 nm、D: 30 nm、いずれもP-Vです9。この最短形にクラスCの50 nmを入れると、4倍系のウェハ上で1.3 nmのイメージプレースメント誤差になります(同資料の式に平坦度クラスを代入した値)。
因果の向きに注意してください。平坦度仕様が厳しいのは、マスクが鏡で、かつ6度傾いているからです。透過マスクなら高さ誤差は焦点方向だけに影響します。反射と傾きの組み合わせが、それをオーバーレイの誤差へ変換します。マスク平坦度が計測項目として独立している理由がここにあります。
では平らにすればよい、となるところで静電チャックが登場します。真空中でマスクを吸い付ける手段として静電力を使い、反ったマスクをチャック面に倣わせて吸着します。Choiらの資料はここにもう一段の注意を加えています。チャッキングは反りを潰しますが、潰す過程でマスク面に面内の歪みが生じ、それ自体がレジストレーション誤差になります。だから誤差の総和は「平坦度に由来する分」と「クランプに由来する分」の和として管理されます。
鏡は深さを持つ
最後に、鏡であることのもう一つの帰結を挙げます。多層膜は40対前後の積層で、光は上面から約50 nm潜って反射します。つまり反射面はマスクの内部にあります。
基板の上に高さ数nmの微小な凸があると、その上に積む多層膜が凸をなぞって積み上がり、表面まで形が伝わります。結果として、その場所だけ反射波の位相がずれます。これが位相欠陥です。吸収体を上から観察したかぎり、表面は平坦なままに映ります。反射率の落ち込みも僅かです。それでも像面では位相の乱れとしてパターンに転写されます。
対策が独特です。基板側の欠陥は修理が困難なので、欠陥の座標を先に測っておき、吸収体パターンを描く位置をずらして、欠陥を吸収体の真下に隠すという運用が採られます。Qiらは、この「パターンシフト」による無欠陥EUVマスクの実現性を7 nmノード向けに検討しています10。マスクを鏡にしたことで、「欠陥を直す」よりも「欠陥を避けて描く」ほうが現実的になった、という転倒がここで起きています。