同じ設計の穴を並べて露光したのに、どれか1つだけが閉じたまま残る。同じ線を並べたのに、1本だけ途中で隣とつながる。装置もマスクもレシピも同じで、隣の穴は開いています。なぜ、同じ条件から別の結果が出るのか。この回はその答えを、光子1個のエネルギーという1つの数字から組み立てます。
骨格は掛け算1本です。波長を短くすると同じ露光量でも光子の個数が減り、そこへ寸法の縮小が掛かる。穴1個に届く光子が数千個まで落ちると、個数のゆらぎが設計寸法に対して無視できなくなります。以下では、その掛け算をたどり、ゆらぎがレジストの化学でどう運ばれるのかを見て、最後に壊れ方の名前と線量の選び方へ降ります。
光子1個のエネルギーが14.3倍になると、個数は14.3分の1になる
露光量はいつも mJ/cm²、つまり単位面積あたりのエネルギーで語られます。ところがレジストの中で反応を起こすのは、エネルギーの総量そのものよりも光子の個数です。Brainardらは、EUVレジストのショットノイズとLERを量子効率とあわせて報告しています1。この2つの間には光子1個のエネルギーが挟まっていて、波長を変えるとここが動きます。
光子1個のエネルギーは
が光子1個のエネルギー、 がプランク定数、 が光速、 が波長です。
- 13.5 nm → eV
- 193 nm → eV
比は 。これは波長の比 とそのまま同じです。エネルギーが波長に反比例するので、比が一致します。
次に、同じ 1 mJ/cm² を届けたときの個数を数えます。 で、 なので、1 nm² あたり J。これを光子1個のエネルギーで割ります( J、 J)。
| 波長 | 光子1個 | 1 mJ/cm² あたりの光子密度 |
|---|---|---|
| 193 nm | 6.42 eV | 9.72 個/nm² |
| 13.5 nm | 91.8 eV | 0.680 個/nm² |
相対ゆらぎは に従う
光子はそれぞれ独立に到達するので、ある面積に届く個数はPoisson分布に従います。平均 のPoisson分布では標準偏差が になり、相対的なゆらぎは
がその面積に届く光子の平均個数、 がその標準偏差です。
なら 10%、 なら 1%、 なら 0.1%。桁を4つ稼いで、ようやくゆらぎが1桁縮みます。この鈍さが光子ショットノイズの厄介さです。EUVレジストのLERを光子数とレジストの量子効率から予測する枠組みです1。
具体的な数字を入れます。線量 30 mJ/cm² を仮定して、193 nm 世代の CD 90 nm のコンタクトと、EUV の CD 16 nm のコンタクトを比較します(この2つのCDは世代感を持たせるための例示値です)。
- CD 90 nm の穴:面積 nm²、光子密度 個/nm² → 光子
- CD 16 nm の穴:面積 nm²、光子密度 個/nm² → 光子
穴1個に届く光子数は 452分の1になります。面積が 31.6分の1、光子密度が 14.3分の1、この2つの積です。相対ゆらぎは 倍に膨らみ、0.073% から 1.6% へ跳ね上がります。
で報告される指標と、 の裾は別物です。1つの層に並ぶコンタクトはダイあたり 〜 個の桁、ウェーハ1枚では 〜 個の桁に達します。ウェーハ1枚あたりの欠損を1個以下へ抑える話は、穴1個あたりの失敗確率を より下へ押し下げる話になります。正規分布の片側裾が になるのは、平均から約 離れた位置です。
計測で得られるのは のLCDUなので、そこから の裾を外挿する形になります。EUVの確率的な印刷失敗は大量の実測から数え上げられ、失敗確率は線量とともに急峻に変化します2。実測の裾は正規分布より厚く伸びるため、3σ からの外挿は失敗数を低く見積もります。
穴1個あたりの失敗確率を、ウェーハ1枚の話へ翻訳する式は歩留まりの側にあります。面積 の中に密度 で欠陥がばらまかれるとき、そこに欠陥がゼロ個で済む確率は
が歩留まり、 が単位面積あたりの欠陥数(欠陥/cm²)、 が対象の面積(cm²)です。Poissonの欠陥モデルと呼ばれます。穴1個あたりの失敗確率 と穴の個数 で書き直せば にあたるので、 が の桁にいるなら を保つ条件は で、さきほどの要求がそのまま出てきます。確率的欠陥が「密度」で語られるのは、この式へ直接入るからです。
化学を動かすのは、光子が生んだ電子
91.8 eV の光子がレジストに吸収されると、その場から光電子が1個放出されます。有機分子のイオン化エネルギーは10 eV の桁なので、91.8 eV のうち大半が光電子の運動エネルギーになります。この電子は進みながら別の分子をイオン化し、二次電子を次々に生みます。
光子1個の吸収から、相関を持った反応のかたまりが1つ生まれる、という描像になります。福田は、この二次電子の局在とカスケードこそが確率的欠陥の主因になると論じています3。
ここから統計へ届く経路は2本あります。
- ぼけ。電子は熱化するまで散乱を繰り返しながら移動するので、化学が起きる場所は光学像から数nmの桁でずれます。低エネルギー電子の散乱シミュレーションは、有機系と無機系の双方でこの飛程を計算します4。飛程の具体値は組成で動くため、ここでは桁だけを記します。
- 相関。1個の光子から生まれた電子群は互いに近い場所で反応します。反応を 個数えても、独立な事象の個数は より小さいままなので、ゆらぎは から推測される値より大きくなります。
CARは統計の段数を増やす
CARでは、電子がPAG(光酸発生剤)を反応させて酸を1個作り、ベーク中にその酸が触媒として何十個もの保護基を外して回ります。感度を稼ぐ仕組みが、そのまま統計の段数になります。Rathsackらは、解像度・LER・感度のトレードオフをマイクロブリッジ欠陥と結び付けて報告しています5。
| 段 | 離散な量 | ゆらぎの源 |
|---|---|---|
| 吸収 | 吸収された光子の個数 | 入射光子のPoisson分布 × 吸収確率 |
| 電子 | 生成した電子の個数と落ち先 | カスケードが生む電子数のばらつき |
| PAG | 露光点の近傍にあるPAG分子の個数 | 分子の配置そのものがランダム |
| 酸 | 生成した酸の個数 | 上3段の積み重ね |
| 拡散 | 酸が歩いた距離 | ランダムウォーク |
| クエンチャー | 近傍のクエンチャー分子の個数 | 分子の配置 |
酸拡散は両刃です。酸が動くとゆらぎが平均化されて輪郭は滑らかになりますが、同じ動きが光学像のコントラストを鈍らせます。クエンチャーは酸を中和して実効的な拡散距離を詰め、輪郭を鋭く保ちます。ただしクエンチャー自身も離散な分子なので、局所的にクエンチャーが密な場所では酸が消え、そこが欠陥の起点になります。
メタルオキサイドレジストは吸収を上げ、ぼけを縮める
メタルオキサイドレジストは Sn・Zr・Hf といった金属を骨格に持ちます。13.5 nm(91.8 eV)での光吸収断面積は C・H・O よりこれらの金属で大きく、同じ膜厚でも入射光子のうち吸収される割合が上がります。前節の がそのまま増える、という直接的な経路です。
像を作る機構も変わります。HinsbergとMeyersは、金属酸化物レジストの結像を、拡散する触媒に代えて金属-酸素骨格の局所的な縮合として数値モデル化しています6。触媒が長い距離を歩く段が省かれるぶん、ぼけが短くなります。同じ材料系を塗布に代えて気相成膜で作るのがドライレジストで、膜厚と組成の均一性を成膜条件の側で選べます。
下層膜も確率的欠陥の密度を左右します。レジストの下から戻ってくる電子が膜の底の反応に加わるため、下層膜を重元素側へ振ると、レジスト底部の実効的な吸収が増えます。De Silvaらは高Z金属を使った下層膜でEUVの確率的な指標が改善すると報告しています7。下層膜は密着性も担い、細い線が現像中に倒れる確率を左右します。
壊れ方には名前がついている
確率的欠陥の名前は、分布の幅として計測する2つ(LERとLCDU)と、分布の裾として個数を数える3つに整列します。
| 名前 | 症状 | 測り方 |
|---|---|---|
| LER / LWR | 線の縁が波打つ、線幅が場所ごとに揺れる | 3σ とパワースペクトル密度 |
| LCDU | 同じ設計の穴のCDが穴ごとに散る | 3σ |
| マイクロブリッジ | 隣り合う線が細い橋でつながる | 個数密度(欠陥/cm²) |
| 線切れ | 線が途中で途切れる | 個数密度 |
| コンタクト欠損・併合 | 穴が塞がったまま残る、隣の穴と融合する | 個数密度 |
確率的なCDばらつきと印刷失敗は同じ枠組みで数え上げられ、両者を分けて計上する必要があります8。上2つは分布の幅、下3つは分布の裾です。材料を変えたとき、幅と裾は別々の比率で動きます。Mackは、確率的な指標をスケーリングの軸として管理するための計量法を提案しています9。
RLSの三すくみと、四本目の軸
R(解像度)・L(ラフネス)・S(感度)が互いを引っ張り合う理由は、前節までの式ひとつで足ります。穴1個、あるいは線の1区間に届く光子数は
N =(線量)×(面積)×(単位線量あたりの光子密度)
- 解像度を上げる → 面積が縮む → N が減る
- 感度を上げる(線量を下げる)→ N が減る
- ラフネスは 1/√N なので、N が減ると悪化する
3つが同じ N を奪い合うので、2つを取れば3つ目が痛みます。同じ実験系でRLSのトレードオフとマイクロブリッジ欠陥の発生量が計測され、両者の関係が明らかになっています5。
裾は幅とは別の動きをするため、いまは確率的欠陥密度が4本目の軸として独立に管理されます。LERの3σ が同じ2つのレジストでも、欠陥密度が桁で異なる、ということが起こります。
線量・欠陥密度・生産枚数は同じ表で選ぶ
線量を上げれば N が増え、幅も裾も改善します。ただし改善の桁が、幅と裾で離れます。Mackは、確率的なばらつきを線量とともにスケールさせるための指標を提案しています9。
- 幅:( は線量)。線量を2倍にすると は 0.71倍、半分にするには4倍の線量が要ります。
- 裾:しきい値から平均が離れるほど、裾の確率は指数的に薄くなります。線量を2倍にすると失敗確率が桁で落ちることがあります。
一方、露光そのものに要する時間は線量に比例します。ウェーハ面に届くEUVパワーを一定とすると
露光時間 ∝ 線量 ÷ 光源パワー
なので、線量を2倍にすれば露光時間も2倍です。実機の1時間あたり枚数(wph)にはステージ移動やウェーハ交換の固定時間も含まれるため、低下は2倍よりは緩やかになります。
だからプロセスの線量は、確率的欠陥密度の許容値と1時間あたり枚数の目標を同じ表に載せ、その交点として選ばれます。レジスト開発が吸収率と電子のぼけに集中する理由も同じで、同じ線量でより多くの光子を捕まえられれば、この交点が生産側へ動きます。