新しいチャネル材料の論文には、移動度の値が載ります。その値を比べる前に、チャネル長を確かめる必要があります。
理由は簡単な足し算です。測っている抵抗は、チャネルの抵抗とコンタクトの抵抗の和。チャネルを短くすると前者だけが縮むので、コンタクトの占める割合が上がる。抽出した移動度は、その割合の裏返しになります。
シート抵抗は、移動度と面密度の積の逆数
出発点は 1 行です。面密度 、移動度 のチャネルのシート抵抗は
を cm²/Vs、 を cm⁻² で入れます。単位は kΩ/□。
| 30 | 41.6 | 20.8 | 10.4 |
| 60 | 20.8 | 10.4 | 5.20 |
| 100 | 12.5 | 6.24 | 3.12 |
| 200 | 6.24 | 3.12 | 1.56 |
移動度 30 cm²/Vs・面密度 cm⁻² で 20.8 kΩ/□。以下はこの値を基準にします。この桁が、コンタクト抵抗を 100 Ω·µm 未満まで下げた報告1の相手になる量です。
幅 、長さ のチャネルの抵抗に、両端のコンタクト抵抗を足します。幅で規格化した単位(Ω·µm)で書くと
の単位は Ω·µm です。第 1 項だけが長さの次元を持ち、第 2 項は定数のまま足されます。ここが、この記事の全部の出どころです。
コンタクトが半分を占めるチャネル長は
2 つの項が等しくなるチャネル長を求めます。
kΩ/□ で数を入れます。
| 2 kΩ·µm | 192 nm |
| 1 kΩ·µm | 96 nm |
| 0.5 kΩ·µm | 48 nm |
| 0.1 kΩ·µm | 9.6 nm |
kΩ·µm では、チャネル長 96 nm で半々になります。
見かけの移動度は、総抵抗に対するチャネル項の割合です。
| チャネル長 | コンタクトの割合 | 見かけの移動度 |
|---|---|---|
| 10 µm | 0.95% | 99.0% |
| 1.5 µm | 6.0% | 94.0% |
| 1 µm | 8.8% | 91.2% |
| 200 nm | 32.5% | 67.5% |
| 100 nm | 49.0% | 51.0% |
| 40 nm | 70.6% | 29.4% |
| 20 nm | 82.8% | 17.2% |
同じ試料・同じコンタクトで、1.5 µm なら 94%、40 nm なら 29%。3 倍以上の開きが、材料の性質より測る長さから出ています。
だから長チャネルで測った移動度が予測するのは、長チャネルの性能までです。コンタクトの項が、長チャネルでは小さすぎて抽出に載らず、短チャネルでは支配的になる。
2021 年の 2 次元遷移金属ダイカルコゲナイドデバイスにおける移動度抽出の研究2が、この抽出の問題を正面から論じています。バックゲート構造ではコンタクト抵抗が常にゲート依存なので、最大相互コンダクタンスから電界効果移動度を導く従来の手順は原理的に成り立たず、移動度を実際より高く返しうる。同じ研究は、チャネル領域とコンタクト領域で異なる 2 つのしきい値電圧が出るため、 から求めるキャリア濃度にも別の層の難しさが入る、と指摘しています。
伝送長 が、コンタクトの長さの下限を与える
同じ 2 つの量から、もう 1 つの長さが出ます。
電流は金属からチャネルへ、コンタクトの端から順に入ります。奥へ行くほど寄与が減る。この減衰長が伝送長で、伝送線モデルでは
| 有効に使えるコンタクト長の目安 | ||
|---|---|---|
| 2 kΩ·µm | 96 nm | 192 nm |
| 1 kΩ·µm | 48 nm | 96 nm |
| 0.5 kΩ·µm | 24 nm | 48 nm |
| 0.1 kΩ·µm | 4.8 nm | 9.6 nm |
です。上の表の分け目と、この減衰長は同じ量の 2 つの読み方でした。
が、コンタクトを短くできる下限を与えます。 kΩ·µm では 96 nm。コンタクト長をこれより短くすると、 が上がり始める。
この 96 nm は、先端ノードのゲートピッチより長い。コンタクトが場所を要求する側に回っています。
2022 年の半金属と 2 次元半導体のコンタクトの多スケールモデリング1が、この下限を外す方向を示しています。量子輸送の観点から半金属と TMDC の低コンタクト抵抗の機構を解き、誘電環境の設計と TMDC の不純物添加により、ビスマス-MoS₂ のコンタクト抵抗を 100 Ω·µm 未満まで下げられると報告している。伝送長が約 1 nm まで短くなりうるため、コンタクト寸法の積極的な縮小が可能になると述べています。
伝送長 48 nm と 1 nm のあいだに、コンタクト設計の全部が入っています。
障壁高さ 0.16 eV は、コンタクト抵抗の 2.7 桁
が定数なら、ここまでの表で足ります。 がゲート電圧で動くところから、抽出が壊れます。
金属とチャネルのあいだにショットキー障壁があるとき、熱電子放出の電流は障壁高さの指数で決まります。
300 K で mV。障壁が 59.5 meV 動くごとに、コンタクト抵抗が 1 桁動きます。
| 300 K での桁数 | 倍率 | |
|---|---|---|
| 50 meV | 0.84 | 6.9 倍 |
| 100 meV | 1.68 | 48 倍 |
| 160 meV | 2.69 | 487 倍 |
| 300 meV | 5.04 | 11 万倍 |
ゲート電圧を 0.5 V 振るあいだに障壁が 0.16 eV 動けば、コンタクト抵抗は 487 倍動きます。直列抵抗として引き算できる量は、定数の側だけです。
障壁を実際に動かす手立ては、公開の実験に複数あります。2023 年のポリマー表面修飾によるショットキー障壁高さの制御3は、仕事関数 5.10 eV の Au へポリエチレンイミンを塗って仕事関数を下げ、MoS₂ 電界効果トランジスタの障壁高さを下げています。常温常圧で短時間に実施できる手順だと報告されている。
塗るだけで障壁が動くということは、界面の状態で障壁が動くということです。同じ金属・同じ材料でも、界面の履歴で が桁の単位で割れる。
は温度とともに増えるので、85 °C では 71.0 mV。同じ障壁変化が相当するのは 2.25 桁までです。高温では、障壁の変調で稼げる比が縮みます。
障壁は出力特性に出て、伝達特性には隠れる
抽出が壊れる場所には、もう少し細かい構造があります。
2014 年の単層 MoS₂ 電界効果トランジスタのコンタクト依存の性能ばらつき4は、自己無撞着な量子輸送計算で、ショットキー障壁を振ると、伝達特性より出力特性のほうが大きく動くことを示しています。
移動度を抽出するのは伝達特性の側です。障壁の影響が小さく出る側で測って、影響が大きく出る側の性能を予測している。2 つの曲線を別々に報告する理由が、ここにあります。
同じ研究は、対処も示しています。コンタクトへ不純物を添加できれば、非理想なコンタクトによる性能ばらつきは無視できる水準まで落ちる。それが難しい場合は、チャネルへの添加でもばらつきを抑えられる。10 nm 未満のチャネルでは、添加コンタクトのデバイスがスイッチングの面で頑健、金属コンタクトのデバイスは出力コンダクタンスの劣化が小さい、と結果が割れています。
どちらが良いかが、指標ごとに入れ替わる。順位を付けるには、指標を先に 1 つ選ぶ手順が要ります。
ピン止めを外すと、極性そのものが入れ替わる
障壁高さを金属の仕事関数で設計できるかどうかは、フェルミ準位のピン止めで決まります。
2016 年のファンデルワールス金属-半導体接合の研究5は、2 次元金属を使うとピン止めが弱くなり、ショットキー障壁を実効的に調整できることを示しました。
2022 年のフェルミ準位ピン止めを外した WSe₂ トランジスタの研究6は、この方向を回路まで持っていっています。塩素を添加した SnSe₂ という高仕事関数の 2 次元金属をコンタクトに使い、欠陥とフェルミ準位ピン止めの両方がゼロの界面を作る。障壁高さはショットキー・モット極限に従うほぼ理想的な値になった、と報告しています。
同じ WSe₂ が、コンタクトを替えると極性ごと入れ替わりました。
| コンタクト | WSe₂ の伝導型 |
|---|---|
| 蒸着金属 | n 型 |
| Cl 添加 SnSe₂ | p 型 |
「この材料は n 型」という言い方が、コンタクトの選択の記述だった。同じ研究は、この極性制御を使ってインバータ・NAND・NOR を作っています。
チャネル長とコンタクト長を、同じ表で縮める
最後に、縮小の設計へ話を移します。
2023 年の多層 MoS₂ 電界効果トランジスタのチャネル長スケーリングの研究7は、古典領域をドリフト拡散方程式で、量子領域を自己無撞着なシュレーディンガー・ポアソン解と非平衡グリーン関数で解き、10 nm 未満まで縮めたときの性能を調べています。振っている寸法は、チャネル長とコンタクト長の両方。指標はドレイン誘起障壁低下、オン・オフ電流、サブスレッショルド係数、しきい値電圧です。
チャネル長とコンタクト長を同じ研究の中で振っている点が要です。上の伝送長の式から、コンタクト長を より短くすると が上がる。チャネル長だけを縮める設計は、この項を取りこぼします。
3 つの長さを同じ表にします。 kΩ/□ の場合です。
| 伝送長 | コンタクト長の下限 | コンタクトが半分になる | |
|---|---|---|---|
| 1 kΩ·µm | 48 nm | 96 nm | 96 nm |
| 0.5 kΩ·µm | 24 nm | 48 nm | 48 nm |
| 0.1 kΩ·µm | 4.8 nm | 9.6 nm | 9.6 nm |
3 列とも の定数倍です。つまり縮小の話は、この 1 つの比へ集約される。
を下げる操作(添加、誘電環境)は、3 列を同時に長くします。移動度を上げる改善が、コンタクトの設計を厳しくする側へ働く。2 つの目標が同じ比の分母と分子に入っています。
現場で動く判断
- シート抵抗は です。移動度 30 cm²/Vs・面密度 cm⁻² で 20.8 kΩ/□。移動度の議題は、この換算をしてから始めます。
- コンタクトが半分を占めるチャネル長は です。 kΩ·µm で 96 nm。報告された移動度には、チャネル長を並記します。
- 見かけの移動度は です。1.5 µm で 94%、40 nm で 29%。長チャネルの測定が予測するのは、長チャネルの性能までです。
- 最大相互コンダクタンスからの抽出が成り立つ条件は、 が定数のときまでです。バックゲート構造ではコンタクト抵抗が常にゲート依存2だと報告されています。チャネルとコンタクトで 2 つのしきい値電圧が出る点も、同じ研究にあります。
- 伝送長 が、コンタクト長の下限を与えます。 kΩ·µm で 48 nm、下限は 96 nm。ゲートピッチと同じ表で管理します。
- 半金属コンタクトが、この下限を 1 桁動かします。ビスマス-MoS₂ で 100 Ω·µm 未満、伝送長 約 1 nm1。誘電環境の設計と添加が前提に入っています。
- 障壁高さ 59.5 meV が、コンタクト抵抗の 1 桁です。300 K の 。0.16 eV なら 487 倍。85 °C では 71.0 mV なので、同じ変化が 2.25 桁です。
- 移動度は伝達特性から抽出し、障壁は出力特性に出ます。障壁を振ると出力特性のほうが大きく動く4ので、2 つの曲線を別々に報告します。
- 「この材料は n 型」は、コンタクトの記述であることがあります。同じ WSe₂ が蒸着金属で n 型、Cl 添加 SnSe₂ で p 型6。伝導型の主張には、コンタクトの構成を添えます。
- 界面の作り方で障壁が動きます。Au へポリマーを塗って仕事関数を下げる3手順が常温常圧で通ります。同じ金属でも、界面の履歴で が桁の単位で割れます。
- チャネル長とコンタクト長を同じ表で縮めます。両方を振ったスケーリング研究7があります。 を下げる改善は、3 つの長さを同時に伸ばす側へ働きます。