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VOL.07 シリコンフォトニクス 第 2 回 / 全 4 回

マイクロリングの同調予算:0〜105 °C の追従に 23.6 mW

マイクロリング変調器の公称値「1 mW」には、温度が変わっても共振を合わせ続けるための電力が入っていません。0〜105 °C を追うにはその 20 倍余りが要り、ずれの予算を割り振ると Q を選べる幅も狭くなります。

23 分 応用 式 11 出典 7

この回の目次(6 節)
  1. §1 共振は 0.11 nm/°C で歩く
  2. §2 歩いた距離をヒータで埋めると、いくらか
  3. §3 ずれの予算を、3 つへ割る
  4. §4 同調の方式には、熱以外の選択肢もある
  5. §5 Q に許される窓は、1.27 倍どまり
  6. §6 現場で動く判断

この回で示すこと

  1. 共振波長は 0.11 nm/°C で動き、0〜105 °C で 11.6 nm ずれる。
  2. 熱同調で打ち消すと 1 リングあたり 23.6 mW。変調器の公称値「1 mW」はこれを含まない。
  3. ずれの予算を割り振ると、Q に許される窓は 1.27 倍。
0〜105 °C を熱同調で追う電力(1 リング) 23.6 mW
0〜105 °C での共振のずれ 11.6 nm
Q に許される窓 1.27 倍

変調器の方式を比べる表には、消費電力が 1 行で並びます。リング変調器はそこで最も小さい値を持ちます。

ところがその値は、変調そのものの電力です。リングは共振波長を目標へ合わせ続ける必要があり、そのためのヒータ電力は別の行にあります。

共振は 0.11 nm/°C で歩く

出発点の値を実測から取ります。2006 年の広い自由スペクトル領域を持つ可変シリコンマイクロリング共振器の研究1が、必要な 4 つを全部並べています。

項目値
自由スペクトル領域(FSR)47 nm(この種の共振器で報告されている最大)
リング半径2 µm(報告例で最小)
Q 値6730 ± 60
熱同調0.11 nm/°C

0.11 nm/°C を、動作温度範囲へ掛けます。0〜105 °C なら

11.6 nm がどれだけの幅かを、波長グリッドで測ります。200 GHz 間隔のグリッドは、1550 nm 付近で

したがって

温度が 0 から 105 °C へ動くあいだに、共振はグリッドを 7 チャネル分歩きます。自分のチャネルから 7 つ離れた場所まで行く。制御なしでは、別のチャネルの上に座ります。

歩いた距離をヒータで埋めると、いくらか

同調の効率を実測から取ります。2021 年の超低損失断熱マイクロリング共振器の研究2が、3 つの値を報告しています。

項目値
同調効率0.49 nm/mW
共振外損失0.085 dB(報告されている最小)
支持できる波長数200 GHz 間隔で 8 チャネル

構造は、断熱曲げ、非接触の導波路ヒータ、小さい曲げ半径の 3 つで組まれています。

11.6 nm を 0.49 nm/mW で割ります。

1 リングあたり 23.6 mW。同調効率が 5 分の 1 の設計なら、同じ範囲に 118 mW 要ります。ヒータ電力は、リングの設計で 1 桁動きます。

ずれの予算を、3 つへ割る

共振波長のずれには 3 つの出どころがあります。それぞれ別の手立てが当たります。

出どころ性質手立て
製造ばらつき素子ごとに固定。時間によらず一定一度きりのトリミング
温度の一部連続。設計で吸収できる範囲受動的な温度補償
残りの温度連続。受動で吸収した残りヒータ(常時電力)

一度きりの手立てから順に使い、最後に残った分だけをヒータが負担します。

製造ばらつきは、作った後に固定できる

2025 年のフェムト秒レーザによるマイクロリング共振器の後加工トリミングの研究3が、1 つ目の手立てを示しています。

問題の認識が率直です。集積シリコンフォトニクス素子、とくにマイクロリング共振器は製造ばらつきの影響を受けやすく、ナノメートル規模の誤差でも性能を損ね、大量生産と商用化の妨げになる、と述べられます。

フェムト秒レーザによる後加工トリミングで、共振波長と結合状態の、制御可能で永続的な調整が実現されています。

結果内容
機構マイクロラマン分光で確かめられた
共振波長のシフト方向性があり、長期安定
Q 値低下は最小限
結合状態過結合の素子を臨界結合近傍へ調整し、消光比 22 dB 超を達成

「永続的」が要点です。トリミングの消費電力はゼロです。製造ばらつきの分をここで消しておけば、ヒータが負担する分から丸ごと落ちます。

温度の一部は、受動的に吸収できる

2024 年の高密度波長分割多重向け温度非依存型 2 次マイクロリング共振器の研究4が、2 つ目の手立てを示しています。

構造は、PMMA クラッド層を持つ 2 次スロット型 MRR で、半径の異なる 4 つのフィルタを縦続に連ねて 1.5 nm のチャネル間隔を実現しています。

指標設計値実測値
温度依存波長シフト(TDWS)< 0.25 pm/°C(通常の MRR の 0.4%)< 24.8 pm/°C
1 dB 帯域> 0.64 nm(チャネル間隔の 43%)1.1 nm
形状係数~0.47> 0.46

設計値と実測値が 100 倍離れています。論文はその理由も書いています。スロットへの PMMA の充填が不完全だったため、TDWS が設計から劣化した。

TDWS の低減と 1 dB 帯域 1.1 nm の箱型応答を合わせると、この DEMUX は電気的な温度制御の助けなしに ±22 °C 超の温度変動へ耐えられる。

3 つの手立てを積み上げて、ヒータの予算を求める

上の 3 つを順に積みます。動作範囲を 0〜105 °C(幅 105 °C)とします。

段吸収する幅残る幅
出発点—105 °C
トリミング製造ばらつき(温度幅の外)105 °C
受動補償(±22 °C)44 °C61 °C
ヒータ61 °C0

ヒータが負担するのは 61 °C 分です。

23.6 mW から 13.7 mW へ、42% 減ります。減った割合は、受動補償が吸収した温度幅の割合(44/105 = 42%)とちょうど一致します。ヒータ電力は温度幅に比例するので、吸収した割合がそのまま電力の削減率になります。

トリミングは、この表の温度幅には含めていません。製造ばらつきは温度によらず一定のずれなので、ヒータの「定常項」を減らす形で乗ります。トリミング前のずれが なら、その分の電力 が丸ごと消えます。

だから 3 つは足し算で積めます。固定分をトリミングで、温度分の一部を受動補償で、残りをヒータで。どれか 1 つで全部を賄おうとすると、電力か歩留まりのどちらかが跳ねます。

同調の方式には、熱以外の選択肢もある

ヒータ以外で共振を動かす道もあります。

2005 年の熱光学効果を用いた垂直結合型マイクロリング共振器の偏波無依存同調の研究5は、熱同調の中でも偏波依存性を取り除く構成を追っています。偏波で共振波長が別になると、制御が 2 つ要ります。偏波無依存にできれば、ヒータは 1 つで済みます。

2013 年の自立したシリコンフォトニック導波路で構成された、微小電気機械的に同調可能なマイクロリング共振器の研究6は、機械的に動かす道です。導波路を浮かせ、静電力で位置を変えて結合と共振を制御します。

熱と機械の差は、静的な電力にあります。

方式保持にかかる電力
熱(ヒータ)常時。温度差を保つために流し続ける
機械(静電)静電保持なら、原理的には小さい

ただし機械は可動部を持ちます。信頼性と応答速度が別の検討項目になります。

Q に許される窓は、1.27 倍どまり

最後に、Q の選び方を数字で挟みます。Q には上と下の両方から条件が掛かります。

下から:チャネル間の分離。共振の線幅(半値全幅)は

隣のチャネルへの漏れを抑えるため、線幅をチャネル間隔の 4 分の 1 以下に収めるとします(この 4 分の 1 は手順を示すために据えた基準です)。200 GHz グリッドの 1.60 nm に対して

上から:変調の速さ。共振器の光子寿命が応答を鈍らせます。共振器の 3 dB 帯域は

符号速度 56 Gbps の NRZ に対して、 GHz を要るとすると

窓は 。比は 1.27 倍です。

高い Q には、もう 1 つの副作用が付きます。2022 年のマイクロリング変調器における光双安定性の観測7が示すとおり、共振器内の強度が高いほど、熱による共振シフトの帰還が強くなります。Q が高いほど共振器内の強度が上がるので、双安定性に入る入射パワーの上限が下がります。

Q の窓は、実際には 3 つの条件で挟まれています。分離(下限)、速度(上限)、そして双安定性(入射パワーの上限)。

現場で動く判断

  1. 方式比較表の消費電力に、ヒータが入っているかを確かめます。変調そのものの電力とは別に、共振を保つ電力が常時かかります。
  1. 温度範囲を波長に換算します。0.11 nm/°C × 105 °C = 11.6 nm。200 GHz グリッドの 1.60 nm で割ると 7.2 チャネル分。制御なしでは別チャネルの上に座ります。
  1. ヒータ電力は、同調効率で 1 桁動きます。0.49 nm/mW2 なら 23.6 mW、その 5 分の 1 の設計なら 118 mW。
  1. ずれの予算を 3 つへ割ります。製造ばらつきはトリミングで一度きり、温度の一部は受動補償で、残りをヒータで。1 つで全部を賄うと、電力か歩留まりが跳ねます。
  1. 受動補償の削減率は、吸収した温度幅の割合に等しくなります。±22 °C の吸収で 105 °C のうち 42% → ヒータ電力も 42% 減。
  1. 温度非依存設計の設計値と実測値は、大きく離れうる。2024 年の報告4では TDWS が設計 0.25 pm/°C に対して実測 24.8 pm/°C。原因はスロットへの充填の不完全さで、材料より工程の問題です。
  1. Q の窓を、分離と速度から挟んで求めます。200 GHz・56 Gbps なら の 1.27 倍。Q が高いことが長所になるのは、速度と間隔が決まってからです。
  1. 高い Q は、双安定性の入射パワー上限も下げます。窓は分離・速度・パワーの 3 条件で挟まれます。

出典

  1. 1 Tunable silicon microring resonator with wide free spectral range (2006) doi:10.1063/1.2337162
  2. 2 Ultralow Loss Adiabatic Microring Resonator With Thermal Tuning (2021) doi:10.20944/preprints202106.0186.v1
  3. 3 Optimizing microring resonator performance via femtosecond laser, post-fabrication trimming of resonance wavelength and coupling regimes (2025) doi:10.1364/ome.555571
  4. 4 Temperature-insensitive second-order microring resonator for dense wavelength division multiplexing (DWDM) (2024) doi:10.1364/opticaopen.26778445
  5. 5 Polarization-Independent Tuning of Widely Tunable Vertically Coupled Microring Resonator Using Thermo-Optic Effect (2005) doi:10.1143/jjap.44.1792
  6. 6 A microelectromechanically tunable microring resonator composed of freestanding silicon photonic waveguides (2013) doi:10.1063/1.4809733
  7. 7 High-speed silicon microring modulator at the 2 µm waveband with analysis and observation of optical bistability (2022) doi:10.1364/prj.439583