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ナノインプリントの標的は液浸多重露光|ASMLから削れる売上は約3%、本記事試算

Canonのナノインプリントリソグラフィ(NIL)がASMLから削れる売上は、強気に見積もっても2030年に3%ほどだ。しかもNILが置き換えるのは、ASMLの稼ぎ頭であるEUVではない。最初の標的は、メモリー工場で液浸露光(ArFi)の後に膜付けと削りを繰り返して作っている層だ。この規模はASMLにとって小さくても、Canonにとっては基本シナリオでも露光装置事業を3割近く伸ばす。

Canon自身もEUVを倒す気はない。御手洗冨士夫CEOは2023年、ナノインプリントがEUVを追い越すとは思わないと述べ1、新しい需要を作ると語った。その新しい需要は、メモリーの多重露光にある。

強みは、多重露光の工程を1回にまとめられること

Section titled “強みは、多重露光の工程を1回にまとめられること”

NILは光で像を結ばない。回路を刻んだ型を、ウェーハ上に置いた液状のレジストへ押し当て、紫外線で固めてから離す。Canonの技術者は2、光露光が「光で影を写す」のに対し、NILは「スタンプを押す」と表現する。

上段はEUVで光源、反射マスク、投影光学系を通じてレジストへ回路像を結ぶ流れ。下段はNILで液状レジストへ型を押し、充填・UV硬化・離型後にエッチングで転写する流れ。
EUVは光学系で像を縮めて写し、NILは型を押し当てて形を写す。NILは大きな光源と投影光学系を持たない。

この方式から、3つの強みが出てくる。

1つ目は、細かい形を1回で作れることだ。Kioxiaは、線と隙間の幅がそれぞれ14 nm(ハーフピッチ14 nm)の線をNILの1回のパターニングで形成した3と報告している。液浸露光が1回で解像できる限界は、ASMLの最新機NXT:2100iでも38 nmだ4。液浸露光でそれより細かい線を作るには、露光の後にスペーサーと呼ぶ膜を付けて削る工程を繰り返す多重パターニングを使う。EUVなら1回で済むが、装置は1台2億ユーロを超える。NILは、露光1回だけでなく、この一連の工程をまとめて置き換える。

2つ目は電力と装置価格だ。Canonは15 nmのパターンを作る場合、EUVに比べて消費電力が87%少なく、ウェーハ1枚あたりのコストは23%低い5と試算している。価格について御手洗氏は、EUVより1桁安くなる1と述べた。ASMLのEUVは2025年、High-NAを含む48台で116億ユーロ6を売り上げ、1台平均は2億4,000万ユーロになる。この発言と報道の試算である約1,500万ドルから、NILは4ステーション構成の1セットで1,500万〜2,000万ユーロ前後と見積もる。

3つ目は、穴や切れ目のような形をまとめて写せることだ。Canonは用途としてNANDの穴と配線溝5、DRAMのコンタクトホールとカット工程7を挙げ、その試作写真はKioxiaとMicronの提供だ。DRAMについてCanonは、複雑な形を1工程で作ることでコストと工期を下げられると説明する。

弱みは、型がウェーハに触れること

Section titled “弱みは、型がウェーハに触れること”

型が触れることは、そのままNILの弱点になる。型とウェーハの間に微粒子が1つ挟まると、その場所が不良になるだけでなく、型そのものが傷む。Canonの技術者は2026年6月のインタビューで、次の節目を量産工程での実力の底上げとし、マスク寿命の向上とコストダウンを挙げた2。量産工程での実力向上は、なお挑戦の途上にあるという。

欠陥の多さは、長くNILの急所だった。2016年にCanonが示した欠陥密度は1 cm²あたり約5個で、量産の目標は0.1個だった8。Canonは2023年に新しい環境制御技術で異物の問題を解決した9と説明した。量産ラインで0.1個に届いたと示すことが、量産採用の条件になる。

処理能力も見劣りする。2018年に公表された値は、4ステーションを束ねた構成で毎時90枚だ10。ASMLの液浸露光機は毎時295枚4、EUVのNXE:3800Eは毎時220枚以上11を処理する。液浸露光機1台分の処理量を得るには、NILを3セット余り並べる必要がある。装置が安くても、床面積と台数で差の一部は消える。

型の供給もこれからだ。大日本印刷(DNP)は2025年12月に線幅10 nmの型を開発し、NIL用の型の量産を2027年に始める12計画だ。光露光には、マスクを作る会社、検査する会社、修理する会社が何十年も前からそろっている。NILでは、型の作り方、洗い方、寿命の管理を量産に合わせて固める段階が残っている。

主戦場は、EUVではなく液浸の多重露光

Section titled “主戦場は、EUVではなく液浸の多重露光”

NILが何と競うかは、ASMLの売上の中身を見ると分かる。2025年のASMLの装置売上245億ユーロのうち、EUVが48%、液浸露光が42%13を占めた。液浸露光は131台で約103億ユーロになる。用途別では、ロジック向けが161億ユーロ、メモリー向けが84億ユーロだった14。

ASMLの2025年装置売上245億ユーロを横棒で分けた図。EUVが48%、液浸露光が42%、その他が10%。液浸露光のうちNANDとDRAMの多重露光の層にNILの最初の標的、EUVのうちDRAMの層に将来の標的、ロジックの先端層には届かない、と印を付けている。
NILが最初に届くのは液浸露光の一部で、EUVの大部分には届かない。

最初の標的は3D NANDだ。3D NANDは2013年以降、微細化ではなく層を積み上げて容量を増やしてきたので15、量産でEUVを使っていない。細かい層は液浸露光と多重パターニングで作る。東芝メモリ(現Kioxia)は2018年の時点で、コンタクト層を多重パターニングなしのNIL1回に置き換え、工程コストを下げる10計画を示していた。ここでNILが置き換えるのは、液浸露光1回とスペーサーの膜付け・削りの繰り返しだ。NILが量産に入れば、ASMLだけでなく成膜装置やエッチング装置の需要も一部減る。

DRAMでは、NILはEUVと時間を争う。韓国紙の報道によれば、SamsungとSK hynixは1c世代(10 nm級DRAMの第6世代)で、それぞれ5層を超えるEUV露光を計画している16。ASMLも、DRAMメーカーが液浸の多重パターニングをEUVの1回露光へ移している14と説明する。一方でMicronは、同じ記事によれば1γ世代でEUVを1層にとどめ、残りを液浸の多重パターニングで作っている。NILが狙えるDRAMの層は、EUVへ移るのが遅いメーカーに残る。

ロジックの先端層には、2030年までNILは使われないだろう。Intelは2026年7月、Intel 18AのCore Ultra Series 3の一部をHigh-NA EUV(開口数を0.55に上げた次世代EUV)で生産している17と発表した。Canonも2 nm級ロジックを開発対象に挙げ、DNPはEUVを持たない工場に型を売り込んでいる。ただ、ロジックは層ごとに形が不規則で、層どうしの位置合わせの許容幅も狭い。FPA-1200NZ2Cの重ね合わせ精度は4 nm以下で18、重ね合わせの要求が厳しい先端ロジックの層を任せる水準には届いていない。

NILの価格を1セット1,500万〜2,000万ユーロ、ASMLの2030年の売上を、同社が示す440億〜600億ユーロ14の中ほどの500億ユーロと仮定する。ASMLは2026年だけで430億〜450億ユーロを見込み19、2030年の幅の下限にもう届いている。500億ユーロという仮定は控えめで、表の比率は上限に近い。

シナリオ何が起きるか2030年の年間販売NILの売上ASMLが失う売上
弱気量産採用が1社の数層にとどまり、試作と研究用の販売が中心5セット約0.9億ユーロ約1.2億ユーロ(0.2%)
基本2027〜2028年にNANDかDRAMの1〜2社が量産に採用し、層を少しずつ増やす25セット約4.4億ユーロ約6億ユーロ(1.2%)
強気メモリー大手2〜3社が複数の層で採用し、EUVを持たない工場のロジックにも広がる60セット約10.5億ユーロ約14億ユーロ(2.9%)
2030年のNIL売上を3本の横棒で示した図。弱気は約0.9億ユーロ、基本は約4.4億ユーロ、強気は約10.5億ユーロ。比較として、ASMLの2025年の液浸露光売上約103億ユーロを同じ目盛りの長い棒で示している。
強気シナリオでも、NILの売上は2025年の液浸露光売上の1割前後にとどまる。

NILが1セット売れるたびに、ASMLの液浸露光の売上は約2,400万ユーロ減る。NIL1セットの処理量は液浸露光機の約3分の1で、液浸露光機は1台平均約7,900万ユーロだからだ。NILの売上より、ASMLの減収のほうが大きい。基本シナリオの25セットは、液浸露光機に直すと約8台分で、ASMLが2026年に出荷する約130台17の6%ほどだ。

強気シナリオに進むには、欠陥と型寿命の数字が量産の水準に届き、2社目、3社目の採用が続く必要がある。逆に、DRAMのEUV化が速く進めば、NILが狙える層は年ごとに減る。どのシナリオになるかは、NILの性能だけでなく、DRAMメーカーがEUVへ移る速さで決まる。

Canonにとっては大きく、ASMLにとっては小さい

Section titled “Canonにとっては大きく、ASMLにとっては小さい”

Canonの2025年の露光装置売上は、FPD用を含めて2,564億円だった20。基本シナリオの4.4億ユーロは、1ユーロ164円で約720億円になり、その3割近くに当たる。Canonが2025年に売った半導体露光装置234台は、すべてKrFとi線だった。液浸露光とEUVを持たないCanonにとって、NILは先端の工程向けに売れる唯一の露光装置だ。

Canonは2026年の計画にNILの売上を織り込まず、本格的な貢献を2027年以降とした21。2026年6月には評価中の顧客へ追加の装置を出荷し22、顧客のウェーハで量産を模した検証に入っている。どのシナリオに進むかは、2027年以降の販売台数で判断できる。年間の販売が2028年に10セットを超えれば基本シナリオ、量産顧客が3社に増えれば強気シナリオに近づく。

ASMLの株主にとって、NILは小さな脅威にとどまる。半導体装置の動向を追う人が見るべきなのは、DRAMの多重露光がEUVとNILのどちらに移るか、そして3D NANDの多重露光をNILがどこまで置き換えるかだ。露光方式の全体像はリソグラフィの解説、両社の事業はCanonとASMLの企業研究にまとめている。

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