レジストに求めるものは 3 つあります。細かく解像すること、線の縁が滑らかなこと、わずかな線量で反応すること。3 つは互いに引き合います。
引き合い方を言葉で語るかわりに、1 つの量へ畳む方法があります。粗さの原因が分子の大きさより酸の不均一にあること、しかも線量によって働き方の符号が入れ替わることまで降ります。
3 項目の関係を、化学勾配という 1 つの量へ畳む
2019 年の EUV レジスト工程における解像度・LER・感度のトレードオフ関係の理論研究1が、この畳み方を示しています。
軸に据えられているのが化学勾配——LER の指標として使われる量です。パターンの境目で、脱保護反応の進み具合がどれだけ急に切り替わるか。勾配が急なら縁がはっきりし、緩ければ縁がぼやけます。
化学勾配の依存性が、3 つの変数について調べられています。
| 変数 | 内容 |
|---|---|
| ハーフピッチ | ライン&スペースパターンの寸法 |
| 増感剤濃度 | 光を受け取る成分の量 |
| 脱保護の実効反応半径 | 1 つの酸が働きかける範囲 |
シミュレーションは、化学増幅型 EUV レジストの増感と反応の機構にもとづいて組まれています。そのうえで、解像度・LER・感度の関係が定式化されました。
10 nm を切るハーフピッチで、新しい項が姿を示します。
「サブ 10 nm ハーフピッチの解像領域では、熱化電子の効果が明確になった。熱化電子の効果を抑えるには、増感剤濃度および/または実効反応半径の増加が要る。」
同じ関係を、データの側から引き直す
理論の定式化に対して、データから係数を当てはめる道もあります。2020 年の lasso 回帰による解像度・LER・感度のトレードオフ解析2が、その手順です。
対象はハーフピッチ 5〜16 nm の範囲。当てはめる関係は、前節と同じ 5 つの量のあいだです——解像度、化学勾配(LER の指標)、感度、総増感剤濃度、脱保護の実効反応半径。
最小二乗回帰と lasso 回帰の 2 つが比べられ、結果が 2 つ報告されています。
- 化学勾配を記述するために要る特徴量の数が調べられた
- 当てはめ精度がデータ数に対してどう動くかが調べられた
「lasso 回帰は、特徴量の数の削減に対してだけでなく、最小二乗回帰と比べて小さいデータ集合での当てはめ精度の改善に対しても有効であった。」
水準が乏しいときの回帰の選び方
この結果は、レジスト測定の現場の事情と噛み合います。水準を 1 つ振るのに 1 枚のウェーハと 1 回の露光が要るので、データ点は増えにくい。
乏しいデータへ最小二乗を当てると、係数が過剰に動きます。特徴量の数がデータ点の数に近づくほど、当てはめは訓練データへ吸い付き、外挿が崩れます。
lasso が有効なのは、係数に罰則を掛けて小さい係数をゼロへ落とすためです。結果として
- 使う特徴量が減る(どの量が効いているかが見える)
- 当てはめ精度が上がる(過剰な自由度が削られる)
2 つが同時に得られるのが要点です。普通、変数を減らすと精度は落ちます。データが乏しい領域では逆になる、というのが上の報告の内容です。
水準が 10 点を下回る段階では、最小二乗で全特徴量を当てるより、lasso で特徴量を絞ります。残った特徴量を次の実験計画の因子に据えます。
5 nm 角のセルに届く光子は、510 個
トレードオフの底にあるのは光子の数です。数えてみます。この数え方は2024 年の短波長レジスト材料の吸収係数計算3が示す吸収の係数へ、そのまま紐づきます。
13.5 nm の光子 1 個のエネルギーは
したがって線量 1 mJ/cm² は
線量 30 mJ/cm² で、 個/cm²。ここへ寸法を入れます。
| セル寸法 | 面積 | 届く光子 | 相対ゆらぎ |
|---|---|---|---|
| 16 nm 角 | 5,220 個 | 1.4% | |
| 5 nm 角 | 510 個 | 4.4% |
一辺を 3.2 分の 1 にすると、ゆらぎは 3.2 倍です。面積が 10.2 分の 1 になり、その平方根が 3.2 だからです。
ここに吸収が掛かります。届いた光子のうち、レジストが実際に吸うのは一部です。
吸収率 なら、5 nm 角のセルで 51 個。ゆらぎは 14% になります。
吸収を上げる道は、内殻電子の側にある
では吸収率をどう上げるか。2017 年の内殻電子構造が光レジスト材料の EUV 吸収を高める重要性に関する研究4が、元素の選び方という答えを示しています。
出発点の認識はこうです。現行の光レジストは、同じ線量に対して EUV での光吸収断面積がかなり低い。
そこでこの研究は、内殻の電子構造が光吸収断面積を高めうるという仮説を立て、レジスト中の置換元素の選択によってそれを制御できると考えます。
検証には、価電子構造が似ていて、準内殻と深い価電子準位の性質だけが別な一連のハロゲン化有機分子が使われました。時間依存密度汎関数理論で、CH₃X(X = H, OH, F, Cl, Br, I)と代表的な高分子断片(2-メチルフェノールとそのハロゲン化物)の吸収断面積が計算されています。
結果の中心が 1 つの元素に出ています。
「ヨウ素は EUV 領域で特に高い断面積を持ち、これは 4d 電子による遅延吸収に由来する。」
同じ価電子構造でも、内殻の違いで吸収が大きく動く。分子設計の自由度が、価電子の側だけでなく内殻の側にもある、ということです。
2024 年の短波長レジスト材料の吸収係数計算3が、この考え方を波長ごとに広げています。
| 波長域 | 吸収の高い材料 |
|---|---|
| BEUV(6.x nm) | Zn クラスタ |
| 水の窓 X 線(2.2〜4.4 nm) | Sn クラスタ |
化学増幅型レジストについての指摘です。「EUV 吸収の高い原子を酸発生剤へドープすると、CAR 高分子の吸収性能が改善する。」ただし水の窓 X 線については別で、Zr、Sn、Hf のような高吸収元素を含む吸収層を導入する必要があると書かれています。
波長が動けば、最適な元素も動きます。内殻の準位が波長に対してどこにあるかで決まるので、1 つの材料が有利でいられるのは、限られた波長域の内側です。
電子付着でできる酸の像は、4.6〜10.3 nm ぼける
酸の像がどれだけぼけるか。2006 年の電子線リソグラフィ用化学増幅型レジストにおける潜在酸像の解像ぼけと酸発生効率の研究5が、機構から見積もっています。
まず機構の差が指摘されます。
| 系 | 酸発生剤が分解する経路 |
|---|---|
| 光レジスト | 主として励起状態を経由 |
| 電子線レジスト | 電子付着を経由 |
この差がぼけを生みます。典型的な酸発生剤はおよそ 0 eV の低エネルギー電子と反応しうるためです。エネルギーがほぼゼロの電子は方向を失っていて、行き先が等方になります。
報告は、この反応機構に固有のぼけの大きさを機構ベースのシミュレーションで見積もり、1 回の電離(二次電子生成)あたりの酸発生効率も理論的に推定しています。
| 量 | 現行の有機レジスト材料での範囲 |
|---|---|
| 解像ぼけ | 4.6〜10.3 nm |
| 1 電離あたりの酸発生効率 | 0.39〜0.85 |
ぼけが 4.6〜10.3 nm です。前節で数えた 5 nm 角のセルと、同じ桁にあります。
報告は、コントラストと LER の相関が広く受け入れられていることにも触れています。ぼけはコントラストを下げ、コントラストの低下は縁の粗さになる。機構の段で決まるぼけが、最終的な粗さの下限を作っています。
粗さを支配しているのは、分子の大きさより酸の不均一
では分子を小さくすれば粗さは減るのか。2021 年の酸拡散とレジスト分子サイズが LER へ与える影響の計算研究6が、2 つを分離しています。
確率的シミュレーションの組み方はこうです。単量体単位をランダムに連結して高分子鎖を作り、露光後ベーク中の酸拡散と酸-高分子反応をランダムウォーク模型で入れます。
結果の 1 つ目が、優先順位です。
「不均一な酸生成と拡散のほうが、高分子の分子サイズより、パターンの粗さへ大きく影響する。」脱保護型と架橋型の両方のレジストについて、そうなりました。
2 つ目が、符号の入れ替わりです。
| 線量 | 重合度を上げると LER は |
|---|---|
| 高線量 | 増える |
| 低線量 | 減る |
理由も書かれています。高線量では酸の分布が一様になるので、分子サイズのほうが LER に効いてきます。一方低線量では、大きい高分子分子のほうが、低線量に伴う酸の不均一な分布に対して鈍感です。
符号が入れ替わる変数の読み方
同じ因子が、条件によって逆向きに働きます。これは実験計画を組むときに最も厄介な形です。
線量と重合度の 2 因子を振った実験で、重合度の主効果だけを追うと、平均がゼロ近くになりえます。高線量の水準で増え、低線量の水準で減るので、打ち消し合うためです。
打ち手は 2 つです。
- 交互作用項を最初から模型へ入れる。主効果だけの模型では、この構造が打ち消し合って消えます
- 線量の水準ごとに層別して解析する。高線量群と低線量群で別々に重合度の効果を推定します
報告の受け取り方としてはこうです。「高分子を小さくすれば粗さが減る」という一般則は、低線量側で逆になります。EUV では線量を下げる圧力が常に掛かっているので、実際の運転点は「大きい分子のほうが有利」な側にいる可能性があります。
自分の運転点がどちら側かは、重合度を 2 水準振って線量を 2 水準振る 2×2 で確かめられます。
金属オキソクラスタでは、配位子と核が別々に働く
有機レジスト以外に、無機-有機ハイブリッドという選択肢があります。2025 年の有機配位子と金属ナノクラスタ核構造がレジスト性能へ与える影響の研究7が、2 つの要素を分けて調べています。
合成されたのは金属オキソクラスタで、4 種類の有機配位子と3 種類の金属ナノクラスタ核の組み合わせです。EUV と電子線の両方で露光し、解像度と感度が測られました。
結果は 2 つの軸へ割れます。
核の側——露光線量を最適化する前の段階で、
| 核 | 解像したライン&スペース |
|---|---|
| Hf 系・Zr 系 | 50 nm |
| Ti 系 | 100 nm |
配位子の側——
- チグリン酸を配位子とする金属オキソクラスタの感度は、他の有機配位子のものより高かった(電子線で)
- 芳香族カルボン酸配位子の感度は、不飽和脂肪族カルボン酸配位子のものより低かった
核と配位子が、それぞれ別の性能に効いています。核は解像度側、配位子は感度側。2 つが独立に選べるなら、トレードオフの 3 項目のうち 2 つを別々の部品で調整できることになります。
有機レジストとの差がここにあります。化学増幅型では、増感剤濃度と実効反応半径という 2 つの変数が同じ高分子系の中で結びついていました。ハイブリッド材料では、変数が 2 つの部品へ割れています。
現場で動く判断
- 3 項目を語るときは、化学勾配という 1 つの量へ畳みます。解像度・LER・感度の関係は、ハーフピッチ・増感剤濃度・実効反応半径の 3 変数1で定式化されています。
- サブ 10 nm では熱化電子の項が立ちます。抑えるには増感剤濃度か実効反応半径を増やします。ただし後者は解像度を下げる向きでもあります。
- 水準が 10 点を下回るうちは lasso を使います。特徴量が減り、同時に当てはめ精度が上がります。残った特徴量を次の実験計画の因子に据えます。
- 光子数を、吸収まで含めて数えます。30 mJ/cm² で 5 nm 角に届くのは 510 個、吸収率 1 割なら 51 個でゆらぎ 14%。ゆらぎを半分にするには吸収光子数が 4 倍要ります。
- 同じゆらぎ改善でも、線量と吸収率では代償が別です。線量 2 倍は生産量半減、吸収率 2 倍は生産量そのまま。材料の吸収を上げる道が、繰り返し主題になる理由です。
- 吸収は内殻の元素選択で動きます。ヨウ素は 4d 電子の遅延吸収で EUV 域の断面積が高い。ただし BEUV では Zn、水の窓 X 線では Sn というように、波長ごとに最適な元素が別です。
- 重合度の効果は線量で符号が入れ替わります。高線量では重合度を上げると LER が増え、低線量では減ります。主効果だけの模型では、この構造が打ち消し合って消えます。
- ハイブリッド材料では、核と配位子を別々に選びます。核が解像度側(Hf・Zr で 50 nm、Ti で 100 nm)、配位子が感度側(不飽和脂肪族カルボン酸が芳香族より高感度)。変数が 2 つの部品へ割れているのが、有機レジストとの差です。