プラズマ条件を選ぶなら、接合直後の面積がいちばん大きい条件を選べばよさそうに思えます。ところがアニールを通すと、接合面積が減る条件があります。しかも減るガスと増えるガスが、加圧をかけただけで入れ替わる。くっついたはずの面が、なぜ加熱で剥がれるのか。その違いは、どの指標なら浮かぶのか。
ハイブリッドボンディングの品質を上げる前処理と接合条件の役割を調べた 2025 年の報告1が、SiO₂ の室温接合を O₂・N₂・フォーミングガス(95% Ar + 5% H₂)のプラズマで前処理し、加圧の有無で比べています。超音波探傷(SAT)で接合面積を見ています。
| 条件 | 接合直後 | アニール後 |
|---|---|---|
| 加圧なし | O₂ が最大、H₂ が最小 | O₂ は増加、N₂ と H₂ は減少 |
| 4 MPa | 全条件で増加 | O₂ と H₂ が減少、N₂ が増加 |
アニールで増える条件と減る条件があります。しかも加圧の有無で、どのガスが増えるかが入れ替わります。
- 加圧なしで増えるのは O₂ だけ
- 4 MPa で増えるのは N₂ だけ
同じガスが、加圧の有無で逆の挙動をします。
アニールで接合面積が減るとはどういうことか
室温接合は、水素結合で「くっついているだけ」です。アニールで脱水縮合が起きて共有結合になります。
右辺に水が出ます。
この水が界面から抜けられなければ、圧力を持って局所的に界面を押し開ける。室温で接触していた領域が、アニール中に剥がれる。これが「アニール後に接合面積が減る」の中身です。
だから 2 つの条件が競合します。
- OH が多いほど縮合が進む(接合が強くなる)
- OH が多いほど水が出る(界面が開く)
最適点があります。水の逃げ道は膜の透過性と加圧で動くので、ガス種 × 加圧の組み合わせで最適点が動く。上の表が反転しているのは、この 2 つの効果の大小が入れ替わっているからだと読めます。
実務的な帰結。「良いプラズマ条件」を接合直後の面積で選ぶと外します。アニール後の面積で見てください。加圧条件を変えたら、プラズマ条件も選び直すことになります。
表面自由エネルギーには、プラズマの違いが表れない
微細ピッチのハイブリッドボンディング向けに SiCN のボンドウェーブを解析した 2025 年の報告2が、SiCN 膜について N₂ と O₂ のプラズマを 100 W と 400 W で振り、水接触角(WCA)と表面自由エネルギーを測っています。分散力 、配向力 、水素結合力 に分けて出しています。
前処理と照射の条件が接合へどう乗るかは古くから調べられていて、ウェーハの前洗浄とプラズマ照射がプラズマ支援の表面活性化接合へどう乗るかを調べた 2010 年の論文3が、その系譜にあります。
- N₂ でも O₂ でも、100 W でも 400 W でも、総表面自由エネルギー は CMP 後の SiCN より大きい
- N₂ 100 W・N₂ 400 W・O₂ 100 W・O₂ 400 W の総表面自由エネルギーは、ほぼ同じ
「活性化した」ことは分かりますが、「どう活性化したか」は、この指標では分かりません。
ところが接合強度の側では、N₂ と O₂ で値が割れます。違いは確かにあるのに、表面自由エネルギーは同じ値を返します。
VSFG が、何が起きているかを直接示す
そこで使われているのが VSFG(振動和周波発生)分光です。2次の非線形感受率の絶対値の 2 乗 のスペクトルを追います。埋もれた界面をこの分光で特性づける手法そのものは、埋もれた高分子界面の特性づけに和周波発生振動分光を当てた総説4がまとめています。界面が 2 枚の固体に挟まれていても、その界面だけを選んで見られるのがこの手法の性質です。
分かったことが 4 つ。
- SiCN の表面にはアミン基がある。
SiO₂ と比べて、SiCN は 3400 cm⁻¹ 付近に顕著なピークを持つ。これは NH 伸縮振動で、SiCN 表面にアミン(–NH)基が存在することを示しています。
SiCN の接合は、OH の話の先まで続きます。
- プラズマ活性化で、ピークの低波数側の強度が増える。
- 3750 cm⁻¹ 付近のピークは、自由な(水素結合の相手が無い孤立した)OH 基。
- 3700 cm⁻¹ 付近へのシフトは、水素結合した OH のネットワークが形成されたことを示す。さらに低波数へシフトすると、より強く結合した状態を示す。
波数のシフトが、結合の強さそのものを表す
O-H 伸縮振動の波数は、その O-H 結合のばね定数で決まります。
がばね定数、 が換算質量。
水素結合ができると、O-H の H が相手の酸素に引かれ、O-H 結合そのものが弱くなります。 が下がり、波数が下がる。
- 3750 cm⁻¹:孤立 OH。相手が無いので O-H は強い
- 3700 cm⁻¹:水素結合ネットワーク。少し弱まった
- それ以下:さらに強い水素結合
つまり波数を測ることは、接合の前段階である水素結合が、どれだけできているかを直接測ることです。
表面自由エネルギーは「表面が濡れやすいか」という間接量ですが、VSFG は接合に使われる化学種そのものを見ています。だから同じ表面自由エネルギーでも区別できる。
指標を選ぶときは、それが機構のどこを見ているかを確かめてください。濡れ性は結果の側で、原因の側とは別です。
50 cm⁻¹ の下降は、どれくらいの弱まりなのか
「低波数へシフトした」という言い方のままだと、大きさが宙に浮きます。上の式を について解いて、数字を入れます。
O-H の換算質量は amu、つまり kg。光速は cm/s。孤立 OH の 3750 cm⁻¹ を入れます(波数は測定値、以下の計算はこの記事のもの)。
は波数の 2 乗に比例するので、水素結合ネットワークの 3700 cm⁻¹ では N/m。
50 cm⁻¹ の下降は、O-H のばね定数が 780 から 759 N/m へ、2.7% 弱まったことに相当します。数字としては小さい。それでもこれは、O-H が相手を見つけた証拠です。弱まったぶんは消えたより、水素結合の側へ移っています。VSFG が返しているのは「表面がどれだけ濡れやすいか」より、接合の前段階がどこまで進んだかです。
もう1つ、ボンドウェーブの速度が指標として使われています。接合前の絶縁膜表面の状態と、ボンドウェーブ速度の関係。
波の速さが、表面の化学的な状態の関数になっている。SiCN のプラズマ活性化直接接合について、表面の化学がボンドウェーブの動きと、ひずみ由来のスケーリング誤差へどう乗るかを追った 2026 年の論文5は、題名でその連鎖を 1 本に並べています。表面の化学 → ボンドウェーブ → 重ね合わせ誤差。化学の条件が、最後は寸法精度の話になって出てきます。
D2W の不利は、高温アニールで消える
D2W ハイブリッドボンディングの待ち時間(Q タイム)を接合強度の精密測定で追った 2025 年の報告6が、この待ち時間を主題にしています。
D2W の Q タイムは W2W より長くなります。活性化・DI 水リンス・接合の各工程を、チップ 1 個ずつ通すからです。
DCB 試験の結果。
- アニールなし、または 150 °C アニールでは、W2W と D2W の接合エネルギーに顕著な差がある
- より高いアニール温度では、両者はほぼ同じ接合エネルギーになる
D2W のハンデは、温度で買い戻せます。アニール温度と接合強度の関係そのものは、プラズマ活性化した直接ウェーハ接合の接合強度がアニールでどう育つかを調べた 2013 年の報告7が相手にしています。ただし工程の側に温度上限があれば、そのハンデは残ったままです。
Q タイムそのものの効果も、ナノインデンテーションで測られています。
Q タイムが長くなるほど、接合エネルギーは低下する。基準は Q タイム 1 時間未満の試料で、そこを W2W の値としています。
「1 時間未満なら W2W と同等」が、事実上の管理値になっています。
原因の追跡にはゼータ電位が使われています。プラズマ活性化と DI 水リンスの後、OH 基による表面のゼータ電位が Q タイムとともに変化する。
表面の電荷状態が時間とともに戻っていく。活性化は減衰します。
界面の水には、最適量がある
もう1つ、図で示されている概念があります。界面の水分量が「乏しい/中くらい/多い」の 3 段階。アニールとともに接合強度が育つ過程を追った2013 年の報告7が相手にしているのも、この水が抜けながら結合が進む区間です。
図の語が 「Little water」「Enough water」「water」。
乏しすぎても多すぎても外します。
- 乏しい:水素結合を作る相手が足りず、室温で接触しきれない
- ちょうどよい:全面が水素結合でつながる
- 多い:アニール時に抜けきらず、ボイドになる
Q タイムが長くなると、この水分量が動きます。大気中へ出せば吸着も脱離も起きる。Q タイム管理は、実質的に界面の水分量の管理です。
CMP の防食剤は、洗っても残る
最後に、Cu 側の話です。微細ピッチのハイブリッドボンディング向けに Cu の湿式洗浄を調べた 2025 年の報告8が、CMP 後の洗浄工程で機能水と調合された化学洗浄液を比較しています。
EQCM(電気化学水晶振動子マイクロバランス)による質量損失と、開回路電位(OCP)の測定結果。
| 洗浄液 | Cu の質量損失 |
|---|---|
| 酸性洗浄液 | 10 分間、単調に減少 |
| アルカリ性洗浄液 | 最初の 100 秒で急激に減少(OCP も同時に低下) |
| DI 水 | — |
| 機能水 | 他の 3 つより桁で小さい |
機能水が、Cu をいちばん温存します。
ところが XPS の結果が問題を出します。
N 1s スペクトルで、洗浄前(CMP 後)に 399.7 eV の強いピーク。これは Cu-BTA(ベンゾトリアゾール)です。
Cu-BTA のピークは、酸性洗浄液でも機能水でも、洗浄後に残る。
BTA は CMP スラリーの防食剤です。Cu 表面に強固なキレート膜を作って酸化を防ぐ。その膜が、Cu-Cu 拡散接合を邪魔します。
Cu 2p スペクトルのほうも、洗浄前(CMP 後)に Cu と Cu₂O のピークが検出され、酸性・アルカリ性・機能水のいずれで洗浄しても、Cu と Cu₂O のピークは依然として検出される。
酸化物のほうも残ります。
XPS は「落ちなかった」と「また生えた」を同じ形で返す
ここで一度、道具そのものを確かめておきます。計測の側から追うと、この 2 つの XPS 結果には別の重みが要ると分かります。
清浄な金属面は、空気へ触れた瞬間から酸化が始まります。XPS の初期酸化の研究が秒から分の刻みで曝露条件を切るのは、そこに変化が乗るからです。つまり XPS のスペクトルが返すのは、工程を出たときの状態より、測定チャンバへ入るまでの履歴も込みの状態です。
この目で Cu 2p の結果を読み直します。洗浄後に Cu と Cu₂O が検出された。これは 2 通りに読めます。
- 洗浄で落ちなかった
- 落ちたが、測定までのあいだに空気中で戻った
XPS の結果から、この 2 つを分ける手は封じられます。戻る側の時定数が短ければ、どんな洗浄をしても Cu₂O は検出されます。
帰結は、2 つの結果の使い分けです。
- N 1s の Cu-BTA:BTA は空気中で自然に生えぬ種類のものです。CMP スラリーから来ています。検出されたら、それは洗浄工程の情報です
- Cu 2p の Cu₂O:洗浄の情報とは限らない。搬送とキュー時間の情報かもしれない
接合の Q タイムを 1 時間未満で管理しろ、という同じ規律が、計測の側にも要ります。洗浄から XPS チャンバまでの時間を揃えて初めて、洗浄液の比較が成り立ちます。測っている量が、測るまでの待ち時間の関数になっている。読み出した数字のうちどこまでが対象の性質で、どこからが手続きの性質なのかを分ける、という同じ形の交絡です。
XPS で見えるものと、見えないもの
浮かぶ深さは、表面から 0.5〜5 nm。それより深いところで叩き出された電子は、表面まで出てこられない。
この窓が、たまたま知りたい層と一致しています。SiCN どうしを接合したあとにできる SiOx が 4〜5 nm。Cu-Cu の拡散接合が要求するのは最表面の数原子層。どちらも 0.5〜5 nm の中に入っています。
ところが、その 5 nm の中のどこにあるかは、この窓では分かりません。深さ分解能は約 10 nm で、サンプリング深さより粗いからです。BTA が最表面の膜として乗っているのか、もう少し内側に分散しているのか。前者なら Cu-Cu の接触を物理的に塞ぎますが、後者なら話が動きます。
分ける手はあります。角度分解 XPS です。試料を傾けると、サンプリング深さが になる。 は電子の脱出深さ、 は表面と放出電子の軌道のなす角です。
小さい角度で測ると、届く深さが 4 分の 1 になります。同じピークを 2 つの角度で測り、小さい角度の側で相対的に強く出れば、その化学種は最表面に乗っています。この記事の元になった調査は、この測り分けの手前で止まっています。
いちばん素直に映る手が封じられます。イオンビームでスパッタしながら深さ方向に掘る方法には、「スパッタリングは化合物の酸化状態を変えうる」という釘が刺さっています。Cu なのか Cu₂O なのかを問うている測定で、酸化状態を変える前処理は封じられます。傾ける道だけが残る、という消去法になります。
もう1つ、原理的な限界。XPS が検出できるのは 水素とヘリウム以外のすべての元素です。裏を返せば、水素だけが見えません。
この記事の主題は、OH 基と水素結合でした。XPS ではその水素が、原理の側で見えません。VSFG が要る理由は「そのほうが良いから」より、水素が XPS の物理では見えないからです。
指標を選ぶ話が、ここで好みの問題ではなくなります。見たい原子が見えない装置は、条件をどう振っても黙ったままです。
ここに、はっきりしたトレードオフがあります。
- 機能水:Cu を削らずに済む。BTA が残る
- アルカリ性洗浄液:BTA を落とす方向に働く。Cu を削る(100 秒で急激に)
「Cu を守る」と「表面をきれいにする」が対立しています。リセスを数 nm で管理する工程を考えれば、100 秒で急激に減る質量損失は許容できません。削らずに BTA だけ落とす方法が要る、というのがこの研究の位置づけです。BTA を落とす側の条件も個別に調べられていて、CMP 後の洗浄で溶存酸素がベンゾトリアゾールの除去へどう乗るかを調べた 2021 年の論文9が、洗浄液の酸素量という別のつまみを立てています。
実務での使い方
プラズマ条件を、接合直後の面積で選ぶのは避けてください。アニール後に減る条件があります。
加圧条件を変えたら、プラズマ条件を選び直してください。どのガスが有利かが反転します。
表面自由エネルギーは、活性化の有無どまりです。ガス種や出力の違いを追うには、VSFG のように化学種そのものを追う手段が要ります。
SiCN の表面にはアミン基があります。OH だけを前提にした筋は、SiCN では途中で切れます。
Q タイムは 1 時間未満に収めてください。それを超えると接合エネルギーが落ちます。ゼータ電位が戻っていきます。
D2W のハンデは高温アニールで消えます。温度に上限があるなら、Q タイム管理で取り返すことになります。
CMP 後の Cu 表面には BTA が残っています。洗浄工程を「酸化物を落とす」だけの目で見ていると、これを視野から漏らします。
XPS の Cu₂O は、洗浄の成績表とは限らない。清浄な金属面は空気中で秒のオーダーから酸化します。洗浄液を比べたいなら、洗浄から測定までの時間を条件に含めてください。BTA のほうは自然に生えぬので、こちらは洗浄の情報として読めます。
水素だけが XPS では見えません。OH 基の筋を XPS の側だけで通そうとすると、いちばん見たい原子が最初から抜けています。
この記事が書いたのは、水が抜け残ったときに「接合面積が減る」というところまでです。減った面のところに、実際に何ができているのか。それは断面から追う話で、剥離が接合面そのものより上下の層のあいだまで伸びていることもあります。ここで「界面が開く」と呼んだものの正体は、発生源ごとに分けられます。プラズマ条件を選び直す前に、自分が直そうとしているボイドがどの源のものかを先に確定してください。
選び直すときの順番は、この記事の表がそのまま与えます。加圧を確定し、それからガスを選び、アニール後の面積で合否を切る。前処理と接合条件の役割を調べた 2025 年の報告1が加圧の有無を軸に据えているのは、そこが先だからです。