出来上がるパッケージはほぼ同じなのに、作る順番が正反対の 2 つのルートがあります。どちらも現役です。では、何が 2 つに分けているのか。
チップの側面4つと表面(あるいは裏面も)を樹脂で覆った WLCSP。最初の特許は 2011 年(US8456002)で、STATS ChipPAC が出しています。
出来上がる構造はどこも似ています。ところが作る順番が正反対です。
| STATS ChipPAC (eWLCSP) | UTAC / SPIL (mWLCSP) | |
|---|---|---|
| 最初にやること | ウェーハを試験して個片化 | ウェーハのまま RDL |
| 良品選別 | 必要 | 不要 |
| 再構成ウェーハ | 作る | 素通り |
| ピック&プレース | 要る | 不要 |
| モールドの位置 | RDL の前 | RDL の後 |
| 保護面 | 裏面+側面4つ | 側面4つ+表面 |
RDL とモールドの順番が逆で、そこから全部が決まっています。
順番が決めているもの
五面モールド WLCSP そのものの作りにくさは2016 年に超薄型の側から報告され1、側壁の封止だけを取り出した方式も2020 年に報告されています2。STATS ChipPAC の流れは、実質的にフェイスダウンのチップファースト・ファンアウトです。
- デバイスウェーハを試験して、良品ダイに個片化
- 個々の良品ダイを一時キャリアウェーハへピック&プレース
- 再構成ウェーハに EMC を圧縮成形
- 一時キャリアを剥離
- RDL を形成
- はんだボール搭載
- 再構成ウェーハを個片化
UTAC は、ここを全部飛ばします。
- デバイスウェーハのまま RDL を形成
- はんだボール搭載
- ダイシング
- モールド
- 研削
- デバイスウェーハを個片化
SPIL の mWLCSP は UTAC とほぼ同じで、側壁4面と表面の五面保護。裏面にエポキシフィルムをラミネートすれば六面になります。
どちらを選ぶかは、歩留まりと RDL コストの比で決まる
判断は単純な引き算になります。
再構成する場合、RDL を作るのは良品だけです。ウェーハ歩留まりを とすると、RDL 工程に流すダイ数は 倍で済む。そのかわり、試験・個片化・ピック&プレース・一時キャリアの費用がかかり、さらにダイシフト(樹脂の硬化収縮でダイがずれる)という新しい問題が増えます。
ウェーハのまま作る場合、不良チップの上にも RDL を作ります。 ぶんが無駄になる。そのかわりダイシフトはゼロで、位置精度はリソの精度そのままです。
だから境目はこうなります。
の大小。
歩留まりが高いほどウェーハのまま作るほうが有利で、RDL が多層で高価なほど再構成が有利になります。
パネルレベルの工程がここへ乗ってきます。RDL が PCB 工程で作れるほど安いなら、 が下がるので、再構成する理由が減ります。
答えを左右するのは優劣より、RDL の値段です。
境目の不等式を、ウェーハ 1 枚で書き下す
上の 2 つを並べた段階では、足し算の形はこれからです。同じ土俵に載せます。マルチチップモジュールで良品ダイが要る理由も1993 年の時点で同じ勘定として記されています3。数えるのはウェーハ 1 枚ぶん、ダイ 個、良品率 とします。
ウェーハのまま作る側は、良品と不良をひとまとめに 個すべてへ RDL を作ります。かかるのは 。
再構成する側は、 個すべてを試験してから、良品の 個だけを並べ直します。ピック&プレースも一時キャリアも RDL も、使うのは良品だけ。だから
差を取って で割ると、ダイ 1 個あたりの差はこうなります。
なら再構成が安い。左辺の第 1 項が「捨てる RDL」、残りが「選別に払う代金」です。「再構成が払う」と「ウェーハのままが払う」で並べた 2 つは、この式の両辺です。ここで が選別側にも掛かっているのは、ピック&プレースとキャリアが良品にだけ発生するからです。試験費は全数にかかります。だから が掛かるのは残りの 2 項だけです。
下で出てくるモジュール歩留まりの例をそのまま使います。 の単チップ()なら、捨てる RDL は
10% です。これが 8 チップのモジュールになると、生き残る確率は に変わって
57%。捨てる RDL が 5.7 倍に膨らみます。同じチップ、同じ歩留まり、同じ RDL 単価で、不等式の左辺だけが 5.7 倍になる。「選別を省く」という道が単チップでだけ選べていた理由が、この 1 回の掛け算に入っています。
この式が黙っている項が 3 つある
上の不等式は正しいのですが、 と に素直な数字を入れています。良品ダイの技術が 1993 年に一覧としてまとめられた時点4から、どちらも素直さを欠いていました。
1. ウェーハプローブを通ったダイに付く札は「良品の見込みあり」まで
言い方は厳しめに取るのが正しい。ウェーハプローブの電気試験だけを根拠にするなら、ベアダイに付けられる札は「良品の可能性がある」までです。
理由が 2 つあります。
ウェーハプローブが当てているのは、規格の全項目より手前です。規格の全項目は、デバイスがパッケージに入って初めて実施できる。
ベアダイは通常バーンインを素通りします。だからパッケージ品ならバーンイン工程で落ちる初期故障(infant mortality)が、ベアダイでは最終試験まで持ち越されます。
つまり、再構成する側の は「ウェーハプローブを通った率」で、真の良品率とは別です。上の式は、再構成側が を払って ぶんの得をする、と書いていますが、払った試験で買えているのは の一部だけです。
この差が出るのは、再構成する側だけです。あちらは選別を省いているので、初期故障は最終試験まで持ち越されるだけ。再構成側だけが「選別したつもり」の誤差を抱えます。
2. は 1 つの数字より、段の付いた梯子
良品ダイの試験は段ごとに売られます。室温のウェーハプローブだけ、高温を足す、一時キャリア(ダイキャリア)へ載せてバーンインまで通す——段を上がるほど費用が増え、残る初期故障が減ります。段の数は供給側の商品設計しだいです。
良品ダイは二値より、段の付いた商品です。どこまで買うかを選ぶ問題です。だから式も、 を 1 つ入れて解く形より、梯子の段ごとに の組を作って比べる形になります。上の段ほど が真の良品率に近づき、 が上がる。
3. には、量で割る固定費が入っている
これが式から丸ごと抜けている項です。
良品ダイ用キャリアは高価で、しかも IC の型ごとに専用品が要ります。大量生産ならこの費用は償却の範囲ですが、少量品では別の手を探すことになります。
IC の型ごとに専用キャリアが要るので、 の中身は「1 個あたりの試験費」より広く、「型ごとの固定費 ÷ 生産数量 + 1 個あたりの試験費」です。
だから答えが数量で変わります。同じチップ、同じ 、同じ でも、月産 1 万個と月産 100 万個で、再構成が勝つかどうかがひっくり返る。費用の判断は最終製品の要求へ丸ごと従います。要求の重い用途なら 良品ダイの追加費用は正当化され、民生品では正当化しにくい。同じ計算式が、出口の製品で符号を変えます。
そして 3 番目の選択肢が挙がっている
この記事の 2 択以外に、もう 1 つ道があります。良品ダイだけを買うか、電気的健全性の確率が十分高い成熟した品種だけを慎重に選ぶか、あるいはその組み合わせ。
理由も素直です。デバイスが成熟しているほど、つまり大量生産に入ってからの期間が長いほど、ウェーハプローブ試験とその先のダイの健全性に対する信頼度が上がります。
試験を買う代わりに、 が既に高い製品を選ぶ。ASIC のように電気歩留まりの製造履歴が乏しい品種では、ウェーハ歩留まりと最終パッケージ歩留まりの相関が、そもそも未取得のままです。相関が取れて初めて、 という数字を式へ入れられます。
なお、この比較が成り立つのは単チップだからです
ダイ歩留まりとモジュール歩留まりの関係は、複合歩留まり で出ます(この記事での計算)。ダイ歩留まりを 99.2% まで保証した 8 チップモジュールなら で 94%。ところがダイ歩留まりが 90% どまりなら で 43%。
同じ 8 個でも、9.2 ポイントの差が 51 ポイントの差に化けます。
この記事の五面モールド WLCSP は単チップなので です。だから「選別を省く」という道が選べる。 が 8 になった瞬間、 では 43% どまりなので、選別を省く道は行き止まりです。
上の不等式は、単チップに限って成り立つ式です。異種集積へ持っていくときは、 を に置き換えてから読み直してください。良品ダイを救うために RDL を先に作る方式が高密度・多チップ側でだけ論じられるのも、この の乗り方が理由です。
Huatian の方式も同じ枠に入ります。デバイスウェーハに表面モールド、裏面を削って裏面モールド。UTAC / SPIL 側です。
SPIL/MediaTek が公開している流れは、逆に再構成側でした。BUMP → AA → RECON(再構成)→ FO BUMP → UBM → ダイボンド → RDL → PI → モールド → ラッピング → ボール搭載 → マーキング → ダイソー。
同じ会社でも、製品によって両方を使い分けています。方式は会社の色より、案件ごとの計算結果です。
六面モールド PLCSP の結論
508 mm 角のパネルで六面モールド PLCSP を試作した報告5から、数字が確定しているものを引いておきます。
製造
- RDL は 508 × 508 mm のパネル上に、300 mm ウェーハ 2.25 枚ぶん(個片化したものと未個片化のもの)で形成。非常に高スループット
- すべて PCB の工程と設備で作った。非常に低コスト
落下試験(JESD22-B111)
- 全試料が 30 回落下に合格。通常の PLCSP は落下試験を通過
熱サイクル試験(−55 ↔ 125 °C、50 分/サイクル、1,300 サイクルで打ち切り)。試験と有限要素シミュレーションを突き合わせた報告6と、五面保護と六面保護を基板実装レベルで比べた報告7があります。
| 六面モールド | 通常 | |
|---|---|---|
| 試料数 | 24 | 48 |
| 故障数 | 15 | 48 |
| 形状パラメータ (中央順位) | 5.53 | 3.34 |
| の 90% 信頼区間 | 3.93 〜 7.13 | 2.6 〜 4.1 |
| 特性寿命 (中央順位) | 1,037 | 368 |
| の 90% 信頼区間 | 958 〜 1,069 | 326 〜 403 |
の信頼区間が広いことに注意してください。六面モールドの は 3.93 〜 7.13。下限の 3.93 は、通常品の点推定 3.34 のすぐ上です。
形状パラメータの差が B0.1 で大きく乗るという計算は、点推定を使ったものです。 を採れば、B0.1 での利得は 6.4 倍より小さく、4 倍程度まで落ちます。15 故障どまりの打ち切りデータから を主張するときは、区間で持っておくのが安全です。
なお、六面モールドの の下限として書かれている 958 サイクルは、平均寿命として使われている値と同じ数字です。由来が同じかどうかは、報告された数字からは分かりません。引用するときは、この一致に触れておいたほうがよいと思います。
15 故障から出した β を、どこまで信じるか
「区間で持て」は正しい助言ですが、その区間が何を覆っているかは別の問題です。小標本でのワイブル推定には、性質の別な 2 つの問題が同時に乗ります。少数データでの偏りと標準偏差は 1996 年に系統的に調べられています8。
1 つめは散らばりで、これは区間が覆います。最尤推定の形状パラメータは、故障数 に対して標準偏差がおよそ 。90% 区間の目安は です。、 を入れると(この記事での計算)
報告されている 3.93 〜 7.13 と、下限はほぼ一致します。故障数に見合った幅です。
2 つめは偏りで、こちらは区間の幅を広げても残ります。最尤推定の形状パラメータは小標本で系統的に上振れし、打ち切りがあるとさらに強く出ます。1,300 サイクルで打ち切った 24 個中 15 故障は、まさにその条件です。
外挿の距離も出しておきます。24 個の試料で観測できる最も低いパーセンタイルは 。B0.1 は 0.1% なので、観測の下端からさらに 40 倍下です(この記事での計算)。 が 1 割上振れするだけで、この 40 倍を挟んだ先の値は大きく動きます。
- の差(1,037 対 368)は、観測された範囲の中の事実
- B0.1 の差は、4% の下端から 40 倍下へ延ばした外挿の結果
同じ 1 つのデータから出た 2 つの数字ですが、確からしさの等級が別です。前者は報告し、後者は幅を添えて報告する。この線を引いておくと、あとで数字が動いたときに主張ごと崩れずに済みます。
破壊位置と破壊モード
- 位置は両方とも同じ:外周列の隅付近の接合部
- モードは別:通常品はチップとバルクはんだの界面、六面モールド品は基板とバルクはんだの界面
- 切り替わりの理由は、EMC モールドによる接合部上側の保護
- 累積クリープひずみの最大値は両者でほぼ同じ。ただし六面モールド品ではごく小さな体積にしか出ておらず、体積の大半では通常品より小さい
シミュレーションと実測の破壊モードが、両方の構造で一致しています。モデルが場所を当てられている、という裏づけとしてはこれが一番強い。
実務での使い方
少数データのワイブル推定は 1996 年に系統的に調べられていて8、下の 8 点のうち後半 3 つはそこから来ています。
五面モールドの方式選定は、RDL の単価とウェーハ歩留まりの比で決めてください。「再構成が新しい」は理由になりません。
その が何の率なのかを先に調べてください。ウェーハプローブを通っただけのダイに付く札は「良品の見込みあり」まで。初期故障はそのまま持ち越されます。
へ 1 個あたりの費用だけを入れると外します。良品ダイ用キャリアは IC の型ごとに専用で、固定費です。答えが数量で入れ替わります。
多チップへ持っていくときは、 を に置き換えてください。 = 0.9 でも = 8 なら 43% です。単チップだから成り立っていた比較です。
RDL が安くなるほど、再構成の理由は減ります。パネルレベルで PCB 工程を使えるなら、計算をやり直す価値があります。
打ち切りデータから形状パラメータを主張するときは、区間で持ってください。15 故障で = 5.53 は、90% 区間で 3.93 〜 7.13 です。
幅とは別に、偏りを疑ってください。15 故障から出る 90% 区間の目安は 3.97〜7.70 で、報告値とほぼ重なります。幅は妥当。残るのは、打ち切りのある小標本で傾きが系統的に上振れするほうです。
シミュレーションの検証は、寿命の数字より破壊位置と破壊モードで取ってください。2 つの構造で場所とモードが両方当たっていれば、モデルは信用に足ります。
前半で方式の選び方を、後半でその方式が本当に強かったのかを追ってきました。保留にしたのは、 = 5.53 という点推定をどこまで信じるかでした。ここで分けて持っておきたいのは、 が上振れしていても、破壊の起点がチップ側から基板側へ移ったという事実は別枠で生きているという点です。数字の不確かさと機構の確かさは、別の棚へ分けてください。