マスクの欠陥といえば、吸収体が余分にあるか欠けているかを思い浮かべます。
EUV では、3 つ目の型があります。吸収体は正しく、材料の欠落もゼロ。下地の高さが別なだけで、パターンが焼き付きます。
理由は、EUV マスクが多層膜の干渉で反射していることにあります。膜の下に膨らみがあると、そこだけ反射の位相が回ります。位相の回った領域と、そのままの領域が足し合わさって、強度が落ちる。
高さ 1 nm が、位相を 53 度回す
多層膜の下に高さ の膨らみがあるとします。光は入って戻るので、光路差は 。位相差は
nm で数を入れます。
| 高さ | 位相差 |
|---|---|
| 0.5 nm | 26.7° |
| 1.0 nm | 53.3° |
| 2.0 nm | 106.7° |
| 3.375 nm() | 180° |
nm で、位相が半周します。そこでは反射光が正反対の向きになる。マスクブランクの欠陥を補償する 2021 年の研究1が欠陥の高さを主な軸に取るのは、この式が理由です。
支配しているのは高さだ、という実測
上の計算では、高さだけが乗っています。実測もその向きです。
2005 年の EUV 反射鏡における欠陥の焼き付きやすさの数値的研究——Ru/Mo/Si 多層膜系2が、Mo/Si と Ru/Mo/Si の 2 つの多層膜系について、欠陥の幅・高さ・位置を振って、ウェーハ上の空間像を計算しています。
結論が 1 文で出ています。
「欠陥のある多層膜構造の空間像の特性は、主として欠陥の高さに依存することが分かった。これは反射場の位相シフトに関係している。」
「高さに依存する」「位相シフトに関係している」——上で作った式そのものです。
50 nm のライン&スペースパターンについて、横方向の位置に応じたピーク強度とピーク位置のシフトが計算されています。強度だけでなく、パターンの位置も動きます。
| 欠陥の性質 | 空間像への影響 |
|---|---|
| 高さ | 主要因。位相シフトを通じて強度を動かす |
| 幅 | 影響する範囲を確定する |
| 横方向の位置 | ピーク強度とピーク位置の両方を動かす |
2 つの膜系の比較結果です。「Ru/Mo/Si モデルは、すべての場合について Mo/Si モデルと約 6% の範囲内で一致すると結論できる。」
6% の一致は、材料の選択が欠陥の焼き付きやすさへ乗る幅を 6% に抑えることを意味します。保護層を Ru へ替えた後も、この問題は残ったままです。
位相の欠陥は、実波長で初めて姿を示す
位相だけの欠陥には、検査の難しさが付いてきます。材料の組成も、表面の高さも、ほぼそのままだからです。
2005 年の EUV 顕微鏡を用いた実波長マスク検査——位相欠陥観察のためのミラウ干渉計の準備3が、この問題への答えの 1 つです。
「実波長(actinic)」という語が要点です。実際に使う 13.5 nm で測る、という意味です。
| 検査の波長 | 位相欠陥が姿を示すか |
|---|---|
| 可視光 | 表に出るのは表面の形まで。多層膜の下の膨らみは通り抜ける |
| 13.5 nm(実波長) | 多層膜の反射そのものを測るので、位相が浮かぶ |
ミラウ干渉計を使うのは、位相を強度へ変換するためです。干渉計は参照波と重ねるので、位相差が明暗になります。
上の式で言えば、 を人為的に 0.5 にして観測していることになります。干渉計の参照波が「位相のそのままな側」を担うためです。
検査の波長を選ぶ順番
| 疑っているもの | 使う波長 |
|---|---|
| 表面の粒子・傷 | 可視光や電子線。表面の形を直接測る |
| 吸収体の欠け・余り | 可視光や電子線 |
| 多層膜下の位相欠陥 | 13.5 nm の実波長 |
3 行目が、専用の装置を要する理由です。13.5 nm の光源と光学系を検査装置の側にも持つ必要があります。
2026 年のパターン付き EUV マスクに対する光電子顕微鏡にもとづく位相欠陥検査のように、別の経路も探られています。光電子を使えば、EUV 光源を検査装置へ持ち込まずに位相の情報へ届きます。
現場での手順はこうなります。
- 欠陥の型を先に絞る。表面か、吸収体か、多層膜下か
- 型に合う波長を選ぶ
- 多層膜下が疑わしいときだけ、実波長の装置へ回す
実波長の検査は装置が限られるので、掛ける先を絞ってから回します。
見つけた欠陥を、吸収体の形で打ち消す
欠陥を見つけた後の道が 2 つあります。ブランクを捨てるか、打ち消すか。
2021 年の高度な遺伝的アルゴリズムにもとづく EUV リソグラフィマスクブランク欠陥の補償1が、後者を追っています。多層膜の下の欠陥は補正の対象外になりますが、その上に乗る吸収体の形を変えれば、空間像を戻せます。
考え方は前半の式に戻ります。欠陥が振幅へ を足したなら、吸収体の形を変えて逆向きの寄与を作る。
2026 年の EUV マスク欠陥補償のための 3 次元吸収体補正4は、この補正を3 次元で行う方向です。吸収体は厚みを持つので、平面のパターンに加えて厚みの自由度が要ります。
| 補正の自由度 | 何を動かすか |
|---|---|
| 2 次元 | 吸収体のパターンの形(幅・位置) |
| 3 次元 | 加えて厚みと側壁の角度 |
自由度が増えると、打ち消せる欠陥の範囲が広がります。そのかわり、吸収体の加工の側に新しい要求が立ちます。
ペリクルは、光が 2 回通る
マスク側の話から、保護膜の側へ移ります。
EUV マスクは反射型なので、ペリクルを通る光は往復で 2 回通ります。透過率 に対して、実効の透過は です。
| 透過率 | 実効 | 損失 |
|---|---|---|
| 0.85 | 0.723 | 27.8% |
| 0.90 | 0.810 | 19.0% |
| 0.95 | 0.903 | 9.8% |
| 0.98 | 0.960 | 4.0% |
透過率を 0.90 から 0.95 へ上げると、実効が 0.810 から 0.903 へ。11.5% の改善です。
2024 年の 400 W EUV リソグラフィ向け金属シリサイド EUV ペリクルの開発と最適化5が、実測値を並べています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 透過率 | 90% 超 |
| 反射率 | 0.04% 未満 |
| 2 Pa の差圧でのたわみ | 300 µm |
| 極限引張強さ | 2 GPa 超 |
| 熱放射率 | 0.3 |
| 寸法 | 10 mm × 10 mm、および 110 mm × 144 mm の実寸 |
開発の難しさが 1 文で書かれています。ナノメートル規模の厚みでの機械的な脆さと、高温および水素ラジカルを含む EUV 露光環境の厳しい条件に耐える必要があるため、EUV ペリクルの製造は非常に難しい。
丈夫なほうの層が、弱いほうを酸化させる
ペリクルには、時間とともに透過率が下がるという問題も報告されています。2022 年の EUV ペリクル膜の EUV 透過率劣化の調査6が、その原因を特定しています。
対象は Ru/SiN の複合膜で、EUV スキャナを模した環境で加熱したときの組成変化が観測されています。
結果の組み合わせが意外です。
| 層 | 状態 |
|---|---|
| 高圧で成膜した Ru 薄膜 | 空隙のネットワークが多いが、酸化はそのまま免れた |
| SiN 薄膜 | 加熱後に酸化した |
因果が明示されます。「Ru 薄膜中の空隙ネットワークが酸素の優先的な拡散経路として働き、SiN 薄膜の酸化を引き起こした。」
EUV 透過率の劣化は、SiN の酸化によるものだと確かめられています。
構造としてはこうなっています。
- Ru 自身は酸化に強い
- ところが空隙の多い Ru は、酸素の通り道になる
- 通り抜けた酸素が、下の SiN を酸化させる
- SiN の酸化が、透過率を下げる
「酸化を免れた層」が、酸化の原因になっています。層そのものの耐性と、層が果たす目張りの役割が、別の性質だからです。
だから多層の膜を測るときは、各層の耐性だけでなく、層を通り抜ける経路も測ります。成膜圧力が空隙のネットワークを作るなら、成膜圧力が透過率の寿命を左右していることになります。
粒子を取る側にも、生産性の問題がある
ペリクルを使う目的は粒子の目張りです。ペリクル自身に粒子が付きます。
2023 年の EUV ペリクルの生産性向上のためのピンポイント粒子除去7が、この側を追っています。「ピンポイント」という語が、手法の性格を表しています。
| 除去の方式 | 性格 |
|---|---|
| 全面の洗浄 | 膜全体へ負荷がかかる。薄い膜では破損の危険 |
| ピンポイント除去 | 見つけた粒子の位置だけへ作用させる |
ペリクルの厚みがナノメートル規模なので、使えるのは局所へ力を掛ける手法までです。位置を特定してから、そこだけを狙う。
「生産性向上」という題名が、この工程が律速になりうることを示しています。1 枚のペリクルを作るのに掛かる時間のうち、粒子の除去が占める割合が問題になっている。
現場で動く判断
- 位相欠陥は、高さから直接計算で出ます。。1 nm で 53 度、 nm で半周です。
- 最悪の面積割合は 0.5 です。損失は 。欠陥が領域を埋め尽くすと、干渉の相手が消えて損失もゼロへ戻ります。
- 多層膜の材料を替えた後も、焼き付きやすさはほぼそのままです。Ru/Mo/Si と Mo/Si の一致は約 6%2。
- 検査の波長は、欠陥の型で選びます。表面と吸収体は可視光や電子線、多層膜下の位相欠陥は 13.5 nm の実波長。
- 見つけた欠陥は、吸収体の形で打ち消せます。2 次元では自由度が足りず、厚みと側壁角度を含む 3 次元の補正が要ります。
- ペリクルの透過率は、2 乗で乗ります。0.90 なら実効 0.810、0.95 なら 0.903。0.05 の改善が実効で 11.5%。
- ペリクルは放射だけで冷えます。放射率 0.3、実寸の面積で 600 K でも 0.65 W。吸収する電力をこの桁と比べます。
- 多層の膜では、層の耐性と目張りの役割を分けて測ります。酸化を免れた Ru が酸素の通り道になり、下の SiN を酸化させた6例があります。成膜圧力が空隙を作るなら、成膜圧力が寿命を左右しています。