露光機の波長は 248 nm、193 nm と刻んできました。その次が 13.5 nm です。あいだの 100 nm 台も 50 nm 台も飛ばしています。なぜ一気に一桁下まで跳んだのか。跳んだ先が、なぜ 13.5 nm ちょうどなのか。
多くの解説は「微細化のために波長を短くしていったら13.5 nmになった」と書きます。結果としては合っていますが、順序が逆です。実用的な反射率を返す鏡が先に見つかり、その鏡が返す波長へ光源をあとから合わせにいった、という順序です。
この順序で追うと、真空・全反射光学・反射型マスクという装置の骨格が、1 つの物性値から順に導けます。193 nmまでの露光機は、レンズとペリクルに使える透明な材料がある波長を選んできました。ガラスが透ける、だからレンズが作れる。この前提が13.5 nmでは完全に崩れます。
あらゆる材料がEUVを吸収する、という出発点
軟X線からEUVの領域では、あらゆる物質が光を強く吸収します。透過の度合いは減衰長(attenuation length)で表します。強度が 1/e、つまり約37%まで落ちるまでに光が進む距離のことです。13.5 nmでは、ほとんどの固体でこれが数十〜数百ナノメートルのオーダーになります。
レンズは光を数ミリ通す部品です。数百ナノメートルで37%まで減る波長では、数ミリの厚みを通した時点で光が尽きます。
手を動かして桁を出します。減衰長を ℓ=100 nm、レンズとして最低限の厚みを x=1 mm =106 nm とすると、指数の中身は x/ℓ=104 になります。
I0I(x)=e−104
ゼロと書いて足りる値です。同じ 1 mm を 193 nm の石英レンズが通すときは、透過率が 1 に近い側にとどまります。減衰長が nm 台か cm 台か、この一点だけで屈折光学の可否が決まる、ということです。
ZEISSは、EUV放射が空気とガラスに吸収されるため、鏡だけで構成し真空中で動作する光学系を設計したと記述しています11ZEISS SMT, So does EUV lithography work?。屈折光学が消えた瞬間に、真空・全反射光学・反射型マスクという装置の骨格が確定します。
界面1枚の反射はごく小さい
では鏡なら良いかというと、13.5 nmでは金属面の反射率も極端に小さい値へ落ちます。可視光の鏡が像を返すのは、電子が光の電場に追従して再放射するからですが、光子エネルギーが約92 eVにもなると電子の追従が止まり、界面1つあたりの反射はわずかな量にとどまります。
LBNLのX-Ray Data Bookletは、1つの界面での振幅反射率が 1/30 から 1/100 程度にとどまると記述しています22LBNL X-Ray Data Booklet 4.1。強度で言えば0.01%〜0.1%の世界です。
ここが転換点です。弱い反射を何十回も足し合わせる、という解がここで出ます。同じ資料は、30から100の界面からの反射を同位相で足せば全体の反射率を1に近づけられる、と続けます。
位相を揃える条件がBragg条件
「同位相で足す」を数式にしたものがBragg条件です。周期 d の多層膜へ角度 θ で光が入るとき、隣り合う界面で反射した光の行路差が波長の整数倍になれば強め合います。
図 01
周期dを選ぶとピーク波長が定まる。Mo/Siで13.5 nm付近にピークが来る周期が実用的に作れたので、そこへ光源を合わせた。
この条件は mλ=2dsinθ と記され、X線領域では各膜の厚みが1から10 nmになります33LBNL CXRO multilayer tutorial。
この式を、EUV露光機が使う条件まで縮めます。
mλ=2dsinθ
m は次数(1, 2, … の整数、無次元)、θ は膜の面から測った入射角、d が周期です。露光機の鏡はほぼ真上から使うので θ≈90°、つまり sinθ≈1。いちばん強い1次(m=1)だけに絞れば、式は 2 項に縮みます。
λ≈2d
次の節に出てくる周期 6.89 nm を入れると λ≈13.8 nm。実測のピークは 13.4 nm ですから、3%ほど短い側へ動きます。動く理由は、この波長域では物質の屈折率が 1 をわずかに下回り、行路差を数えるときに λ≈2dneff という補正が入るためです。3%の補正を入れても、波長を与えているのは周期のままです。
つまり因果はこうです。周期dを選ぶ → ピーク波長が定まる。向きは片方向です。Mo/Siという組み合わせで、作れる周期と得られる反射率が実用域に入ったのが13.5 nm付近だった。だから光源をそこへ合わせにいった。
実際に作るとどこまで届くか
理屈と製造は別物です。40対のMo/Si多層膜(周期6.89 nm、Mo 2.8 nm、Si 4.1 nm)は、13.4 nmの近垂直入射反射率67.5%であり、理想多層膜の理論上限は約75%です44LLNL, Multilayer coatings for EUVL (1998)。
| 項目 | 値 | 意味 |
|---|
| 理論上限(Mo/Si) | 約75% | 界面が完全に平坦・完全に分離した理想状態 |
| 実測ピーク | 67.5% @ 13.4 nm | 実際に作れる膜 |
| 差分の主因 | 相互拡散と界面粗さ | MoとSiが界面で混ざり、境目がぼやける |
この7〜8ポイントの差を詰めるために、MoとSiの間にB4Cのような拡散防止層を挟み、最表面には酸化と水素環境から守るRuのキャッピング層を足します。多層膜の材料構成に出てくる細かい層は、ほぼ全部この差分を削るためのものだと分かると、構造図が追いやすくなります。