不良解析の報告書に「原因は銅の膨れ出し」と書かれています。別の報告では、良好なつながりの理由として同じ膨れ出しが挙がっています。どちらかが間違っているのでしょうか。
どちらも正しい、というのがこの記事の答えです。すると話が 1 段深くなります。同じ現象が良品も不良も作っているとき、レシピ表のどの欄を振ればよいのか。
3 段でたどります。まず膨れ出しの機構を特定します(クリープより表面拡散です)。次に、機構が決まると触れるつまみが自動的に決まることを確かめます。最後に同じ形の問題を Cu/Sn 系と 1960 年代のワイヤボンディングに見つけて、ハイブリッドボンディングに残されているつまみが何本なのかを数えます。
TSV ウェーハのハイブリッドボンディングで、膨れ出しの量を振って導通抵抗を測った報告1があります。結論は短い。膨れ出しの量が、接合の成否を左右する主要なパラメータだった。
「多いほど悪い」も「控えめほど良い」も、ここでは的を外します。量に窓があります。
膨れ出しが足りなければ、上下のパッドは届かずに未接合のまま。膨れ出しが過ぎれば、はみ出した銅が横へ回ってパッド側壁にボイドを作り、隣の欠陥へ入り込みます。
不良の正体と、良品の理由が、同じ現象です。
加圧は、この機構には効かない
ここが実務で効いてきます。膨れ出しの量と導通抵抗の関係1を掴んだら、次は「どの欄を振れば量が動くか」です。膨れ出しをクリープ変形として有限要素でモデル化し、観測された量へ較正しても、再現の手前で止まります。そこから出る結論はこうです。
膨れ出しの物理機構はクリープ変形より、Cu の表面拡散である。
起きる温度が低い。接合後アニールの温度帯で、すでに表面拡散による膨れ出しが始まります。
クリープか表面拡散かで、触るつまみが入れ替わる
クリープは応力駆動です。ひずみ速度が応力のべき乗に比例する。だから接合力を下げれば減ります。押しすぎが原因なら、押すのをやめればいい。
表面拡散の駆動力は応力とは別です。表面の曲率差(化学ポテンシャル差)が動かしていて、支配するのは温度と時間、そして表面積です。
だから、
- 接合力を下げた先も、そのまま進みます
- 手は温度を下げるか、時間を短くするかの 2 つ
- パッドの形状(曲率)を変えると動きます
膨れ出しの対策として大小パッドの寸法比のような設計指針が出てくるのは、これが理由です。応力より形状の問題だから、答えが形状で返ってくる。
較正済みのクリープモデルが観測値を再現しきれなかったこと自体が証拠になっています。モデルが届かなかったという結果に、機構の同定という値打ちがある。
窪ませすぎても、浅すぎても壊れる
膨れ出しは、リセスの深さに対して両側に失敗があります。
- リセスが深すぎる:膨れ出しが届かず、未接合
- 窪みがほぼゼロのパッド:膨れ出しが起きて、パッド側壁に大きなボイドを作る
真ん中に窓があります。だから高密度 Cu パッドの CMP ディッシング管理2は「小さいほど良い」とはなりません。目標値があります。
目標値は、膨れ出し量(=温度と時間とパッド形状)とセットで決まります。CMP の仕様を単独で固める道は塞がっています。
言い方も明確です。サブミクロン組立では CMP による表面トポグラフィの厳密な制御が最重要で、接合後の Cu パッドリセスに許されるのは接合絶縁膜表面に対して数 nm までです。
10 秒が、84 日を追い越す
もう1つ、拡散が接合を作りかつ壊す例が、Cu/Sn 二層です。固液相互拡散で作った Cu/Sn マイクロバンプでは、Cu₆Sn₅ は空孔の生成によって劣化していきます3。
作り方は素直なダマシンでした。300 mm ウェーハに TEOS 1 → 5 × 5 のパッドをリソで描く → RIE で 1 エッチ → Ta/TaN バリアと Cu シードを PVD → Cu 電解めっき → TEOS と Cu を一緒に CMP(パッド内 Cu の最終厚 800 nm)→ 無電解置換で Sn を析出。
3通りの組み合わせが比較されています。Cu 570 / Sn 230、Cu 530 / Sn 270、Cu 480 / Sn 320(いずれも nm)。
Cu 480 / Sn 320 の系で、Cu と(Sn + IMC)の厚みがこう動きます。
| 条件 | Cu (nm) | Sn + IMC (nm) | 初期 480 nm からの Cu 消費 |
|---|---|---|---|
| 室温 Day 0 | 409.9 | 394.8 | 70 nm |
| 室温 84日 | 381.3 | 418.1 | 99 nm |
| 80 °C・10 秒 | 399.6 | 401.9 | 80 nm |
| 250 °C・10 秒 | 165.5 | 635.9 | 314 nm |
250 °C に 10 秒さらすだけで、Cu の 3 分の 2 が消えます。室温で 84 日かけた消費量の 3 倍以上を、10 秒で。
Cu₃Sn/Cu 界面に Kirkendall ボイドが観察されています。はんだと Cu の界面で Kirkendall ボイドが立つ過程4も、Cu₆Sn₅ と Cu₃Sn の固相成長の計算5も、同じ非対称を前提にしています。Cu₃Sn 中では Cu の固有拡散係数が Sn より大きく、200 °C でその比は約 30。
片側だけが速く動くので、正味の空孔流が Cu 側へ向かい、そこにボイドが溜まります。
2点から見かけの活性化エネルギーを出しておく
同じ 10 秒で、80 °C と 250 °C の Cu 消費が 10.3 nm と 244.4 nm(Day 0 の 409.9 nm 基準)でした。同じ時間の比較なので、拡散律速を仮定すれば係数比が出せます。
IMC 厚が なら、同一時間の比較なので が約分されて
係数比 563 倍。これを温度へ翻訳します。 の 2 温度の比を取ると、未知の が消えます。
両辺の対数を取って について解けば、あとは代入するだけです。 K(80 °C)、 K(250 °C)、。
約 0.6 eV(57 kJ/mol)。Cu-Sn 系 IMC 成長の文献値の範囲に入ります。2点だけの外挿ですが、桁が合っていること自体が、この2つの数字の裏づけになります。
使い道は工程設計です。この なら、150 °C で 250 °C・10 秒と同じだけ Cu を食うのに、約 4 分。リフローだけでなく、後工程の低温ベークや長時間の信頼性試験も Cu 予算を削ります。
意外な結論が出ています。Sn を厚くしたほうが IMC の成長面積が小さい。
320 nm の Sn は、230 nm や 270 nm より IMC 成長面積が小さい。室温でも、各アニール温度でも同じ傾向。だから Sn が厚いほうがハイブリッドボンディングには有利、と結論されています。
直感に反します。Sn が多ければ IMC も多くできそうですが、逆でした。薄い Sn は早く全量が IMC に変わってしまうので、面積で数えると先に飽和する、と読めます。
同じ問題を、業界は一度解いている
「接合には拡散が要る。しかし同じ拡散が接合を壊す」という筋書きには前例があります。ワイヤボンディングが早い時期に同じ壁に当たっています。
初期の熱圧着(TC)ボンディングは、数百 °C の加熱と数十グラム重の加圧で Au ワイヤを Al パッドへ押し付けていました。すると Au と Al が相互拡散して AuAl₂ が生成する。紫色で極度に脆く、断線の原因になりました。purple plaque(紫のペスト)と呼ばれた不良です。
時間の尺度が残っています。Au-Al の金属間化合物は、いまでも175 °C でアニールして成長速度を追う対象6です。軸は「時間」の単位で切ってあります。
ここで Cu/Sn の数字と並べてみます。250 °C・10 秒で Cu の 3 分の 2 が消える、でした。温度が別なので、この記事で出した見かけの活性化エネルギー を使って 200 °C へ換算します。
なので、同じ厚みに達するのに必要な時間は 4 倍。250 °C で 10 秒は、200 °C なら約 40 秒です。
Au-Al が「時間」の単位、Cu/Sn が 40 秒。1 時間が 3,600 秒なので、それだけで 2 桁の開きです。
正直に条件差を書いておきます。測っている対象が Au-Al と Cu-Sn で別の系で、着目している量も IMC 厚と Cu 消費で別です。それでも、2 桁の差を埋めるほどの取り方の違いは、まず考えにくい。Cu/Sn 系の拡散は、業界を止めた purple plaque より桁違いに速い。そう読んで大丈夫です。
当時の答えは 2 つ。片方はハイブリッドボンディングでは行き止まり
purple plaque に対して、業界が取った手は 2 つでした。
- 金属を揃える。超音波 Al ワイヤボンディングが開発され、Al ワイヤと Al パッドという単一金属(monometallic)の接合が、室温で作れるようになりました。異種金属をやめれば、そもそも IMC の出番が消えます。
Cu-Cu ハイブリッドボンディングは、この解の再発明です。Cu/Sn は、わざわざ異種金属へ戻る選択になります。Sn を厚くすると有利という結論も、IMC の量を管理する話で、IMC を消す話とは別です。
- 温度を下げる。ただし、別のエネルギーを足して。TC は数百 °C。そこへ超音波を加えたサーモソニック(TC/US)7が 100 °C 台まで下げ、超音波だけの US は室温で接合しました。超音波を入れると、温度と圧力の両方を大幅に下げられます。
接合に必要なエネルギーを、熱より機械振動で入れたということです。
この 2 つめが、ハイブリッドボンディングでは行き止まりです。超音波ボンディングは界面を横方向にこすって酸化膜を割る操作です。ピッチ数百 nm で、許される横ずれが数十 nm の接合面へ、意図的な横方向の運動を加える道は塞がっています。
つまりハイブリッドボンディングは、ワイヤボンディングより 1 本減ったつまみで同じ問題を解いています。200 °C 未満を狙うのに、ナノツイン銅や界面金属層のような材料側の手ばかりが並ぶ理由がここにあります。熱以外のエネルギーを足す道が塞がっているので、残るのは同じ熱量でより速く進む材料を作る道です。
もう1つ、当時の対策の中身が示唆的です。接合力は解決策に入っていません。加圧条件はそのままで、入れ替わったのは金属の組み合わせと、投入するエネルギーの種類でした。マクロなワイヤボンディングでも、ナノスケールの膨れ出しでも、結論が同じところへ着いています。
2つに共通していること
膨れ出しと IMC 成長は、別の現象の顔をして構造が同じです。Cu/Sn/Cu サンドイッチでの IMC 成長を位相場で解いた計算も、駆動力を濃度差と定めて時間で追う形を取ります。
| Cu の膨れ出し | Cu/Sn の IMC | |
|---|---|---|
| 機構 | Cu の表面拡散 | Cu と Sn の相互拡散 |
| 接合を作る側面 | 隙間を埋めて Cu-Cu を繋ぐ | IMC が接合を形成する |
| 壊す側面 | 側壁ボイド、腐食パッドへの侵入 | Cu 枯渇、Kirkendall ボイド |
| 動かせるつまみ | 温度・時間・パッド形状 | 温度・時間・Sn 厚 |
| 効かないつまみ | 接合力 | 接合力 |
どちらも接合力では動きません。ハイブリッドボンディングのレシピ表では、圧力の欄はアライメントと初期接触のためのもので、接合の質を左右するのは温度と時間だと、分けて読んでください。
ボイドの発生源を数え上げるとき、この2つを忘れずに足してください。工程が自分で作るボイドの代表例です。
実務での使い方
熱以外の道が塞がっているので、残るのは材料側の手です。(110) 配向のナノツイン銅で粒を大きくし、低温で Cu-Cu を直接接合する試み8は、その方向の一例になります。
同じ現象が良品と不良の両方を作っている場合、対策は「無くす」より「量を合わせる」になります。膨れ出しをゼロにすると、そもそも繋がる手前で止まります。
機構がクリープか拡散かを先に見分けてください。接合力を触って動かなければ、それは応力駆動ではありません。温度・時間・形状へ移ってください。
Cu パッドリセスには目標値があります。深すぎれば未接合、窪みがほぼゼロなら側壁ボイド。「できるだけ平坦に」は仕様として不足です。
Cu/Sn 系では、Cu の厚みが消耗品です。250 °C・10 秒で 3 分の 2。後工程の熱履歴を全部足して予算を組んでください。ただし予算を積むとき、拡散のように温度が高いほど速い現象だけを想定していると外します。同じ配線の中には、中間の温度がいちばん悪い現象も同居しています。だから熱履歴は「最高温度」より温度ごとの滞在時間の形で持っておく必要があります。片方の予算表に、もう片方は入っていません。
異種金属に戻るなら、purple plaque の教訓が付いてきます。Cu-Cu は単一金属で、Cu/Sn は異種金属の側です。Sn 厚の最適化は、IMC を管理する話で、消す話とは別。
Sn は厚いほうが有利でした。薄くして IMC を減らす、という直感は逆に出ます。
残った 3 つのつまみのうち、温度と時間は接合装置の設定です。設計で決まるのはパッド形状だけで、それもピッチを決めた時点でほとんど固定されます。大小比のような寸法の指針も、パッドを配る余地があってはじめて成り立つもの。ピッチが詰まるほど、この記事で唯一残った設計自由度が痩せていきます。