変調器の比較表は、消費電力を mW で書きます。ロードマップの目標は pJ/bit で書かれます。
この 2 つを行き来するには、速度を挟む必要があります。挟んだ瞬間、順位が組み替わります。
割り算 1 回で、順位が組み替わる
電力はエネルギーの時間微分なので、1 秒あたり ビットを運ぶときの 1 ビットあたりのエネルギーは
公開されている 7 件に、この掛け算を通します。
| 変調器 | 報告エネルギー | 速度 | 電力 |
|---|---|---|---|
| マイクロリング PAM-61 | 83 aJ/bit | 290 Gb/s | 24.0 µW |
| マイクロリング PAM-41 | 114 aJ/bit | 224 Gb/s | 25.5 µW |
| マイクロディスク2 | 1.3 fJ/bit | 196 Gb/s | 255 µW |
| 磁気光学リング3 | 258 fJ/bit | 1.2 Gb/s | 310 µW |
| III-V on Si MZM4 | 63 fJ/bit | 12 Gb/s | 756 µW |
| フォトニック結晶低速光 MZM5 | 59 fJ/bit | 64 Gb/s | 3.78 mW |
| サブボルト MZM6 | 60 fJ/bit | 200 Gb/s | 12.0 mW |
2 つの順位を書き出します。
| 順位 | 電力の小さい順 | エネルギー/ビットの小さい順 |
|---|---|---|
| 1 | マイクロリング PAM-6(24.0 µW) | マイクロリング PAM-6(83 aJ) |
| 2 | マイクロリング PAM-4(25.5 µW) | マイクロリング PAM-4(114 aJ) |
| 3 | マイクロディスク(255 µW) | マイクロディスク(1.3 fJ) |
| 4 | 磁気光学リング(310 µW) | フォトニック結晶 MZM(59 fJ) |
| 5 | III-V MZM(756 µW) | サブボルト MZM(60 fJ) |
| 6 | フォトニック結晶 MZM(3.78 mW) | III-V MZM(63 fJ) |
| 7 | サブボルト MZM(12.0 mW) | 磁気光学リング(258 fJ) |
磁気光学リングは、電力で 4 位、エネルギーで 7 位です。マイクロリングに対して電力は 12.9 倍にとどまる一方、エネルギーは 3,108 倍。
差の出どころは速度です。1.2 Gb/s と 290 Gb/s で 241 倍。 で、掛け算が合います。
もう 1 組を足します。III-V MZM の 63 fJ/bit とフォトニック結晶 MZM の 59 fJ/bit は、エネルギーで 1.07 倍の差。ところが 12 Gb/s と 64 Gb/s なので、電力は 5.0 倍離れます。
エネルギーがほぼ同じ 2 件が電力で 5 倍離れ、電力が近い 2 件がエネルギーで 3 桁離れる。どちらの表を見ているかで、結論が反対になります。
比較表の読み方は 1 行に収まります。速度が添えられている表なら、どちらの量へも変換できる。速度の欄が空の表から取れるのは、同じ速度で動かした場合の比までです。
サブ pJ/bit の予算に対して、変調器が占める割合
1 pJ/bit を基準に、上の 7 件の位置を出します。表の値は、いずれも変調器単体として報告された量1です。
| 変調器 | 1 pJ/bit に占める割合 |
|---|---|
| マイクロリング PAM-6(83 aJ/bit) | 0.0083% |
| マイクロディスク(1.3 fJ/bit) | 0.13% |
| サブボルト MZM(60 fJ/bit) | 6.0% |
| 磁気光学リング(258 fJ/bit) | 25.8% |
変調器そのものが 1 pJ/bit の予算から取る量は、わずかです。最も重い磁気光学リングでも 4 分の 1。
だから「サブ pJ/bit が難しい」という話の中身は、変調器以外の部分にあります。レーザ、ドライバ、受信側、デジタル演算、そして次の節の熱同調。変調器 1 件の記録値をリンク全体の目標と同じ表へ載せると、光の側が必ず有利な位置に来ます。
部品の値とリンクの値を同じ表へ載せる前に、何を足し上げたかを揃えます。
熱同調の項は、ビットあたり で入る
変調器の電力は、性質の別な 2 つに割れます。
容量性の項。データに同期して空乏層の電荷を入れ替えます。容量 を まで充放電する 1 サイクルで電源が供給するのは 。ランダムな NRZ 列では隣り合うビットが反転する確率が 1/2 で、1 サイクルには遷移が 2 回要るので、1 ビットあたりのサイクル数は 。
この式には速度が入っていません。ビットあたり一定です。
直流の項。抵抗ヒータに定常電流を流して共振点へ寄せ直します。
こちらの式にも速度は入っていません。秒あたり一定です。ビットあたりに直すと になるので、速いほど薄まります。
同じリングに、ビットあたりの振る舞いが逆向きの 2 項が乗っています。支配する側はデータレートで入れ替わる。
交点の速度は、2 項を等号で結んで出ます。
| ヒータ電力 | 変調の項 | 交点 |
|---|---|---|
| 100 µW | 20 fJ/bit | 5 Gb/s |
| 1 mW | 20 fJ/bit | 50 Gb/s |
| 13.4 mW | 60 fJ/bit | 223 Gb/s |
| 1 mW | 114 aJ/bit | 8,772 Gb/s |
最後の行が要点です。マイクロリングの変調の項が 114 aJ/bit まで下がると、1 mW のヒータと釣り合う速度は 8.8 Tb/s。現実の 224 Gb/s では、ヒータ側が 39 倍です。
この温度依存そのものが長年の課題です。2013 年のシリコンマイクロリング共振器デバイスの熱的課題を解く研究7が、マイクロリングが熱ゆらぎに弱く、その弱さが実証結果ではしばしば見過ごされていること、そしてマイクロエレクトロニクス応用へ実装するには解決が必要であることを述べたうえで、対策の系統を利点と欠点とともに一覧にしています。
記録値 83 aJ/bit を守るヒータ予算は 25.5 µW
上の式を逆に解きます。熱同調の項が変調の項に収まる条件は
マイクロリング PAM-4(114 aJ/bit、224 Gb/s)に入れると
25.5 µW。リング 1 個の熱同調を、この枠に収める要求になります。
この枠を超えたときの倍率を出します。
| ヒータ電力 | ビットあたり | 変調の項(114 aJ)に対して |
|---|---|---|
| 25.5 µW | 114 aJ/bit | 1.0 倍 |
| 100 µW | 446 aJ/bit | 3.9 倍 |
| 1 mW | 4.46 fJ/bit | 39 倍 |
| 13.4 mW | 59.8 fJ/bit | 525 倍 |
最後の行を、上の表と突き合わせてください。13.4 mW のヒータは、224 Gb/s で 59.8 fJ/bit。サブボルト MZM の 60 fJ/bit6 と、小数第 1 位まで同じです。
リング 1 個を広い温度範囲で共振へ寄せ直すコストが、Mach-Zehnder 変調器 1 台ぶんのエネルギーと並びます。共振点を追う幅がどこまで要るかは熱同調の予算の側で決まる量です。
だから「変調器の記録値」を比べるとき、同調を含むかどうかが 2〜3 桁を動かします。同じ範囲どうしの比較は通りますが、リンクの予算へ足すときは、同調の項を別に立てます。
記録値 114 aJ/bit を で逆算すると、0.46 fF
公開値が何を数えているかを、式から点検します。 を容量について解くと 。
| 報告値 | 駆動電圧 | 逆算した容量 |
|---|---|---|
| サブボルト MZM 60 fJ/bit6 | 0.7 V | 490 fF |
| フォトニック結晶 MZM 59 fJ/bit5 | 0.87 V | 312 fF |
| マイクロリング 114 aJ/bit1 | 1.0 V(仮) | 0.46 fF |
| マイクロリング 114 aJ/bit | 0.5 V(仮) | 1.82 fF |
MZM の 2 件は、数百 fF という妥当な値を返します。位相シフタが mm の桁の長さを持つ素子として、桁が合う。
マイクロリングの行は、1 V を仮定すると 0.46 fF になります。直径が µm の桁のリングに作る空乏 PN 接合として、この容量は小さすぎる。
つまり、aJ/bit の記録値が数えている範囲は、接合の 全体より狭いと出ます。駆動回路の損失、実際の遷移密度、あるいはバイアス側の寄与のいずれかが、範囲に入っていない。
この点検が問うているのは、報告値の正しさより範囲です。同じ取り方で測られた値どうしなら順位は意味を持つ。リンクの予算へ足すときに、 の全体が入っているかを別に確かめる、という手順が足されます。
ボーレートとビットレートは、 で隔たっている
速度の側にも、単位の橋があります。ビットレートはボーレートと多値度とレーン数の積です。
がレーン数(波長数)、 がボーレート、 が多値度。
上の 7 件をこの式で書き直します。
| 変調器 | ||||
|---|---|---|---|---|
| マイクロリング PAM-4 | 112 GBd | 4 | 1 | 224 Gb/s |
| マイクロリング PAM-6 | 112 GBd | 6 | 1 | 290 Gb/s |
| フォトニック結晶 MZM | 64 GBd | 2 | 1 | 64 Gb/s |
| サブボルト MZM | 100 GBd | 4 | 1 | 200 Gb/s |
同じ 112 GBd の素子が、多値度だけで 224 と 290 の 2 つの数字を持ちます。ボーレートの表とビットレートの表を重ねると、段差が出てくる。段差の正体は です。
この式は、電気側と光側の帯域を合わせる条件も与えます。電気レーン 1 本が ボーで 値、光側が同じ ボーの NRZ()なら、要る波長数は
| 電気側の多値度 | 要る波長数 |
|---|---|
| 2(NRZ) | 1 |
| 4(PAM-4) | 2 |
| 6(PAM-6) | 2.585 |
| 8 | 3 |
| 16 | 4 |
PAM-4 の電気レーン 1 本に、NRZ の波長 2 本が対応します。電気側は多値度で 2 を掛け、光側は波長数で 2 を掛ける。同じ 2 倍を、別の軸で作っている。
PAM-6 の行だけが非整数です。波長の本数は整数に限られるので、PAM-6 の電気レーンへ等ボーレートの NRZ 波長を割り当てる設計には、別の手が要ります。波長側も多値にするか、ボーレートを変えるか、どちらかへ移ります。
同じ 2 倍を別の軸で作れることが、設計の自由度です。マイクロリングが 112 GBd で PAM-6 まで通した1という報告は、光側でも多値が取れることを示しています。
現場で動く判断
- エネルギーがほぼ同じ 2 件が、電力で 5 倍離れます。63 fJ/bit4 と 59 fJ/bit5 で、12 Gb/s と 64 Gb/s。速度の欄が空の表から取れるのは、同じ速度での比までです。
- 変調器そのものが 1 pJ/bit から取る量はわずかです。マイクロリングで 0.0083%1、最も重い磁気光学リングでも 25.8%。サブ pJ/bit の難所は変調器以外の部分にあります。
- 変調の項はビットあたり一定、同調の項はビットあたり です。。支配する側がデータレートで入れ替わります。
- 交点は です。ヒータ 1 mW・変調 20 fJ/bit なら 50 Gb/s、変調 114 aJ/bit なら 8.8 Tb/s。記録値の素子ほど、ヒータ側が支配します。
- 114 aJ/bit を守るヒータ予算は 25.5 µW です。1 mW なら 39 倍、13.4 mW なら 525 倍。熱ゆらぎへの弱さが実証結果で見過ごされやすい7という指摘は、この桁のことです。
- 13.4 mW のヒータは 224 Gb/s で 59.8 fJ/bit です。サブボルト MZM の 60 fJ/bit6 と同じ。リング 1 個の同調が、MZM 1 台ぶんのエネルギーに並びます。
- 記録値を で逆算すると、数えている範囲が出ます。MZM は 490 fF と 312 fF で妥当、マイクロリングは 1 V 仮定で 0.46 fF。リンク予算へ足すときは、 全体が入っているかを別に確かめます。
- が、ボーレートとビットレートを隔てています。同じ 112 GBd が PAM-4 で 224、PAM-6 で 290 Gb/s。段差の正体は多値度です。
- 等ボーレートで電気 値に合わせるには 波長が要ります。PAM-4 なら 2 波長。PAM-6 は 2.585 で非整数です。波長側も多値にするか、ボーレートを変えるかへ移ります。