深紫外までの光リソグラフィでは、強い光源がある波長を選んできました。水銀ランプの輝線、KrF、ArF——どれも「そこに光がある」ところへ光学系を合わせた形です。
EUV は順番が逆になりました。多層膜が反射できる波長を先に決め、そこへ光源を後から作った。以降の設計上の苦労は、ほとんどがこの順番から出てきます。
波長を決めたのは、鏡のほう
出発点は、光源より鏡の側にあります。1996 年の EUV 投影リソグラフィ用反射多層膜コーティングの報告1が示すとおり、この波長域では通常の屈折レンズが使えず、多層膜の干渉による反射だけが残ったままです。
多層膜は、屈折率の別な 2 種類の層を交互に積み、各界面からの反射波を位相を揃えて重ねます。条件はブラッグの式です。
ここで帯域が決まります。 周期の多層膜が干渉を作るとき、反射率の半値幅はおよそ
で有効周期数 なら 。EUV の仕様に出てくる「2% 帯域」は、この干渉の条件そのものです。
光源へ要求が戻ります。光源の放つ光のうち、この 2% の窓に入った分だけが使えます。窓の外の光はすべて熱になります。
窓に入る光を放つのは、Sn の多価イオン
では 13.5 nm の 2% 窓へ、何が光を届けるのか。2005 年の Sn プラズマの 13.5 nm 未分解遷移配列発光のモデル化2が、発光の正体を特定しています。
「スズをもとにしたプラズマでは、13.5 nm における 2% 帯域内の放射は、主としてスズイオン(Sn⁷⁺ から Sn¹²⁺)の 4d–4f 遷移および 4p–4d 遷移による。」
6 価から 12 価という、狭い価数の範囲です。
同じ報告が、計算の難しさも書いています。これらの遷移に関わる電子配置の複雑さのため、線ごとの解析は計算量が極めて大きい。そこでこの研究は、遷移配列を統計的な分布として近似することで各イオンの発光プロファイルを模型化し、放射輸送の計算を大幅に簡単にしています。
価数の窓が狭いことの意味
Sn⁷⁺〜Sn¹²⁺ という範囲は、プラズマの温度と密度の狭い領域に対応します。この事実が、光源設計の条件を 2 つ作ります。
- プラズマが冷たすぎると価数が足りず、熱すぎると行き過ぎます。どちらでも 2% 窓の外へ出ます
- プラズマの中に温度勾配があれば、窓に入る領域は一部だけです。残りの体積は、窓の外の光と熱を出します
だから変換効率の上限は、原理的に低い側にあります。投入したエネルギーのうち、(i) 適温の領域に入り、(ii) その中で 2% 窓へ落ちる遷移に回った分だけが使えます。
同じ報告が放射輸送を問題にしているのも、ここに理由があります。窓の中で光ったとしても、プラズマ自身がその光を吸い戻せば、そこで止まります。発光と輸送の両方が、窓の狭さに従っています。
変換効率の実測値は 4.7%
収支の中心になる数字です。2012 年の CO₂ レーザ励起スズプラズマ EUV 光源の開発報告3が、実測を並べています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| Sn の電離率 | 93% |
| 磁場による Sn デブリ抑制 | 98% |
| CO₂ レーザのエネルギー吸収率 | 68% |
| 変換効率(CO₂ レーザ → EUV) | 最大 4.7% |
| そのときの EUV パルスエネルギー | 2 mJ |
| 量産向けの目標出力 | 200 W 超 |
4.7% を得た手口が書かれています。プリパルスレーザによる Sn の分散のさせ方が変換効率を改善する鍵で、プリパルスのパルス幅をナノ秒からピコ秒へ最適化した結果、それまでの 3.8% から 4.7% へ上がりました。
出力を上げると、イオンの速度も上がる
出力を上げる方向には、単純な副作用があります。2024 年のレーザ支援放電プラズマにおけるレーザ強度と EUV 輝度・イオン速度の関係の研究4が、この 2 つを同時に測っています。
この研究の対象はレーザ支援放電生成プラズマ(LDP)で、レーザ強度を振って EUV 輝度とイオン速度の両方を追います。
測るべき量が 2 つ並んでいることが要点です。輝度だけを最適化すると、イオン速度の側を見落とします。イオン速度は、次節の鏡の寿命へ直結します。
光源方式の比較でも、同じ 2 軸を使います。
| 方式 | 特徴 |
|---|---|
| LPP(レーザ励起プラズマ) | プラズマ周囲の空間的自由度が高く、出力のスケーラビリティがある |
| LDP(レーザ支援放電プラズマ) | 放電のエネルギーを使うので電気効率の面で利点がある |
2012 年の量産用 LPP-EUV 光源開発の報告5が LPP を推す理由として挙げているのも、効率・出力のスケーラビリティ・プラズマ周囲の空間的自由度の 3 つです。3 つ目は、集光鏡やデブリ対策の機構を入れる余地を指します。
10 keV のイオンを、集光鏡から逸らす
デブリの中身が具体的に書かれているのが、2023 年の磁気ヌルによる EUV デブリ抑制の研究6です。
「特に遮るのが難しいのは、プラズマ中で生成される最大 10 keV の高エネルギー多価スズイオンである。」
10 keV です。熱エネルギーに直すと 10⁸ K の桁で、通常の緩衝ガスで止められる範囲を超えます。
既存の手段として挙げられているのは 3 つ——緩衝ガス、電場、磁場。広く使われている配置の欠点が指摘されています。
「一般的な配置の 1 つは EUV 放射方向に垂直な磁場であるが、このような系ではイオンが除去されるより捕捉される集団が生じうる。」
捕捉されたイオンは、系の中に残り続けます。除去したつもりで溜めている状態です。
そこでこの研究が調べているのが、磁気ヌル——磁場がゼロになる点を作る配置です。現実的な寸法の EUV 系でイオン軌道を全軌道積分し、コイル位置を最適化しています。
結果は 2 つ。
- 鏡へ到達するイオンを防ぐ割合は、垂直磁場と同程度
- 捕捉されるイオンはゼロ。ヌル近傍を通る軌道がカオス的になるため
同じ性能で、副作用が消えています。論文は、これが緩衝ガスのより効率的な組成を可能にしうると述べています。捕捉から自由になれば、ガス圧を下げられます。ガス圧を下げれば EUV の透過率が上がるので、収支表の別の行が改善します。
赤外を、集光鏡の側で落とす
デブリと並ぶもう 1 つの混入が、帯域外の光です。とくに CO₂ レーザの波長 10.6 µm の赤外は、レジストを加熱しウェーハを歪ませます。
2025 年のスペクトル純度フィルタを一体化した EUV 集光鏡の赤外抑制比のモデル化と測定7が、この対策を追っています。集光鏡そのものにスペクトル純度フィルタを作り込み、その赤外抑制比を測るという構成です。
一体化に意味があります。別部品として光路へ挟むと、EUV 側も透過損を受けます。集光鏡の表面へ周期構造を作り込めば、13.5 nm は多層膜で反射し、10.6 µm は回折で逸らす——1 つの面で 2 つの役割を持たせられます。
波長比が効いています。。3 桁近い差があるので、片方には格子として働き、もう片方には平面として働く構造が作れます。
収支表を、端から端まで通す
ここまでの値を 1 本につなぎます。集光鏡から基板までの鏡の枚数と 1 枚あたりの反射率を、仮に据えます(以下の 2 つは手順を示すための値で、特定の装置の実測値と別です)。
- 鏡の枚数 (集光鏡・照明系・投影系・マスクの合計)
- 1 枚あたりの反射率
すると光学系の透過率は
光源で 250 W あっても、基板には 5 W 弱です。
収支表の全体はこうなります。
| 段 | 効率 | 累積 |
|---|---|---|
| CO₂ レーザ → EUV(2% 窓内) | 4.7% | 4.7% |
| 鏡 11 枚() | 2.0% | 0.094% |
入口の電力に対して、基板へ届くのは 1000 分の 1 の桁です。
改善の働き方が段で大きく別になります。1 枚あたりの反射率を 0.70 から 0.72 へ上げると、 倍。わずか 2 ポイントの改善が、11 乗で 37% になります。一方、変換効率を 4.7% から 5.0% へ上げても 1.06 倍です。
だから収支表を作る値打ちは、どの段が何乗で乗るかが浮かぶところにあります。鏡の反射率は 乗、変換効率は 1 乗。同じ努力なら、乗数の大きい段へ向けます。
質量制限ターゲットという、別の答え
最後に、方式そのものを替える道をたどっておきます。1996 年の水滴レーザプラズマによる先進 EUV 光源の報告8が、初期に提案された形を残しています。
「13 nm または 11.6 nm での投影リソグラフィの要件をすべて満たすレーザプラズマ EUV 光源の動作を記述する。質量制限された水滴をレーザプラズマのターゲットとするこの光源は、本質的にデブリフリーであり、狭線幅の EUV を発し、連続動作が可能で、費用も実質的に軽い。」
「質量制限(mass-limited)」が鍵語です。ターゲットの質量を、プラズマ化に必要な分ちょうどに絞る。余分な質量がゼロなら、デブリになる材料もゼロです。
この考え方は、現在のスズ液滴方式にも受け継がれています。液滴の径を絞り、プリパルスで分散させてから本パルスを当てる——2012 年の報告3が変換効率を 3.8% から 4.7% へ上げた手口も、同じ質量をより有効に使う方向です。
ただし水と錫では、上の引用の主張が移る範囲が別です。水の場合に「本質的にデブリフリー」と言えるのは、残渣が気体として排気できるからです。錫は凝縮して鏡に付きます。だから錫方式では、質量制限に加えて磁場と緩衝ガスによる除去が要ります。ターゲット材料の選択が、そのままデブリ対策の要否を左右しています。
現場で動く判断
- 「2% 帯域」は光源の都合より、多層膜の干渉条件です。有効周期数 50 なら 。窓の広さは鏡の設計で決まり、光源はそこへ合わせる側にいます。
- 発光しているのは Sn⁷⁺〜Sn¹²⁺ の狭い価数帯です。プラズマが冷たくても熱くても、光は窓の外へ落ちます。温度勾配のある体積のうち、窓へ寄与するのは一部です。
- 入口の電力を逆算します。変換効率 4.7% なら EUV 200 W に CO₂ レーザ 4.26 kW。吸収された 2.90 kW のうち 2.70 kW が熱・イオン・帯域外放射になり、それがデブリと赤外の供給源です。
- 磁場で「除去した」か「捕捉した」かを区別します。EUV 放射方向に垂直な磁場は、イオンを系内へ溜める集団を作りえます。磁気ヌル配置は同程度の遮蔽性能で、捕捉をゼロにします。
- 赤外の抑制は、集光鏡へ作り込みます。波長比が 785 倍あるので、同じ面を 13.5 nm には多層膜、10.6 µm には格子として働かせられます。別部品にすると EUV 側の透過損が付きます。
- 改善の投資先は、乗数で選びます。鏡の反射率は 乗で乗り、変換効率は 1 乗です。反射率 0.70 → 0.72 の 2 ポイントが 11 枚で 1.37 倍、変換効率 4.7% → 5.0% は 1.06 倍。
- ターゲット材料が、デブリ対策の要否を決めます。気体として排気できる材料なら質量制限だけで済み、凝縮する材料なら磁場と緩衝ガスが追加で要ります。