「この層は EUV で 1 回、この層は 0.33 NA で 2 回」。この割り振りには、装置の値段より手前の量が要ります。
比べられる形はウェーハ 1 枚あたりの金額で、そこへ落とす割り算の分母に、装置が止まっている時間が入ります。
分母に入るのは、実際に出てきた枚数
ウェーハあたりの資本費は、割り算 2 回です。
が時間あたりの減価償却(ドル/時)、 が素のスループット(枚/時)、 が稼働率(無次元)。
と は、上げるための仕事が別です。 は光源出力とレジスト感度、 は保守体制と部品供給。それでも式の中では掛け算で並ぶので、どちらが 2 割落ちても同じだけコストが上がります。
0.33 NA のクラスタ 1 式を $210M(露光機に加えてレジスト処理装置と設備側ハードウェア)、償却 5 年、年 8,760 時間として
枚/時、 を入れます。
カタログの 100 枚に代えて、実際に出てきた 80 枚で割っている——この式がしていることは、それだけです。
稼働率の作用を表にします。
| 稼働率 | 実出来高 | ウェーハあたり | 比 |
|---|---|---|---|
| 0.90 | 90 枚/時 | 53.3 USD | −11.1% |
| 0.80 | 80 枚/時 | 59.9 USD | — |
| 0.75 | 75 枚/時 | 63.9 USD | +6.7% |
| 0.70 | 70 枚/時 | 68.5 USD | +14.3% |
| 0.60 | 60 枚/時 | 79.9 USD | +33.3% |
稼働率が 0.80 から 0.70 へ落ちると、14.3% 上がります。
リソグラフィの費用が IC 製造全体に占める割合は、古くから 3 分の 1 程度と見積もられてきました。1994 年の EUV リソグラフィの所有コスト解析1が、IC の製造コストが上がり続けており、微細化の進行に最終的な蓋をするのは技術より経済の側になりそうだと述べたうえで、リソグラフィが現代の IC 製造コストの約 3 分の 1 を占めること、そして新設工場の設備投資が指数的に増えていることを挙げています。
保守費と電力費は、同じ分母から取り立てられる
残り 2 つの費目を、同じ分母で割ります。
年間に出てくる枚数は 枚。
保守費。交換部品を含む年 $3M の契約なら
資本費の 7.1% です。
電力費。装置全体で 1.2 MW、電力単価 $0.177/kWh として
3 つを積みます。
| 費目 | ウェーハあたり | 構成比 |
|---|---|---|
| 資本費 | 59.9 USD | 89.6% |
| 保守費 | 4.28 USD | 6.4% |
| 電力費 | 2.65 USD | 4.0% |
| 合計 | 66.9 USD | 100% |
3 つとも分母が です。だから稼働率が 0.80 から 0.70 へ落ちれば、3 つそろって 14.3% 上がります。止まっている時間は、どの費目からも同じ率で取り立てられます。
金額としては電力が最小です。ところが量へ直すと桁が変わります。
装置 1 台で年 10.5 GWh、20 台なら 210 GWh。$2.65/枚という単価と、210 GWh/年という調達量は、別の話をしています。値段として小さい費目が、供給の側で壁になる場面があります。
装置の規模そのものも公開されています。2026 年の高 NA EUV リソグラフィの構成解析2が、高真空のメインベッセルに収まる多層反射鏡の連鎖と、サブファブに隔離された超高出力の CO₂ 赤外レーザ、水冷銅鏡による 20 m の光路、そして毎秒 5 万個のスズ微小液滴への二重パルス照射という順に、装置を部分へ分けています。
高 NA シングルは、0.33 NA ダブルを 4.8% 下回る
ここからが判断です。高 NA を 1 回打つか、0.33 NA を 2 回打つか。
0.55 NA 機を $370M、同じ付帯設備 $30M を足して $400M とします。
同じ で割ると 114.2 USD/枚。0.33 NA シングルの 59.9 USD に対して 1.90 倍です。
0.33 NA を 2 回打つなら、露光機の資本費は 2 倍の 119.9 USD/枚。
| 経路 | 露光機の資本費 |
|---|---|
| 0.33 NA シングル | 59.9 USD/枚 |
| 0.55 NA シングル | 114.2 USD/枚 |
| 0.33 NA ダブル | 119.9 USD/枚 |
高 NA シングルのほうが 4.8% 安い。2 回露光に要る追加のエッチ・洗浄・計測を数える前の、露光機だけの比較でこうなります。
余裕が 4.8% という幅なのが要点です。逆転点をスループット比で書き直します。高 NA が勝つ条件は
高 NA の実出来高が、0.33 NA の 95.2% を切った時点で逆転します。
余裕は 5% 弱、という言い方もあります。高 NA の稼働率が立ち上がり期に 0.80 から 0.76 へ落ちるだけで、露光機の資本費では 2 回露光と並びます。それでも実務で高 NA が選ばれるのは、2 回露光側に露光機以外の工程が乗るからです。
この選好は公開の場でも述べられています。2017 年のアナモルフィック高 NA リソグラフィとマスク作製の課題3が、5 nm ノードより先でマルチパターニングのコストと工程の複雑さを最小化するには、EUV のダブルパターニングより高 NA シングル露光が好まれる方法であると述べ、0.55 NA の投影レンズを備えた高 NA 機が 10 nm を下回る解像度を支えるよう設計されていることを挙げています。
「好まれる」の中身が、上の 4.8% と 95.2% です。露光機だけを見れば僅差で、差を作っているのは 2 回露光側の追加工程のほう。
は、3 つの数の商
延命策の 1 つが の低減です。ところが の正体は、測る量より計算する量の側にあります。
Rayleigh の解像度式は
波長・NA・寸法の 3 つが決まれば、 は自動的に決まります。
nm。
| ハーフピッチ | NA | |
|---|---|---|
| 20.0 nm | 0.33 | 0.489 |
| 16.4 nm | 0.33 | 0.401 |
| 12.0 nm | 0.55 | 0.489 |
| 10.0 nm | 0.55 | 0.407 |
| 8.0 nm | 0.55 | 0.326 |
L/S 40 nm、つまりハーフピッチ 20 nm・0.33 NA で 。
同じ のまま NA を 0.55 へ上げると、ハーフピッチは 12.0 nm。公開されている「10 nm を下回る」という設計目標は、 を要求します。
だから「 を下げる」という延命策の中身は 1 つだけです。同じ波長と同じ NA で、より細い線を出せるようにすること。光リソが まで到達した背景には、偏光照明を含む解像度向上の系統があります。1993 年の偏光照明を用いた光リソグラフィの解像限界4が、その方向の検討の 1 つです。
収差は、絶対値と波長比で順序が入れ替わる
を下げられた理由の大きな部分は、収差の小さいレンズが作れたことでした。ここで絶対値と相対値の順序が入れ替わります。
| 系 | 収差 | 波長 | 波長比 | Maréchal(λ/14)までの余裕 |
|---|---|---|---|---|
| EUV 0.33 NA 機 | 0.15 nm rms | 13.5 nm | 11.1 mλ | 6.4 倍 |
| EUV 鏡の形状誤差仕様5 | 0.20 nm rms | 13.5 nm | 14.8 mλ | 4.8 倍 |
| ArF(4 mλ 相当) | 0.77 nm rms | 193 nm | 4.0 mλ | 17.9 倍 |
絶対値では EUV の 0.15 nm が ArF の 0.77 nm より 5 倍細かい。ところが波長で割ると 11.1 mλ 対 4.0 mλ で、順序が逆になります。
結像を支配するのは波長との比なので、波長を短くした時点で製造精度の要求が上がっています。0.15 nm という数字が見事に映るのは、比を取る前だけです。
どちらも回折限界の内側にはいます。Maréchal の目安 λ/14 = 71.4 mλ に対して、EUV は 6.4 倍、ArF は 17.9 倍の余裕。差は「限界を超えているか」より「余裕がいくつあるか」のほうにあります。 を下げる操作が、その余裕を食います。
ArF と同じ 4 mλ を 13.5 nm で達成するには、0.054 nm rms が要ります。0.15 nm から 2.78 倍の追い込み。
形状誤差の要求が厳しいこと、そしてその原因が静的な誤差にあることは、初期から一覧になっています。1997 年の EUV 投影リソグラフィ向けアクティブ光学の検討5が、像の歪みを 10 nm 未満に抑える要求が鏡の品質へ厳しい条件を課し、一般に形状誤差は 0.2 nm rms より良い必要があると述べたうえで、多層膜の応力による変形、熱と重力の負荷、光学製造、系の保守と調整を低周波・準静的な誤差源として挙げ、鏡の形状を能動的に制御する可能性を検討しています。
誤差源の一覧が、そのまま対策の一覧になっています。静的な誤差なら、能動光学で補正へ回せる。同じ能動制御が、より高い熱負荷を許すことでスループットも上げうる、と。上の式の分母に が入っていた点と重ねると、光学の話とコストの話が 1 本の式で合流します。
現場で動く判断
- ウェーハあたりの資本費は です。分母に入るのは、実際に出てきた枚数。$210M・5 年・8,760 時間で 4,795 USD/時、80 枚/時で 59.9 USD/枚。
- 稼働率 0.80 → 0.70 で 14.3% 上がります。 と は担当が別ですが、式の中では掛け算で並びます。
- 保守費 4.28、電力費 2.65 USD/枚。資本費の 7.1% と 4.4%。3 つとも分母が同じなので、止まっている時間は全費目から同率で取り立てられます。
- 電力は単価で小さく、調達量で壁になります。1 台 10.5 GWh/年、20 台で 210 GWh/年。$2.65/枚という数字と、この量は別の話です。
- 高 NA シングルは 114.2 USD/枚、0.33 NA ダブルは 119.9 USD/枚。露光機だけの比較で 4.8% 差。
- 逆転点はスループット比 0.952 です。高 NA の実出来高が 0.33 NA の 95.2% を切れば逆転する。高 NA シングルが好まれる3という判断の余裕は、露光機だけで見れば 5% 弱です。
- 差を作っているのは 2 回露光側の追加工程です。エッチ・洗浄・計測。露光機の資本費だけで比べると、僅差になります。
- は、3 つの数の商です。独立に測る量とは別。ハーフピッチ 20 nm・0.33 NA で 0.489、10 nm・0.55 NA で 0.407。
- 収差は波長比で順序が入れ替わります。EUV 0.15 nm rms = 11.1 mλ、ArF 0.77 nm rms = 4.0 mλ。Maréchal までの余裕は 6.4 倍と 17.9 倍。差は余裕の大きさです。
- ArF と同じ 4 mλ を 13.5 nm で達成するには 0.054 nm rms、2.78 倍の追い込みが要ります。
- 誤差源の多くは低周波・準静的です5。多層膜応力、熱と重力、製造、調整。能動光学で補正できる種類なので、同じ制御が熱負荷の許容を通じて も上げうる。光学とコストが、 の分母で合流します。