封止材の反り、Tg以下のCTEが最大要因Tgを動かしても1.2%以内(国立中山大学)
台湾の国立中山大学が2023年に発表した解析研究では1、12インチ・ダイファーストのファンアウト(FOWLP)で180 °Cから25 °Cへ冷やすキャリア剥離時の反りに、封止材(EMC)のガラス転移温度(Tg)より下の熱膨張係数(α1)が最も効き、Tg以下の弾性率(EL)が次に効いた。1つの基準のEMCから物性を1つずつ動かすと、α1を8から7 ppm/°Cへ下げたときに反りが約12%減り、ELを10%下げたときに約7%減った。一方でTgを120〜187 °Cの範囲で動かしても、反りの変化は1.2%以内だった。この解析の条件に近いファンアウトで封止材のグレードを選ぶなら、高Tgかどうかより先に、α1と室温付近の弾性率を比べることになる。
半導体封止材とは、ダイ、ワイヤ、バンプ、基板のまわりを埋めて、外力・湿気・汚染から回路を守る熱硬化性の複合材料を指す。固形のEMCはエポキシ樹脂にシリカフィラーを詰めたもので、シリコン(約3 ppm/°C)より大きく縮む。ただし反りの効き方は構造で変わる。薄いパッケージでは反りの向きが逆になり、多ダイのファンアウトでは封止厚とキャリアも効き、硬化の速さや時間を追った緩和も反りを変える。
封止材は、エポキシにシリカを詰めてダイのまわりを固める複合材料
Section titled “封止材は、エポキシにシリカを詰めてダイのまわりを固める複合材料”EMCは、エポキシ樹脂、硬化剤、シリカフィラーを中心に、硬化促進剤、カップリング剤、離型剤、着色剤を組み合わせる。フィラーを増やすとCTEは下がるが、粘度が大きく上がる2。住友ベークライトのSUMIKON EMEは3、素子の保護、防湿、絶縁、放熱を担う封止材で、トランスファー成形とコンプレッション成形の両方に対応する。
同じエポキシ系でも、パッケージのどこに入るかで材料の名前が変わる。
| 材料 | 入る位置 | 主な工程 |
|---|---|---|
| 固形EMC | ダイ・ワイヤ・リードフレームの周囲、パッケージ外周 | トランスファー成形、コンプレッション成形 |
| 液状封止材 | ウェーハ・パネル上のダイの間と上 | 液状コンプレッション成形 |
| モールドアンダーフィル(MUF) | バンプの隙間とダイ周辺を同時に | 金型内で隙間と外周を一度に充填 |
| キャピラリーアンダーフィル(CUF) | 組立後のダイと基板の隙間 | 毛細管力で流し込み、硬化 |
| NCP/NCF | 接合前のバンプ周辺 | 塗布またはラミネート、接合 |
| 仮接着材 | デバイスウェーハとキャリアの間 | 貼り合わせ、薄化、剥離 |
NAMICSのフリップチップ用アンダーフィルは4、バンプと基板の隙間へ毛細管力で流し込むCUFだ。これに対してNAMICSの液状コンプレッションモールドアンダーフィル(LCMUF)は5、インターポーザとチップの隙間とチップの周辺を、コンプレッション成形装置で一工程で封止する。UTACの解析で、MUFのボイドがダイの上と下の流れの合流点に残ったことはMUFのボイドの記事で扱う。アンダーフィル単体の材料はアンダーフィル材料で比べている。
反りは、冷えるときの縮み方の差から生じる
Section titled “反りは、冷えるときの縮み方の差から生じる”封止材とシリコンでは、温度が下がったときの縮み方が違う。解析研究のEMCは、Tg以下のCTEが8 ppm/°C、Tg以上が25 ppm/°Cで、ダイのシリコンは2.8 ppm/°Cだ。封止材が多く縮む側へ、ウェーハ全体が曲がる。
ファンアウトでは、キャリアの上にダイを並べ直して封止し、キャリアを剥がしてから再配線層を作る。この研究によれば、量産ラインの経験上、反りが最も大きくなるのは、キャリアを剥がして180 °Cから25 °Cへ冷やす工程だ。ASEの協力で測った実際の反りは7.329 mmで、解析は7.34 mm(X方向)と0.15%の誤差で一致した。解析の条件は、直径300 mmのウェーハ、封止厚625 µm、ダイ厚500 µm、ダイ5.25×4.28 mmである。
解析では、α1を8から7 ppm/°Cへ下げると反りは約12%減った
Section titled “解析では、α1を8から7 ppm/°Cへ下げると反りは約12%減った”研究は、EMCの物性を1つずつ動かして、剥離時の最大反りを計算した。動かしたのは、Tg以下(25〜35 °C)の弾性率EL、Tg以上(235〜260 °C)の弾性率EH、Tg以下と以上のCTE(α1、α2)、Tg、ELからEHへ移る温度幅ΔTだ。
| 動かした物性 | 動かした量 | 最大反りの変化(X方向) |
|---|---|---|
| α1 | 8→7 ppm/°C(−12.5%。論文の表は「−10%」と表記) | 7.34→6.431 mm(−12.4%) |
| EL | 22.75→20.45 GPa(−10%) | 7.34→6.81 mm(−7.2%) |
| EL | 22.75→17.00 GPa(解析範囲の下限) | 7.34→6.038 mm(−17.7%) |
| EH | 0.45〜3.4 GPa | 変化なし |
| α2 | 22〜55 ppm/°C | ±1%以内 |
| Tg | 120〜187 °C | 1.2%以内 |
| ΔT | 50〜200 °C | 1%以内 |
α1を8から7 ppm/°Cへ、ELを10%下げると、反りは約17.6%減った。研究は、ELとα1を反りの主な要因に挙げ、α1の効きがELより大きいことから、EMCを選ぶときはα1の改善を優先すべきだと結論している。α1を解析で仮定した下限の0.5 ppm/°C(実在の材料の値として示されたものではない)まで下げると、反りは7.34 mmから0.64 mmへほぼ消えた。
論文の値から計算すると、この解析のEMCのTg以上の弾性率(1.99 GPa)は、Tg以下(22.75 GPa)の約11分の1だ。Tgを動かして、冷やす区間のうちTg以上になる幅を変えても、反りはほとんど動かなかった。この2つの値を並べると、Tg以上の柔らかい状態の物性が反りに効きにくいという読み方ができる。これは論文の数値からの筆者の読みで、論文が示した因果ではない。
構造や封止厚が変われば、効く物性も変わる
Section titled “構造や封止厚が変われば、効く物性も変わる”中国科学院微電子研究所の多ダイのファンアウトの研究6(2022年)は、再配線層を先に作る12インチの構造で反りを比べた。弾性率が同じでCTEだけ違うEMCを比べると、Tg以下/以上のCTEが8/30 ppm/°Cの材料で1.679 mm、10/40 ppm/°Cの材料で2.359 mmだった。この比較ではα1とα2が同時に変わっている。2つの値から計算すると、CTEの大きい材料の反りは4割大きい。同じ研究は、EMCを薄くする、2枚目のキャリアを厚くする、EMCとキャリアのCTEを合わせる、の3つを反りを減らす方向に挙げている。実測の反り0.887 mmに対し、EMCを弾性体として扱った計算は2.247 mm、粘弾性体として扱った計算は1.473 mmで、粘弾性の計算のほうが近かったが、それでも実測の約1.7倍だった。
封止厚が薄いと、反りの向きそのものが逆になる。パナソニック電工の技術者による封止材料の総説7(2011年)によると、PoPの下側パッケージのように封止厚が0.3 mm程度の場合は、厚いパッケージと反りの向きが逆になり、反りを抑えるには成形収縮率の高い材料が要る。同じ総説は、ウェーハの片面だけを封止するウェーハレベルパッケージでは、低CTEと高Tgに加えて低弾性率が要る場合が多いとしている。
硬化の速さも反りを変える。Henkelが2024年に発表した液状MUFの開発報告では2、12インチウェーハに400 µmの液状MUFを成形した5つの配合のうち、硬化の速い樹脂を使った配合で硬化収縮とCTEが大きく、後硬化1時間後の反りは4.64 mmだった。弾性率の高い配合は24時間後の反りの変化が3%にとどまり、CTEと弾性率の釣り合った配合は24時間で反りが79%減った。Henkelは、低CTEと低弾性率の両方が、初期の反りと時間を追った緩和に効くとまとめている。
物性値は、硬化の状態と測り方をそろえて比べる
Section titled “物性値は、硬化の状態と測り方をそろえて比べる”データシートのTg、CTE、弾性率は、決まった硬化条件と測定法で測った値だ。NISTの液状封止材の研究は8、DSC、FTIR、レオメータとラマン分光の同時測定で反応を追い、指定の硬化スケジュールを終えた後も反応が残っていたサンプルを報告している。NISTの硬化・応力・反りの計測プロジェクトも9、硬化の時間、温度、圧力に依存する物性からパッケージの反りを予測することを課題にしている。国立中山大学の解析も、EMCの弾性率の温度曲線をDMAで測って計算に入れた。
成形条件の代表値は、住友ベークライトのEMCに関するFAQによれば10、トランスファー成形で約175 °C・約60秒の硬化と約10 MPaの圧力だ。Resonacの顆粒状封止材の報告は11、コンプレッション成形では材料を金型へ直接供給するため、供給重量のばらつきが樹脂厚の変動に直結すると述べ、顆粒の粒度を0.4〜1.2 mmにそろえる製法を紹介している。多ダイのファンアウトの研究6の計算では、EMCが厚いほど反りが大きくなった。
反り以外の不良は、工程をさかのぼって切り分ける
Section titled “反り以外の不良は、工程をさかのぼって切り分ける”ボイドは充填されなかった領域、剥離は2つの材料の界面がはがれた状態、クラックは材料の内部や界面の端から進む亀裂だ。超音波顕微鏡(C-SAM)、X線、断面観察、電気測定を同じサンプルにそろえて名前を決める。
| 観察結果 | 起点の候補 | さかのぼって見る記録 |
|---|---|---|
| 充填末端のボイド | ゲル化の先行、空気の逃げ不足、粘度、投入量 | 流動先端、減圧、塗布点・ゲート、材料の経時 |
| ダイ端の剥離 | 表面の汚染、密着不足、CTE差による応力 | 洗浄・プラズマ処理後の待ち時間、硬化 |
| パッケージクラック | 硬化応力、リフロー時の蒸気圧、切り欠き | 吸湿量、Tg、弾性率、個片化の損傷 |
| バンプ・再配線の断線 | 局所応力、ボイド、反り | バンプ隙間の充填、キャリア剥離後の形状 |
界面の密着は、封止材の外側から補うこともある。ResonacのHIMALは12、チップやリードフレームとEMCの密着を高めるコーティング材で、高Tg EMCや焼結金属を使うSiCパワーデバイスで剥離を抑えるとしている。ワイヤの材質を変えたときも材料側を見直す。封止材料の総説によると7、Cuワイヤのパッケージに従来の封止材を使うと高温高湿試験で接合部の抵抗が上がることがあり、著者らの検討では抽出水中のCl⁻濃度より抽出水のpHが効いていた。
吸湿は、リフロー時の蒸気圧と界面の密着低下を通じてクラックと剥離を増やす。表面実装デバイスの吸湿・リフロー感度の分類はIPC/JEDEC J-STD-020Fが13、分類したデバイスの保管・梱包・実装の管理はIPC/JEDEC J-STD-033D14が定める。ロット、ウェーハ上の座標、硬化の履歴を同じIDで追う方法は歩留まりと欠陥管理にまとめている。
封止材メーカーは、材料の形態と用途ごとに製品を分けている
Section titled “封止材メーカーは、材料の形態と用途ごとに製品を分けている”| 企業 | 掲載している封止まわりの材料 |
|---|---|
| 住友ベークライト | 固形EMC、パワーモジュール向け高Tg EMC、液状封止材 |
| Resonac | 有機基板用とリードフレーム用のEMC、フリップチップ用の液状封止材、離型フィルム、界面コーティング |
| NAMICS | CUF、ダム&フィル用封止材、LCMUF |
| Henkel | CUF、NCP/NCF、液状コンプレッション成形用の封止材 |
| 味の素ファインテクノ | 液状、フィルム、顆粒の3形態の封止材 |
Resonacの後工程材料の一覧は15、EMC、アンダーフィル、離型フィルム、ダイボンディングフィルムを別の製品として載せる。味の素ファインテクノの半導体封止材は16、液状品をMUFに使えると記載している。住友ベークライトの液状封止材EME-Lは17、2.xD・3D構造やチップレットで大型化するパッケージ向けで、2026年4月に試作品の出荷を始めた。同社はSiCパワーモジュール向けにTg 230 °Cの固形EMC18の量産も始めている。住友ベークライト、NAMICS、Henkelの2024〜2026年の発表を、液状封止材とSiC向け高Tg EMCに分けて比べた結果は封止材メーカーの記事にある。
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- 1National Sun Yat-sen University(Materials):EMCの物性とファンアウトのキャリア剥離時の反り(2023年4月)pmc.ncbi.nlm.nih.gov ↩
- 2Henkel(IMAPS 2024):低反りの液状コンプレッションモールドアンダーフィル(2024年10月)imapsource.org ab
- 3住友ベークライト:SUMIKON EMEの製品情報sumibe.co.jp ↩
- 4NAMICS:フリップチップ用アンダーフィルnamics.co.jp ↩
- 5NAMICS:LCMUFの実用化でJIEP技術賞(2024年6月)namics.co.jp ↩
- 6中国科学院微電子研究所(Materials):多ダイのファンアウトの反り、EMCとキャリアの影響(2022年2月)pmc.ncbi.nlm.nih.gov ab
- 7日本接着学会誌:先端半導体用封止材料の最近の動向、パナソニック電工(2011年)jstage.jst.go.jp ab
- 8NIST:液状封止材の硬化反応の計測nist.gov ↩
- 9NIST:硬化・応力・反りの計測プロジェクトnist.gov ↩
- 10住友ベークライト:EMCに関するFAQ、成形条件の代表値sumibe.co.jp ↩
- 11
- 12Resonac:高耐熱コーティング材HIMALeu.resonac.com ↩
- 13IPC/JEDEC:J-STD-020F、非気密SMDの吸湿・リフロー感度の分類electronics.org ↩
- 14IPC/JEDEC:J-STD-033D、吸湿・リフローに敏感なデバイスの取り扱い(2018年4月)electronics.org ↩
- 15Resonac:後工程材料の製品一覧eu.resonac.com ↩
- 16味の素ファインテクノ:半導体封止材aft-website.com ↩
- 17住友ベークライト:液状封止材EME-Lの試作品出荷(2026年5月)sumibe.co.jp ↩
- 18住友ベークライト:SiCパワーモジュール向けTg 230 °CのEME-G785(2026年6月)sumibe.co.jp ↩