パッケージの大きさが「レチクルの 2 倍」「3 倍」という言い方で語られるとき、基準になっている長方形は 26 × 33 mm です。この長方形はどこから出てくるのか。High-NA で半分になるのは、なぜか。
たどるのは 3 段です。まず一度に焼ける長方形がどこから出てくるのかを、割り算 1 本にします。次にその長方形が半分になった理由を、マスクへの入射角から追います。最後に、半分になったことが設計と測定点の配置へ何を要求するのかを追います。
露光フィールドは 26 × 33 mm。装置の物理で決まった定数として、当分このままだと思っていました。
High-NA(0.55 NA)では 26 × 16.5 mm になります。面積が半分です。
意外なのは縮んだ理由のほうです。原因は製造上の限界より手前にあって、マスクへの入射角を下げるために縦方向だけ8倍縮小を選んだ、その副作用でした。光学の都合が、そのままチップの最大寸法に化けています。
影響が出る場所ははっきりしています。26 × 16.5 mm を超えるチップは、全層でマスク2枚・露光2回になります。配線層では線が境目をまたぐので、そこが寸法と抵抗の新しい管理点として生まれます。High-NA 世代の設計、TEG の配置、E-test の測定点を考えるときは、この長方形を先に紙へ描いておくと話が早くなります。
一度に焼ける面積が決まっている
露光機はマスク1枚ぶんの像を、ショットという単位でウェーハ上に並べて焼きます。1ショットで焼ける長方形の大きさが露光フィールドで、これが装置の設計で決まっています。
現行の4倍縮小系では 26 mm × 33 mm。面積にして 858 mm² です。パッケージの文献が「1Xレチクル ≒ 830 mm²」と書くのは、この数字を実効面積で丸めたものです。0.55 NA機は横4×・縦8×のアナモルフィック光学で 26 × 16.5 mm のフィールドを持ち1、横の 26 mm が両世代で共通していることがここから読み取れます。
チップの大きさはこの長方形で頭打ちになります。これを超えるなら2ショット以上に分けて焼き、境目をつなぎます。これがスティッチングです。
858 mm² は割り算の答え
レチクル面のパターン領域を 、縮小倍率を横 ・縦 とすると、ウェーハ上のフィールドの辺は
面積は辺の積なので
分子はレチクル側、分母は投影系側です。この式には、チップの設計者が動かせる量が入っていません。
レチクル側が変わっていないことは、数字から確かめられます。横は 0.55 NA 機でも 4× のままで、フィールドの幅も 26 mm のまま。つまり mm。縦は 33 mm から 16.5 mm へ半減しましたが、倍率のほうが 4× から 8× へ倍増しているので mm、 mm。どちらも 132 mm で一致します。レチクルは 104 × 132 mm のまま変わっていません。
だから分子は mm² のままの割り算になります。倍率だけを振ります。
| 縮小倍率(横 / 縦) | フィールド面積 | 858 mm² 比 | |
|---|---|---|---|
| 4× / 4× | 16 | 858 mm² | 1 |
| 8× / 8×(縦横とも 8×) | 64 | 214.5 mm² | 1/4 |
| 4× / 8×(アナモルフィック) | 32 | 429 mm² | 1/2 |
、、。429 は 26 × 16.5 と一致します。「8× を縦横に使うと 4 分の 1 になるところを、縦だけにして 2 分の 1 で止めた」という後半の話は、この 1 本の割り算の を 64 にするか 32 にするか、という選択です。
この長方形を超えるものは、分割して焼いてつなぎます。焼く回数が増え、境目に精度が要り、面積が増えるぶん歩留まりが落ちる。大きい板を作るほど三重に不利になるので、この長方形の大きさは設計の自由度をそのまま左右します。
High-NA では、この面積が半分になる
EUVの次世代機(NA = 0.55)で、フィールドが縮みます。理由は光学系の物理です。0.55 NAの投影光学系の設計と製作です2。
NAを上げると、マスクへ当たる光の角度が広がります。EUVマスクは多層膜の反射鏡なので、入射角が大きくなると反射率が落ちて、暗部と明部のコントラストが取れなくなります。LLNLの実測が示す 67.5% という反射率は、近垂直入射での値です3。角度が付くほどこの値から離れます。
なぜ入射角が増えると多層膜の反射率が落ちるのか
EUVを反射する鏡は、MoとSiを交互に40層ほど積んだ多層膜です。各界面からの弱い反射を、位相を揃えて足し合わせることで反射率を稼ぎます。位相が揃う条件は、 を法線から測った入射角とすると
で、 が積層周期です。垂直入射()でピークが に来るように積みます。
膜を作った時点で は確定します。だから角度がつくと、位相の揃う波長が へ、つまり短い側へずれます。光源の波長は 13.5 nm のままなので、ずれた分だけピークの裾で使うことになる。
| 最大入射角 | 位相の揃う波長 | 13.5 nm からのずれ | |
|---|---|---|---|
| 10.7° | 0.9826 | 13.27 nm | −1.74% |
| 16.9° | 0.9568 | 12.92 nm | −4.32% |
| 9.2° | 0.9871 | 13.33 nm | −1.29% |
現行機はすでに 1.74% ずれた裾で使っています。0.55 NA を 4× のままにすると、そのずれが 2.5 倍へ広がります。すでに裾にいるところからさらに 2.5 倍離れる、という比が判断の材料です。8× の 1.29% は、むしろ現行より内側へ戻ります。
主光線角は設計者が好きに選ぶ値より狭いところにあります。照明の円錐の太さが下限を与えます。
マスク側で見た照明円錐の半頂角 は、ウェーハ側の NA を縮小倍率 で割ったところから出ます。
入射の円錐は法線から を占め、反射の円錐は法線の反対側へ同じだけ広がります。2 つが分離する条件は
そこへ機構の逃げを足したものが実機の主光線角になり、マスクへの最大入射角は円錐の外縁、つまり です。
| NA | 縮小倍率 | 主光線角 | 逃げ | マスクへの最大入射角 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.33 | 4× | 0.0825 | 4.73° | 6° | 1.27° | 10.7° |
| 0.55 | 4× | 0.1375 | 7.90° | 9° | 1.10° | 16.9° |
| 0.55 | 8× | 0.0688 | 3.94° | 5.3° | 1.36° | 9.2° |
最大入射角の列は、主光線角と の足し算です。、、。表の 10.7°・16.9°・9.2° と揃います。
余裕はどれも 1.1〜1.4° でほぼ一定です。6° が 9° になったのは、NA を 1.67 倍にしたぶん円錐が太ったからで、理由はそれだけです。逆に を上げると円錐は細くなり、 は現行機の より小さい。だから 8× の 9.2° は、現行の 10.7° を下回ります。
0.55 NA を 4× のまま作ると 16.9° まで開き、Mo/Si多層膜の反射率がそこで大きく落ちます。縮小倍率を上げると入射角が下がるので、8× が選ばれました。装置を作るのがASML、その中の照明系と投影系の鏡を作るのがZeiss(Carl Zeiss SMT)です。倍率を動かせば鏡の設計も全部動くので、両社が揃って初めて決まる選択でした。
ところが縮小倍率を上げると、同じマスクから焼ける面積が縮みます。8×を縦横両方に使うと面積は4分の1。そこで縦8×・横4×という、方向ごとに倍率を変えたレンズ(アナモルフィック)を採りました。結果、ウェーハ上のフィールドは
- 4× 等方: 26 mm × 33 mm
- 0.55 NA アナモルフィック: 26 mm × 16.5 mm
面積の縮小は2分の1で止まりました。
半分になると何が起きるか
26 × 16.5 mm を超えるチップは、すべての層でスティッチングが要ります。つまり1層あたりマスクが2枚以上、露光も2回以上。アナモルフィック結像でのスティッチングについては、境目に約1 µmの除外帯を設ける構成とその影響があります4。
コンタクトやビアの層は、穴を「こっちのマスク」「あっちのマスク」と割り振れば済みます。厄介なのは配線層です。配線は境目をまたぐので、2回の露光にまたがる線を1本としてつなぎます。境目で寸法が揃わなければ、そこが抵抗の異常点になります。
大きいチップを作りたい側と、細かく描きたい側が、この1つの長方形で正面からぶつかっています。
「一度に焼ける面積には上限がある」という事実自体は同じままです。動いたのは数字です。数字が半分になったことで、これまで「大きいチップを作れば済んだ」場面がスティッチング前提へ変わりました。
この長方形の先で設計が何へ乗り換えたかは、この回では扱いません。ここで残るのは、ブリッジのような解が妥協より算術の帰結として出てくる、という一点です。