はんだ接合の寿命予測モデルが2つ並んでいます。片方はき裂の発生と進展を分けて追う、物理的に筋の通ったモデル。もう片方は1本のべき乗則です。先端パッケージで推されているのは後者でした。より詳しいほうが、なぜ選から漏れるのか。
はんだ接合の寿命予測モデルを、精度の順に並ぶものだと思っていました。選ぶ基準は、精度より手前にありました。決め手は「そのモデルが要求する量を、自分の構造で測れるか」です。
Darveaux が使えなくなる理由
エネルギー密度にもとづく寿命モデルは、1991 年にフリップチップ接合の熱応力シミュレーションと Coffin-Manson 則を結んだ研究1から積み上がってきました。き裂の発生と進展を分けて追うので、物理的に筋が通っています。
ところが先端パッケージでは行き詰まります。初期き裂の長さを検証する手が欠けるからです。
電気的な検出手段はデイジーチェーンですが、そこには限界がはっきりあります。
- 全体のチェーン抵抗が mΩ から Ω の桁にあり、初期のき裂による抵抗変化は分解能かノイズに埋もれる
- デイジーチェーンではき裂がいつ発生したかを切り分ける手が無い。抵抗が大きく上がってから初めて故障の顔をする
つまり機能故障の指標としては信頼できるが、損傷の初期段階を追う診断には使えない。
ウェーハレベルパッケージ、3D、SiP のように接合が小さく数が多い構造では、この壁が効いてきます。モデルが要求する入力が、実験では得られない。
「埋もれる」の中身は、平均化と、欠けた換算表
「埋もれる」で止まりがちですが、理由は 2 つに割れます。片方は計測の構造、もう片方は物性の欠落です。
1 つ目は、鎖が平均を返すことです。デイジーチェーンは接合を直列に多数連ねた構造で、2 点間で測れるのは全体の和。1 接合あたりの値は、その和を個数で割って求めます。つまり返ってくるのは平均です。
これを数で掴みます。 個の接合が直列につながった鎖で、そのうち 1 個だけが 倍に増えたとすると、鎖全体の抵抗は
50% 増を判定条件にするなら、。
| 鎖の接合数 | 50% 増に要る 1 接合の倍率 |
|---|---|
| 10 | 6 倍 |
| 41 | 21.5 倍 |
| 100 | 51 倍 |
| 1,000 | 501 倍 |
が大きいほど、合否の線は「開放」へ近づきます。何 % を選んだかに関係なく、鎖が長ければ実質的にオープン検出です。「初期き裂が埋もれる」は感度の問題より、 という割り算そのものです。
対策は 1 つだけです。鎖を区間に分け、中間に取り出しパッドを設ける。 を小さくする以外に道は塞がっています。熱サイクル試験で鎖を数十チャンネルへ分け、外周列ごとに切り出す設計はこのためです。チャンネル数は測定の便宜より、合否の感度そのものを左右します。
2 つ目は、換算表が欠けていることです。各種の鉛フリーはんだ接合について、「抵抗 対 き裂長さ」の確立した関係は空白のままです。
だから合否の線は各自が選ぶことになります。初期抵抗の 1% 増、20% 増、50% 増、そして事実上の開放まで、現場ごとに別の数字が使われます。同じパッケージ、同じ基板、同じはんだペースト、同じ試料数、同じ試験条件でも、報告される Weibull プロットがずれる理由の 1 つがここにあります。
Darveaux が要求しているのは、まさにこの の換算です。それが無いので、初期き裂長さは電気的には空欄のままになります。モデルの側の問題より、材料データベースの穴です。
ただし測定そのものが不可能という話とは別です。き裂がどこから出るかは、分かっています。CTE 差により、はんだ内部の、バンプとダイパッドの界面に近い粒界に沿ってき裂が生じる。最初に観察されるのは、その界面の縁です。場所が決まっているので、断面観察なら測れます。
だから Darveaux が棚から落ちる理由は「初期き裂が測定の外」より「破壊を伴って初めて測れる」ほうです。試料を切れば は出ますが、切った試料は試験の続きを打ち切られます。同じ試料で発生と進展を追う道が塞がっていることが、実際の条件です。
この穴は、モデル選びの手前を壊しています。合否の線を各自が選んでいるので、同じ試験の結果どうしが比較の土俵から降ります。ひとつの資料の中でさえ、節が変われば合否が 2 端子の絶対値だったり 4 端子の変化率だったりします。回数を横に比べる道が塞がっているのは、モデルより合否の線の問題です。
だから修正エネルギー密度モデルが選ばれる
代わりに推されているのが修正エネルギー密度モデルです。形は Coffin-Manson とよく似ていて、ひずみの代わりにシミュレーションから出した非弾性ひずみエネルギー密度の増分を入れます。はんだ接合の寸法を振って熱サイクルを解いた事例2のように、入力側が有限要素解析の中で完結するのが利点です。
が接合の疲労寿命、 が1熱サイクルあたりの非弾性ひずみエネルギー密度の増分(クリープと塑性の両方を含む)、 と が実験から求めるフィッティング係数です。
クリープだけを考える場合には、 と に具体値の組が与えられます。この記事では、その一例として 、 を使って計算を進めます。特定の較正とメッシュ条件に紐づいた値で、別の解析へそのまま持ち込む数字とは別物です。
初期き裂の長さは不要です。要るのは有限要素解析から出る だけで、これは計算できる量です。
まとめはこうです。Darveaux より単純で、SAC305・SAC405・SAC-Q といった新しい鉛フリーはんだに向いていて、先端パッケージの寿命をよく予測する。
「より詳しいモデル」と「より使えるモデル」は別、という話でした。
材料の式は2つ、選択は「何をつかみたいか」
寿命式へ渡す を求めるには、はんだの変形を記述する構成則が要ります。粘塑性を速度依存で書く定式3と、繰り返し塑性・粘塑性を書く定式90015-6)が、それぞれ 1980 年代に出ています。ここも選択があります。
| 構成則 | 何をつかむか | パラメータ数 |
|---|---|---|
| Chaboche | 繰り返し塑性(時間依存の外) | — |
| 双曲線正弦(hyperbolic sine) | 定常クリープ | 4個 |
| Anand | 粘塑性全般。ひずみ速度と温度の影響を明示的に追う | 9個 |
Chaboche は von Mises 降伏条件を使い、降伏曲面の中心(背応力 )が移動する形で移動硬化を表します。背応力を 個の成分の和として書けるので、複雑な繰り返し挙動へ合わせ込めます。
Anand と双曲線正弦は、クリープ側を相手にします。使い分けは明快です。
- 定常クリープの予測が主目的で、計算効率が重要なら → 双曲線正弦(4パラメータ)
- 粘塑性が大きく、複雑な負荷履歴があり、塑性とクリープの全段階をつかみたいなら → Anand
ただし Anand には代償があります。9個のパラメータを実験から正確に較正するのが難しく、包括的な試験が要る。式が複雑で内部変数が発展するため、厳しい負荷条件では有限要素解析が収束を外すことがある。
重要な一文。メッシュサイズを適切に選べば、どちらのモデルでも多くの場合はんだ疲労寿命を正確に予測できる。
モデルの選択より、メッシュの切り方のほうが効く場面があるということです。
なぜメッシュサイズが結果を変えるのか
は「単位体積あたりのエネルギー」なので、どの体積で平均するかで値が変わります。
はんだ接合の角には応力とひずみが集中します。メッシュを細かくするほど、その一点の値は大きく出ます。極端に細かくすると発散していく(特異点)ので、「真の値」というものが不在です。
だから実務では、係数 と を決めたときと同じメッシュサイズを使います。シミュレーションの手法がき裂成長の相関そのものを動かす4ことは、2002 年に正面から論じられています。係数は、特定のメッシュ条件とセットで意味を持ちます。
メッシュを変えたら係数を較正し直す。ここを踏み外すと、モデルが同じでも答えが桁で動きます。
これが実際に危ういのは、大面積の解析です。桁で見ておきます。1/4 モデルではんだ接合 1 万個を 3 次元要素 50 万個で解いたとすると(この記事での計算)
1 接合あたり 50 要素。隅とチップ角だけ細メッシュにすれば実際にはもっと偏りますが、平均としてはこの粗さです。大面積の有機インターポーザやシリコンインターポーザを丸ごと解く解析は、この桁に入ります。
角の は細かくするほど大きく出るので、この粗さで求めた は小さめに出ます。そこへ 、 をそのまま入れれば、 は寿命を長めに返します。
「長めに返します」は、何倍か
指数が 1.8 なので、 の誤差は素直に増幅されます。 の対数を取って微分すると
符号が逆で、倍率が 倍。 を小さく見積もるほど、寿命は長く出ます。誤差が数十パーセントの桁なら微分の近似が粗いので、比のまま計算します。 が 倍に出たとすると
| の出かた | 寿命の出かた |
|---|---|
| 10% 小さい | 1.21 倍 |
| 30% 小さい | 1.90 倍 |
| 50% 小さい | 3.48 倍 |
メッシュが粗くて が3割小さく出るだけで、寿命は 1.9 倍。ほぼ 2 倍、危険側へ外します。しかもこれは計算間違いより、係数を求めたときと別のメッシュを使ったというだけで起きます。
誤差の向きが決まっているのが厄介です。メッシュを粗くすれば は必ず小さく出るので、ずれは必ず「寿命が長く出る」側に入ります。両側へばらつく誤差なら数を打てば消えますが、これは残ります。
モデルが大きくなるほど 1 接合あたりの要素数は減り、同じ係数を使うほど楽観側へ傾く。大面積モデルの要素数を、係数の出所と突き合わせてから使ってください。係数とメッシュは、別々に引用できる 2 つの数字とは別物です。
材料ごとに、壊れ方の理論を変える
パッケージには性質の別な材料が同居します。三次元の脆性破壊をどの応力で見分けるかは、いまも研究の対象5です。一覧にするとこうなります。
- シリコン: 脆性破壊
- 有機材料とはんだ接合: 粘弾性・粘塑性。強い温度依存
だから破壊の判定条件も材料ごとに変えます。多軸応力下の破壊理論は6つ挙がっています。最大主応力説、最大せん断応力説、最大主ひずみ説、全ひずみエネルギー説、ひずみエネルギー説(distortion energy)、モールの破壊説。
シリコンのような脆性材料には、最大主応力説が推奨されます。
が主応力、 が設計上の最大許容引張応力、 が最大許容圧縮応力。3つの主応力のどれか1つでも条件に触れたら破壊と見なします。
すべての複合応力破壊理論に共通する前提も書かれています。「多軸応力状態で選んだ力学的指標の最大値が、同じ材料の単軸試験で破壊を起こす値以上になったとき、破壊が起きると予測する」。
単軸の簡単な試験へ帰着させるというのが、この分野の基本的な発想です。指標(応力、ひずみ、エネルギー)に要る条件は、多軸で計算でき、かつ単軸で測れることです。
剥離は界面強度の問題として解く
パッケージには材料の界面が無数にあります。ダイアタッチ材と基板、モールド樹脂とリードフレーム、アンダーフィルとチップ。
界面強度は「2つの材料がどれだけよく接着しているか」を、熱・機械・環境の負荷のもとで定量化した量です。界面剥離の解析には MVCCT(修正仮想き裂閉口積分法)を使います。仮想き裂閉口法そのものの来歴と適用範囲は、総説としてまとめられています6。
四点曲げなどで臨界エネルギー解放率 を実測し、解析で界面のエネルギー解放率を出して照らす——実測と解析の対応は、この 1 組で取ります。
実務での使い方
TSV インターポーザのはんだバンプを有限要素で設計する研究7のように、解析が設計の一部になっている場面ほど、下の 6 点が効いてきます。
寿命モデルを選ぶとき、まず入力が測れるかを調べてください。Darveaux は初期き裂を要求し、先端パッケージではその検証手段が欠けます。デイジーチェーンは機能故障の検出器で、損傷の診断器とは別物です。
、 は、メッシュ条件とセットの数字です。メッシュを変えるなら較正し直してください。
構成則の選択は、精度より較正コストで決まります。Anand の9パラメータを揃える体力が無ければ、双曲線正弦の4パラメータのほうが実用的です。
感度を上げたいなら、閾値より先にチャンネル数を増やしてください。1 本の鎖へ 個を連ねた時点で、1 接合の変化は に薄まります。 の鎖で 50% を拾うには、その接合が 51 倍まで上がる必要があります。
寿命の数字を文献から借りるときは、合否の線と鎖の長さを揃えてください。「抵抗 対 き裂長さ」の換算が空白のままなので、合否の線は各自が選んだ数字です。同じパッケージ・同じ試験でも Weibull プロットが動きます。
を出した解析の、1 接合あたり要素数を報告してください。大面積モデルほどここが粗くなり、別の較正で決めた係数をそのまま当てると寿命が長く出ます。
ここまでで「係数はメッシュとセット」まで来ました。では、較正し直せば係数は自社の材料の物性値になるのか。そこは一筋縄ではいきません。同じはんだ・同じ実験データ・同じ構成則から抽出した係数が、抽出の手順を変えるだけで桁で動き、それでも当てはまりの指標はほぼ同じ、ということが起こります。「合わせに行くから較正し直す」という案 A を実行する前に、較正で定まるものが何なのかを掴んでおいてください。大きく離れた 2 組がどちらも同じくらいよく合うなら、較正は物性を定める作業より、モデルとメッシュと材料をまとめて 1 組の数字へ押し込む作業だということになります。