SemiMapサイト内検索

講座集 / EUVリソグラフィ / 第 2 回

2 / 12

VOL.01 EUVリソグラフィ 第 2 回 / 全 12 回

光はどこで失われるか

EUV の光は鏡で 1 回反射するたびに 3 割を失い、12 回反射するとウェーハに届くのは 1.4% です。光源に数百ワットが要るのはこのためで、光源の仕様を中間集光点でのワット数で書く理由もここから分かります。

15 分 基礎 式 4 図 1 出典 9

この回の目次(9 節)
  1. §1 どの面で測ったワットか
  2. §2 0.7 を12回掛ける
  3. §3 枚数が12枚で止まる理由
  4. §4 「中間集光点で何ワット」というワットの測定面
  5. §5 錫の液滴を二段で叩く
  6. §6 変換効率は「13.5 nm ± 1%」へ入った分
  7. §7 集光ミラーは消耗部品として設計される
  8. §8 帯域外光は、露光量の水増しとして届く
  9. §9 最後は mJ/cm² × 枚数へ戻る

この回で示すこと

  1. 多層膜 1 回の反射で約 70% が残り、12 回掛けると 1.4% になる。光源に数百ワットが要るのはこの掛け算のため。
  2. 光源の仕様を中間集光点のワットで書くのは、集光・反射・デブリ遮蔽・スペクトル純度の損失を 1 つの面へ畳み込めるから。
  3. 反射を 1 回省くと、残る光は 1.43 倍になる。
反射率 0.7 を 12 回掛けた残り 1.4 %
反射を 1 回省いたときの光量 1.43 倍

レジストを感光させるのに要るエネルギーは、ウェーハ1枚あたり十数ジュールです。ところが光源の仕様には250 Wと書いてある。その250 Wは、どの面で測ったワットなのか。余っているはずの出力が、途中のどこで消えているのか。

この回はこの2つに答えます。答えの芯は 0.7 という数字ひとつです。前章で出た多層膜の鏡は、1回の反射で3割を捨てます。その鏡を12枚渡り歩くと、プラズマから出た光は1.4%まで落ちます。錫の液滴もプリパルスも水素も帯域外光の対策も、この掛け算への返答として一列に並びます。

どの面で測ったワットか

光源の章は「250 Wの光源」という数字から始まりがちです。先に片づけたいのは、そのワットがどの面での測定値なのか、そしてなぜ数百ワットという桁が要るのか、この2点です。ここを先にたどると、錫の液滴もプリパルスも水素も帯域外光の対策も、全部ひとつの掛け算への返答として一列に並びます。

掛け算の元になる数字は前章にあります。LLNLの実測で、Mo/Si多層膜の近垂直入射反射率は13.4 nmで67.5%1。多層膜反射鏡は1回の反射で約70%を返す、という意味です。EUV露光機の光学系は鏡だけで構成されるため、光は何枚もの鏡を渡り歩きます。0.7は、繰り返しに弱い数字です。

0.7 を12回掛ける

前章で挙げたLLNLの実測は、40対のMo/Si多層膜で13.4 nmの反射率67.5%でした1。ここでは切りのよい0.70として、プラズマからレジストまでの反射回数を数えます。

0.33 NA機の代表的な内訳として、集光ミラー1枚、照明系4枚、マスク1枚、投影系6枚を積算します。照明系の枚数は装置ごとに幅があるため、4枚を仮定値として使います。合計12回です。

残る割合は、掛け算1本で書けます。反射のたびに 倍になるだけなので

ここへ 、 を入れます。

1.4%です。途中の桁も書いておきます。、、。4枚ごとにおよそ1/4、と覚えておくと、装置構成を聞いた場で桁を出せます。

通過した要素累計の反射回数 n残る割合 0.7^n
集光ミラー170%
照明系4枚を通過517%
マスクで反射612%
投影系6枚を通過(ウェーハ面)121.4%
図 01
プラズマから集光ミラーへ入った光を100%としたときの残り 0.7^n この線と棒の差が、鏡に吸収されて熱になった分 100% 70% 17% 12% 1.4% 中間集光点 IF IFから先の11回で 0.7^11 = 2.0% IFで250 Wでも、ウェーハ面は約5 W 照明系の瞳成形とマスク吸収体で実機はさらに下 集光ミラー 照明系 4枚 マスク 投影系 6枚 反射回数 n →
反射1回で30%ずつ失われる掛け算が、光源に数百ワットを要求する。IFで250 Wあっても、ウェーハ面に届くのは5 W級にとどまる。

累計1.4%。プラズマから集光ミラーへ入った光のうち、レジストへ届くのは70分の1です。しかも 0.7^n は天井を示す数字で、実機の値はここより下に来ます。照明系は瞳を成形するために光束の一部を捨てますし、マスクの吸収体の領域は光を吸います。

枚数が12枚で止まる理由

掛け算がこれほど不利なら、鏡を減らせばよさそうに思えます。枚数を支える理由が3つ重なっています。

収差を消すには自由度が要ります。縮小投影では、球面収差、コマ、非点収差、像面湾曲、歪曲を、露光野の全域で同時に小さくします。パワーを持つ面1枚が自由度1つです。5系統の収差を全域にわたって打ち消すには、それだけの枚数の面が要ります。屈折系ならレンズ1枚で面が2つ手に入り、素子を重ねたときの損失もごく小さいので、設計者は自由度を安く買えます。反射系は素子1枚につき面が1つで、しかも1面ごとに3割を失います。6枚という数は、必要最小限まで削った結果です。

光路を通すために折る必要があります。反射系では入射光と反射光が同じ空間を取り合います。マスクからウェーハまで、鏡が互いの光路を遮らずに光を運ぶには経路を折り返すしかなく、折るたびに1枚増えます。マスクで主光線を傾けているのも同じ理由から来ています。

照明を作るのに別途要ります。結像とは別に、点に近いプラズマを、スリット全体で均一な明るさと狙った瞳形状を持つ照明へ変換する仕事があります。集光ミラーに続く field facet mirror と pupil facet mirror がこれを担い、同じ掛け算に乗ります。

つまり枚数は「収差補正 + 遮らずに折る + 照明を作る」の合計です。屈折系と反射系の対比はここです。枚数を増やす動機と減らす動機が正面から対立します。1枚足せば収差は減り、光は3割消えます。0.55 NA世代で照明系の鏡を1枚減らした、という設計判断が出てくるのはこの緊張の表れです。

「中間集光点で何ワット」というワットの測定面

プラズマは点光源に近い形で全方位へ放射します。集光ミラーが受け取れるのは、そのうちミラーが張る立体角へ入った分だけです。「プラズマが何ワット放射したか」という数字と、光学系へ入る量は、そもそも別物になります。

そこで業界は、集光ミラーが光を絞り込む一点、中間集光点(intermediate focus, IF)でのワット数を光源の仕様として採用しました。IFは光源モジュールとスキャナの受け渡し面です。この面で測ると、集光の立体角、集光ミラーの反射率、デブリ遮蔽、スペクトル純度フィルタ、これら上流の損失がすべて1つの数字へ畳み込まれます。Fomenkovらが報告した250 W級の量産光源も、この面での値です3。

錫の液滴を二段で叩く

LPP(LPP)は、真空中へ錫の液滴を高い繰り返しで飛ばし、そこへレーザーを当てて発光させる方式です。Hertzらは1995年に、液滴ターゲットがデブリを抑えた軟X線発生法になると報告しました4。固体の板を削り続ける方式に比べ、飛び散る材料の量を絞れます。

いまの量産光源は、この液滴を2発のレーザーで叩きます。

1発目がプリパルスです。球形の液滴へ短いパルスを当てると、液滴は薄い円盤状、あるいは霧状の雲へ変形します。2発目のメインパルス(量産機ではCO2レーザー、波長10.6 μm)が、この広がった錫を電離させます。

2発に分ける利得は、3つの効果の重ね合わせです。

  • 広がった標的は、メインパルスが吸収される臨界密度面の面積を稼ぎます。同じレーザーエネルギーがより多くの錫へ配られます。
  • 密度の下がったプラズマは、自分が放った13.5 nmの光を自分で吸い返す量が減ります(自己吸収の低減)。
  • 錫の質量がより多く発光に回るため、そのまま飛び散る錫の量が減ります。

3つ目の経路があるため、プリパルスは変換効率とデブリ対策を同じ操作で同時に動かします。この2パルス構成(MOPA + pre-pulse)の量産光源を最適化した結果です5。

変換効率は「13.5 nm ± 1%」へ入った分

変換効率(CE)は、投入した駆動レーザーのエネルギーのうち、13.5 nmを中心とする帯域幅2%(13.5 nm ± 1%)の中へ、しかも集光ミラーの立体角へ向けて放射された分の割合です。

この2%という窓の幅の出どころは、前章のBraggピークです。Mo/Si多層膜が反射する波長域がここに限られるため、その外側へ放たれた光子は、どれだけ明るくても1枚目の鏡で捨てられます。多価の錫イオンの4d–4f遷移が重なり合った放射帯(unresolved transition array)がちょうど13.5 nm付近に立つ、という事情がここに噛み合います。O'Sullivanらの「Optimizing an EUV source for 13.5 nm」は、この窓の中へ入る放射を増やす条件を追った仕事です6。

CEが2倍になれば、同じIFワットを得るための駆動レーザー出力は半分で足ります。電力も冷却も、消費する錫の量も同じ側へ動きます。CEは光学の数字であると同時に、電気代の数字です。

集光ミラーは消耗部品として設計される

プラズマは光と一緒に錫も放ちます。高速の錫イオン、中性原子、そして電離を免れた液滴の破片。これらがデブリです。

デブリが集光ミラーへ与える害は2経路をたどります。イオンは多層膜の表面をスパッタして削ります。堆積した錫は13.5 nmを強く吸収します。前章の減衰長がそのまま働くため、錫が数nm積もるだけで反射率が沈みます。

対策は三層構えです。磁場でイオンの軌道を曲げる。フォイルトラップで粒子を捕らえる。水素を緩衝ガスとして流す。水素は高速イオンを減速させるうえに、堆積した錫と反応して揮発性のSnH4(スタナン)を作り、真空ポンプが運び去ります。EUV照射で生じる水素プラズマのラジカルがこの反応を進めるため、集光ミラーは運転中に洗われ続けます。

この三層が働く理由は、削る側の物理まで下りると1本にまとまります。イオンが表面の原子を弾き飛ばす現象は、成膜装置がスパッタ源として使っているものと同じです。ここで働くのが閾値で、原子を1個はじき飛ばすには、その原子の結合エネルギーを超える運動エネルギーを外向きに渡す必要があります。入射エネルギーが閾値を下回れば、当たったイオンは表面へ止まるだけです。磁場は軌道をそらして鏡の手前へ逃がし、緩衝ガスは衝突でエネルギーを閾値の下へ落とす。手段は別でも、共通するのは「閾値を超えるイオンが表面へ届く前にエネルギーを奪う」の一点です。

水素の側は化学です。プラズマへ入った分子にまず起きるのは電子衝突による解離で、そこで生まれたラジカルが反応を担います。錫をSnH4へ変えているのは水素分子そのものより、この解離でできたラジカルのほうです。だから水素が働くのは、EUV照射がプラズマを作っている領域に限られます。

水素側にも代償があります。水素自身が13.5 nmを吸収しますし、Mo/Si多層膜へ入り込んだ水素はブリスタ(膨れ)を作ります。水素圧はこの両側の間で選ばれます。

それでも反射率はゆっくり沈みます。集光ミラーの寿命と再生(refurbishment)であり7、集光ミラーが交換前提の部品として運用されている状況が分かります。IFのワット数は集光ミラーの反射率にほぼ比例します。反射率が1割沈めば、駆動レーザーを増やすか、時間あたりの枚数を諦めるかの二択になります。集光ミラーの寿命が原価計算へ載る理由がこれです。

帯域外光は、露光量の水増しとして届く

プラズマの放射は広い波長域へ広がります。錫プラズマはDUV域にも放射しますし、駆動用CO2レーザーの10.6 μmは集光ミラーで素直に反射します。金属面は長波長ほどよく反射するからです。これらが帯域外光です。

帯域外光が起こすことは2つです。10.6 μmの赤外はマスクとウェーハを温め、熱膨張としてオーバーレイに乗ってきます。DUVはレジストを感光させます。DUVの波長は13.5 nmの十数倍から数十倍あるため、パターンを結ぶ役には立たず、一様な背景露光としてコントラストを薄めながら露光量だけを水増しします。

そこで、集光ミラーの表面に格子を刻んで10.6 μmを回折でIFの外へ振り分ける方式、Zr系の透過フィルタ、下流の多層膜が波長を選び直す作用を重ねます。集光ミラーへ2波長のスペクトル純度フィルタを組み込んだ構成です8。IFのワット数は、この帯域内成分の割合(スペクトル純度)とセットで語られます。van de Kerkhofらは、高出力運転でのスペクトル純度と結像性能を同じ論文の中で報告しています2。

最後は mJ/cm² × 枚数へ戻る

ここまでの数字を、ウェーハ側から逆に組み立て直します。van de KerkhofらのNXE:3400Bの報告は、IFのワットと時間あたりの枚数を同じ装置仕様の中で報告しています9。

  • 300 mmウェーハの面積: cm²
  • 露光量を仮に20 mJ/cm²とすると、1枚あたり J
  • IFで250 W、IFから先の透過率を とすると、ウェーハ面へ届くのは約5 W
  • 秒。これが1枚あたりの正味の点灯時間です

同じ手順を式で書き直すと、動かせる場所を名前で指せます。ウェーハ面のパワーは、IFのワットに残り11回ぶんの掛け算を掛けたものです。

点灯時間は、1枚に入れるエネルギーをそのパワーで割ったものです。

= ウェーハの面積(cm²)、 = 露光量(J/cm²)、 = 1枚あたりの正味の点灯時間(s)です。まず W に を掛けて W。次に cm²、 mJ/cm² J/cm² を入れて、 秒。上の箇条書きと同じ値です。

式にすると、触れる場所は分母に3つだけ、と分かります。 を上げる、 を保つ、 を減らす。分子の はレジストの側の都合で決まるので、露光機の設計者が動かせるのは分母だけです。

1時間に100枚なら、点灯している時間は合計280秒、1時間の約8%にとどまります。残りはステージの折り返し、ウェーハの搬送、フォーカスとアライメントの時間です。

ここで、この講座が何度も戻ってくる張力に行き当たります。

(露光量 mJ/cm²)×(時間あたりの枚数)は、ウェーハ面へ届く平均パワーで頭打ちになります。

確率的欠陥を抑えるためにレジストの露光量を上げれば、同じ光源では枚数が沈みます。枚数を守る手は3つ、CEを上げる、集光ミラーの反射率を保つ、反射回数を1回でも削る。 の を1つ減らすと残る光は 倍になります。鏡を1枚省く設計変更が装置全体をひっくり返すほどの価値を持つのは、この43%のためです。

出典

  1. 1 LLNL, Multilayer coatings for EUVL (1998) osti.gov
  2. 2 van de Kerkhof et al., High-power EUV lithography: spectral purity and imaging performance (2020) doi:10.1117/1.JMM.19.3.033801
  3. 3 Fomenkov et al., Industrialization of a robust EUV source for high-volume manufacturing and power scaling beyond 250W (2018) doi:10.1117/12.2305955
  4. 4 Hertz et al., Debris-free soft x-ray generation using a liquid droplet laser-plasma target (1995) doi:10.1117/12.221000
  5. 5 Schafgans et al., Performance optimization of MOPA pre-pulse LPP light source (2015) doi:10.1117/12.2087421
  6. 6 O'Sullivan et al., Optimizing an EUV source for 13.5 nm (2004) doi:10.1117/12.504715
  7. 7 Feigl et al., Lifetime and refurbishment of multilayer LPP collector mirrors (2013) doi:10.1117/12.2015492
  8. 8 Feigl et al., Sub-aperture EUV collector with dual-wavelength spectral purity filter (2015) doi:10.1117/12.2175666
  9. 9 van de Kerkhof et al., Enabling sub-10nm node lithography: presenting the NXE:3400B EUV scanner (2017) doi:10.1117/12.2258025