再配線層は銅と誘電体の交互積層です。面内の寸法を決めているのは、剛性の大きい銅のほうです。
ところが反りを決めているのは、剛性で 60 倍負けている誘電体でした。
面内 CTE は剛性加重平均になる
反りと剥離を有限要素で解く枠組みは公開されています。2026 年の RDL ファーストとモールドファーストにおける反りと剥離挙動の解析1がその 1 つで、以下はそこへ入れる前の手計算にあたります。
貼り合わさった板は、全層が同じひずみ で伸びます。層 に立つ応力は、実際に伸びた量と自由なら伸びたかった量の差で
外力がゼロなので断面の合力もゼロ。 を について解くと
重みが (面内剛性)になるのは、力の釣り合いを書いた帰結です。厚みだけの加重とは別物になります。
銅 GPa・、誘電体 GPa・、厚みが等しいとして
銅の 16.3 にほとんど貼り付きます。誘電体は剛性が 1/60 なので、面内寸法へ届く力が 1/60 まで薄まります。
「誘電体を変えても、板の寸法は同じ」——ここまでは直観どおりです。
反りを作る項は、銅と誘電体で拮抗する
反りは、同じ応力に腕の長さを掛けて足したものです。銅と誘電体の物性は、2 µm 級の RDL を作った報告2が対象にしている積層と同じ系統の値を使います。合力がゼロでも、モーメントは有限の値を取ります。
は中立面からの距離。上の 2 本の差は、同じ へ を掛けるかどうかの 1 点だけです。
各層の を表にします。
| 層 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 銅 | 121 GPa | 16.3 | +0.71 | +86.0 |
| 誘電体 | 2.0 GPa | 60 | −43.0 | −86.0 |
大きさがほぼ同じで、符号が反対です。
剛性で 60 倍負けている誘電体が、CTE 差で 61 倍取り返しています。
だから同じ材料変更が、2 つの式で逆向きに作用します。
| やりたいこと | 動かす相手 |
|---|---|
| 面内の寸法を合わせる | 銅の厚みと配置。誘電体の届く範囲の外 |
| 反りを減らす | 誘電体の CTE。銅は固定値 |
力の項は CTE 差に正比例する
一般形で書き直します。 と書くと
反りを作る項は、 に正比例します。指数は 1 ちょうどで、加速も飽和も入る余地が消えます。
、。
| 力の項 | 60 の場合との比 | ||
|---|---|---|---|
| 60 | 43.7 | 86.0 | 1.000 |
| 50 | 33.7 | 66.3 | 0.771 |
| 40 | 23.7 | 46.6 | 0.542 |
| 30 | 13.7 | 27.0 | 0.313 |
| 20 | 3.7 | 7.3 | 0.085 |
| 16.3 | 0 | 0 | 0 |
で、。一致します。正比例です。
ところが CTE の「値」で測ると、話が変わります。
| 60 に対する値の割合 | 60 に対する差の割合 | |
|---|---|---|
| 50 | 83.3% | 77.1% |
| 40 | 66.7% | 54.2% |
| 30 | 50.0% | 31.4% |
| 20 | 33.3% | 8.5% |
CTE を半分にすると、反りを作る力は 31.4% まで、つまり 69% 落ちます。
基準の位置が 16.3 だからです。差のほうが速く縮む。「CTE を 2 割下げる」の見返りは、値の 2 割より、差の 2 割強のほうになります。
下限は 16.3、銅の CTE です。ゼロまで落ちる余地は無し。
この極限は実験で確かめられています。2009 年の有機溶媒可溶な低 CTE ポリイミドの研究3が、4 種類のモノマーから作ったポリイミドについて、溶液キャストで作った膜の CTE が銅箔に近い値になり、銅箔の上へ直接膜を形成してもポリイミド/銅の積層にカーリングがほとんど見られなかったと報告しています。
「カーリングがほとんど無い」が、上の表の最終行です。
自由な 50 µm の板は、半径 4.5 mm に丸まる
力の項を、実際の曲率へ通します。銅 12 µm と誘電体 38 µm のバイメタルとして、 K で。
| 曲率 | 曲率半径 | |
|---|---|---|
| 60 | 220 /m | 4.5 mm |
| 40 | 119 /m | 8.4 mm |
| 30 | 69.0 /m | 14.5 mm |
| 20 | 18.6 /m | 53.7 mm |
| 16.3 | 0 | ∞ |
85 mm 角の板が半径 4.5 mm へ丸まる、という計算です。板の寸法より曲率半径のほうが 1 桁小さいので、小さいたわみを前提にした「反り量」の式は、この領域では使えません。
達成可能などの誘電体 CTE でも、自由な 50 µm の積層は曲がったままです。CTE を 20 まで下げても半径 54 mm、85 mm の板が大きく曲がる水準。
だからキャリアとアンダーフィルの役どころは、搬送の補助より構造材の側です。
公開されている工程の順序が、そのまま裏付けになっています。アンダーフィルを塗って硬化させてから切断し、ガラスキャリアを剥がすのは最後のほう。切ってから流し込む順序とは逆です。
キャリアの選択そのものが解析の主題です。2026 年の RDL ファーストとモールドファーストにおける反りと剥離挙動の有限要素解析1が、鋼・ガラス・セラミックのキャリアを、600 × 700 mm と 680 × 680 mm の 2 つのパネル寸法で比較しています。機械的収縮と化学的収縮の両方を含み、材料の追加と除去を織り込むために要素の生成消滅の手法を使った、と。
結果の 2 つが要点です。RDL ファーストでは平均参照温度を使うと予測誤差が最も小さい。モールドファーストでは、剥離の段階で反りが大きく増える。
剥離の瞬間に反りが増えるのは、上の計算そのものです。拘束を外した瞬間、積層は自分の曲率へ戻ろうとする。「剥がすまで平らに映っていた」が指すのは、キャリアが持っていたという 1 点だけです。
レチクルという単位が無いので、面積の上限が別の場所から来る
大面積が成り立つ理由は、描画の側にあります。
| 最大露光野 | 面積 | 7,134 mm² との比 | |
|---|---|---|---|
| 0.33 NA(4× 等方) | 26 × 33 mm | 858 mm² | 8.31 倍 |
| 0.55 NA(アナモルフィック) | 26 × 16.5 mm | 429 mm² | 16.63 倍 |
2017 年のアナモルフィック高 NA リソグラフィとマスク作製の課題4が、0.55 NA の投影レンズを備えた高 NA 機が 10 nm を下回る解像度を支えるよう設計されていることと、アナモルフィック光学の採用を述べています。
露光野が半分になると、同じ面積を作るのに要る継ぎ合わせの回数が倍になります。層ごとにマスクと露光が 2 回以上。
レーザ直接描画の側は、レチクルと露光野という単位を使いません。上限はパネルの側だけになります。
この方式は量産の文脈で一覧になっています。2023 年のマスクレスのレーザ直接描画とアダプティブパターニングの研究5が、マスクレス環境での設計から製造までの速さと、フォトマスク費用の消滅を初期の価値として挙げ、ウェーハレベルパッケージで 2011 年から量産に入っていることを述べています。
解像度の側も詰まってきています。2025 年の感光性 PBO へのレーザ直接描画による微細 L/S パターニングの研究6が、マスクレスアライナで到達できる最細の L/S を、サブ 3 µm を目標に調べています。
比較対象の側も 2 µm 級に来ています。2026 年の微細ピッチ RDL の開発と最適化の研究2が、化学増幅レジストのフォトリソを最適化して 2 µm/2 µm の L/S を実現し、露光エネルギー・フォーカスオフセット・熱処理条件を系統的に振って再現性のあるプロセスウィンドウを作っています。
同じ 2 µm 級を、マスクありとマスクなしの 2 つの系統が狙っている構図です。差が出るのは解像度より、上限の出どころのほう。
| 方式 | 面積の上限 | 越え方 |
|---|---|---|
| マスク露光 | 露光野 | 層ごとに 2 回以上の露光で継ぐ |
| レーザ直接描画 | パネル | パネルを大きくする |
高 NA で露光野が半分になる時期に、この差が広がります。
2 µm を狙って、線は 2.2、間隔は 1.6
到達している寸法の非対称も、数で出ています。目標 2 µm / 2 µm に対して、線幅 2.2 µm、間隔 1.6 µm。
線幅は目標より太く、間隔は細い。足すと 3.8 µm で、ピッチ 4 µm より 0.2 µm 小さい。
ピッチは合っているのに、線と間隔の配分がずれています。めっきの成長と現像の抜けが、同じ量を線の側へ振り分けた形です。
線幅の側は補償で追い込めます。設計寸法を細く描いておけば、めっき後に 2.0 へ乗る。間隔の側は隣の線の裾が作るので、同じ補償では届きません。
2026 年の研究が露光エネルギー・フォーカスオフセット・熱処理条件を系統的に振っている2のは、この配分を動かすためです。3 つとも、線と間隔へ非対称に作用する変数。
「2 µm/2 µm を達成した」という報告の中身は、ピッチ 4 µm の達成です。配分がどうなっているかは、別に書かれている必要があります。
現場で動く判断
- 面内 CTE は です。重みが になるのは力の釣り合いの帰結。厚みだけの加重とは別物です。
- 銅 121 GPa と誘電体 2.0 GPa なら、 で銅に貼り付きます。誘電体が面内寸法へ届く力は 1/60 まで薄まる。
- 反りを作る項は銅 +86、誘電体 −86 で拮抗します。剛性で 60 倍負けている側が、CTE 差で 61 倍取り返す。
- 力の項は に正比例します。指数はちょうど 1。 の 1 本です。
- CTE を半分にすると、力は 69% 落ちます。基準の位置が 16.3 だから。下限は銅の CTE です。
- CTE を銅に近づけた膜は、カーリングがほぼゼロです3。上の表の最終行が実験で確かめられています。
- 自由な 50 µm の積層は、 で半径 4.5 mm へ丸まります。CTE を 20 まで下げても 54 mm。達成可能などの値でも曲がったままです。
- キャリアとアンダーフィルは構造材です。アンダーフィル硬化 → 切断 → キャリア剥離、という順序がその証拠。
- 剥離の段階で反りが大きく増えます1。拘束を外した瞬間に自分の曲率へ戻る。「剥がすまで平らだった」はキャリアが持っていたという意味です。
- 露光野は 858 mm² から 429 mm² へ半減します(アナモルフィック高 NA4)。7,134 mm² の板は、8.3 枚ぶんから 16.6 枚ぶんへ。
- レーザ直接描画は露光野という単位を使いません5。上限はパネルの側だけ。高 NA で露光野が縮む時期に、この差が広がります。
- 「2 µm/2 µm」の中身はピッチ 4 µm の達成です。実測は線 2.2・間隔 1.6 で、配分がずれています。露光エネルギー・フォーカス・熱処理2は、その配分を動かす変数です。