材料を選ぶとき、複数の項目を採点して合計する表がよく使われます。
この方法には、構造的な弱点が 1 つあります。合計点は拒否権を持つべき項目を、他と同じ 1 票にしてしまう。
途中で止まる接着剤は、他のどの性質が優れていても使い道を失います。ところが 9 項目の合計点では、流動性の 1 点が他の 8 項目で埋め合わされます。
流れる時間は、粘度に比例し、距離の 2 乗に比例する
まず流動の式を作ります。毛細管でギャップ の隙間へ液が入るとき、距離 まで進むのに要る時間は
は粘度、 は表面張力、 は接触角。3 つの依存が同時に読めます。
| 量 | 時間への影響 |
|---|---|
| 粘度 | 比例。2 倍なら時間も 2 倍 |
| 流動距離 | 2 乗。ダイの一辺が 2 倍なら時間は 4 倍 |
| ギャップ | 反比例。半分なら時間は 2 倍 |
この 3 つが、同じ方向へ動いています。ダイは大きくなり、ピッチは細かくなってギャップは狭くなる。分子が増えて分母が減るので、流動時間は両側から押し上げられます。
2002 年のアンダーフィル材料の毛細管流動の研究1が、実際の流動へ乗る因子を列挙しています。
「封止材の流動速度とそのばらつきに影響しうる因子は、材料の種類(粘度、濡れ性、シリカ粒子径など)、材料の経時変化、基板の予熱温度、流動面の化学組成と肌理、スタンドオフ高さ、そして障害物(はんだバンプ)の存在である。」
この研究は、直交表を用いたスクリーニング実験で、流動速度へ有意に乗る因子を絞っています。
充填材を増やすと、粘度が発散する
粘度の側を追います。アンダーフィルの粘度は、充填材の体積分率でほぼ決まります。2002 年の先進キャピラリーアンダーフィルの報告2が「熱膨張係数を下げるために高い割合で配合されている」と書くのが、この体積分率です。
球形粒子の懸濁液では、相対粘度が
で表されます。 は充填材の体積分率、 は最密充填の分率、 は固有粘度。球なら 、ランダム最密で なので、指数は です。
| 充填率 | |
|---|---|
| 0.30 | 2.2 |
| 0.40 | 4.2 |
| 0.50 | 11.4 |
| 0.55 | 24.7 |
| 0.60 | 84.4 |
| 0.62 | 218 |
| 0.64 |
で発散します。0.50 から 0.60 への 10 ポイントで、粘度は 7.4 倍。
同じ変化で、熱膨張係数の低減は 20% にとどまる
充填材を増やす目的は、熱膨張係数を下げることです。こちらの変化を追います。下げ先の目安が外から来ることは、2025 年のコア熱膨張係数と反りの研究3のとおりです。
混合則でおよそ
樹脂 ppm/K、シリカ ppm/K として
| 充填率 | |
|---|---|
| 0.30 | 42.2 ppm/K |
| 0.40 | 36.2 |
| 0.50 | 30.3 |
| 0.55 | 27.2 |
| 0.60 | 24.2 |
| 0.64 | 21.9 |
0.50 から 0.60 で、30.3 → 24.2。20% の低減です。
2 つの変化を、同じ表へ書き入れる
| 充填率 | の低減(0.50 比) | 粘度の増加(0.50 比) | 流動時間の増加 |
|---|---|---|---|
| 0.50 | — | 1.0 倍 | 1.0 倍 |
| 0.55 | 10% | 2.2 倍 | 2.2 倍 |
| 0.60 | 20% | 7.4 倍 | 7.4 倍 |
| 0.62 | 24% | 19 倍 | 19 倍 |
改善は線形、悪化は発散です。熱膨張係数は の 1 次式なので、どこまで行っても線形に下がります。粘度は に近づくと急に立ち上がります。
この非対称が、採点表の弱点をそのまま作ります。
- 熱膨張係数の列では、0.50 と 0.60 の差は「少し良い」程度。点数にして 1 段です
- 流動性の列では、7.4 倍の差が「通る」と「詰まる」の差になりえます
合計点では、両方が 1 段として数えられます。
だから採点表を作る前に、列を 2 種類へ分けます。
| 種類 | 使い方 |
|---|---|
| 拒否権を持つ列 | 合否で切る。 満たしたものだけを合計点の計算へ回す |
| 点数で比べる列 | 重み付き合計に入れる |
流動時間は 1 つ目です。自分のダイ寸法とギャップで所要時間を計算し、工程のタクトに収まるかどうかで先に落とします。そのうえで残った材料を点数で比べます。
粒子の寸法が、ギャップの条件に当たる
充填率を上げる道には、もう 1 つの壁があります。粒子がギャップに入るかどうか。
2002 年のフリップチップ実装向け先進キャピラリーアンダーフィルの報告2が、この問題を名指ししています。
「アンダーフィルの熱膨張係数を下げるために現在では高い割合で配合されている充填材は、狭ギャップで細ピッチのパッケージへ入るには大きすぎる。」
2 つ目の問題も挙げられています。
「加えて、これらの充填材は沈降する傾向があり、熱膨張係数が不均一な接着層をもたらす。」
| 問題 | 帰結 |
|---|---|
| 粒子がギャップより大きい | 入口で詰まり、その先が未充填になる |
| 粒子が沈降する | 下側が充填材リッチ、上側が樹脂リッチ。層の中で が動く |
2 つ目が厄介です。材料の仕様書に書かれた熱膨張係数は、混ぜた状態の平均値です。沈降が起きると、実際の層は の勾配を持ちます。勾配のある層は、均一な層とは別の応力分布を作ります。
報告が提示している解が、ナノシリカ充填材です。従来の充填材より粒子が小さいので、いくつかの重要なキャピラリーアンダーフィルの工程特性が改善される。同じ材料がノーフロー型としても使えると述べられています。
ノーフロー型では、充填材がはんだと当たる
流動の問題を回避する道が、ノーフロー型です。先に樹脂を塗り、その上からチップを載せ、リフローで同時に接合と硬化を行う。流れる工程そのものがゼロなので、流動時間の条件が消えます。
ところが別の問題が立ちます。2004 年のフリップチップ接合向けノーフローアンダーフィル技術の報告4が、それを書いています。
「ノーフローアンダーフィル技術を用いると、樹脂中の充填材がはんだ接合部を妨害する。」
はんだが溶けて濡れ広がる経路に、充填材の粒子が挟まります。接合部の抵抗が上がるか、接合そのものが途中で止まります。
報告は、高い信頼性と良好なはんだ接合のあいだのトレードオフ関係を探索したうえで、2 つの手立てで見通しを改善しています。
| 手立て | 内容 |
|---|---|
| 局所リフロー | 接合部だけを選択的に溶かす |
| 高温はんだまたは鉛フリーバンプ | 溶融温度と樹脂の硬化温度の順序を作る |
結果も数字で示されています。
| 試験 | 結果 |
|---|---|
| −40 °C 〜 125 °C の温度サイクル | 1500 サイクル後、断線も短絡もゼロ |
| ボイド | ボイドがゼロの実装を確かめた |
充填材の役割も明示されています。フィレットの割れを防ぐために適切な充填材を加えた樹脂を使うことで、パッケージの信頼性が確保できる。
充填材は、同じ材料の中で 2 つの逆向きの役割を持っています。
- フィレットの割れを防ぐ(入れたい)
- はんだ接合を妨害する(減らしたい)
だからノーフロー型では、キャピラリー型とは別の最適点になります。同じ「充填率」という変数が、別の条件に挟まれます。
吸湿と剥離が、最後の 2 列
残る 2 項目を確かめます。
2003 年のノーフローアンダーフィル材料からなる界面破壊試験片の吸湿解析5が対象にするのは、吸湿が界面の破壊挙動へ与える影響です。試験片の吸湿量を解析したうえで、界面破壊の試験を行うという組み立てになっています。
1997 年のアンダーフィルの剥離がフリップチップモジュールの信頼性へ与える影響の研究6が、剥離そのものを対象にします。
この 2 つが、拒否権の 2 つ目と 3 つ目です。
| 項目 | なぜ拒否権を持つか |
|---|---|
| 流動 | 端まで流れて初めて、充填が完了する |
| はんだ接合の妨害(ノーフロー型) | 接合が閉じて初めて、電気が通る |
| 剥離 | 剥がれた時点で、アンダーフィルが無いのと同じ状態へ戻る |
3 つとも「その項目が不合格なら、他が全部良くても使い道が消える」という構造をしています。吸湿は、剥離の原因側にあります。吸湿した界面は、破壊靭性が下がります。
採点表の設計としてはこうなります。
- 3 つの拒否権項目を、合否で先に切る
- 通ったものだけを、残りの項目で点数化する
- 点数は、自分の構成での重みを入れて合計する
2 段に分ける理由は、拒否権項目の「不合格」が段差だからです。流動時間がタクトの 1.1 倍なら落ちる。1.01 倍でも落ちる。点数化すると、この段差が滑らかな傾きに化けます。
熱膨張係数の目標は、外から来る
最後に、そもそも熱膨張係数をどこへ合わせるかを確かめます。
コア材料の熱膨張係数がパッケージの反りを確定するのと同じ構造が、アンダーフィルにもあります。アンダーフィルはダイと基板のあいだを埋めるので、両側の膨張差を受け持ちます。
2025 年のコア熱膨張係数と反りの研究3が示すとおり、パッケージの反りはダイと基板材料の膨張差から出ます。アンダーフィルはその境目に入るので、
- ダイ側に近い → ダイとの界面の応力が下がり、基板との界面が上がる
- 基板側に近い → 逆
ここで働くのは、「低いほど良い」より複雑な向きです。2025 年のはんだ接合部レイアウトの研究7が対象にする熱疲労は、アンダーフィルがはんだの変形をどれだけ拘束するかで動きます。
拘束が強すぎると、応力がはんだから界面へ移ります。アンダーフィルの弾性率と熱膨張係数は、はんだを守る向きと、界面を壊す向きの両方に働きます。
現場で動く判断
- 採点表の列を、拒否権と点数の 2 種類へ分けます。流動、接合の妨害、剥離は拒否権。合否で先に落としてから、残りを点数化します。
- 流動時間を、自分の寸法で計算します。。ダイの一辺が 2 倍で 4 倍、ギャップが半分で 2 倍。仕様書の流動速度に、この 2 つを掛けて初めて時間が出ます。
- 充填率を上げる判断は、2 つの変化率を並べてから行います。0.50 → 0.60 で熱膨張係数は 20% 減、粘度は 7.4 倍。改善は線形、悪化は発散です。
- に近づくと、粘度が急に立ち上がります。0.62 で 19 倍、0.64 で発散。目標の充填率が 0.60 を超えるなら、粒子径の設計が要ります。
- 粒子径を下げるときは、3 つの量を書き出します。通過性(良くなる)、沈降( で遅くなる)、粘度(上がる)。沈降の改善が最も割が良い。
- 沈降は、仕様書の熱膨張係数を無効にします。平均値で書かれていても、実際の層は勾配を持ちます。断面で充填材の分布を確かめます。
- ノーフロー型では、充填率の最適点が別になります。フィレットの割れを防ぐために増やしたい一方、はんだ接合を妨害するので減らしたい。同じ変数が別の条件に挟まれます。
- アンダーフィルの熱膨張係数にも、上下 2 つの最適点がぶつかります。ダイ側と基板側の両方の界面を受け持つので、コア材料と同じ両側の引き合いが立ちます。