Comb-serpentine容量の長さ飽和微細配線のδは1 MHzで数mm
櫛形・蛇行配線構造(comb-serpentine、comb-meander、Maze)の線間容量をLCRメータで測ると、蛇行配線を長くしても測定容量が増えなくなる。配線の分布抵抗と分布容量によって交流電圧が奥まで届かず、電圧の浸透長(penetration length)程度の区間だけが測定に寄与するためである。後述の計算では、微細ピッチのRu・Cu配線は1 MHzでがミリメートル程度となる。しかし容量を稼ぐために長くしたMazeが、かえって容量を過小評価する。
実例として、EuroSimE 2022の低誘電率膜の水分拡散評価では、容量センサの遮断周波数が約100 kHzであったため、容量測定をすべて10 kHzで行っている1。微小容量だから周波数を上げればよい、とはならない。構造全体の周波数応答が測定周波数を決める。
分布RCの浸透長を超えると容量が飽和する
Section titled “分布RCの浸透長を超えると容量が飽和する”蛇行配線を長さの一様なRC伝送線路(RC transmission line)として扱う。単位長さ当たりの抵抗を、両隣の櫛歯への容量の合計を、漏れコンダクタンスをとする。両側の櫛歯は同じ対向電極電位にあり、櫛歯とバスの電圧降下は小さいとする。真の容量は、配線抵抗はである。ここでは100 Hz–100 MHzをインダクタンスを省いたRCモデルで計算する。
角周波数、虚数単位を用いると、伝搬定数(propagation constant)と特性インピーダンス(characteristic impedance)は次のとおりである。
片端を駆動して遠端を開放したとき、線路のアドミタンスは
である。蛇行配線の両端を束ねて同じ電位で駆動すると、中央で開放した半分の線路が並列になり、
となる。対向する櫛形電極はLCRメータの反対側の端子につなぐ。
プローブ針の接触抵抗、パッド、パッドから構造までの引き出し配線など、測定器と蛇行配線の間に直列に入る抵抗を接続の直列抵抗とする。これを加えると、測定器が見るインピーダンスとアドミタンスは次式になる。
LCRメータの並列等価回路(parallel equivalent circuit)の表示値と損失係数(dissipation factor)は次のとおりである。
直列等価回路(series equivalent circuit)では次のとおりである。
容量誤差はそれぞれ、である。
、、片端駆動では、を代入すると
となる。したがって低周波では
である。インピーダンスに直すととなり、直列モデルの抵抗は全配線抵抗の約3分の1である。本計算のでは、は−0.001331で近似値−0.001333に、は0.033324で近似値0.033333に一致する。
の浸透長は
であり、となる。ではが1に近づき、片端駆動の
となる。これはの極限であり、を含まない。両端駆動では浸透する入口が二つになるため、この極限容量は2倍になる。接続の直列抵抗も含めた実際の表示は上のから求める。
なので、片端駆動でとすると低周波近似の誤差は約−0.66%、は約0.074である。長さの目安はそのものより短いであり、漏れと接続の直列抵抗を含めた誤差は個別計算で決まる。
公表された櫛形容量評価の周波数は構造ごとに異なる
Section titled “公表された櫛形容量評価の周波数は構造ごとに異なる”櫛形電極(interdigitated electrode)を使う評価には、低周波の線間容量測定からインピーダンス分光まである。同じ櫛形でも、電極の抵抗と経路長が異なれば測定周波数は変わる。
| 評価 | 構造・装置 | 採用周波数 |
|---|---|---|
| Stanford・Loke博士論文(1999) | Comb-serpentine、HP4194A | 1 kHz2 |
| Georgia Tech・J. Electronic Materials(2008) | エアギャップ櫛形、Keithley 590 | 1 MHz3 |
| IBM/Stanford・Microelectronic Engineering(2015) | BEOL comb-comb吸湿分光、HP4194A | 0.5–500 kHz、交流振幅0.1–0.5 V4 |
| Nature Communications(2019) | ZIFギャップ充填、fork-fork、E4980A | 100 kHz5 |
| EuroSimE(2022) | Cuの横方向・縦方向容量センサ | 10 kHz、遮断周波数は約100 kHz1 |
| Rice・Nature Communications(2024) | 櫛形電極、E4980A | 1 MHz6 |
| imec・IITC(2024) | Ruエアギャップfork-fork、125本、歯長10/50/100/180 µm、二点プローブ7 | 記載なし |
Tektronixは微小容量に約1 MHzを適し、それ以上では伝送線路効果、それ以下では分解能低下を考慮する周波数として挙げている8。これは計測器側の信号量と配線側のRCの両方を満たす周波数を探す問題である。ICMTS 2020のCBCM校正論文は、外付けLCR測定には100 kHzがよく使われ、電荷ベース容量測定(charge-based capacitance measurement、CBCM)には10 kHzからGHzまでの報告があると述べている9。CBCMのクロック周波数と、抵抗の長いMazeを正弦波で駆動する条件は分けて考える。
微細ピッチでは金属と実測抵抗が許容長を決める
Section titled “微細ピッチでは金属と実測抵抗が許容長を決める”計算機は、4端子測定などで得た単位長さあたりの抵抗(Ω/µm)を入力すればそれを使う。未入力なら、ピッチ、線幅比、アスペクト比(aspect ratio)から、、間隔とする。バリア・ライナ厚を除いた導電幅、高さを用い、で推定する。
簡易サイズ効果モデルは
である。は表面散乱の鏡面反射率、は粒界反射係数(grain-boundary reflection coefficient)を表す。既定値は、、、、Cuの = 2.5 nm、他金属は0である。CuのバリアはTaNで2–3 nmが薄膜化の限界とされ10、その分だけ導電断面が減る。
| 金属 | バルク抵抗率[µΩ·cm] | 平均自由行程[nm] |
|---|---|---|
| Cu | 1.67811 | 39.911 |
| Ru | 7.811 | 6.5911 |
| Mo | 5.3411 | 11.211 |
| Co | 6.211 | 11.811 |
| W | 5.2811 | 15.511 |
| Al | 2.6511 | 18.911 |
幅32 nm・高さ40 nmのMoにこの簡易式(、)を当てると約8.5 µΩ·cmで、次の実測より低い。imecのRuではエッチング後に13–15 µΩ·cm12、幅32 nm・高さ40 nmのMoでは成膜後20.6 µΩ·cm、800 °C・1時間のアニール後15.9 µΩ·cm13が報告されている。実測Maze抵抗を使う方法が最も確実である。実効抵抗率を直接指定する選択肢も計算機に設けた。
容量は実測を優先し、未入力なら次式で推定する。
= 8.854 × 10⁻¹² F/mは真空の誘電率、は比誘電率(relative permittivity)である。の項が向かい合う側壁どうしの平行平板、の項が上下と端への回り込み(fringe)にあたる。計算機は、平行平板の部分だけを取り出したもaF/µmで表示する。imecのSiO₂充填Ru配線では、MP20/22/26でAR4が約0.34 fF/µm、AR6が約0.47 fF/µm14と報告されている。本式で = 20 nm、、とすると、は0.3384 fF/µm、は0.4765 fF/µmとなり、報告値の水準を再現する。
本計算のCu、 = 40 nm、、、 = 50 µm、、1 MHz、片端駆動、 = 20 Ω、漏れなしでは、 = 10.01592 mm、 = 150.84 Ω/µm、 = 0.15406 fF/µm、 = 3.701 mmとなる。真の容量1.5430 pFに対して = 0.28149 pF、誤差−81.76%、である。誤差1%の長さ境界は約1.374 mm、現在の長さでの周波数境界は約18.81 kHzとなる。同じ長さと他の入力を保ち、Cuのピッチだけを80 nmにすると = 17.08 Ω/µm、 = 11.00 mm、誤差は−25.29%になる。相似形状ではこの容量式のは一定でも、抵抗は急増する。
imecのMP20・CD10のRu配線には300 Ω/µmの抵抗中央値がある15。このを使い、 = 20 nm、、、 = 10 mm、 = 20 Ω、漏れなしで計算すると、1 MHzのは0.20229 pFで、真値1.5406 pFより86.87%小さい。接続の直列抵抗を除く高周波極限は0.20215 pFであり、すでに飽和域に近い。100 kHzでは誤差−47.23%、10 kHzでは−1.109%となり、1%境界は約9.489 kHzである。両端接続は改善するが、十分長い線路では二つの入口がそれぞれ飽和する。
短い櫛歯のRCは蛇行配線の全長と分けて扱う
Section titled “短い櫛歯のRCは蛇行配線の全長と分けて扱う”繰り返し単位長は櫛歯の長さであり、蛇行配線の直線部の本数(折り返しは回)から、全長は次式で求める。
計算機では折り返し部にも同じ、、を割り当てる。全長を同じに保てば蛇行配線の一次元RC応答は同じだが、は櫛歯側の電圧降下を左右する。
各櫛歯をバスから片端駆動し、歯が見る容量をとすると、歯の無次元RC指標は
である。なら十分小さく、対向電極を一様な電位とする近似が成り立つ。既定Cu例の50 µmでは指標は0.000183であり、全長のよりはるかに小さい。歯が短くても、長くつながった蛇行配線全体は飽和する。バス自身の抵抗が大きい場合には、歯とバスも含む回路で扱う必要がある。
漏れは容量より先に損失係数を増やす
Section titled “漏れは容量より先に損失係数を増やす”直流電圧で測った漏れ電流から、とする。これは均一でオーム性の漏れを仮定した入力である。線形な低周波近似ではにが加わるので、漏れによるの増分は約となる。非線形な漏れでは直流の比と交流の微分コンダクタンスが異なるため、交流動作点の傾きが対応する。
本計算のCu、 = 80 nm、、、 = 2 mm、1 MHz、片端駆動、 = 20 Ωでは、漏れなしで = 0.307939 pF、となる。1 Vで1 nAの漏れを加えると = 0.307932 pF、であり、の変化は約−0.00228%でも損失は増える。への表示切り替えだけでは漏れを取り除けない。長い線路のRC損失もを増やすため、の増加だけを絶縁膜リークと解釈すると誤る。
長さと周波数を同時に選ぶと測定誤差を抑えられる
Section titled “長さと周波数を同時に選ぶと測定誤差を抑えられる”- 片端駆動ではをおおむね以下にする。漏れと接続の直列抵抗が小さければ誤差とを同時に抑えやすい。
- 容量信号とRC誤差の両方を満たす周波数を選ぶ。容量性電流はであり、周波数を下げるほど小さくなる。計算上の上限と計測器の分解能の間に測定帯域を確保する。
- 蛇行配線の両端を同じ駆動端子に束ねる。各入口が担う長さは半分となり、漏れ・接続の直列抵抗なしのの実効値は4分の1になる。対向櫛形電極は反対側の端子に保つ。
- と二つの周波数での容量を照合する。容量が周波数を下げると増える場合は、配線RCによる取りこぼしを疑う。オープン・ショート補正、ガード、短いリードでパッドと接続の寄生成分を抑える。
- 低周波域では直列モデルのとも確認する。が現れる領域ではがに近いが、飽和域のは全長分の容量に戻らない。
- 金属のバルク抵抗率より実測の配線抵抗を優先する。4端子測定で接触抵抗を除いた単位長さあたりの抵抗をに入れ、測定接続の共通直列抵抗はへ分ける。
- 長い構造が不可避なら、複数周波数の複素アドミタンスをRC伝送線路式へフィットする。単一周波数のから全長容量を逆算せず、、、、を切り分ける。
計算機で誤差と許容長を同時に確認できる
Section titled “計算機で誤差と許容長を同時に確認できる”形状・金属・接続と周波数を選び、実測の配線抵抗(Ω/µm)や容量(aF/µm)があれば入力すると、容量誤差、損失、許容長が更新される。各項目の「?」にカーソルを合わせると(スマホではタップすると)説明が出る。
Comb-serpentine分布RC計算機
詳細設定:バリアと散乱・実効抵抗率
金属変更時はバリア厚をCu 2.5 nm、他は0へ切り替える。実測の配線抵抗rは接触分を除いた単位長さあたりの抵抗である。長さ境界の探索ではr、c、gを固定し、周波数境界は線形RCモデルの数値上限である。
Cp/C(青実線)とCs/C(橙破線)の周波数依存。縦点線は100 kHzと1 MHz、黒線は現在の周波数。比率の縦軸は表示データに合わせて変わる。
ピッチ別の形状推定:選択金属・全長・周波数・接続・漏れ密度を固定し、実測rと実測cの上書きを外して計算する。
| P[nm]?比較する配線ピッチP(nm)。この行の形状からrとcを再計算し、実測値の上書きは使わない。 | r[Ω/µm]?各ピッチの形状と金属から推定した抵抗r(Ω/µm)。実測rは使わず、細い導電断面ほど抵抗が大きくなる。 | c[aF/µm]?各ピッチの形状から推定した両側結合の合計c(aF/µm)。実測cは使わず、側壁とフリンジの容量を含む。 | 平行平板近似の容量密度[aF/µm]?側壁どうしを平行平板とみなした容量(aF/µm、ε0·k·2H/S)。回り込み(フリンジ)を含まないので、形状推定のcより小さい。実測cの上書きには影響されない。 | δ[mm]?各ピッチでの浸透長δ(mm)。全長や測定周波数を固定して、形状による交流の届きやすさを比較できる。 | Cp誤差[%]?各ピッチの形状推定によるCp誤差(%)。全長、周波数、接続、漏れ密度は入力条件を保ち、実測rとcは使わない。 |
|---|
OKは容量誤差の絶対値1%未満かつDが0.1未満、注意はその範囲外、飽和は容量誤差の絶対値10%超の判定である。誤差判定には漏れと接続の直列抵抗も含む。信号電流は容量性成分ωCpV_acである。
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- 1IEEE EuroSimE:低誘電率膜の水分拡散センサ(2022)ieeexplore.ieee.org ab
- 2Stanford:Loke博士論文・Comb-serpentine測定(1999)ewh.ieee.org ↩
- 3
- 4IBM/Stanford:BEOL櫛形容量の吸湿分光(2015)web.stanford.edu ↩
- 5Nature Communications:ZIFギャップ充填(2019)nature.com ↩
- 6
- 7imec/IEEE IITC:Ruエアギャップ配線の容量評価(2024)ieeexplore.ieee.org ↩
- 8
- 9IEEE ICMTS:CBCM校正と測定周波数(2020)ieeexplore.ieee.org ↩
- 10
- 11
- 12imec:MP18 semi-damasceneとRuの実測抵抗率imec-publications.be ↩
- 13Advanced Electronic Materials:Moナノ配線の抵抗率(2024)advanced.onlinelibrary.wiley.com ↩
- 14imec/IEEE IITC:SiO₂充填Ru配線の容量評価(2025)ieeexplore.ieee.org ↩
- 15imec/IEEE IEDM:微細Ru配線の線抵抗(2023)ieeexplore.ieee.org ↩