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VOL.04 先端パッケージングの寸法 第 37 回 / 全 42 回

チップの位置ずれ:補正できない ±4 µm を補正できる 108 µm と交換する

チップをフィルムでキャリアに貼る方式では、樹脂による不規則な位置ずれがなくなる代わりに、キャリアの熱収縮で 100 µm 級の大きなずれが出ます。このずれは中心からの距離に比例するので描画の側で補正でき、温度と材料を管理すれば残りは数 µm に収まります。

30 分 応用 式 32 出典 8

この回の目次(9 節)
  1. §1 ±100 µm は、線膨張の 1 行から求まる
  2. §2 半径の 1 乗——だから描画側で吸収できる
  3. §3 補正後に残る 3.7 µm が、交換相手と並ぶ
  4. §4 CTE 3.25 のガラスなら 46 µm。それでも 7.6 を選ぶ
  5. §5 反りは座標変換では補正できない
  6. §6 特性寿命は扇の要で、 の誤りは下側へ集まる
  7. §7 異常点 1 点が を動かす量は、推定量の選び方で動く
  8. §8 同じ合金・同じ式で、定数 2 組が支配機構を分ける
  9. §9 基板の異方性は、弾性率より CTE のほうが大きい

この回で示すこと

  1. キャリアの熱収縮によるずれは で、150 mm・7.6 ppm/°C・95 °C なら 108.3 µm。
  2. 半径の 1 乗なので描画側で吸収でき、補正後に残るのは 3.7 µm。
  3. CTE 3.25 のガラスなら 46 µm だが、それでも 7.6 を選ぶ理由があり、反りは座標変換では補正できない。
キャリアの熱収縮によるずれ 108.3 µm
補正後に残るずれ 3.7 µm
交換前の樹脂由来のずれ ±4 µm

再構成ウェハでチップが設計座標から動く現象は、チップファーストの弱点として長く残ってきました。それが「まったく無い」と書かれている工程があります。

ダイアタッチフィルムでチップをキャリアへ先に貼ってから樹脂で埋める。樹脂が縮む間も、チップは元の座標に居ます。

では、代償は何か。すぐ隣に書いてあります。フィルムを硬化させる加熱中に、シリコンとガラスキャリアの熱膨張差でチップの配置がずれる。最大 ±100 µm。

µm が µm になりました。25 倍です。これは改悪でしょうか。

±100 µm は、線膨張の 1 行から求まる

記号を 4 つ決めます。 はウェハ中心からの距離(mm)、 はガラスキャリアの線膨張係数(1/℃)、 はチップを貼った温度から室温までの温度差(℃)、 は半径 のチップが室温へ戻ったときの変位(mm)。

出発点はひずみの定め方そのものです。ガラス上の 2 点は、温度が 下がると距離が同じ割合で縮みます。

中心を不動点に取れば、半径 のチップまでの距離が です。両辺に を掛けるだけで、そのチップの累積変位が出ます。

「線」膨張であることが乗ります。面積膨張や体積膨張の代わりに線膨張なので、変位は半径の 1 乗に比例します。2 乗で見積もると、外周を桁で外します。

ガラスの CTE は 7.6 × 10⁻⁶/℃、固定温度 120 ℃ から室温 25 ℃ までで ℃、300 mm ウェハの端で mm。

観測の ±100 µm と一致します。材料定数 1 つと温度差 1 つ、掛け算 2 回で出る数字です。

シリコンとその周りの材料の熱膨張差が、ファンアウトの応力の主要な入力になることは2016 年のファンアウトウェハレベルパッケージにおける熱誘起応力のチップ/パッケージ協調解析1が主題にしています。ここで出した 108 µm は、その同じ差が面内の座標へ出た姿です。

半径の 1 乗——だから描画側で吸収できる

ここからが交換の中身です。2 つの誤差を、性質で分けます。

樹脂の流動と硬化収縮による位置ずれは、チップごとに向きも量も別々に出ます。1 本の法則に収まらないので、搭載前に打ち消す操作へ変換できません。

のほうは、スカラー 1 つで書けます。

全チップが 1 本の比例式に乗ります。これは露光の重ね合わせ補正でいう倍率成分そのもので、描画側が持っている補正の自由度に、そのまま収まります。シリコンと周囲の材料の熱膨張差を設計の入力として明示的に持つ2016 年の熱誘起応力の協調解析1と同じ量が、ここでは面内の 1 本の係数へ畳まれています。

再配線のパターニングは室温で行います。室温での実際のピッチに合わせて描き、チップを搭載するときにあらかじめ逆向きへずらしておく。操作はこの 2 つです。

交換されたものが、ここではっきりします。補正できない誤差を、補正できる形の誤差へ置き換えている。大きさが 25 倍になった代わりに、形が動きました。

補正後に残る 3.7 µm が、交換相手と並ぶ

倍率補正は、平均を取り去ります。残るのは の不確かさです。そこで を 2 変数で微分します。

mm で係数を数にします。

温度 1 ℃ の不確かさが 1.14 µm、CTE 0.1 ppm/℃ の不確かさが 1.43 µm。2 つが同じ桁に並びます。

管理値を入れます。温度を ±2 ℃、CTE のロット間ばらつきを ±0.1 ppm/℃ とすると

管理残差108.3 µm からの縮小
±2 ℃、±0.10 ppm/℃3.70 µm29 倍
±1 ℃、±0.10 ppm/℃2.56 µm42 倍
±1 ℃、±0.05 ppm/℃1.85 µm58 倍

補正後に残るのは 3.70 µm です。交換した相手——樹脂由来の位置ずれ——は ±4 µm でした。

ちょうど並びます。25 倍という悪化は、補正を通した後で相殺しています。

残差の中身が入れ替わっています。3.70 µm を作っているのは温度管理の幅と材料規格の幅で、どちらも仕様として締められる量です。全厚ばらつき 0.2 µm 級のガラスキャリアを組んだ2023 年の超低 TTV ガラスキャリアと仮接着の報告2があるとおり、キャリア側の規格は締まる方向に動いています。樹脂の流動由来のばらつきは、同じ締め方では抑えられません。

CTE 3.25 のガラスなら 46 µm。それでも 7.6 を選ぶ

同じ式を、3 種類のガラスへ当てます。

ガラスの CTE
3.25 × 10⁻⁶/℃46.3 µm
7.6 × 10⁻⁶/℃108.3 µm
8.1 × 10⁻⁶/℃115.4 µm

低 CTE のガラスを選べば、配置ずれは半分より下になります。差は 62.0 µm。

それでも 7.6〜8.1 が選ばれます。条件として並ぶのは、ガラス厚 1 mm、CTE 7.6〜8.1 × 10⁻⁶/℃、そして反り 0.3 mm 以下。

理由は前節の分類に戻ります。配置ずれは補正でき、反りは補正できません。基板やキャリアの CTE を炭素で拘束してシリコンの 2.5 ppm/℃ へ近づける手法を主題にした2005 年の基板の熱膨張係数を仕立てる報告3があるとおり、CTE を動かす手は存在します。ここで元の値を保つ判断が下りているのは、動かした先で反りが増えるためです。

交換レートがここに出ています。補正の届く誤差を 62 µm 増やして、補正できない誤差の上限を 0.3 mm に抑える。「誤差を小さくする」より「補正できる形にする」が勝つ場面です。

反りは座標変換では補正できない

なぜ反りだけが補正できないのか。曲率で確かめます。

300 mm の差し渡しで 0.3 mm のたわみは、曲率

曲率半径 37.5 m。面内の座標としては、ほぼ動かないままです。板厚 0.45 mm の上面が中立面に対して伸びる量は

面内で出るのは 0.9 µm どまりです。問題は面外に出ます。露光野を 26 mm とすると、その中でのたわみは

焦点深度の予算に対して、2.25 µm は無視できる量ではありません。露光野という単位を使わないレーザ直接描画では、パネル全面の 0.3 mm をそのまま焦点で追う必要が出ます。パネルの反りを主要課題として掲げる2024 年のパネルレベルファンアウトマルチチップモジュールの報告4が相手にしているのは、この面外の量です。

面内のずれは 1 本の比例式に収まり、面外のたわみはその式に収まりません。倍率補正は座標の線形変換で、たわみは座標変換では扱えない量。分類の根拠がここにあります。

特性寿命は扇の要で、 の誤りは下側へ集まる

信頼性の側に移ります。この工程のアンダーフィル無し熱サイクル試験は、1,100 サイクルで打ち切り、故障 14 件、うち 1 件は 58 サイクルの早期故障。特性寿命の推定は 2,382 サイクル。

試験長の 2.17 倍への外挿です。58 サイクルの 1 件が混ざっています。形状パラメータの推定そのものが手法の選択に左右される点は、2012 年のワイブル形状パラメータの回帰推定の比較5がモンテカルロで示しています。

ここで何が起きるかを、式で出します。ワイブル確率紙の縦軸を で定めると、当てはめた直線は

回帰直線はデータの重心 を通るので、傾きだけが になった直線はそこを軸に回ります。

で微分すると、2 つの感度が出ます。

重心が中央値(、)にある場合

の誤りは、特性寿命の 17.85 倍だけ 0.1% 点へ乗ります。対数の上での比です。

重心 800 サイクルで数を入れます。

0.71,350 サイクル0.070 サイクル
1.01,1541.16
2.096130.4
3.090490.4

が 3.0 から 0.7 へ寝ると、 は 1.49 倍に上がり、 は 1,292 分の 1 に落ちます。

同じ 1 本の当てはめが、引くパーセンタイルによって楽観にも悲観にも倒れます。特性寿命を引けば「2,382 サイクル持つ」、同じ当てはめから 0.1% 点を出せば「ほぼゼロ」。

さらに、 のとき は から完全に切り離されます。

特性寿命は、扇の要そのものです。データの重心が 63.2 パーセンタイルに来ているとき、 をどう外しても は同じ値に留まります。重心が 63.2% より下にあるほど、 の誤りは全部下側の分位点へ流れます。

この試験の重心は 63.2% より下にいます。打ち切り 1,100 に対して推定 が 2,382 なので、観測された故障はすべて要より手前。だから 2,382 という数字は、 の誤りに対していちばん鈍い量を選んで引いたことになります。

異常点 1 点が を動かす量は、推定量の選び方で動く

58 サイクルの 1 件は、 軸の上で群から大きく離れた 1 点です。ワイブル確率紙の回帰にとって、これは 方向の異常点にあたります。

推定量の性能は公開の比較対象になっています。通常最小二乗、重み付き最小二乗、ノンパラメトリックな推定量、頑健な M 推定量を並べてモンテカルロで比べた2012 年のワイブル形状パラメータの回帰推定の比較5が示すのは、小標本で異常点の無い完全データでは重み付き最小二乗の系統が優れ、 方向に異常点が 1〜2 点入る場合はノンパラメトリックな推定量が優れるという切り分けです。重みの取り方そのものを主題にする2001 年の重み付き最小二乗による形状パラメータ推定6も同じ系統にあります。

この試験は、その「異常点が 1 点入る」場合にちょうど当てはまります。故障 14 件、うち 1 件が 方向の異常点。推定量の選び方が結果を動かす領域です。

手順が 1 つ出ます。全点を使った傾きと、早い側 30% だけを使った傾きを、両方出して同じ図へ重ねる。2 本が離れていれば、故障機構が 1 つという前提が崩れている合図です。

58 サイクルと 1,000 サイクル付近を同じ母集団として通した当てはめは、この検査を通してから引きます。

同じ合金・同じ式で、定数 2 組が支配機構を分ける

はんだのクリープ則にも、同じ種類の落とし穴があります。双曲線正弦型の一般形は

同じ合金に対して、公開されている定数が 2 組あります。

定数組 1組 2
(1/s)500,0002,631
(MPa⁻¹)0.010.0453
55.0
48.2 kJ/mol (0.500 eV)52.4 kJ/mol (0.543 eV)

揃っているのは だけです。 が 190 倍、 が 4.5 倍。

ただし と は単独では比べられません。低応力では なので、効くのは積です。

活性化エネルギーは組 2 のほうが大きいので、指数項は 25 ℃ で 5.45 分の 1 に乗ります。打ち消し合った実際のひずみ速度差は

条件比(組 2 / 組 1)
20 MPa、25 ℃3.50 倍
10 MPa、125 ℃3.34 倍
30 MPa、25 ℃7.39 倍

3 倍台に収まります。定数の見かけの 190 倍が、実効で 3.5 倍まで縮む。だから定数は 4 つで 1 組です。片方の と他方の を混ぜると、 が桁で狂います。

もう 1 つ、2 組は応力の領域についても別のことを言います。 がべき乗則から指数関数へ折れるのは 、つまり

局所的な応力指数を求めます。

応力組 1組 2
10 MPa5.025.34
20 MPa5.076.30
30 MPa5.157.76

パッケージのはんだが実際に受け持つ 10〜30 MPa で、組 1 は指数 5 のまま、組 2 は 5.3 から 7.8 まで上がります。同じ合金・同じ式に対して、2 組の定数はクリープの支配機構が別だと言っていることになります。

定数抽出そのものを主題にした仕事も公開されています。式の形を学習に埋め込んで係数とその分布まで求める2023 年の方程式情報付きニューラルネットワークによる係数抽出7や、押し込み試験から双曲線正弦型の定数を取り出す2026 年の手法8があります。係数に分布が付くという点が要点です。3 倍台の差は「どちらかが誤り」の差の代わりに、試験片の作り方・冷却速度・時効の履歴で動く幅として持つのが正確な持ち方です。

基板の異方性は、弾性率より CTE のほうが大きい

最後に、材料表で読み落としやすい数字を 1 組。

弾性率の異方性 2.2 倍に対して、CTE の異方性は 3.89 倍。ガラスクロスが面内にあるので、厚み方向は樹脂の CTE がそのまま出ます。

1.6 mm の基板を 100 ℃ 振ると

仮定厚み方向の伸び
等方 18 ppm/℃2.9 µm
異方 70 ppm/℃11.2 µm

差は 8.3 µm。スルーホールやビアの寿命を相手にする場面では、この が中心です。面内の CTE で計算している限り、厚み方向の破壊は計算に入りません。

炭素で芯を拘束して基板の CTE をシリコン側へ近づける2005 年の報告3が面内の 2〜5 ppm/℃ を対象にしているとおり、仕立てる対象になるのも普通は面内の側です。厚み方向は樹脂のままです。

同じ落下解析で最大 Mises 応力 772 MPa が出ている点も、同じ読み方が要ります。電解銅の極限強度は 200〜350 MPa の範囲にあるので

弾性解析の返す 772 MPa は、場所の同定に使える数字です。大きさのほうには別の手が要ります。実際の使われ方も位置の一致の主張にとどまっています。

出典

  1. 1 Chip/Package Co-Analysis of Thermal-Induced Stress for Fan-Out Wafer Level Packaging (2016) doi:10.37665/wamexno90937
  2. 2 Ultra-Low-TTV Glass Carrier and Temporary Bonding Method to Enable Wafer Ultra-Thinning (2023) doi:10.37665/wamifdl43504
  3. 3 Tailoring the Coefficient of Thermal Expansion of a Printed Circuit Board or Integrated Circuit Substrate (2005) doi:10.37665/wariuzk34199
  4. 4 Development of Panel level Fan out Multi-Chip Module with Fine Line Space RDL (2024) doi:10.37665/waysxsh25704
  5. 5 Estimation of the Shape Parameter of the Weibull Distribution Using Linear Regression Methods - Non-Censored Samples (2012) doi:10.1002/qre.1472
  6. 6 Weighted least-squares estimation of the shape parameter of the Weibull distribution (2001) doi:10.1002/qre.423
  7. 7 Coefficient Extraction of SAC305 Solder Constitutive Equations Using Equation-Informed Neural Networks (2023) doi:10.3390/ma16144922
  8. 8 Novel Method for Extracting Creep Material Constants in Hyperbolic Sine Constitutive Model via Indentation (2026) doi:10.2139/ssrn.6826892