加速試験は、温度を上げて行います。高いほど速く壊れるという前提が入っているからです。
ところがこの前提が崩れる劣化機構があります。応力による空孔——ストレスマイグレーション——がその 1 つです。
理由は、2 つの量が温度に対して逆向きに動くことにあります。
駆動力と動きやすさが、逆へ動く
金属配線には、成膜と熱処理のあとで熱応力が残ったままです。1990 年の銅系薄膜の応力の温度依存の研究1が測っているのが、この応力の温度に対する曲線です。応力がゼロになる温度を とすると、温度 での応力はおよそ
温度が下がるほど、応力は大きくなります。
一方、空孔が成長するには原子が動く必要があります。拡散係数は
温度が上がるほど、原子は動きやすくなります。
空孔の成長速度は、駆動力と動きやすさの積です。
| 温度 | 駆動力 | 動きやすさ | 積 |
|---|---|---|---|
| に近い | ゼロに近い | 大きい | 小さい |
| 低い | 大きい | ゼロに近い | 小さい |
| 中間 | 中 | 中 | 最大 |
両端でゼロになるので、あいだに山があります。
実測の頂上は、式より低い側に出る
上の式は 2 つの効果だけを数えています。実際の測定では、頂上がこれより低い温度に出ることが報告されています。
理由は 3 つ目の効果にあります。高温では、粒成長と回復が損傷を取り除く方向に働く。
1991 年の狭いアルミ配線における熱応力緩和と応力誘起ボイドの機構の研究2が、緩和の機構を時間で分けています。
| 時間 | 支配的な機構 |
|---|---|
| 長時間の緩和 | 主に転位のクライム(上昇運動) |
| 高温からの冷却中と、その直後の短時間の緩和 | 転位のグライド(すべり運動)が大きく寄与 |
空孔の役割についても述べられています。受動膜で覆った配線でしばしば観測される空孔の成長は、空孔が生じる前と同じ過程で応力緩和を進めるための、新しい原子の供給源となる。
空孔そのものが緩和の担い手になっている、という受け取り方です。だから空孔が育つと応力が下がり、駆動力が減る。自己抑制の項が入ります。
3 つ目の項が入ると、頂上が下へ動く
回復の速度も熱活性なので、別の活性化エネルギー を持ちます。正味の損傷の速度は
なら、引く側は高温でより急に立ち上がります。その結果、正味の山は低温側へ動きます。
| と の関係 | 頂上の位置 |
|---|---|
| 大きく低温側へ動く | |
| わずかに動く | |
| 高温側へ動く |
だから頂上の位置は、2 つの活性化エネルギーの差で決まります。2 つ揃って初めて、位置が出ます。
実務での手は 1 つです。頂上は測ります。温度を 4 点以上振って、損傷の量を書き入れる。山の形が出るかどうかを、まず確かめます。
2025 年の 4H-SiC MOSFET における活性化エネルギーの符号の報告3が示すとおり、温度依存がひねくれた機構は他にもあります。その研究では活性化エネルギーが負に出ました。「高温ほど速い」は、確かめてから使う前提です。
銅は、期待されたほど強くなかった
材料を替えれば済むのか。銅への置き換えが検討された当時の期待と、実際の結果が記録に残っています。
1992 年の狭い受動膜付き銅配線における熱応力誘起ボイドの研究4が、その対比を 2 文で書いています。
「銅がアルミ系の配線に代わる材料として検討されているのは、銅がより良い導体であることと、熱応力とエレクトロマイグレーションによる故障に対してより強いと期待されているためである。」
「しかし、受動膜で覆った銅配線でも、受動膜付きアルミ配線で一般に観測されるのと非常によく似た形で、熱応力が有意なボイドを引き起こすことが見出された。」
期待と結果が食い違っています。
1988 年の報告が、アルミ側での現象を先に記録しています。狭いアルミ系配線における熱応力誘起の粒界ボイドとノッチング5——粒界が場所として名指しされています。
| 材料 | 期待 | 実際 |
|---|---|---|
| アルミ | — | 粒界にボイドとノッチが出る |
| 銅 | 熱応力に強い | アルミと非常によく似た形でボイドが出る |
導電率と耐熱応力性は、別の性質です。前者が良くても、後者は別に測ります。
1990 年の銅・銅銀・銅錫膜の応力の温度依存の研究1が示すとおり、合金化で応力の温度依存そのものを動かす道は別にあります。材料を替えるときの物差しは、導電率より の曲線です。
場所は、配線よりビアに出る
損傷がどこに出るか。2002 年の半導体配線における熱応力誘起のボイド形成の研究6が、有限要素解析で場所を特定しています。
対象は Cu/low-k 配線で、応力・ひずみの分布と変形が解析されています。
- 応力誘起のボイドは、金属配線よりビアに生じやすい
- ビア上部に生じる「花」状の欠陥も、応力分布から解析できる
- ミーゼス応力が応力集中の局在を表し、それが異なる材料の界面での剥離と過応力破壊を引き起こす
1 つ目が、試験構造の設計へ直結します。
| 構造 | 何を拾うか |
|---|---|
| 長い配線だけの構造 | 配線中のボイド。ビアの寄与は範囲の外 |
| ビアチェーン | ビアのボイド。実際の弱点 |
配線だけの試験構造で温度を振っても、山の位置が実製品と別になりえます。ビアと配線で応力の集中の仕方が別だからです。
3 つ目も効いてきます。ミーゼス応力が最大になるのは異なる材料の界面で、そこが剥離の起点になります。Cu/low-k の組み合わせでは、low-k の機械的な弱さが界面の側から入ります。
短い配線では、機構そのものが替わる
配線の長さも乗ります。1994 年の短い金属配線における応力緩和とエレクトロマイグレーションの速度論——クリープ支配の挙動への遷移7が、題名で遷移を宣言しています。
短い配線では、背圧が立ちやすい。両端が拡散障壁で塞がれていると、原子が動いた先で応力が上がり、それが逆向きの駆動力になります。これが Blech 長の考え方です。
同じ報告が示すのは、その先でクリープ支配の挙動へ移ることです。
だから配線の長さが、機構の切り替えスイッチになります。
| 長さ | 支配的な挙動 |
|---|---|
| 短い | 背圧が立つ。クリープ支配へ遷移 |
| 長い | 背圧が届かず、拡散が律速 |
試験構造の長さが実製品と別なら、機構も別です。機構が別なら、温度依存の形も別になります。
山のある応答を、単調と仮定して測る危険
最後に、実務上の帰結をまとめます。1988 年の狭いアルミ配線における粒界ボイドとノッチング5以来、この機構の試験は温度を振ることを前提にしてきました。
加速試験の標準的な組み方は、最高温度で測り、活性化エネルギーで使用条件へ外挿するというものです。この組み方は、応答が温度に対して単調であることを前提にしています。
山がある機構では、この前提が崩れます。
| 測った温度 | 実際の最悪条件との関係 |
|---|---|
| 山の頂上より高い | 損傷が小さく出る。危険側 |
| 山の頂上 | 最悪条件 |
| 山の頂上より低い | 損傷が小さく出る。安全側の見積もり |
上の行が問題です。高い温度で測って損傷が小さいと、「この機構は範囲の外」という結論になります。実際には、使用条件へ向かう途中に頂上があります。
加速係数の計算が届くのも、山の手前までです。アレニウス型の加速係数は、単調な温度依存を前提にしています。山をまたぐ外挿は、符号の保証すら失います。
だから最初にやるのは、山の有無を確かめることです。温度を振って、単調かどうかを確かめる。単調なら従来の枠組みが使え、山があるなら頂上で測ります。
現場で動く判断
- 応力による空孔には、内点の最大があります。駆動力 と動きやすさ が逆向きだからです。両端でゼロになります。
- 頂上は で決まります。 K、 eV なら から 26 K 下。 より のほうが位置を支配します。
- は最後の高温工程が据えます。封止材の硬化温度を変えたら、山も動きます。試験構造と実製品で、この工程を揃えます。
- 実測の頂上は、2 項の式より低い側に出ます。高温で回復と粒成長が損傷を取り除くためです。頂上は測って確かめます。
- 試験構造にビアチェーンを入れます。ボイドは配線よりビアに生じやすい。配線だけの構造では、実製品の弱点を見落とします。
- 配線長が機構を切り替えます。短い配線では背圧が立ち、クリープ支配へ移ります。実製品の長さの分布を覆う範囲を試験に入れます。
- 最高温度だけの測定は、山のある機構では危険側です。損傷が小さく出るので「範囲の外」という結論になります。まず単調かどうかを確かめます。