インターポーザを大きくすれば、載せられるメモリは増えます。では、なぜ 2 倍レチクルで足踏みしているのか。
よく挙がる答えは 2 つです。円いウェハから大きな四角を取る幾何の損と、面積に対して指数で落ちる欠陥の損。公開されている取り数の表は、この 2 つがほぼ同じ重みで乗るように読めます。
利用率は の 1 本
先に式を固めます。1 個の面積を (mm²)、300 mm ウェハからの取り数を (個)とすると、取れる総面積は 。ウェハの面積で割れば利用率です。
公開されている表を、この式に通します。レチクル 1 枚が約 830 mm² です。
| レチクル倍率 | 面積 | 取り数 | ||
|---|---|---|---|---|
| 1.5× | 1,245 mm² | 44 | 54,780 mm² | 0.775 |
| 2× | 1,660 mm² | 33 | 54,780 mm² | 0.775 |
| 3× | 2,500 mm² | 12 | 30,000 mm² | 0.424 |
| 4× | 3,320 mm² | 10 | 33,200 mm² | 0.470 |
1.5 倍と 2 倍で が完全に一致します。54,780 mm² が 2 度出ます。 かつ なので、この区間では がちょうど成り立っています。
3 倍で 30,000 mm² へ落ちます。利用率 42.4%、45% 減。ここが「3 倍はコストが耐えがたい」という判断の根拠として引かれる数字です。多ダイのファンアウトとシリコンインタポーザの原価を、パッケージ寸法・ダイ寸法・端子数の 3 軸で比べた2013 年の比較1があるとおり、面積はコストの主要軸です。その軸の上で、45% は大きい。
表の 4 倍が 3 倍より高い——単調性が崩れている
表をもう一度縦に追います。
大きいほうが高い。
円から四角を取る損は、四角が大きいほど増えます。半径 150 mm の円に一辺 の正方形を格子で詰めるとき、 が大きくなるほど縁の捨て代が相対的に厚くなる。 は の非増加関数である必要があります。
表はこの不等号を逆向きに破っています。2,500 mm² が 0.424、3,320 mm² が 0.470。
この 1 行が、45% という数字の根拠を揺らします。単調性が崩れている以上、 の列は純粋な格子詰めの結果ではありません。ダイ間の結線の設計と検証を 2.3D 有機インターポーザで主題にした2024 年の報告2のような具体設計では形状比が大きく振れるので、公表された取り数と正方形の詰めが一致する保証は、そこで切れます。
自分で詰め直すと、50 mm 角は 21 個入る
そこで、格子詰めを直接解きます。半径 150 mm の円に、辺 の長方形を格子で敷きます。格子の原点を とすると、 番目の矩形が円に完全に入る条件は 4 隅のうち最遠点で決まります。
原点を 1 周期ぶん走査して最大値を取ります。正方形()で計算した結果です。
| 一辺 | 自分の詰め | 表の | 自分の | |
|---|---|---|---|---|
| 1,245 mm² | 35.3 mm | 44 | 44 | 0.776 |
| 1,660 mm² | 40.7 mm | 32 | 33 | 0.750 |
| 2,500 mm² | 50.0 mm | 21 | 12 | 0.743 |
| 3,320 mm² | 57.6 mm | 14 | 10 | 0.657 |
1,245 mm² で 44 個。表とぴったり一致します。1,660 mm² でも 32 対 33 で 1 個違い。小さい側では、表は格子詰めそのものです。
ところが 2,500 mm² で 21 対 12。1.75 倍の開きです。3,320 mm² でも 14 対 10。
自分の は単調に落ちます。0.776 → 0.750 → 0.743 → 0.657。不等号が正しい向きに並びます。極端に大きな露光野を使う2023 年の基板変形とパターン歪みへの対処3が対象にする寸法帯も、この坂の上に乗ります。
縁の除外幅を 3 mm、5 mm と入れても、2,500 mm² は 21 個、17 個どまりです。露光野を跨ぐ配置(26 × 33 mm の整数倍のブロックに揃える)で解き直しても 16〜18 個。12 個を再現する幾何モデルは、ここまでの探索では見つかっていません。
利用率を辺の長さで追うと、崖の代わりに緩い坂が出ます。
| 一辺 | ||
|---|---|---|
| 35.3 mm | 44 | 0.776 |
| 50.0 mm | 21 | 0.743 |
| 60.0 mm | 12 | 0.611 |
| 75.0 mm | 7 | 0.557 |
35 mm から 75 mm まで、面積を 4.5 倍にして利用率の低下は 28% どまりです。量子化で上下しますが、坂のまま続きます。
幾何の損は 32% から 3% へ落ちる
掛け算の分解をやり直します。良品として取れるシリコン面積は、幾何と欠陥の積です。
面積に対して歩留まりが指数で落ちる形そのものは、貼り合わせの方式別に原価と歩留まりを比べた2014 年の報告4の土台にある基本式です。/mm²(0.1 個/cm²)で数を入れます。
| 表の | 自分の | ||
|---|---|---|---|
| 1,245 mm² | 44 | 44 | 0.2879 |
| 2,500 mm² | 12 | 21 | 0.0821 |
1.5 倍から 3 倍への損を、2 つの で分解します。
対数で取った寄与率はこうなります。
表の を使うと幾何が 32%、格子詰めの を使うと 3%。10 倍の開きです。
結論の向きが動きます。「円から四角を取る損と、面積に対する欠陥の損が、ほぼ同じ重みで乗る」という読み方の代わりに、欠陥の項がほぼ全部を持っていきます。
実務上の含意が反転します。幾何の損はウェハが丸いことの帰結なので、工程改善では減りません。ところが欠陥の損は へ乗るので、欠陥密度を下げる仕事がそのまま返ってきます。どちらが支配的かで、投じる工数の行き先が動きます。
欠陥の項だけで、3 倍の壁は十分に立つ
幾何を外しても、大きくすることの損は立ったままです。指数の肩が面積に比例するからです。
面積を 2 倍にすると、歩留まりは 2 乗で落ちます。。この形は掛け算を通しても同じ急さで立ちます。
自分の格子詰めの で良品面積を出し直します。
| 1,245 mm² | 44 | 54,780 | 0.2879 | 15,773 mm² |
| 1,660 mm² | 32 | 53,120 | 0.1901 | 10,100 mm² |
| 2,500 mm² | 21 | 52,500 | 0.0821 | 4,309 mm² |
| 3,320 mm² | 14 | 46,480 | 0.0362 | 1,680 mm² |
1.5 倍から 4 倍で、9.4 分の 1。そのうち幾何が寄与するのは 倍ぶんだけです。
ウェハ形式からパネル形式へ工程を移す動機そのものが、この幾何の坂にあることは2017 年のウェハレベル実装のパネル形式への移行5が主題にしています。 の列がほぼ横ばいであることに注目してください。54,780 → 53,120 → 52,500 → 46,480。面積を 2.7 倍にしても、ウェハから取れる総シリコンはほとんど同じです。落ちているのは、そのうち売れる割合のほうです。
3 つめの損は、掛け算に入っていない
ここまでの とは別に、損が 1 つあります。露光の継ぎ合わせです。
0.33 NA の露光機がウェハ上へ一度に焼ける最大の枠は 26 mm × 33 mm。
実装側が「1 倍レチクル = 約 830 mm²」と呼ぶ値と、ほぼ同じです。この枠は光学系の都合で決まるので、インターポーザ側の要求とは関係なく決まります。
| 必要な枚数 | |||
|---|---|---|---|
| 1× | 830 mm² | 0.97 | 1 |
| 1.5× | 1,245 mm² | 1.45 | 2 |
| 2× | 1,660 mm² | 1.93 | 2 |
| 3× | 2,500 mm² | 2.91 | 3 |
1.5 倍のインターポーザには、露光 2 枚が要ります。継ぎ合わせると、どの層もマスクと露光が 2 回以上になります。コンタクトやビアの層はパターンをどちらかのマスクへ丸ごと割り振れるので単純ですが、配線層はパターンが 2 回の露光の継ぎ目を跨ぎます。
継ぎ目を跨いで寸法制御を保つ作業が、そのまま難所です。大面積の微細構造を作る側では、継ぎ合わせ誤差の補償そのものが研究対象になっています。2020 年の斜め走査露光による大面積微細構造の継ぎ合わせ誤差補償6が、その 1 つです。
マスク代と露光回数は、 に入っていません。だから前節の 9.4 分の 1 は、まだ楽観側の数字です。
世代が上がると、継ぎ合わせのしきいが半分に下りる
この枠は、次の世代で半分になります。
0.55 NA では、レンズの縮小率を上げた場合にかぎり、マスク上での入射角が立ったまま多層膜の反射率を保てます。ところが縮小率を 8 倍にすると、ウェハ上の枠は面積で 4 分の 1 になります。
そこで縮小率を方向で変えます。走査方向が 8 倍、直交方向が 4 倍。マスク上で使う面積が同じまま、ウェハ側の枠は
4 分の 1 になるところを、方向を分けて 2 分の 1 で止めた設計です。非等方レンズとマスク製造の課題を正面から主題にした2017 年のアナモルフィック高 NA リソグラフィとマスク製造の課題7が、この設計の主題です。
継ぎ合わせが要り始めるしきいが、858 mm² から 429 mm² へ下ります。
| 0.33 NA | 0.55 NA | ||
|---|---|---|---|
| 1× | 830 mm² | 1 枚 | 2 枚 |
| 1.5× | 1,245 mm² | 2 枚 | 3 枚 |
| 2× | 1,660 mm² | 2 枚 | 4 枚 |
| 3× | 2,500 mm² | 3 枚 | 6 枚 |
1 倍レチクルのインターポーザが、装置の世代だけで 1 枚から 2 枚になります。インターポーザの設計は 1 mm も同じままです。
期待の向きが逆です。「プロセスが進めばレチクルの上限も緩む」という読み方の代わりに、微細化に付いていくほど大判シリコンの代金が上がります。基板の変形とパターン歪みへ極端に大きな露光野で対処する2023 年の報告3のように、枠を広げる方向の仕事もありますが、解像力を上げる方向とは逆を向いています。
小さいシリコンは、どちらの枠にも何十個も収まる
3 つの損を 1 つの表に載せます。
| 損 | 乗る先 | 工程改善で消えるか |
|---|---|---|
| 幾何(円から四角) | 取り数 | ウェハが丸いかぎり変わらない。ただし寄与は 3% |
| 欠陥歩留まり | を下げれば動きます。寄与は 97% | |
| 継ぎ合わせ | マスク枚数・露光回数・継ぎ目の寸法制御 | 世代が上がるほど増えます |
3 つのうち 2 つが、面積 の単調増加です。だから解の向きが定まります。シリコンを小さくする。
横方向の通信が要る場所だけに小さなシリコンの橋を置き、縦の導通は樹脂を貫く柱で取る。橋の寸法は 2 × 2 mm から 8 × 8 mm、多くは 5 × 5 mm 未満です。
| 橋の寸法 | 面積 | 0.33 NA の枠に入る数 | 0.55 NA の枠に入る数 |
|---|---|---|---|
| 2 × 2 mm | 4 mm² | 214 個 | 107 個 |
| 5 × 5 mm | 25 mm² | 34.3 個 | 17.2 個 |
| 8 × 8 mm | 64 mm² | 13.4 個 | 6.7 個 |
いちばん大きい 8 × 8 mm でも、半分になった枠に 6.7 個入ります。継ぎ合わせが要る寸法の、はるか手前に居ます。
欠陥歩留まりも 97.5%。面積を 100 分の 1 にすると、指数の肩が 100 分の 1 になります。
もう 1 本の解が、土台を四角くする側です。ウェハレベルの工程をパネル形式へ移す仕事は2017 年の報告5が主題にしており、パネルの反りという別の課題は2024 年のパネルレベル再配線の報告8が相手にしています。
一辺 70 mm の正方形なら
| 土台 | 取り数 | 利用率 |
|---|---|---|
| 300 mm ウェハ | 9 個 | 0.624 |
| 300 mm × 300 mm パネル | 16 個 | 0.871 |
丸を四角にするだけで、0.624 から 0.871 へ。ただしこれは幾何の項だけの改善です。寄与 3% の側を直す仕事なので、欠陥の項は同じ大きさで立ったままです。